Happy nation

文月

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八章 明日へ

13.翔の進路。カツラギの進路。

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「翔、就職どうするの? 大学院に進むの? 」
 サカマキに会ったことを伝えた後、桜子が翔‥カツラギに聞いた。
 カツラギが、「ん? 」と、薄手のジャケットをハンガーにかけながら首を傾げた。
 大学生になった翔は、高校生の頃と違って私服通学をしている。
 毎日、イギリスの大学生みたいな感じ‥カッターとジャケットと折り目のついた綿パン、冬はその上にVネックのセーターみたいなファッション‥の恰好で電車通学をしている。
 まさに、ハリーなんたらっていう魔法使いの少年みたいな感じなんだ。
 似合ってなかったら、痛い奴なんだけど、‥上品な顔だちの「翔」にそのファッションはよく似合っていた。何て言っても、翔はインテリショタだからね。インテリっぽいのは似合うんだ。
 イギリスっぽいジェントルなインテリショタ‥。
 ‥ハリ●タって呼ばれてたらどうしよう。(※ 呼ばれてません)それとも、コ●ンかしら‥。(※ これも呼ばれてません)
 桜子は密かに心配しているが、強気で、ブイブイ言わせてる翔にそんなこと正面切って言う奴はいない。友達は多い方では無いんだけどね。
 Тシャツにジーパンっていうラフな格好で来る学生は多いが、翔みたいにオフィスカジュアルみたいな格好してる子も少なからずいる‥って感じ。(夏に着流しの着物着て来た学生も見たな! 帰りに夏祭りでも行くのかな?? )女の子だったら、ブランド物のスーツばかり着て来る子もいるし‥所謂ゴスロリっていうの? メイドさんみたいな格好してくる子もいる‥って感じかなあ。
 ホント、自由なの。
 大学生ってのは、色んな所から色んな学生が通ってくるから、格好も結構バライティー色豊かなんだ。
「浮いてるかな‥」
 って本人が思う程、誰も見てないし、そもそも‥授業で同じメンバーが顔をそろえるってことが少ない。
 そもそも、翔はそんなこと気にするタイプじゃない。着たい服をきてるだけだ。
 着たい服を着て、好きな本読んで。
 相変わらず、年上のお姉ちゃんを侍らせてるしね。
 大学生は、「年齢は兎も角、親の金で学校行ってる間は、子供」ならしく、翔の恋愛対象外なのだった。
 男もいけるはずだったんだけど、「別に男もいけるだけで、男か女かだったら、女の方がいい。柔らかいし、可愛いし」らしい。
 勿論、そんなこと(男もイケちゃう自由恋愛タイプだってこと)桜子は知らない。
 それどころか、
 女の子侍らせてることすら、知らない。
「翔って、ホントに人の事好きになったりできるようになるのかなあ‥不器用って感じなんだよねえ‥」
 とか言ってる。
 正樹は自分を基準に考えて
「僕と一緒で、奥手なんだと思うよ。その内、この人って思う人に会えればそれでいいんです」
 って言ってた。
 奥手って、‥カツラギには絶対合わない言葉だと思うよ。

「大学院? 」
 カッターを脱いで洗濯ネットに入れて洗濯機に放り込む。
 下は、Тシャツを着てる。それも、汗を吸うタイプ。カッターを素肌に着る‥とかそんなことはしない。カッターに汗染みとか、ダサいじゃん? 暑苦しいし、そういうの女の子にモテない。
 カッターは、家で洗濯できるタイプ。白だとサラリーマンみたいだから、色味のあるもの。柄の有無はこだわらないけど‥下品になるようなものは着ない。だから、ストライプとかチェックかな。生成りとか無地がズボンを選ばないから、多い。
 家庭教師のバイト(※ 恋愛はしてないよ! )をして、バイト代は、本と講習代に消えてるって感じ。あとは、パソコン。
 ‥普通の大学生と使用目的はちょっと違うけど、自分で稼いだバイト代は自分で使っちゃう‥大学生ってそんな感じだよね? (←そんな感じばかりでもない、つまり偏見)そう将来の為に貯蓄してるって子はいない(と思う)。お金貯めて、教習所に通う子もいるけど、カツラギは車とか興味が無いらしい。(電車で充分です BYカツラギ)
 バイトして旅行とかいう子は‥多いのかな? だけど、カツラギは「旅行より、流行りの服より知識」なんだ。あと、女の子ね。女の子関連に対してはちょっとコマメ、かな~。
 コマメっていって、別にて料理振舞うわけでも、キャンプでいいとこ見せるとかではないけどね。
 ずっと実家暮らしだったカツラギは、料理も洗濯も自分でしたことがない。掃除も自分の部屋位だ。
 ただ、カッターは、洗濯して干すまでは桜子任せだけど、衿と袖だけ自分でアイロンをかけている。几帳面なのかというと、そうでもない。本当に几帳面な奴は、全部かける。でも、気にならないかと言われると、気になる。‥その妥協点、みたいな?
 シャツとパンツになると、その上に甚平を羽織る。
 今までイギリス紳士だったのに、着替えて、休日の日本の親父みたいになる。
「組み合わせとか考えなくていいから楽」

