111 / 116
八章 明日へ
9.お祭り2 血なまぐさい前処理は見せたくないんです。(後編)
しおりを挟む
真っ先に飛び出して行ったのは、戦いに興奮が隠せない‥といった感じの地球組だった。
4人は全員、魔法戦士として今まで訓練を受けて来た。
治療‥は、医療があるから、いらない。魔術を教えるなら、攻撃術onlyで充分だ。
カツラギがアララキに言ったのは、でもサカマキにとっても「それはそうだろう」って納得できるものだった。
色々は、無理。科学・医療を含め、地球のものでも代用が利くものはそれを使う。道具なんかもそうだ。
魔物は地球の武器では倒せないけれど、足止めくらいには使える。
なぜ倒せないか‥。
地球の技術がhappynationに劣るから‥というより、魔物という存在がもともと地球のものじゃないから‥なんというか‥
「そういうもの」だから、だ。
魔族の存在というのは、魔法の存在と同じ、「あるところにはある、無いところにはない」という存在なのだ。だから、魔物を倒すのには「魔物を倒す」方法がある。
なんてことはない、存在自体の消滅だ。
今そこにある「魔物」の存在を、消す。
存在があるから、「ある」。だけど、存在がなくなれば「滅びる」。
魔獣の様に、物理的に狩るのではなく、存在自体を消す。
魔法は、そのしち面倒臭い精神論の「手っ取り早い」手段だと言える。
さて、地球人の付け焼刃の攻撃魔法は、身体強化と、剣などの武器に魔力を集めて、魔物を叩く‥この二つだけだ。そう短時間に色んなことを取得できるわけがない。
身体強化は、自分の身体に魔法を掛けるものだ。いうなれば、体力・パワーを魔法で底上げするものなのだが、魔力操作が難しい。一方の、武器を使用してでの攻撃魔法は、武器に魔力を流す方法で、短期決戦が可能となる有効な方法だが、一気に体力と魔力を取られるのが欠点だ。
魔力操作が不得意で、身体が大きく、体力もあり、魔力もそこそこ高かったカナタとカナダは攻撃魔法を重点的に取得した様だ。武器は、大ぶりの剣を使用している。(※ この剣を選んだ一番のわけは「重くて一撃が大きい」という理由だったが、「ファンタジーって感じだな!! 」というオタク心を刺激されたのが決定打だったのは言うまでもない)
剣を使っているが、使用方法はあくまでも、叩く。
剣ってそう昨日今日で使えるようにはならない。それは何でも一緒だよね。
紅一点のナナコも攻撃魔法の取得を重視した。その理由を彼女は「強化したところで、元々そう体力もパワーもないから」と言っていた。
たしかに、ナナコは身体も小さいしそう力もない。だけど、器用ですばしこい。
「私はこれで」
と彼女が選んだのは、弓だった。弓なら、飛距離も出るし、一気に魔力を取られるというわけでもないし、何より接近戦をさけられる。
自分の欠点を知って、それを補う良い方法だなと、チューターであるナンバルは感心した。
‥自分たちには、十分な魔力も体力もパワーもあるから、そういうこと‥失念していたな。
教えると共に、教わることもあるHappynation・チューター組だった。
ナナコは、弓道部だったわけではない。
「基本は自分で弓道の道場に通って習います」
と言ってくれたのは、ナンバルにとっても助かった。そんなに長い時間地球にはいられないし、そもそも弓も兵士じゃないんだから得意じゃない。
戦闘を全くしないというわけではない。ナンバルは、咄嗟の接近戦に備えて空手の様な体術を取得していた。
Happynationの魔法使いは、兵士と、‥体力は比べるべくもないが、効率よく「自分のスタイル」で魔法をつかう為の身のこなしを併せて訓練している。
あと、避ける為の反射神経。
サカマキなんて、大型の魔物と接近戦をすることが多いから、兵士並みに戦闘スキルがある。
足りないパワーや体力を魔力で底上げしながら、だけどね。
サカマキは魔力量以外でも、他の魔法使いとは別次元なんだ。だけど、それは元々のものというより、必要に迫られて‥という部分が大きい。(まあ、何時も「そうしなければ即死ぬ」って状況だからね)
工夫しなくちゃ、‥工夫してなんとか‥。ナナコは常にそう考えてきた。
敵を倒すため‥というか、自分が死なないために(強くなる)。
攻撃は最大の防御だ。
これは、魔法使いに多い考え方で、兵士は「敵をより多く倒すため強くなる」一択だ。
「普通の矢じゃなくって、魔力を付与した矢だったら、飛距離も多少は伸ばせるかもだし、水魔法で矢を出すとき、矢じりだけ用意しておいて、それに毒を塗っておけば‥凄いダメージ‥ってどうかな? 」
毒の生成までは取得できなかったから(というか、教えてもらえなかったから)既存の毒を弓塗った。
