Happy nation

文月

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八章 明日へ

10. お祭り本番。

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 その後の「膜の修繕」はスムーズだった。
 ‥まあ、邪魔する敵(魔物)もいないから‥それは当然なのかもしれないが、サカマキもいたから、あっという間に終わった。
 空一面をスクリーンにして、全世界に向けて公開された映像‥
 ‥美しくて、神秘的なその映像に皆は息を飲んだ。
 映像を残せないように‥と、特殊電波妨害がされ、スマホを向けようと思っても、ビデオやらカメラをまわそうと思っても、電波障害が起きる様になっていたわけなんだけど、誰もそんなことをしようとする者はいなかった。
 否、できなかった。
 ただ、口を開けて空を見上げていた。
 夢を見る様に‥ただうっとりとして
 実際夢を見ていたのかもしれない。
 誰も、それが現実に起こってることだなんて思えなかった。
 わあ、
 って歓声を上げたり、涙を流したり‥
 素直な気持ちになって、その夢のような光景を楽しんだ。
 ちょっとお祭りっぽく派手にしないといけないな‥ってサカマキがキラキラエフェクト満載で、「派手に」膜を張り直したかいがあった。
 機能もだけど、‥とにかく見かけ重視。
 まるで、世界中で同じ花火を見ているみたいな‥
 ‥そんな夢みたいな光景‥時間だった。
 そして、‥そんな夢のような光景は、徐々に薄れ、最後に薄い虹の様になって、‥消えた。

 割けた綻びを元通り、くっつけ直して、縫い合わせる。
 その上から、結界を‥全体に張り直す。
 作業自体は、難しい‥おおよそ派手とは無縁の職人技。
 その難解で繊細な作業をしながら、対外的には派手に、美しく‥
 作業後には、魔法使いは皆くったりと座り込んでしまった。

「流石は、二つの世界を隔てる膜に出来た綻びだな。‥結構魔力を取られた」
 魔力不足すれすれのサカマキと魔法使いたち。
 サカマキのお世話だけは、アララキが意気揚々としてやっていた‥ってのは、言うまでもないだろう。

「サカマキさん! 」
 「行き」とは反対に、突如現れたサカマキたちに、じっと帰りを待っていた桜子が飛びついて行った。
 サカマキが桜子を抱き留め、
「桜子! 見たか? どうだった? 」
 きらきらした視線を向ける。
 まるで幼子が「褒めて褒めて」って言ってる様な‥期待に満ちた表情だ。
 表情に、疲れている様子は見られなかったけど‥、少し焦げたりして‥乱れた服が戦闘の激しさみたいなものを物語っていて、胸が痛んだ。
 そういえば、顔色も悪い。髪の毛も、綺麗にまとめてあったのに、バラバラになっている。‥あの、とかさなくても絶対にバラバラにならなかったサカマキの、奇跡の髪が、だ。
 正直、泣きそうになった。
 だけど、サカマキは笑っている。
 じゃあ、‥自分も笑わなくっちゃね。
 桜子が優しく微笑み
「キレイだったよ~。夢みてるみたいだった! 」
 って褒めた。
 サカマキがへにゃっとした微笑を向ける。
 カツラギたちに対して感じる、信頼とはまた違った感情。
 恋愛感情でもない。友情なんてありきたりな感情でもない。勿論友情をディスっているわけではないが‥それとは違うって感じ。
 ‥そういう他人相手に感じる感情ではない。
 血のつながった家族になった、フミカ。そして、フミカを通して繋がっている‥アララキ。
 それにも似た‥否、それ以上の関係。

 サカマキと桜子は心で繋がっている。

 血がつながった‥または、繋がっていない人間がお互いを思いやり一緒に暮らすのを「家族」というならば、桜子とサカマキは‥同じ時間を「魂」を共にして一緒に暮らした、かけがえのない「家族」だ。
 一緒に悩み、一緒に笑いあった‥誰より大事な家族なんだ。
「アララキさん!! フミカちゃん! 翔!! 」
 フミカが桜子の前に立ち、すっと頭を下げる。
 撫ぜて
 ってポーズ。
 桜子がちょっと背伸びしてフミカの頭を撫ぜると、俯いたままのフミカは気持ちよさそうな‥へにゃっとした顔をする。
 アララキがサカマキを回収して、桜子の真横にカツラギ‥翔が立つ。

