Happy nation

文月

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八章 明日へ

2.‥(そんなことになったら)アララキが泡吹いて倒れます。

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「‥お断りします」
 カツラギ、the即答。
 間髪入れず、って奴だ。
 口調も表情も、平坦そのものだ。
「翔!? 」
 桜子が、フミカの方を見て、焦った声を出す。
 そう‥フミカは実はさっきからいて、桜子に出されたショートケーキを食べてたんだ。
 艶のある癖のない黒髪をボブに切りそろえた、黒目の美少女。
 黒目がちの形のいい大きな目だけをちょっと上げて、桜子を見る。
 そういう、ちょっとした仕草だのに、女の桜子でもドキッとする。
 現在フミカは、こっちで暮らして16年ほどになる。‥カツラギよりちょっと短いものの、まあそう変わらない。
 ただし、こちらはショタならぬ‥ロリではない。
 全然かわい子ぶりっ子でもあざとくもない。
 体つきも、ボンキュッボンの出るとこ出てる、ナイスバディって奴だ。
 だけど、そんな風には見えない。
 ‥そんな「魅惑のボディ」は、サカマキとお揃いの、お尻迄隠す長さのダボっとパーカーで隠され、分からない。
 身長は170無い位の翔より若干高い、170ジャスト。
 黒目がちの大きな瞳の、ミステリアスな雰囲気な美少女だ。

 そう、フミカは見た目は「女」型に成長したのだ。

 それは、フミカの意志と周りの育て方‥育て方というか接し方だな。「女の子として接したから」女の子になったのだろう‥と思われる。(だって、ハートがフミカだしね)
 あと、本人の意志。「自分は女だ」って思って育ったら、女に育つ‥って感じかな。
 思えば、サカマキの事、みんな何故だかはじめっから男だと思い込んでた。‥だから、サカマキは「男」型で育ったんだろう。多分だけど、初めて人型を取った時には、サカマキは性別が‥見かけの性別が無かったんだろう。だけど、そこでみんながサカマキを男だと思い込んで、男として育てた。
 まあ、それも所詮見た目だけの話だ。
 男にある身体的特徴(男性器だな)が目立つか目立たないか、女としての身体的特徴(胸だ)が目立つか目立たないか‥ってだけの違いなんだ。
 神獣は、生後間もなくは「ひよこ」の形をとっているが、もう少し大きくなると人型を取る様になる。その際、親の神獣に授乳されて育てば、‥食事をとる習慣が出来れば‥そのまま徐々に、人の世界で普通に飲食を出来るようになる。‥つまり、サカマキはひよこの段階で捨てられていたから、授乳経験が無かったんだな。
 授乳経験がない子供でも、全く人の世界で飲食を出来ないかと言われると、‥そうでもないらしい。その後の生活で、ずっと習慣づければ‥飲食をするようになるらしい。だけど、習慣がついてないから、「出来はするかもしれないけど、別に必要は無いし‥」だし、「慣れないことしたらお腹壊しちゃう」ってことになる。だから、幼少期飲食を取らなかった神獣はそのままずっと食事をとることはない。
 サカマキの場合、サカマキべったりだったアララキが世話を焼いていろいろ食べさせようとして、第一段階のお腹を壊す、に至り‥そこで大慌てしたアララキが「そんなに苦しい想いさせるなら、別に食べさせなくてもいい!! 」って泣きながらサカマキに謝って、以降サカマキに食事をとらせる計画は続けられることはなかった。って話だ。
 子供の一生の食生活を左右する、神獣(母)の乳。
 ‥食生活に左右する以外の効用は、今のところ不明、らしい。
 まあ、とにかく、神獣(人型)の乳は「あるだけの飾り」ではないって話。(ちゃんと母乳が出るんだ)
 つまり「サカマキはぺちゃパイ」って認識はあっていたんだ。
 男だから胸が無いんじゃなって話だ。
 男として育ってきたといっても、子供が出来て‥望めば、サカマキだってもうちょっと何とかすること位は出来た。事実、フミカがフミカとしての記憶を取り戻していない乳幼児期、母乳を与えていた時は、もう少しあった。だけど、フミカが記憶を取り戻しフミカになって、‥激しく反対したんだ「そんなのサカマキじゃない!! 」って泣いて‥かどうかは知らないが抗議したんだ。(確認すると、大笑いしたらしい。「なんだそりゃサカマキ!! 」で、サカマキがショックを受けて、元に戻した‥っていうね? )