毒っていっても、鍵付きで保管されてる様な殺虫剤だ。魔物を殺害まではできなくとも、足止めくらいにはなる。
Happynationには、魔法をそういう風に使う魔法使いはいないから、ナンバルは地球組の「工夫」を面白そうに見ていた。
‥毒矢って発想は‥なかったけど、でもまあいい手だな。しっかし、一般の女の子がそんなこと思いついちゃう地球って‥怖いよな。
とは思った。
Happynationの人間は、魔力を「ぶつける」「燃やす」(火属性)「水攻め」(水属性)「吹き飛ばす」(風属性)って、結構単純なんだ。火+風‥とか属性を混ぜることはあるけどね。
因みに、ナナコは水の属性。カナダは土、カナタは風、シマモトは光だった。
練習場所が必要になるから、道場で練習する以外は、ナンバルが特別に作った仮想空間で自主を重ねていたナナコの弓だが、今回は「的」が動くものなのに、中々上手くいっている。目を見張るナンバルにナナコは「魔法で、動く的をつくって練習してきたんです」と説明した。
ナナコは、真面目でそして‥本当に魔法が好きなんだ。
「うっし! 」
シマモトは「剣道部」ならしく、一人木刀を使っている。
剣士としての才能ではなく、魔法使いの才能があったのには驚いた。
そして、唯一、主に身体強化の魔法を取得した。
「(今より)出来るってこんな感覚なんですね。体力があるってこんな‥今は高校生で体力もまだまだ足りない。でも、体力があれば出来ることがあるって、魔法で「先に」見せてもらった。‥このラインには行きたいって、‥前よりずっと思えるようになった。
魔法が無くても、‥出来るようになりたい」
ま、技術は日々練習しなきゃどうしようもないですけどね。
って、シマモトは笑った。
シマモトは、魔法が「今だけ」のものだって分かっていた。
そしてナナコも。
‥カネダやカナタは「今限定の魔法」をゲーム感覚で楽しんでるって感じか。
だけど、四人とも思っていた以上に、魔法を日常生活と割り切っている様に見える。
借りてるうちに元取らなきゃ的発想は、どちらかというと地球の大人の方が強いのかもしれない。
「よっしゃー! 」
これで、北の四匹は終了だ。
危なげなんてどこにもなく終了したことに、地球組のテンションはさらに上がった。
「余裕だ!! 」
初めは、元気いっぱいだった地球組も、見たこともない量の魔物に、疲れが見えてき始めた。
魔力量が少ない‥というのもあるが、何よりも動きに無駄が多い。
特に、「楽しんで」戦っていた、カネダやカナタにその兆候は如実に表れた。
「くっそ、まだ終わらないのかよ!! 」
苛立ちをにじませるカナダは、つい手を滑らせてしまい、カナタの足元に持っていた剣が落ちた。
「危ない! 気をつけろよ!! 」
カナタが怒りをあらわにする。
元々、剣なんて持ち慣れていない。
持ちやすいものでもないし、軽くもない。
魔力も体力も切れて来たので、身体がだるい。目に見えて、気力が落ちている。
「悪い‥」
カナダは、カナタに「なんだと! 故意じゃ無いだろ! 」と言い返す気力もない。だから、それ以上喧嘩になることもなかった。
もともと、気の強いカナダとカナタは訓練中もそんな喧嘩がよくあった。だけど、今の二人には‥特にカナダには‥そんな気力はない。
「ちくしょう‥いてえ‥なんだよ‥もう、いやだ‥なんで、俺たちが‥」
見ると、いつ怪我をしたのか、微かに腕から血が流れている。
ゾッとした。
今まで痛いとも思っていなかったのに、血を見たら一気に痛い気がしてくる。
刀傷‥刃物で切った傷ではない。紙で切った、カッターや包丁で切ったという経験はある。犬に噛まれた猫に引っかかれた‥って記憶ともこれは違う。
獣が自分に、噛み千切らん勢いで牙をむいて向かってくるって経験なんて今までない。‥そんな痛みの予想はつかない。
一気に怖くなってきた。
思えば、あいつらの鋭い牙も、赤い目も、ゲームだと思えば怖くなかった。
所詮雑魚モンスター、攻撃してくる前に倒せば余裕~! って思ってた。だけど、数をこなしていると、体力が減って、あっちに先手を許してしまう。
「カナダ! ドウモト!(←かなたの苗字)大丈夫か!? 」
ジーファスの叫び声にも、苛立ちが増す。
‥ジーファスが余裕なのに、余計に苛立ちが増す。
「あいつらのせいなんじゃねいか、‥元々は‥」
知らず、恨み言が口から出ていた。
「そういうこというなよ! 」
‥シマモト。お前、死ぬかもって時にまで「いい子ちゃん」をやめないんだな。誰に何をアピールしてるんだ? こんなことしたって、将来に何のメリットも無いんだぞ? 就職や進路に有利になるわけでもないし、誰かが褒めてくれるでもない。
‥後には何も残らない無駄なことなんだぞ?
