Happy nation

文月

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七章 元通り

3.体育館裏に呼び出し~! 的な?

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「サカマキさん? 」
 遠い目をして、「心当たり」のことをちらっと考えていたら、桜子が心配そうな顔で俺を覗き込んできた。
 ‥おお、しまった、意識がちょっと飛んでた。
「そ、‥そうだよね~! 過保護って、‥愛じゃないよね~。相手の事理解するの放棄してるの?! って感じだよね~」
 苦笑して、とっさに桜子と話を合わせ
 ‥ただけだったんだけど、思いの外「そういやホントにそうだな」って思った。

 そういや、そうだ。過保護って愛じゃない。

 ってか、溺愛っていったら響きはいいけど(※そんなに良くない)、なんてことはない‥「わかったわかった」って理解のいいふりなんてしてさ、結局は話合う気すらないわけじゃない? 「僕は君の事愛してるから君の言うことなんでもきいてあげるよ~」とか‥おおよそ対等とはいえないような立ち位置だよね? 。馬鹿にしてるよね?!
 上からだよね? 
 それでさ、心配だとかいって俺が出来る様なことでも何もかも取り上げて、自分でやっちゃう。
 馬鹿にしてるよね??
 俺、そんなことも出来ない奴だと思われてるの? 思ってるの? (←アララキはサカマキの事なんでもしたいだけ)
 このままだと、結婚したら‥思考と、身柄を拘束されかねない。
 朝から晩まで、「僕がやってあげるよ~」と「何か欲しいもの無い~? 」と「危ないから僕から離れないで? 」がパワーアップすること間違いなしだ。
 結婚っていう契約による合意の元の‥合法な監禁だ。
 ‥犯罪だ。変態だ。(←考えてるうちに思想がヒートアップしているヤバい状態)
 うわ‥正樹やべぇ、あんなにちんまくって可愛い顔してるのに、やべぇ。ヤンデレ?? (そして、その被害は同じく過保護でヤンデレ傾向にある正樹に飛び火)
 ‥どんどん正樹の評価大暴落。もう犯罪者レベル。

 ‥もう、正樹がヤンデレで、暴君な思想的犯罪者にしか見えなくなってきた‥マズい。
 なんか、じんわり手汗かいて来た‥。

「そうそう! 私の事もっと見てよ! 確かに出来ないことは多いかも知れないけど‥出来ること位認めてよって思うよね! 」
 ‥桜子、目を覚ませ。その内奴に言動や思考、その他を支配されていってしまうぞ。自分の気持ちを強く持て、そして、さっさと逃げた方がいい‥。

 は! それは俺もか?? 

 今は、桜子は「恋のマジック」って奴で好意的に奴の事を受け止めてるけど‥いや、桜子故‥かもしれないな。桜子は、誰よりも優しいからな。(←話の矛先が桜子に移動。正樹犯罪者説からやっと離れた)
 優しくって、優しい故に困ってる人をほっとけなくって、だけど、普通の人間だからやっぱり出来ることが少ない。
 ‥桜子は喧嘩が強いわけでも、特別力が強いわけでもない、普通の人間だ。
 誰かの為に率先して、誰かの世話を出来る様な立場じゃない。
 だのに、「したい」「やろう」って思っちゃうんだろうな。桜子は。
 出来ないのに、しようとする。だから心配。
 だけど、俺は違う。俺は「出来る」
 ‥そう。桜子と違って、俺は出来ることだって多い。何ぁにが、「君は何もしないでもいいよ。いてくれればいい」だ。俺の方が出来るのが悔しいってか?!
 ‥心の狭い奴だぜ‥。
 それに
「‥何カッコつけてるんだよって思う」
 年上っていったってたった、5歳位しか変わらないくせにさ。
「そう! 」
 桜子が興奮した様子で同意する。
 (興奮したせいで)ほんのり赤くなった顔は、如何にも女の子って感じで可愛い。
 アララキは俺のことよく「可愛い」っていうけど、本当に可愛いってのは、こういうのだ。
 ‥俺に執着するあまりそんなものも見えてないなんて‥あいつも不憫な奴だ。

