Happy nation

文月

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七章 元通り

2.過保護は愛じゃない

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 思わずぎゅってしがみついてきたサカマキに、ちょっと目を見開いたアララキは、しかし‥そのの一瞬の驚きも無かったかのように、
 ‥まるで条件反射かのように(いや、実際ほぼ条件反射だったんだろう。驚きはしたが、身体は条件反射で‥ってやつなんだろう)
 サカマキを抱きしめ返した。
「サカマキ、不安なの? 怖いの? でも、大丈夫だよ。サカマキは‥もう、高位魔法使いの呪いは解けたんだから、もう戦わなくてもいいんだよ! 。
 大丈夫、地球人はそのうちすぐに、魔物対策を僕らがいなくてもするようになるよ。‥自分たちだけでね。うん、ホント、あの人たちは驚くほど逞しいし、丈夫だから」
 無責任な発言だとは、思わないし、嘘も言っていない。
 口から出まかせでもいいから、サカマキを安心させたいってのはあるけど。

 ‥(実際についうっかり口から出まかせを)言ってから気付いた。「これ、別に嘘でも、口から出まかせでもないな」って。

 むしろ、力いっぱい言いたい。‥前世の僕も含めて、地球人っていうのは、丈夫‥図太い‥し強い。そんな人ばっかりじゃないって言う人もいるだろうけど、相対的に見たらそうだと思う。
 なんていうか‥「思えば叶う」って言霊の力が強い人たち。
 魔法もないっていうのに、‥魔族はいないけど、兵器だとか、肉食獣だとか「恐ろしい」「自分よりも力が圧倒的に強い敵」に「やられっぱなし」にはなっていない。
 立ち向かっている。
 力には、力で対抗している。
 多分、根っこは「戦闘民族」ってやつなんだろう。太古の狩猟民族の遺伝子が息づいているんだろう。
 手段は変わろうが、やらないとやられるって精神は太古からずっと変わりがないんだろう。
 科学だとか、化学だとか、‥想像力も逞しいし、創造力も高い。
 僕を見上げるサカマキの視線が、ちょっと困ったように‥伏せられた。だのに、僕の背中にまわしてる腕は解かない。それどころか、きゅっと更に力を込めた。
 ふふ、て自然に笑みが零れた僕は、可愛い可愛い僕のサカマキに
「‥それとも、僕ともう少し一緒にいたくなった? 」
 意識して、甘い微笑みを浮かべて、甘い言葉をかけた。

 なんちゃって。
 これは、まあ、希望的見解。
 ちょっと調子乗ってみた。
 この後はまあ、
「そんなわけあるか」
 って怒られるんだろう。
 と心の中で覚悟して‥諦めて‥でもギリギリまでサカマキのぬくもりを堪能しよう~って腕に閉じ込めながら‥ちょっと苦笑する準備をしようとしたら‥
「‥情けないけど、その通りだ‥。‥でも、もう大丈夫だ。もう行く」
 ぼそり、と
 ほんの小声でサカマキが言って僕の腕から抜け出すと、真っ赤になった顔を隠すように、ぐいっと勢いよく顔を背けた。
 背中越しに見える耳朶が、もう真っ赤。‥火が出そうなくらい真っ赤。
 僕は感激で、泣きそうになった。
 怒られない。
 それどころか、素直に認めた‥!。
 ‥ツンデレじゃないんだ‥。無いんだね! サカマキ!
 今までならここで
「何言ってるんだよ! そんなわけないだろ、別にオマエと一緒にいたいとかじゃないからな! 背中に手をまわしてるのは‥背骨でも折ってやろうと思っただけだ! 」
 ‥いや、違うな。ツンデレは「背骨でも折ってやろうと思った」とは言わないな。‥ツンデレって言うならどういうんだろ。どういうのがツンデレだ?? 今までのサカマキは‥ツンデレでもなかったな。‥(呪いのせいで‼ )リアルに口が悪かった‥。しかも、(呪いのせいで‼ )それが本心だった。
 つまり‥そういうことか。
 今までストレートに
「ベタベタすんなやボケ~!! 」
 だったんだ。
 そういうと、今までの「超なんとも思ってないぜ(心から)」から「ツンデレ(ちょっと好きかもね!! あくまで、ちょっとよ!! )」すっ飛ばしての「好き!! 」だ。