ちょっと面白そうかな~で、命なんか掛けられない‥。
カナダが憎しみを込めた目でジーファスを睨み付けた。
恨み節をわめく気力も、ない。
「ここで見てろ」
叫んだのは、中級の魔法使いの一人だった。
カナダを陣地の方に突き飛ばし、
「新人! 見習いを下げろ! 」
ジーファスとナンバルに支持を出した。
コーリンは中型魔物を氷漬けにしてアイテムボックスにしまっている様だ。
「これ、ちょっと環境の変化で特異進化してる~。おもしろい‥」
って呟いてるのは、同僚二人は、聞こえないふりをする。
兎に角、
「「「は! 」」」
先輩である中級の魔法使いに返事をし、素早く見習い魔法使いを陣地に送った。
「俺は「私はまだできます! 」」
と主張したシマモトとナナコの顔にもやはり疲労は見られ、ナンバルとジーファスは首を振って断った。
‥今は、戦闘時の興奮(所謂、ランナーズハイみたいなもんだ)で疲れに対して鈍感になっているだけだが、体力も魔力ももうゼロに近い。じきに‥急に動けなくなるだろう。
戦っている途中でそうなると危ない。
見てろ。
‥これが日常で魔物を刈っているものの動きだ。
ちょっと、物足りない位だけどな。
Happynation組は、地球組に見せつける様に戦った。
しかし、‥圧倒的な‥というわけにもいかなかった。
今、地球組が戦力外という事態は変わらないのに、Happynation組もまた危機に瀕していた。
いつもより、討伐隊の人数が少ない。
地球に魔物がこんなに来ているとは思ってもいなかったのだ。否、来た量は少ない。しかし、結果は思った以上に「増えている」。
結局「いないと思っていた」膜の綻びから2キロ以上離れた地点に「特異進化」した魔物が大量に「発生して」集団生活を行っていたのだ。
食事だけ地球で調達して、それ以外は膜から出たり入ったりして暮らしているだろう。
という学者棟の予想は見事に外れていたということだ。
本来、魔物は「地球の悪いもの」が集まった存在だ。だから、この魔物が、地球のフレッシュな瘴気を吸収しながら逞しく進化していったとしても、なんの不思議もない。
しかも、特異進化だから、生態がよくわからず、手が出しにくい。
(※ ‥カツラギを筆頭とした学者棟の連中は「ほう‥新しい生物か‥」と目をキラキラさせていたわけなんだけど。)
慣れない敵に、敵の数。Happynation組の魔法使いは地球組の手前、焦りを表に出すことは出来ないが、内心かなリ焦っていた。
まず倒れたのは、新人‥ジーファスだった。
「‥魔力切れだ」
中級の魔法使いが様子を見て判断する。こうなると、もう魔力が回復するまで寝かせておくしかない。
「ジーファスさん!! 」
「触るな! 魔力を吸引されるぞ!! 」
走り寄って行こうとするシマモトをコーリンが声で制止し、また戦いに戻る。
足りない魔力を補うために、魔法使いは他から魔力を摂取する。普通は空気中の魔素を長い時間かけて吸収しながら、体力も回復させるのだが、戦う状態にいる魔法使いは、手っ取り早く他から魔力を吸収する本能が働く。早く前線に戻る為、だ。
戦いに出る際には、魔石を持っていくのが当たり前なのだが、今回は「そこまでではないだろう」と用意されていなかったようだ。
「俺が」
すっ、と魔力量が最も多いサカマキが「人間魔力供給源」になるために、ジーファスの手を取ろうとした
と、
その手をアララキが止める。サカマキがアララキを咄嗟に睨むと、アララキが首を振る。
「サカマキはこの後に魔力を使わないといけないから、今魔力を無駄に使ってはいけない」
と、若干厳しい口調で言い、
「‥僕がやります」
と、ジーファスの手を取る。
ジーファスの顔色が徐々に回復していく。‥魔力が供給されたのであろう。
「アララキ様」
目を開けた、ジーファスは‥自分の手を憎々し気に握る‥不機嫌極まりない「怖い王様」アララキを見た。
‥魔力は戻ったが、‥別の意味で死ぬかと思った。