 でも、‥見て欲しくない。‥から、いいかも。

 そうか、‥これって「複雑な女心」ってやつかも。俺は、男だけど、実は女でもある。だから女の気持ちはわかる。(しかも、母の気持ちも分る! 俺‥最強)
 桜子が、サカマキ(女の気持ち)に同意して、激しく頷いた。
 ‥のを見てたら、でもなあ~って気持ちにもなった。
「‥あ、でも、男はカッコつけるの好きだから、ちょっとはカッコつけさせてほしい‥のかも‥その気持ちも分からないでも、‥ないかも」
 ‥男の気持ちも‥わかるんだよな~。
 むしろ、今まで男の気持ちで生きて来たから、男の気持ちの方が分かる。
 ふふ、と桜子が微笑ましいって顔で微笑んだ。
「アララキさんの事、やっぱり好きなんだね~」
 とか思われてるのかもしれない。‥ちょっと否定しといた方がいいかな。‥でも、‥別に「思われてるかも」だけで、桜子がホントにそう思ってるかどうかは分かんないから‥いいか。勝手に予想しといて「そんなんじゃない」とか否定するのオカシイ。
 それとも、「男の子振りたい年頃なんだよね。そのきもち分かる」って感じなんだろうか? 。
 桜子はサカマキの事をボーイッシュな女だと思ってるから。今までのボーイッシュキャラ故、子供まで作った恋人ができても、まだ「ボーイッシュな自分」が捨てきれないって思ってる‥とか? 。
 ‥ガキか。
 違うやい。そんなんじゃないやい。
 男なんだよ、心はな!! 
 ‥でも、桜子の為言わないでおく。嫌だもんね。こころにずっと男が住み着いてた、なんて。
 言わないのは、桜子の名誉の為です‥。俺って大人!!

「‥まあ、うん‥守られるのも、‥嫌じゃない‥。でも‥」
 照れ照れ桜子が、ちょっと俺から視線を逸らす。
 ‥それにしても。
 恥ずかしがる桜子可愛い。ホントに可愛い。
 こういう気持ち‥女心は理解できるけど、こんな可愛い反応は出来ない。
 こういうの、絶対男には‥俺には出来ない。(※結構サカマキは無自覚でやっている)
 リアル女の子、可愛い。最高。
「そうなんだよね、守られるだけ、が、嫌なんだよね」
 桜子に同意して、「うんうん」って感じで頷く。
 男の中の男な俺だけど、
 ‥女心も分かる。分かっちゃうんだよ。スーパー大人な俺だから。
 「俺だから」、両方分かる。
「そう、それ!! 」
 そうでしょう。そうでしょう。
 合ってるでしょう。

「二人なら何とか出来るかもしれないじゃない? なのに、一人で私を守ろうって思うから、大変だったり‥ケガしちゃったりするんだ」
 その言い方が、さっきまでとは違った。
 怒ってる様な、
 恐れてる様な‥。
「‥正樹、怪我したのか‥」
「うん‥ちょっとね‥」
 桜子の目がちょっと、光った。
 泣いてるって
 分かったけど、気付かないでほしそうだってのも‥伝わって来たから、俺は「そっか」とだけ言って桜子と別れた。


 なんだそれ、正樹。
 怪我とか。
 しかも、バッチリ桜子を悲しませちゃってるじゃん。桜子を心配させて、‥桜子を怖がらせちゃってるじゃん。桜子を守るって、‥桜子が引く位過保護になってるんだったら、そこら辺もっとしっかりしろよ。口だけとかヤメロヨ。
 アララキなら‥
 アララキでも、そこら辺はもっとしっかりしてるぞ!!
 呼び出しだ。
 あれだ。
 体育館裏に来い。みたいな奴だ。