 ‥あ、カッターとジャケットは「組み合わせを気にしなくていいから楽」ていう理由だからだったのか!!


「サカマキに会ったって話から、急に僕の話ですか? ‥ああ、あっちに帰る気はないのかって話ですね? 」
 冷蔵庫から麦茶を出して飲む。もう20歳は過ぎたけど、ビールは飲まない。そんなに強くないし、ビールってあっちにはないし、ちょっと苦手だ。
 意外なことに、正樹は結構強いんだ。
 毎日の晩酌をそれは幸せそうな顔でやっている。‥手酌で熱燗が彼のブームだ。息子と飲むのはちょっと憧れてたけど‥息子が飲めないなら仕方が無いかな‥って。
 だから、一人で手酌で晩酌だ。外で飲むと補導されるから、家でしか飲まない。
 誰も、飲み会に正樹は誘わない。年齢確認とか面倒くさいからね。(余談)
「そう。‥サカマキさんに会って‥。そう言えば、翔にとってもhappynationは故郷だったな~って思って‥」
 桜子が小さく頷いた。「ああ」と気のない返事をしてカツラギがグラスを流しで洗う。
「そうですね。‥帰りはします。でも、がっつり就職するかって言われると‥正直まだ決めかねていますね。あっちで働いて‥自分を養っていくことは出来ますが、母さんや父さんの面倒を見れませんからね」
 顔だけ見たら、幼い感じもする。
 翔(カツラギ)は全体的に華奢だから、もっと小柄なイメージがあるものの身長は150㎝そこそこしかない桜子より高い。170㎝はないが、168㎝位はある。
 こうして、翔の後ろに立っていると、「いい大人なんだなあ」って改めて思う。
 ‥翔はいつの間にか大人になったんだ。
 って改めて思う。
 大人だから、翔は「将来」のことを色々考えている。‥他の子より、就職活動を活発にしてはいないみたいだけど。
「‥私たちの事はいいんだけど‥。翔はどうしたいの? 」

 どうしたいの?
 ‥あっちに帰りたいの?

 桜子は、じっと翔の顔を見上げた。
 翔は相変わらず表情すら変えない。さっきの、気のない素振りのままだ。
 ふ、と小さく息を吐くと
「僕はね、‥普通の人間なんです。アララキと一緒。だけど、アララキは魔力が高いから、多少は成長を‥老化を遅らせることが出来る。‥僕とは違う。
 僕ではね、あっちで暮らしていくことは出来ないんです。
 でも、‥こっちで学んだことであっちに貢献したいって思いはある。
 だから、すこしだけ、あっちで暮らそうって思っていますよ」
 はっきりと言った。
「どの位? 」
 桜子が、食い下がる。
 いつも、翔はそうなんだ。
 翔があまりに淡々と話すから、自分だけ‥感情を素直に表してしまう‥自分だけ空回りしているみたいに見える。
 翔が怒ってるのを、そう見たことはない。
 いつも‥「間違った対応はしていないつもりだ」っていう‥まるで雛型みたいな対応。‥冷たいわけじゃない。ただ、翔は‥甘えることをしないんだ。
 子供の頃はそれでも、ここまででは無かった。「子供はこういうもの」ってイメージもあったんだろう。比較的、素直に感情を表に出していたと思う。
 今だって、楽しいことは、普通に楽しいんだと思う。笑うことは‥普通にある。だけどそれでさえ、皆が笑ってるときに笑わないと感じが悪いから‥ってことかな、って‥思ってしまう。計算して‥冷静に‥自分の表情すらも‥選んでるんじゃないかなって思ってしまう。