「ジーファスさん! 良かったです~!! 顔色がもう紙みたいに真っ白だったから、ホント、死んじゃうんじゃないかって心配したんですよ!! 」
泣きそうな顔をしているシマモトに「悪い」って謝る。‥ホント、コイツはいい奴だ。
アララキ様は怖いけど‥今回は助けてくれたんだよな。‥ちゃんとお礼を言わないと‥
「サカマキが他の男を触るとか、‥イヤだ」
「‥お前、今そんな場合かよ‥」
何故か「聞こえてきた言葉」に‥(多分、ジーファスだから聞こえた。シマモトには聞こえていない様だ)
‥お邪魔になるだろうから、後にしよう‥。
サカマキとの会話を邪魔したくないジーファスだった。(アララキが怖いからね)
「さてと、魔物も片付いたようだね」
「膜の修繕行きますか!! 」
「「「おお!! 」」」
4人は全員、魔法戦士として今まで訓練を受けて来た。
治療‥は、医療があるから、いらない。魔術を教えるなら、攻撃術onlyで充分だ。
カツラギがアララキに言ったのは、でもサカマキにとっても「それはそうだろう」って納得できるものだった。
色々は、無理。科学・医療を含め、地球のものでも代用が利くものはそれを使う。道具なんかもそうだ。
魔物は地球の武器では倒せないけれど、足止めくらいには使える。
なぜ倒せないか‥。
地球の技術がhappynationに劣るから‥というより、魔物という存在がもともと地球のものじゃないから‥なんというか‥
「そういうもの」だから、だ。
魔族の存在というのは、魔法の存在と同じ、「あるところにはある、無いところにはない」という存在なのだ。だから、魔物を倒すのには「魔物を倒す」方法がある。
なんてことはない、存在自体の消滅だ。
今そこにある「魔物」の存在を、消す。
存在があるから、「ある」。だけど、存在がなくなれば「滅びる」。
魔獣の様に、物理的に狩るのではなく、存在自体を消す。
魔法は、そのしち面倒臭い精神論の「手っ取り早い」手段だと言える。
さて、地球人の付け焼刃の攻撃魔法は、身体強化と、剣などの武器に魔力を集めて、魔物を叩く‥この二つだけだ。そう短時間に色んなことを取得できるわけがない。
身体強化は、自分の身体に魔法を掛けるものだ。いうなれば、体力・パワーを魔法で底上げするものなのだが、魔力操作が難しい。一方の、武器を使用してでの攻撃魔法は、武器に魔力を流す方法で、短期決戦が可能となる有効な方法だが、一気に体力と魔力を取られるのが欠点だ。
魔力操作が不得意で、身体が大きく、体力もあり、魔力もそこそこ高かったカナタとカナダは攻撃魔法を重点的に取得した様だ。武器は、大ぶりの剣を使用している。(※ この剣を選んだ一番のわけは「重くて一撃が大きい」という理由だったが、「ファンタジーって感じだな!! 」というオタク心を刺激されたのが決定打だったのは言うまでもない)
剣を使っているが、使用方法はあくまでも、叩く。
剣ってそう昨日今日で使えるようにはならない。それは何でも一緒だよね。
紅一点のナナコも攻撃魔法の取得を重視した。その理由を彼女は「強化したところで、元々そう体力もパワーもないから」と言っていた。
たしかに、ナナコは身体も小さいしそう力もない。だけど、器用ですばしこい。
「私はこれで」
と彼女が選んだのは、弓だった。弓なら、飛距離も出るし、一気に魔力を取られるというわけでもないし、何より接近戦をさけられる。
自分の欠点を知って、それを補う良い方法だなと、チューターであるナンバルは感心した。
‥自分たちには、十分な魔力も体力もパワーもあるから、そういうこと‥失念していたな。
教えると共に、教わることもあるHappynation・チューター組だった。
ナナコは、弓道部だったわけではない。
「基本は自分で弓道の道場に通って習います」
と言ってくれたのは、ナンバルにとっても助かった。そんなに長い時間地球にはいられないし、そもそも弓も兵士じゃないんだから得意じゃない。
