Happy nation

文月

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七章 元通り

14.ぺちゃパイだって、愛があれば? 

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 実行は、昼一番で‥ということになった。
 地球人であるカツラギは長い間ここに居ない方がいい。身体への影響‥とかあるかもしれないし、時間の流れ方も違う。流石に1日いたところで、浦島太郎‥ってことはないだろうが、幼稚園児が例えば一週間お泊り‥ってのは、いくら桜子がフォローしてくれたって、不味いだろう。
 まあ、happynationでの一日があっちでの一週間ってことは流石にないだろうが‥。実は、そこら辺のデータは取られていない。
 そこまでhappynationの人間は地球に関心がない。

 早朝、まだ暗いうちに来たのに、
 なんやかんやあって
 もう昼だ。
 たかが半日、されど半日。
「フミカは? 」
 カツラギが部下の用意してくれた、やたら可愛い‥お子様ランチっぽいものを食べながら聞いてきた。
 といって、部下がつくったわけではない、食堂に注文しただけだ。食堂の料理は、頼めば部屋にまでデリバリーしてくれるのだ。
 さて、カツラギが食べているお子様ランチ。大人ばかりの王城の食堂にお子様ランチがある訳は、別に料理人の遊び心‥というわけではないし、あまり注文の入らないない幻のメニューってわけでもない。
 単身赴任で王城に働きに来ている職員も多く、お父さんお母さんの職場見学‥は、その子供たちの楽しみであった。
 なかなか会えない親に会えるのが楽しみ‥というより、皆の憧れの王城を見学したいっていう方がメインなのは、悲しいが「子供の本心」だろう。そして、そんなお子様の楽しみぶっちぎり1位をかっさらう、王城の食堂での昼食! 王城は料理人も各地から集まったトップクラスだ。happynationの子供は、成長が速いから、10歳を過ぎたら、もう大人と変わらない量の食事を食べるが、お子様ランチはそれ未満の子供の為に用意された特別メニューなんだ。
 カロリーとか栄養とか考えない子供の夢をぎゅっと詰め込み、また、ちょっとづつってのも魅力‥デザートがついてるのもまた嬉しい、ってこの頃は大人でも頼む人がいるらしい。
 ちなみに、明らかに大人用って分かっている注文に、料理人は旛なんて立ててくれないらしい。
 オムライスのお絵かきも、ない。
 大人が、子供っぽいものを食べるのは恥ずかしいだろ? 料理人のやさしさだ。って言っていたが、きっと面倒臭いだけだ。
 ‥いま、カツラギが頬張っているのは、「お子様仕様」のお子様ランチだ。
 旗をさしたままのオムライスを頬張ってるカツラギ‥。なんか可愛い。
 隣で、部下がそんなカツラギに蕩ける様な視線を送っている。「インテリショタがお子様ランチ食べてるの、可愛い‥尊い‥」ってなんじゃそりゃ、何が何だか分からん。
「フミカはナツカの所においてきた。幼馴染同士話すこともあるだろうって思って‥。でも、ちょっと不穏な感じだった」
 (転移する前に見た)フミカたちの様子を思い出し、サカマキがちょっと暗い顔になる。
 サカマキは今度はアイスコーヒーを淹れてもらっている。
 相変わらず食事はしないようだ。
「不穏? 」
 コテン、カツラギが首を傾げると‥後方で何人かが鼻血を吹いて倒れたのが見えた。
 ‥君たち、カツラギ好き過ぎだろう‥。
 そんなことを思いながら、
「ナツカが、アララキ似なフミカには欲情できないって」
 あえてそのことには、ツッコミは入れずに‥サカマキがちょっと悲しそうな顔をした。
 ‥フミカがアララキ似になったのは、自分のせいだ。
 サカマキが凝りもせずにそんなことを思って、勝手に落ち込んでいるのだろうということは、この場にいる誰もが思った。
 ‥まったく、サカマキは‥
「そりゃもっともな意見だな。アララキを抱きたいなんて思わないわな」
 カツラギがアララキを見て、頷いた。
 アララキが顔を上げて、カツラギを見る。
 アララキは同じく食堂で注文したサンドイッチを食べている。
 優雅にサンドイッチを皿に戻しながら、ちらっと、カツラギを冷たい目で見る。
 その場の空気が二・三度下がった様な気がした。
 サカマキが首を緩く振る。
「アララキだから‥じゃなくって、フミカがフミカじゃないから戸惑ってるって」
「‥いや、普通にアララキとか抱けないだろ」
「‥‥‥」
 その、普通に抱けないような奴に抱かれている俺って‥。
 いや、‥そういう問題じゃないよな。
 サカマキが苦笑いする。
 アララキがカツラギのストライクゾーンにないってことかなあ。確かに、身長はカツラギより大きいし、体つきもしっかりしてる‥でも、そういうことカツラギ気にしたっけ? 結構守備範囲広そうって感じしてたけどね‥
 ‥いや、でも‥もしかして‥。そういう‥ことなのかな?
「‥カツラギは、アララキを抱きたい派じゃなくて、アララキに抱かれたい派? 」
 ‥こういう可能性もあるよね?
 小声でサカマキがこそっと(皆には聞こえないように配慮して)つぶやいてみると‥
「‥‥‥そんなわけ‥あるか‥」
 地を這う様な低い声‥これ以上にない怖い声で、カツラギが言った。
 ‥おお、顔が怖い。
 不機嫌とか‥そんなレベルじゃない。あれだ、‥虫けらめ、って相手を見下す悪魔みたいな? ‥そんなレベルが違うって感じの、怖い顔。
 正樹似の顔でそんな表情のカツラギを見るとは思ってなかった。
 ‥子供の「怖い顔」ってちょっと、ホラーってレベルで怖いよね?
 日本人形とか、あれ‥可愛いけど、怖いじゃない。‥そのレベル。
 ちょっと、背筋が凍った。
 ちらっと、アララキの方を向くと
 アララキは
「‥いくらサカマキでも、‥言っていいことと悪いことがある。壁に耳あり障子に目あり‥誰かが誤解して困る様な怖い話はしないで? 」
 ‥ちょっと、座り込みそうになった。
 ‥アララキのこんな怖い顔初めて見た。いや、カツラギみたいにあからさまに怖い顔してるんじゃない。‥どちらかというと微笑んでるんだ。絶対零度の目をして‥。
 顔が笑ってるけど、目が笑ってない
 の、玄人版って感じ。(笑顔に玄人も素人もないだろうが、そんな感じした)

