Happy nation

文月

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五章 世界の異分子

11.父性が愛情に変わった時。

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 珍しい動物に対する興味と‥後に庇護的な愛情だった。

 最初は。

 傷ついてボロボロになった手負いの獣。‥サカマキは、初めは僕やカツラギにも警戒していた。
 だけど、同時に愛情に飢えてたし、愛情を求めていた。
 サカマキの状態が、誰も信じられない、差し出された手を受け付けることすらできない程では無かったのが幸いだった。
 虐められたことがある犬と一緒だ。
 手を挙げれば、(←もちろん、ただ手を挙げるだけのことだ。殴るって意味の「手を挙げる」じゃない。)びくっとする。殴られると思うんだろう。(犬だったら)耳ぺたーんの、しっぽぺたーんってやつ。だけど、サカマキは「ひよこ」で、しっぽも目立つ耳もないから、全身でぶるぶるって感じだ。
 黄色い毛玉(※ちょっとした猫位の大きさがある)が小さくなってぶるぶる‥。
 きゅって目を閉じて小さくなって、相手が何もしないって分かったら、恐る恐る目を開いて、黒目がちの大きな目がびくびくと(上目遣いで)こっちの様子を伺う。
 これには、最初は参った。
 可愛いっていうより哀れで、「何もしないよ‥」って思わず苦笑した。
 ‥心外だよ。
 だけど、撫ぜれば目を細めて嬉しそうな顔をするし、すり寄ってくる。
 これは可愛い。
 そうして、徐々に僕らに‥僕に慣らしていって、僕は甘やかせながらサカマキに言葉を教えていった。
 カツラギが「勿論、人の言葉を理解できるし、訓練次第でしゃべることも出来るようになるぞ」って言ったからだ。何より「今はまだ幼体だけど、もう少し大きく成ったら人型が取れるようになるぞ。聖獣の姿は隠して暮らすのが普通だ。‥まあ、大きいから日常生活も不便だしな」と言っていたのが楽しみだった。
 人型‥どんなだろう。
 ‥聖獣としての成体も気になる。成体って、‥ひよこが成長するんだから、きっと鳥。もしかしたら、大鷲とかになったらかっこいい。でも、僕にとっては雛から育てた鳥‥息子みたいなもんだ。ついうっかり、そんなカッコイイ姿にも「可愛い!! 」って言っちゃいそう。で、思春期の息子に「僕はもう大人だ!! いつまでもひよこじゃないぞ!! 」って言われたりして‥。
 うわあぁ
 ‥悶え死にそう。(←当時は真剣にそう思っていた)‥今は、そうでもない。大鷲に萌えるって、無いだろ。

 ‥てな感じで‥

 僕の最初のサカマキの扱いは、‥完全に珍しい動物扱いだった。
 育て方が難しい。
 これも、僕がサカマキにドはまりする一因だったと思う。放って置いても大丈夫‥より、この子の世界は僕だけ‥の方が、構いたくなるじゃない? (少なくとも僕はそういうタイプだった)
 サカマキが他と違うポイント。
 魔力が桁違い。だけど、制御が完璧ならしく、暴走の心配がない。(今思えば、高位魔法使いだから、産まれつきなんだろう。あの時は「うちの子賢い♡」って親バカ全開だった)
 自分で水魔法かな‥で身体を清めて、風魔法で乾かして、いつでもツヤツヤキラキラに体の状態を保っている。猫でいうところの毛繕いって感じなのかな。これは、そうしておかないと精神的に落ち着かないから‥って感じな様だ。
 綺麗好きなんだろうって思っていたら、カツラギが「毛が細いから、直ぐ絡まるんだよ」って説明してくれて納得。それからは、たまにブラッシングしてあげてる。
 ブラッシングしているとき、目を細めて「気持ちい~」って顔するのが可愛い。
 サカマキは、食物を摂取しない。排泄もしない。
 あの可愛いひよこにミミズ(←ひよこが食べるであろう食物の筆頭的食べ物)を食べさせろって言われたらちょっと泣きそう‥って思ってたから、‥実は丁度良かった。‥我ながら、「自己中‥」って分かってる。
 でも、水は飲むし、何かしら養分的なものは必要。
 水は飲んでいるけど排泄されていないところを見ると、水は生命を生命維持し、活動するために使用しているのだろう。
 動物というより、植物って感じなのかな?
 そう感じた僕は、「植物的な感じ」でサカマキの育児をすることにした。
 水をやる。日光浴させる(←光合成的な感じ? )そして、肥料的に‥愛情を与えて育てる。
 育児は、カツラギの「書物で読んだ「聖獣の生態」」の知識頼りだったが、なにしろ情報量が少ない。
 毎日、試行錯誤の繰り返しだった。
 既存の情報として食物を摂取しないって分かってても、試してみたりも‥した。結果、水飴みたいな甘いとろっとしたものは食べた。ちょっとだけ。‥サカマキの凄い嬉しそうな様子に和んだ。
「大発見だ! 」
 カツラギは大興奮だった。‥カツラギにとっては、サカマキは完全に未知の観察生物だったし、実験動物だった。あのあと、(その水飴的なものは)排泄されるのか‥とかの観察までされてた(排泄はしなかった。次の日ちょっとサカマキの身体が大きく成ってたから、きっと身体を作る養分になったんだろう。‥もしかして、これが肥料か? )‥でも、色々食べさせてみたいって僕やらカツラギが愛情(カツラギの場合は純粋に愛情であるかは不明だ)を注いだ‥ってのに対して大きく成ったのかも。それは、分からない。いまだに。
 その後、サカマキの見かけの成長が止まったから。
「もうすぐ成体になるだろう。聖獣は非常時以外「獣体」を取ることはないらしい。消費エネルギー量とかそういう問題かもしれないね。大きいらしいから、エネルギー消費量も多いんだろう。普段は人型で生活する様になる‥らしいが、さてどんな姿になるやら」
 因みに人型について「養い主と似た姿をとるだろう」とカツラギは予想していた。僕もそれを聞いて「きっとそうだな」って思った。
 ‥聖獣が「自分の姿を自由に作れる」って思ってたんだ。
 だから、きっと見慣れたものに変化するんだろうって。
 だけど人型をとったサカマキは僕ともカツラギとも‥それどころかあの村の誰とも似ていなかった。姿かたちどころか、目の色すら他の誰とも違っていた。
 見たこともない、美しい子供だった。
 サカマキの人型は、予め決まっていたんだ。
 初めから、
 こういう顔の人型をとるって決まってたってことだ。
 