「翔‥お帰り」
「‥ただいま」

 地球組の魔法使いと、Happynation組の魔法使い‥師匠と弟子の別れ。こっそりと付き合っていた地球人の女の子が、Happynationの騎士にすがって泣いていたり、‥逆もあったり。
 そんなHappynation組を連れて帰る為に、アララキもそのままHappynationに帰るらしい。サカマキも人員としては必要なんだろうな‥とは思ったが、アララキが‥気を利かせてくれた。
 Happynation組が帰っていく。
 光に包まれ、そして、そのまま‥消える。
 見送った人たちは、呆然と‥ぼんやりと‥? 誰もそこから立ち去れずにいた。
 普通だったら出会うはずもなかった人たちが出会い‥別れる。
 そんな光景を桜子の横でぼんやり見つめていたサカマキが

「これで、‥もう大丈夫だな」

 ぽつり、と呟いて、ふ‥と静かに微笑んだ。
「‥サカマキさん? 」
 サカマキは桜子のことを見なかった。
 ‥否、見れなかった。
 見て‥決心が揺らぐのは分かっている。
「サカマキさんと別れるのは、嫌‥! フミカちゃんも‥! ずっと、一緒にいたかった‥なっ。だって、私‥サカマキさんたちのこと大好きだもの‥」
 桜子も、サカマキを見なかった。
 顔を見たら絶対に泣いてしまう。泣いて、サカマキの胸に飛び込んで、すがってしまう。みっともなく、取り乱してしまう。
 でも‥我が儘言って引き留められる‥とは、‥思ってなかった。
 ただ、伝えたかった。
 伝えずにいられなかった。
 今、伝えたかった。
 大事なことでも‥普段言えない事ってある。
 その時しか言えないことも、ある。
「ありがとう‥俺も、桜子の事大好きだよ」
 サカマキも、桜子を抱きしめたりしなかった。
 ただ、‥桜子の話を静かに聞いて
「‥いつでも会いに来れる。桜子が呼べば直ぐに行くよ。‥そう遠くに行くわけではない」
 静かに、
 そう言った。
 嘘なんて、言う気もなかった。そりゃ、サカマキ以外の人間がこのセリフを言ったら嘘になるだろうけど、サカマキに限っては、このセリフは本当だった。
 だから
 ホント言えば、別れる必要も無かった。
 だって、今までだって、行って帰ってってしてきた。
 でも、これは‥
 けじめだった。
 これから、それぞれ別々の‥自分の生活をしていくための、大事なけじめだった。
 この別れは‥
 必要な儀式だった。
 結婚して、たとえ隣に‥あるいは同じ家に‥住もうとも、娘は生まれた家を‥家族に「今までお世話になりました」って言って‥出ていく。
 ‥多分それと同じ感覚。
 だから
「‥味噌汁の冷めない距離にいる? 」
 丁度‥そんな感じのセリフが出ちゃった。
 ふふって思わず笑って、初めて‥サカマキを見た桜子を
「‥味噌汁は‥どうだろ」
 サカマキも、ふふって照れ笑いで見つめ返す。
「‥一ヶ月に一回‥せめて、三ヶ月に一回は会いに来て‥せめて‥季節が変わるごとに会いに来て」
 桜子の目に
 大きな涙の粒が浮かび始め、
 桜子が慌てて顔を背け、それを隠す。俯いて、涙を拭うのを‥誤魔化す。
 そんな桜子の背中をサカマキが抱きしめる。
「‥そうだね。あっちにはない四季を思い出しに、‥季節が変わるごとにここに来るよ。勿論、フミカも連れて来る‥アララキは‥どうだろう、ああ見えてあいつも忙しいからな~」
 桜子の頭に軽く顎をのせ、サカマキが静かに微笑む。
 背中越しに聞こえるサカマキの声は、静かで‥いつも通り優しくって‥
 抱きしめられた背中はあったかかった。
 ふと、‥サカマキさんにこうやって抱きしめられたの‥そういえば初めてだな。って思った。
 男の人‥夫である正樹に抱きしめられるのとも、女の子同士でふざけて抱き合うのとも‥家族に抱きしめられるのとも違った。(カツラギな翔は、桜子に抱き着いたりなんか、幼少期に記憶が戻って以来一度もなかった)
 ‥なんか、ふんわり気持ちよくって
 香水とは違う、でもなんとなく甘いような‥小さな白い花を思わせる(なんの花かとかはわからない)‥いい匂いがする。
 安心して、そのまま、溶けてしまう様な気持ちになる。
 桜子は、ほ‥と目を瞑った。

「きっと」
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