「お、息がぴったりだな。アララキ、カツラギ。‥てか、サカマキが泣きそうになってるぞ」
 と、扉の向こうから声がした。
 フミカだ。
 は、っとアララキが気付いて、サカマキをあわてて抱きしめる。
 アララキに抱きしめらるままにして、抵抗しなかったサカマキは、アララキの腕の中からちょっと怯えた様な視線で、アララキを見上げた。

 ‥あああ、僕はなんてことを‥。

 アララキが崩れ落ちる。
 勿論、サカマキを腕に抱いたまま、だ。
 寧ろ、抱きしめる力を強めた。
「何があったんだ‥? 」
 フミカの後ろにいたナツカがサカマキたちを見て首を傾げる。
 ナツカの手はフミカの肩だ。(←事情を知らない者が傍から見たら、ロリコンにしか見えない)
 だけど、もうアララキはそのことに目くじらを立てる様子はない。
「アララキ、もうさっきみたいに怒らないんだな」
 フミカが、アララキに聞いた。
「いや、まあ、確かにフミカの人生だしな」
 ん~。とちょっと言い淀んで、アララキがちょっと‥恥ずかしそうな顔をして言った。
 さっきは、悪かった。ってぼそっと呟く。
 そして、サカマキを腕に抱いたまま
「‥フミカ、‥お前は、サカマキと同じ神獣だ」
 フミカを見る。
「え? うん、そうだね? 」
 フミカがちょっと首を傾げる。
「普通の人間とは違うところもある。‥ナツカ。フミカを頼む。フミカは‥友でもあるが、僕の娘だ」
 僕の娘
 その言葉に、サカマキもアララキの腕から抜け出して‥アララキの横に座る。
「‥ナツカ、俺からも、頼む」
 ナツカに頭を下げる。
「ああ」
 ナツカが大きく頷く。
「結婚するのか? (そのアララキそっくりのと? )趣味は‥まあ、人それぞれだしな」
 カツラギが目を見開いてナツカを見ると、ナツカが頷き‥しかしすぐに「え? これ誰だ? 」って顔をする。フミカが「それはカツラギだ」と説明をすると、ナツカは、「‥ふうん? 」と何となく納得した‥って顔をした。理解できる出来ないじゃなく、「そう理解しなくちゃいけないんだろうな」っていう納得のしかただ。
 そして、改めてサカマキたちの方を向くと
「結婚するのを認めて欲しい。‥勿論、フミカが大人になるのを待ってだけど」
 ちょっと赤くなった。
 その顔に‥
 ちょっと、アララキはむかっと来たらしい。
 ぼそりと
「大人になる‥大人になってもきっとフミカにナツカは欲情しないと思うぞ」
 呟き、
「ん? 」
「大人になったら、フミカは、ますます僕そっくりになると思うぞ」
 首を傾げるナツカに‥言葉を続けた。
 ‥父親の「娘はやらん」発動か‥。
 サカマキは苦笑いした。
 ナツカも「そうだよな」と納得して‥苦笑いした。
「まあ、親子だしな。でも、フミカとアララキは性別が違うから、全く一緒というわけでは‥ないだろうがな」
 と、ちらっとサカマキに同意を求めた。でも
「いや、‥さっきも言ったが‥フミカは神獣なんだ」
 サカマキは困った様な顔を、ナツカに向けた。
「うん」
 ナツカが首を傾げながら頷く。「うん、それさっき聞いた」って。
「ああ! 」
 カツラギが「気付いちゃった! 」って顔になる。
 表情がぱっと明るくなって‥そして、同情を込めた目でナツカを見た。
「え? 」
 ナツカが不審げな表情でカツラギを見た。
 カツラギがゆったりと頷くと
「神獣は、雌雄同体。性器がついてるから、胸が無い雌と見るか、性器はついているのに孕ませる機能は無いが、孕むことが出来る雄と見るか‥。まあ、見た目だったら殆ど雄体‥つまり、雄‥男だな! 」
 得意げに説明して来た。
「つまり、見た目はずっとアララキのまま‥」
 ショックを隠せない悲痛な声を出したのは
「フミカ‥」
 フミカだった。
「‥我は、‥大人になるとますますアララキに‥見た目だけかもしれないが‥アララキに‥。いや、性格も似るかもしれない‥性格までアララキみたいになったら‥どうしよう‥いつか、ナツカを迷惑顧みず追い回してしまうのだろうか‥。しかも、迷惑をかけていることに自分で気付かない‥」
 ぶつぶつと‥
 うわごとの様に呟く。
「フミカ? 」
 心配して‥というか、余りの言い草にショックを受けたのは、「お父さん」アララキ。
 そして、次の言葉は
「しかも、サカマキみたいにぺちゃパイ‥」
 「お母さん」サカマキを密かに沈めた。
「ぺちゃパイ‥」
「‥俺は‥ぺちゃパイなのか‥? 」
 両親二人が小さい娘の言葉に打ちのめされている‥カオスな光景‥。