 大躍進だ‼

 ‥可愛い。
 今まで以上に可愛い。
 もう、僕が何者だったかとか、サカマキが何者かとか、どうでもいい。
「サカマキ! 今すぐフミカの兄弟を作ろう? 魔物退治は誰でも出来るけど、フミカの兄弟は僕らにしか作れないよ?! 」
 ‥あ、しまった‥すみません調子に乗りました。ああ、僕の馬鹿。今度こそ‥ダメかも?? 。
 流石に‥引いたよね‥怒ってるよね??
 うう、この、すぐに鉄拳が飛んでこない‥この間が怖い‥。
 今までみたいにコンマゼロ秒でぶっ飛ばしてくれた方が、ましだ‥っ。
「‥幻滅させるようなこといってスミマセンデシタ‥。嫌いにならないで‥」
 おずおずとサカマキに視線を落とすと、
 首だけで振り向いたサカマキと目が合った。
 眉をちょっと寄せて、困ったみたいな顔で‥ふにゃりと笑った。
「いや‥嫌いには‥ならない。俺も少しはそんなこと‥思ってしまった。ダメだよな‥。
でも、‥思ったことを躊躇なく口にできるアララキは、強いな。そういう強さにも‥憧れてたんだと思う。‥まあ、今この状況下においては褒められたことではないんだろうが‥」
 サカマキ!
 サカマキ、サカマキ、サカマキ!!
 言ってることはだいぶオカシイけど、幸せ~!!
 サカマキ、僕の事ほんっとに大好きになってくれたんだね!! いや、元から忘れてしまいたいほど大好きだった‥か。‥なにそれ、嬉しすぎるんだけど!! ごめんね、君の事気付いてあげられなくて‥、前世の僕って奴は‥!!
 もう、
「‥さっさと、片付けよう!! 」
 そして、こっちに帰って結婚式だ。
 神官に言って、ウエディングドレスのレンタル予約しとかないとな。あと、教会の予約‥は、あ、ウエディングドレスとセットだった。
 そういえば、こっちは衣装あわせって花嫁の方はない。デザインは一つだし、丈はベルトで調節するから。布の幅がだいぶゆったりしているから、結構皆着れる。
 特別太め、特別短めサイズも別にあるが、それも含めて「これで着れるだろ」って感じで花嫁の分は衣装合わせはない。あくまで「当日をお楽しみに‥」ってことなんだろうけど、花婿の方は、ズボンの長さを調節したりとかってあるんだ。(※こればっかりはね)
 普通はカップルで一緒に衣装合わせに行く(花嫁は見てるだけ)んだけど、僕らの場合はお互い忙しいから仕方ないかな。
 ‥ちょっと、一人で衣装合わせに行くって間抜けだけど‥。
 結婚届と、指輪の準備もしよう。
 こっちには指輪を交換する習慣はないんだけど、前世から「結婚と言えば」みたいなところがあるから、それはしよう。(ちょっと憧れてたしね)サカマキには僕の目の色のブラックオパールの石のついた指輪。僕はサカマキの目の色の緑‥そうだな、エメラルド程濃いい緑じゃないんだよな‥ペリドット‥かな? ‥の石のついた指輪。地球で作ってもいいんだけど、折角だからhappynationで揃えようと思う。
 こっちの「キレイな石」っていったら魔石になるんだけどね。
 合わせて新居の用意も任せておけ!!
 僕が先走って、色々考えてると、
「うん」
 ふふ、ってサカマキが微笑む。
 僕がいってらっしゃいのちゅ―をしようとすると、サカマキが片手で避けた。
「‥離れたくなくなったら困るから」
 って、それはこっちのセリフだ~!!
 つい悶絶していると、サカマキは真っ赤な顔を僕から背けて、さっと手を上げる。
 いつもと同じように魔素が集まって形をとって‥その手に杖があらわれる。

 あ、それ
 高位魔法使いの杖じゃない。
 仰々しくって、でっかい魔石がついた‥なんか禍々しい杖。(造り自体は綺麗なんだけど、なんか‥ね)
 昔っから、普段サカマキが使っている杖だ。攻撃用じゃない、杖。

 そうか、サカマキは本当に高位魔法使いじゃなくなったんだ。

 サカマキが杖を構えると、杖の周りに魔素が集まってくる。
 
 いつもとは違う‥いつもの、この世界の禍々しいものを全部集めたみたいなく黒い(※そういえば黒かったな。今までは気にもしなかったけど‥)‥魔素じゃない。
 キラキラした光の粒子みたいな魔素だった。
 それがふわーと広がってサカマキを包み込んで、光がサカマキを包むと‥次の瞬間にはサカマキはもう鳥の姿になっていた。
 いつもとは違う(神獣の本来の姿は鶏)
 白い、
 真っ白い鳩。
 ‥天使みたい、尊い‥。


「桜子。また暫く桜子の身体を借りる。魂のレベルで一緒にいる方が安心なんだ。
 ‥魔物を倒すまで、君の一番近くで君を守りたいんだ。
 ‥場合によっては、君の身体のままで魔物と戦うことにもなるかもしれないけど‥勿論、桜子には傷一つつけないって約束する。怖いモノも見せない。
 危険に巻き込む可能性があるなら、一緒にいなければいい‥って思うかもしれないけど、一緒に居ないことより、一緒に居て守るって方が遥かに安全だって断言できる。
 ‥せめて、正樹がいない間だけでも、君の傍に居させてほしい」
 真剣な表情でサカマキが桜子を真っ直ぐに見つめる。
 桜子が優しく微笑む。
「サカマキさんってば。ずっと傍に居させて‥なんて、プロポーズみたいよ? 
 うん、私の傍にいて? でも、そんなに気を遣わなくてもいいよ。ちょっとの傷ぐらい気にしないし、私の意識を抑えとくのに、もし少しでも負担がかかるとかだったら、別に私の意識を眠らせとかなくたっていい。
 私は起きて、サカマキさんが戦うの見てる。
 ‥そりゃ、血は怖いだろうけど‥
 でも、サカマキさんだけに、辛い想いとか、させるのは嫌だ」
 最後は真剣な目でサカマキを見た。
「桜子‥」
 サカマキが眉を寄せ不安気な視線を桜子に向ける。
 桜子も眉を寄せ苦笑いすると
「そもそも、サカマキさんも、正樹君も、私に対して過保護すぎます。
 過保護って、つまり信用してないんですよね? 心配だから何もするな‥とか、‥それって愛じゃないですからね? 」
 ちょっと怒ったような顔で、びしって言う。
 そして
「私にも出来ること、きっとあるから、なんでも協力させてほしい」
 にっこり笑う。
 頼りになる、‥強い笑顔。
「桜子‥」
 
 あ、でもなんか、激しく同感。
 うちにも、います。そういう、超過保護な奴。
 ってか、もっとヤンデレっぽいやつ。
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