 神獣の容姿って、結構何でもありのアバウトな感じなんだ。元々、獣型が「真の姿」だから、仮の姿位どうにでも出来るんだろうね。

 って話。
 そのことが分かったとき、フミカはまるで芝居の役者の様に
 ‥良かった‥っ
 と大袈裟に、フミカにしては、びっくりする位のオーバーアクション
 もう‥魂込めたね‥って位しみじみ呟いていた。
 なんなら、うっすら涙が浮かんでいた。
 ‥よほどうれしかったんだろう。
 (よっぽど、男の姿になるの恐れてたんだよね‥。ってか、アララキそっくりになるのを、か? )
 でも、まあ、フミカはアララキに似ている。
 アララキを女にして、ちょっと可愛い感じにしたらこうなるだろうな‥って顔になっている。
 色合いも同じだしね。
 ‥フミカはたれ目じゃないけど。(奇跡的にたれ目じゃないんだ! それだけで、あの、お色気魔人度が下がったんだ!! )
 さて、今フミカは‥
 翔を冷めた目で‥もう、すっごいアララキ張りの絶対零度の視線で‥見た。
 ‥アララキもカツラギを時々この視線で見るよね‥こういうとこ、ホントに親子って感じする‥。、
「‥何故、我が振られるような感じになっておる。我もお断りじゃ」
 冷静に‥いつもより若干低い声で、
 こう、吐き捨てるように‥
 言った。
 ‥あ、怒ってたんだ。
 さっきの、長すぎる間、別に気にしてないのかと思ったら‥怒ってたんだ‥。
 ‥怖い。
 コーヒーカップ、机に思わず置いちゃった。
 サカマキは、今、二人とは絶対目は合わせたくないな、と思った。
 結果、視線を自分の膝の上に固定した。
 手なんか、膝の上で組んだりなんかした。
「何で~? 」
 頭上で、会話は続いている。
 さっきのは、‥桜子の声だ。
 桜子、強いな。
「寧ろ、‥どんな罰ゲームだ」
 カツラギの声。
「‥翔君のいいところ‥。プレゼンお願いします」
 これは‥フミカか。
 「けっ」て聞こえそうな、‥ちょっと嘲笑を含んだような‥口調。
 ‥流石に親(桜子)の前で、それは止めなさい、フミカ‥。
「お友達も多いし」
 桜子がプレゼンを始めた‥っ!
「女ばっかりですけどね(嘲笑)」
 ‥フミカ、プレゼンの途中で口を挟むな! ‥マナー違反だぞ。
「‥そんなことは‥あるわね‥」
 そして、桜子。負けるな。押し切れ、無視してプレゼン(という名の、詐欺トーク)を続けるんだ!
「翔は、‥ちょっと女の子にだらしないけど、本命にはきっと一途ってタイプかもしれないし」
 ほう、‥さっきの頼りないワードを発展させて来たか! やるな、桜子。
 ‥全く根拠はないけどな!
 「しれないし」って、‥全然断言してないしね。
 ふ、
 フミカが小さく笑ったのが、雰囲気で分かった。
 雰囲気っていうか、この場の空気だね。
 さっきから、中途半端に緊張感が漂ってたこの場の空気、それを、ふって笑ったフミカの呼吸が‥和らげた。
 ‥少し呼吸が楽になった気がする。
「それは、無い。絶対」
 ふふ、ってちょっと面白そうに‥笑った。
 それ言っちゃだめでしょ~。親の前で~。
 だけど、ま、‥仕方がない。言っちゃう。
 俺たち、‥ほら、付き合い長いし‥。
 桜子も、「流石にそれは無かったな」って呟いて、へへへとか照れ笑いしてるし、問題なしだ。
 で、気を取り直して‥
「賢いし」
 しっかりした声で、断言。
 さっきまでと打って変わって、口調が明るいです。
 自信と誇らしさが感じられます。
「それは、はあ‥まあ‥」
 フミカも苦笑し、了承。
 ‥まあ、賢者だしな‥
 寧ろ、それしか「いいとこ」ない気がするよな。
 ‥は、まあ、言わないでおこう。
「落ち着いてるし」
 ‥興味のないもの相手には、確かに落ち着いてるよね。
 ‥間違いない。
 フミカとサカマキが頷く。
「冷めてるだけです」
 カツラギ、自分で言っちゃう? 言っちゃう?
 褒められると、恥ずかしいです‥的な?
 ‥可愛いとこ、あるんだ~。
「優しいし」
 でも‥まあ、俺たちには優しいよな。
「それは、‥全否定するのはやめておきます」
 ‥一応、フミカもそれに対しては認めてるんだ。(ほっこり)
「可愛い顔だし」
「‥‥‥」
 サカマキ、カツラギ、フミカが黙秘権を行使する。
 ‥正樹と同じ顔だから、否定とかは止めておくよ‥。
 これ、「そうでもない。趣味じゃない」って言ったら、正樹もディスることになるからね。
「顔がずっと老けないわ」
「‥うん‥そう‥ですね? 」
 ‥それは、‥その魅力は俺たちにはわかんない。
 だって、神獣はそう年を取らないし。
 寧ろ‥「年をとっても、顔に深みが出ない」って‥不幸じゃない?
 カツラギにとって、その辺りのとこ、どうなんだろ。‥どう考えるんだろう。

「そもそも‥我には好いた人がいますから」
 ふふ、と困ったように笑うと、「大人げないこと言ってしまいました。‥すみませんでした」フミカが桜子に謝った。
 「翔君は、そもそも我の趣味ではないし」とは、‥言わなかった我を褒めて欲しい‥。
 桜子は褒めないと思うから、俺が褒めるよ‥! By サカマキ
 二人は、こっそり、ちょっと目で通じ合った。
 そんな中、「そうなんだ! 知らなかったよ! フミカちゃん、変なこと言ってごめんね!! 」って、桜子が焦っている。そして、
 やっぱり‥
「って言うか! フミカちゃんの好きな人って、どんな人? 優しい人? カッコイイ? 」
 興味津々だった。
 ‥桜子って相変わらずこの手の話、好きね。
 苦笑いする、フミカとサカマキだった。
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