戦闘を全くしないというわけではない。ナンバルは、咄嗟の接近戦に備えて空手の様な体術を取得していた。
Happynationの魔法使いは、兵士と、‥体力は比べるべくもないが、効率よく「自分のスタイル」で魔法をつかう為の身のこなしを併せて訓練している。
あと、避ける為の反射神経。
サカマキなんて、大型の魔物と接近戦をすることが多いから、兵士並みに戦闘スキルがある。
足りないパワーや体力を魔力で底上げしながら、だけどね。
サカマキは魔力量以外でも、他の魔法使いとは別次元なんだ。だけど、それは元々のものというより、必要に迫られて‥という部分が大きい。(まあ、何時も「そうしなければ即死ぬ」って状況だからね)
工夫しなくちゃ、‥工夫してなんとか‥。ナナコは常にそう考えてきた。
敵を倒すため‥というか、自分が死なないために(強くなる)。
攻撃は最大の防御だ。
これは、魔法使いに多い考え方で、兵士は「敵をより多く倒すため強くなる」一択だ。
「普通の矢じゃなくって、魔力を付与した矢だったら、飛距離も多少は伸ばせるかもだし、水魔法で矢を出すとき、矢じりだけ用意しておいて、それに毒を塗っておけば‥凄いダメージ‥ってどうかな? 」
毒の生成までは取得できなかったから(というか、教えてもらえなかったから)既存の毒を弓塗った。
毒っていっても、鍵付きで保管されてる様な殺虫剤だ。魔物を殺害まではできなくとも、足止めくらいにはなる。
Happynationには、魔法をそういう風に使う魔法使いはいないから、ナンバルは地球組の「工夫」を面白そうに見ていた。
‥毒矢って発想は‥なかったけど、でもまあいい手だな。しっかし、一般の女の子がそんなこと思いついちゃう地球って‥怖いよな。
とは思った。
Happynationの人間は、魔力を「ぶつける」「燃やす」(火属性)「水攻め」(水属性)「吹き飛ばす」(風属性)って、結構単純なんだ。火+風‥とか属性を混ぜることはあるけどね。
因みに、ナナコは水の属性。カナダは土、カナタは風、シマモトは光だった。
練習場所が必要になるから、道場で練習する以外は、ナンバルが特別に作った仮想空間で自主を重ねていたナナコの弓だが、今回は「的」が動くものなのに、中々上手くいっている。目を見張るナンバルにナナコは「魔法で、動く的をつくって練習してきたんです」と説明した。
ナナコは、真面目でそして‥本当に魔法が好きなんだ。
「うっし! 」
シマモトは「剣道部」ならしく、一人木刀を使っている。
剣士としての才能ではなく、魔法使いの才能があったのには驚いた。
そして、唯一、主に身体強化の魔法を取得した。
「(今より)出来るってこんな感覚なんですね。体力があるってこんな‥今は高校生で体力もまだまだ足りない。でも、体力があれば出来ることがあるって、魔法で「先に」見せてもらった。‥このラインには行きたいって、‥前よりずっと思えるようになった。
魔法が無くても、‥出来るようになりたい」
ま、技術は日々練習しなきゃどうしようもないですけどね。
って、シマモトは笑った。
シマモトは、魔法が「今だけ」のものだって分かっていた。
そしてナナコも。
‥カネダやカナタは「今限定の魔法」をゲーム感覚で楽しんでるって感じか。
だけど、四人とも思っていた以上に、魔法を日常生活と割り切っている様に見える。
借りてるうちに元取らなきゃ的発想は、どちらかというと地球の大人の方が強いのかもしれない。
「よっしゃー! 」
これで、北の四匹は終了だ。
危なげなんてどこにもなく終了したことに、地球組のテンションはさらに上がった。
「余裕だ!! 」
初めは、元気いっぱいだった地球組も、見たこともない量の魔物に、疲れが見えてき始めた。
魔力量が少ない‥というのもあるが、何よりも動きに無駄が多い。
特に、「楽しんで」戦っていた、カネダやカナタにその兆候は如実に表れた。