 これ、誰の顔だ?

 ってあの時は思わなかった。
 まあ、‥思わないよね? 両親のどっちかがこんな顔してたんだろう‥って思うだけだよね? 。(正直そんなこと思いもしなかったが)
 ‥でも、今はまだこの話は置いて置こうと思う。
 話が脱線しちゃうから。

 初めてサカマキが人型になれた時は、感動したなあ。
 ‥余りの可愛さに理性がどこかに吹っ飛ぶところだったなあ。
 稲穂色の髪と真っ白な肌。挽き茶色の大きな瞳。
 健康的な血色のいい頬っぺたはふっくらとしていて、サカマキはそれはもう愛くるしい子供だった。
 もう、頬っぺたすりすりしたい!!
 って感じ。
 だけど、僕は耐えた。
 っていうか、「感動する」に留めることが出来た。
 あの時のあれは、初めて我が子が人型を取ることが出来るようになった父親的な感動だった。
 そういえば、‥あの頃は溺愛していたといっても、まだ母性本能ってか‥父性‥兄かなあ‥本能的な? 感じの方が正しいって感情だった。
 超ブラコンって感じだった。親バカかな‥? まあ、そういう家族的な感じ。
 うちのサカマキ世界一可愛い!! って本気で思ってた。
 今は、嫁最高って感じ。
 ちょっと違ってたんだ。

 そうそう。
 稲穂色の髪‥。今はアッシュブラウンになっているサカマキの髪の毛も、幼少期はもっと明るい色だった。丁度‥秋のお日様に金色に輝く稲穂の色だったんだ。だから、フミカを初めて見た時は、サカマキの幼少期を思い出して懐かしかったなあ(しみじみ)。
 その稲穂色の細くて柔らかい髪は、いつも「長かったら絡まるし邪魔だろ」ってエヴァンじいさんが肩までのおかっぱに切っていた。そういえば‥村の子供は全員その髪型だった。子供の髪を切るのは大人の仕事だったから、多分「切りやすい髪形」って奴だったんだろう。
 僕はあの髪型でもちっとも気にならなかったが、女の子たちは年頃になったら、前髪位なら自分でカットしたり、友達同士で切り合ったりしていた。(そういえば、女の子は女の元冒険者が世話していたな。だけど、やっぱり基本おかっぱだった。)
 子供たちは男女関係なく皆仲が良かった。10歳位までは、それこそお風呂や寝るところ以外は区別なく育った。
 女の子が年頃になったなあって思ったのはカツラギにきゃーキャー言いだした頃かな。‥その時ばかりは、女の子たちが「ライバル」って感じになってたな。髪型を工夫したり、お菓子を作ってカツラギにアピールしたり。そんな様子は「どこも(地球もここも)変わらないな」って感じがして微笑ましかった。(まあ、精神年齢大人の僕には勿論関係も興味もなかったんだけどね)
 まあ、そんな誰よりもサカマキは可愛かったしね。
 だけどそのときは、まだ‥
 (サカマキが人型を取れるようになってからも)サカマキと毎日してたちゅーだって、家族的なものだった。

 いつからだろうか。
「うちの娘と結婚したいなんて言う男が来たら殺す」
 から、
「サカマキは僕のもので、誰にも渡さない」
 に変わったのは。

 家族のちゅーから、恋人にするちゅーに変わって‥
 ‥きっと、サカマキは気付いてなかっただろうし、‥なんなら今でも気付いてないだろう。だって、サカマキにはそんな感情分からないから。
 二人の間に子供が出来たことだって、唯一の「手段」だって位にしか思っていないだろう。‥子供っていっても、フミカだしな。

 普通なら、‥虚しくなるものなのだろう。
 だって、
 サカマキは‥サカマキも? ‥彼の言うような「愛しても、愛を返してくれない相手」だから‥。

 彼が僕を試していて、彼のいう「愛しても、愛を返してくれない相手」がサカマキかどうかは分からない。分からないが、サカマキだとしたら、余裕だ。
 僕はサカマキを愛している。

 愛を返してくれなくても、問題なく、だ。
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