「‥お久しぶりですね。酒井さん。妻ではなく僕にご用があるって‥? 」
 さすがに体育館裏じゃない。
 駅前の喫茶店で会うことにした。
 正樹は、落ち着かない様子で周りをきょろきょろ見回してから、サカマキの前の席に座った。
 ‥知り合いに見つかりたくねーな、って奴だろうが、‥大丈夫。絶対誰も疑わないから。浮気現場を疑われるとかないから。
 寧ろ、きょろきょろとかヤメロ。かえっておかしいだろうが。
 しかしそれにしても、
 ちっとも「不機嫌です」感隠す気ね~な。「妻の親友」にその態度酷くない?
 見た目トイプードルだから威圧感はゼロだけど、子供に不信感抱かれてるみたいで‥なんか嫌だ。
 ああ、そうか。浮気現場っていうより、誘拐疑惑現場(か、援交現場)。
 他のお客様がた!! 。違いますよ!! 俺たちそういうのじゃないですから!!
 ‥ますます正樹が苦手になりそうです‥。
「まさ‥桜子さんのご主人、お前‥いや、あなた‥は、ちょっと適性検査受けろ。‥じゃないな‥受けてみませんか?。ちょっとでも何かの適性があれば‥おれ‥いや、私が特訓してや‥します」
 だけど、俺は大人だから?! そんなの顔には出しませんけどね?! (←そして、勿論もろに出ている。隠せてる気配ゼロ)
「何言って‥」
 正樹のこめかみがぴくってなった。
 もう、マンガみたいに、はっきりぴくってなった。
 俺に対して不信感も隠さない正樹は、俺に対する怒りの導火線も短いらしい。
 ‥いいけどさ。別に野郎になんて嫌われてもどうってことない。
 大人な俺は、大人な対応をするだけの話だ。
 俺は、コホンとひとつ咳払いすると
「‥桜子に聞きました。‥正樹さん、怪我をなさったらしいですね。‥桜子が心配してました。桜子を守るって言うなら、強くなって‥中身も伴ってもらわないと困ります。俺‥私は、桜子が心配なんです」
 落ち着いた口調で、でも正樹を睨み付けながら言った。
 オメ~の俺に対する評価とか知らね~よ。こっちは、真剣な話してるんだよ。って気持ちを伝えたかったんだ。
「‥何故僕が貴女にそんなことを言われないと‥」
 正樹がさらに不機嫌な顔になる。
 その子供っぽさに、またもうちょっとイラっと来たが、‥仕方があるまい。こいつはまだ二十歳も過ぎたばっかり位の若造だ。大人な俺が我慢しよう‥と、自分に言い聞かせた。
「‥もう、分かってるんでしょう? 私はhappynationの人間です。そして、桜子の敵ではない。それどころか、桜子のことを貴方同様守りたいって思ってるんです。
 でも、一番桜子の傍にいて桜子を守れるのは貴方です。でも、失礼ながら今の貴方にはその力が‥たりない。
 ‥貴方が怪我をしたら、一番悲しむのは桜子でしょう? 貴方は桜子の為に怪我をしてはいけないんです。
 私には、貴方を鍛える術がある。
 ‥桜子を守る為に強くなって、‥もう‥桜子を心配させないでください」
 喉を潤すために、アイスのハーブティーを一気に飲んだ。
 机にそっと置くと、グラスの氷がカランと涼しい音を立てた。

 他の客の話す声、来客を告げる喫茶店入り口の扉につけられた鈴。周りの音の中、サカマキと正樹の間だけ、何の音も消えたように‥静かだった。

 正樹の前の、さっきから一口も口を付けていないアイスコーヒーのグラスの氷がガランと一つ大きな‥驚くほど大きな音を立てて動いた。
 それ程、静かだった。
「‥貴女は一体? 」
 正樹の目がサカマキの目を真っ直ぐ見る。その目には、さっきの様な不機嫌さは無かった。
 サカマキがふ、っと微かに微笑む。
「‥happynationの魔法使いです」
「‥魔法使い‥」
 それも
「神レベルの」
 ぼそり、と付け加える。
 ‥ってか、神だし。
「神レベル」
 正樹が言葉を繰り返す。
 ‥驚かない。
 それどころか、やっぱりね、って呟いたのが唇の形でわかった。
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