「くっそ、まだ終わらないのかよ!! 」
苛立ちをにじませるカナダは、つい手を滑らせてしまい、カナタの足元に持っていた剣が落ちた。
「危ない! 気をつけろよ!! 」
カナタが怒りをあらわにする。
元々、剣なんて持ち慣れていない。
持ちやすいものでもないし、軽くもない。
魔力も体力も切れて来たので、身体がだるい。目に見えて、気力が落ちている。
「悪い‥」
カナダは、カナタに「なんだと! 故意じゃ無いだろ! 」と言い返す気力もない。だから、それ以上喧嘩になることもなかった。
もともと、気の強いカナダとカナタは訓練中もそんな喧嘩がよくあった。だけど、今の二人には‥特にカナダには‥そんな気力はない。
「ちくしょう‥いてえ‥なんだよ‥もう、いやだ‥なんで、俺たちが‥」
見ると、いつ怪我をしたのか、微かに腕から血が流れている。
ゾッとした。
今まで痛いとも思っていなかったのに、血を見たら一気に痛い気がしてくる。
刀傷‥刃物で切った傷ではない。紙で切った、カッターや包丁で切ったという経験はある。犬に噛まれた猫に引っかかれた‥って記憶ともこれは違う。
獣が自分に、噛み千切らん勢いで牙をむいて向かってくるって経験なんて今までない。‥そんな痛みの予想はつかない。
一気に怖くなってきた。
思えば、あいつらの鋭い牙も、赤い目も、ゲームだと思えば怖くなかった。
所詮雑魚モンスター、攻撃してくる前に倒せば余裕~! って思ってた。だけど、数をこなしていると、体力が減って、あっちに先手を許してしまう。
「カナダ! ドウモト!(←かなたの苗字)大丈夫か!? 」
ジーファスの叫び声にも、苛立ちが増す。
‥ジーファスが余裕なのに、余計に苛立ちが増す。
「あいつらのせいなんじゃねいか、‥元々は‥」
知らず、恨み言が口から出ていた。
「そういうこというなよ! 」
‥シマモト。お前、死ぬかもって時にまで「いい子ちゃん」をやめないんだな。誰に何をアピールしてるんだ? こんなことしたって、将来に何のメリットも無いんだぞ? 就職や進路に有利になるわけでもないし、誰かが褒めてくれるでもない。
‥後には何も残らない無駄なことなんだぞ?
ちょっと面白そうかな~で、命なんか掛けられない‥。
カナダが憎しみを込めた目でジーファスを睨み付けた。
恨み節をわめく気力も、ない。
「ここで見てろ」
叫んだのは、中級の魔法使いの一人だった。
カナダを陣地の方に突き飛ばし、
「新人! 見習いを下げろ! 」
ジーファスとナンバルに支持を出した。
コーリンは中型魔物を氷漬けにしてアイテムボックスにしまっている様だ。
「これ、ちょっと環境の変化で特異進化してる~。おもしろい‥」
って呟いてるのは、同僚二人は、聞こえないふりをする。
兎に角、
「「「は! 」」」
先輩である中級の魔法使いに返事をし、素早く見習い魔法使いを陣地に送った。
「俺は「私はまだできます! 」」
と主張したシマモトとナナコの顔にもやはり疲労は見られ、ナンバルとジーファスは首を振って断った。
‥今は、戦闘時の興奮(所謂、ランナーズハイみたいなもんだ)で疲れに対して鈍感になっているだけだが、体力も魔力ももうゼロに近い。じきに‥急に動けなくなるだろう。
戦っている途中でそうなると危ない。
見てろ。
‥これが日常で魔物を刈っているものの動きだ。
ちょっと、物足りない位だけどな。
Happynation組は、地球組に見せつける様に戦った。
しかし、‥圧倒的な‥というわけにもいかなかった。
今、地球組が戦力外という事態は変わらないのに、Happynation組もまた危機に瀕していた。
いつもより、討伐隊の人数が少ない。
地球に魔物がこんなに来ているとは思ってもいなかったのだ。否、来た量は少ない。しかし、結果は思った以上に「増えている」。
結局「いないと思っていた」膜の綻びから2キロ以上離れた地点に「特異進化」した魔物が大量に「発生して」集団生活を行っていたのだ。