 翔はずっと、大人だった。

 子供の頃は、子供のフリする大人。
 そして、今は、普通の大学生のフリをする‥『賢者』。
 既存の知識が全部詰まってて、大学に行くのは、少しの新しい知識を得る為と、「頭のいい学生」と新しい発想を出し合う為‥なんていう「普通の大学生」いないよ‥。

 大学は、彼にとって、欲しい知識を集めやすい場所で、勉強ばかりしているのが許される場であり、柔らかい発想を持っている‥「学生」との交流の場なのだ。
 彼曰く、学生っていうのは、経済的な社会生活とはまた違う‥利益度外視の柔軟な発想ができる「特殊な人種」なのだという。社会を知らない‥甘ちゃんだとも。その中でも、大学院に進もうって思ってる奴や、教授は‥「純粋に学問が好き」って奴が多い。常識の枠にとらわれきっていないから、面白い。って‥なんか、上から目線だよね~。でも、仕方が無いんだろう。彼は、別な世界の特別な‥「賢者」なんだから。
 そして、彼の魂は今でも‥いまだに、その「別な世界の賢者」なんだ。
 そりゃ、只の学生なんて、彼にとってはそんな扱いだろう。
 ‥もっとも、翔は親である私たちにはそんな態度は見せないんだけどね。

 そういえば‥と桜子は思う。
「俺達には今まで両親という存在がいなかったから、両親という存在は特別なんだ」
 って、サカマキさんから聞いたことがある。

 翔にとっても、私たちは「特別な存在」なのかなあ‥。

「夏休みの間。大学はそう宿題もないし、僕は部活にも入っていないから、問題はない。4年間で、4回‥あと、‥まあ、冬休みとかも使うか‥
 そんな‥休みを使ったらいいんじゃないかなって。一応、サカマキに相談してみます」
 ‥異世界が、まさかの中旅行感覚。
 ‥軽いな~。
 そして、‥当たり前の様にサカマキさん任せ。
「そうね」
 桜子は苦笑いした。


 こっちだって、忙しい! っていうのを考えてくれていない、相変わらず自己中な幼馴染にサカマキが結局時間を取れたのは、9月‥秋に桜子と会って以来、結局次のシーズン‥冬だった。
 一年に四回。‥季節毎っていうのは、なかなか現実的じゃない。
 夏は暑いし、‥冬は寒すぎる。‥春だけでイイんじゃないかなって思わないでもないサカマキだった。

 で、今、前に会った時からだったら、半年ぶりって感じの幼馴染・カツラギにあっている。
 いや、半年前に会ったんだから、「懐かしい」ってのも、ない。
 そもそも、‥Happynation的な時間でいったら、1か月もたっていない。(相変わらず時差の研究はされていない)

 パソコンで出した報告書みたいな奴で年間計画をだすカツラギに、ふう、とため息をつき
「‥お前、普通の人間じゃないぞ。俺が作った核を使ってるんだから‥100%人間ってわけじゃないだろう。‥この前、ちょっとだけど里帰りしたとき気付かなかったか? 」
 ‥読みもしないで報告書もどきを机に置いた。
「‥‥‥」
 カツラギが、首を傾げる。
 サカマキは、小さく頷くと
「まあ‥人種としては人間だ。それは、間違いはない。そうだな‥ちょうどアララキと一緒。
 Happynationにおける人間って感じ。
 だから、普通にHappynationで暮らせる。正樹の見かけがあれだから、気付かなかったかもしれないけど、‥多分、お前の成長は‥ココの人間とちょっと違う。‥今はいいけどいずれ何か考えないといけない様には、なると思っておいて欲しい」
 真剣な顔で告げた。

 ‥なんと。

 昔からずっと顔の変わらない‥大人になっても同じ顔正樹と同じ種族だったから気付かなかった‥!
 Happynationに置ける人間‥ってことは、つまり‥ここの人間とは時間の経ち方が違う‥。
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