「フミカ‥」
 ナツカが心配してフミカを覗き込む。
「いや、あれを女性でいうところの胸って表現していいのかどうかは分からんがな! 」
 からからと笑いながらカツラギがお子様ランチご自慢☆デザートのプリンを口に運ぶ。
「私なら、お付き合いする女性があそこまでのぺちゃパイでは‥ものたりないですね! 」
 そして、目線だけ上げてナツカを見上げると、ニヤリ。

 意地悪だ。完全に、‥意地悪だ。

「‥ぺちゃパイ‥」「物足りない‥」
 サカマキがもう一度呟く。
 そこで、復活したアララキが、沈み込んでいるサカマキを抱きしめながら、キっとカツラギを睨み付ける。
「サカマキを邪まな目で見ないでくれ! 」
「誰よりも邪まな目で見ている奴がそれをいう。いや、誰よりも邪まな目で見てるからこそ言うのか‥。独占欲の強すぎる彼氏は嫌われるぞ」
 くすくすとカツラギが意地悪そうな笑いを浮かべる。
 ぺろ、
 唇についたクリームをなめとると
 後方でカツラギ信者がまた鼻血を吹いて倒れた。
 ‥この執務室、なんか金気臭い‥っ!
「彼氏じゃない夫だ。サカマキは、妻! 妻を独占しない夫がいるか! 」
 顔だけだったら絶世の美人・アララキが、頬を高揚させて断言する光景。
 麗しいけど、言ってる内容は、そうでもない。
 カッコいいかって言われると、微妙で‥どっちかというと、キモい。
「重いわ~」
 カツラギがしらっとした顔でいって、食後のコーヒーを飲む。(食後のオレンジジュースはコーヒーに変えてもらった)
 ‥そう、それ。
「‥俺なんかを邪まな目で見る奴なんか、アララキ以外いるか」
 アララキの腕の中、ちょっと赤い顔をしたサカマキがちょっと拗ねた様な顔で、プイっと顔をそむけた。
 はい、これツンデレ。
 そんな可愛いサカマキに、アララキは大興奮。デレデレだ。
 と、
 ふ、っとカツラギが悪い笑顔を見せる。
「‥今まではな」
「え? 」
 アララキが、カツラギを睨む。
 ふふ、とカツラギが不敵な笑みを浮かべる。
「サカマキが嫌われてたのって、‥高位魔法使いだから、だけだよ」
「‥‥‥‥」
 高位魔法使いだから、顔など関係なく嫌われていただけ、でもそれがなくなると。
 ‥サカマキは、神獣だけあって、半端ない麗人だ。
 そして、華奢でちいさくて可愛い‥つまり、happynationでは(特に男に)モテるタイプ。性格も悪くないし、稼ぎも良い。なんの問題もない。
「‥カツラギ。高位魔法使いの魔法‥皆には解けたって言わないでいいんじゃないか? 」
 ‥じゃないと、僕はサカマキを監禁しないといけなくなる。
 僕の精神衛生の為に、だ。
 僕の精神衛生の乱れは、‥ひいては、国政の乱れに繋がりかねない。
 自分の為じゃない。国の為だ。
「いや、あれは、「今代の魔物がいなくなった」って宣言で、今代の賢者と高位魔法使いの仕事が終わったことを報告するのが目的で、‥個人的都合でやめていいものでもない」
 ふふふ
 軽やかにカツラギが笑う。
 完全に、悪い顔だ。

「普段、自分勝手ばっかりしてる奴が何を‥! 」
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