食事だけ地球で調達して、それ以外は膜から出たり入ったりして暮らしているだろう。
という学者棟の予想は見事に外れていたということだ。
本来、魔物は「地球の悪いもの」が集まった存在だ。だから、この魔物が、地球のフレッシュな瘴気を吸収しながら逞しく進化していったとしても、なんの不思議もない。
しかも、特異進化だから、生態がよくわからず、手が出しにくい。
(※ ‥カツラギを筆頭とした学者棟の連中は「ほう‥新しい生物か‥」と目をキラキラさせていたわけなんだけど。)
慣れない敵に、敵の数。Happynation組の魔法使いは地球組の手前、焦りを表に出すことは出来ないが、内心かなリ焦っていた。
まず倒れたのは、新人‥ジーファスだった。
「‥魔力切れだ」
中級の魔法使いが様子を見て判断する。こうなると、もう魔力が回復するまで寝かせておくしかない。
「ジーファスさん!! 」
「触るな! 魔力を吸引されるぞ!! 」
走り寄って行こうとするシマモトをコーリンが声で制止し、また戦いに戻る。
足りない魔力を補うために、魔法使いは他から魔力を摂取する。普通は空気中の魔素を長い時間かけて吸収しながら、体力も回復させるのだが、戦う状態にいる魔法使いは、手っ取り早く他から魔力を吸収する本能が働く。早く前線に戻る為、だ。
戦いに出る際には、魔石を持っていくのが当たり前なのだが、今回は「そこまでではないだろう」と用意されていなかったようだ。
「俺が」
すっ、と魔力量が最も多いサカマキが「人間魔力供給源」になるために、ジーファスの手を取ろうとした
と、
その手をアララキが止める。サカマキがアララキを咄嗟に睨むと、アララキが首を振る。
「サカマキはこの後に魔力を使わないといけないから、今魔力を無駄に使ってはいけない」
と、若干厳しい口調で言い、
「‥僕がやります」
と、ジーファスの手を取る。
ジーファスの顔色が徐々に回復していく。‥魔力が供給されたのであろう。
「アララキ様」
目を開けた、ジーファスは‥自分の手を憎々し気に握る‥不機嫌極まりない「怖い王様」アララキを見た。
‥魔力は戻ったが、‥別の意味で死ぬかと思った。
「ジーファスさん! 良かったです~!! 顔色がもう紙みたいに真っ白だったから、ホント、死んじゃうんじゃないかって心配したんですよ!! 」
泣きそうな顔をしているシマモトに「悪い」って謝る。‥ホント、コイツはいい奴だ。
アララキ様は怖いけど‥今回は助けてくれたんだよな。‥ちゃんとお礼を言わないと‥
「サカマキが他の男を触るとか、‥イヤだ」
「‥お前、今そんな場合かよ‥」
何故か「聞こえてきた言葉」に‥(多分、ジーファスだから聞こえた。シマモトには聞こえていない様だ)
‥お邪魔になるだろうから、後にしよう‥。
サカマキとの会話を邪魔したくないジーファスだった。(アララキが怖いからね)
「さてと、魔物も片付いたようだね」
「膜の修繕行きますか!! 」
「「「おお!! 」」」
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
魔王の求める白い冬
猫宮乾
BL
僕は交通事故に遭い、別の世界に魔王として転生した。最強の力を貰って。だから何度勇者が訪れても、僕は死なない。その内に、魔王はやはり勇者に倒されるべきだと思うようになる。初めはそうではなかった、僕は現代知識で内政をし、魔族の国を治めていた。けれど皆、今は亡い。早く僕は倒されたい。そう考えていたある日、今回もまた勇者パーティがやってきたのだが、聖剣を抜いたその青年は、同胞に騙されていた。※異世界ファンタジーBLです。全85話、完結まで書いてあるものを、確認しながら投稿します。勇者×魔王です。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる