73 / 116
五章 世界の異分子
10.寝込んだ仏頂面と、超かわいいひよこ。‥天秤に掛けるまでもないんです。
しおりを挟む
それから、急激に体調を崩したカツラギは三日間眠り続けた。
今思えば、急に「使命」を思い出したりとかして頭がパンクしちゃった的な奴だったんだろう。
だけどあの時は何が何だか分からなかったから、そりゃあ焦った。
村の皆の驚きは僕以上だった。
‥だけど、あの日僕に支えられて帰って来たカツラギを見た時の皆の反応は、「普段動かない奴が急に動いたりしたから筋肉がびっくりしたんだろうな」だった。(‥日頃の行い‥)
とは言え、その日の夜熱が上がって、そのまま次の日になってもうなされ続けたカツラギを見て皆は流石にマズいと思ったらしい。隣村から医者を呼んで来たりと、大騒ぎになった。
子供が多い村なんだけど、実はこういうことって珍しい。
自然治癒がモットーっていうのは、この世界の常識みたいだし、なんといっても、この世界の人たちはみんなすごく丈夫なんだ。
‥まあ、魔物なんかがいる世界だからね。
だから、医者の役割は主に出産やら、大きな怪我‥骨折やなんかの処置だった。小さな傷や軽い病気は「舐めてりゃ治る」「寝てりゃ治る」、って感覚だった。
魔法が存在する国だから、魔法で治癒‥っていうのも勿論あるみたいだけど、こんな田舎には「病が平癒する様に訓練を受けた魔法使い」なんかはいない。
まあ、そもそも需要がないから供給されないって感じでも、ある。
規則正しい生活と自然の恵みで皆健康、いいことだよね。あと、この村の人たちは(この世界の標準の人たち以上に)鍛えてるから丈夫。子供たちも小さい頃から鍛えられてるしね。その理論でいえば、何だかんだいってサボってるカツラギが一番ひ弱なのもまあ‥頷ける。
医者から「疲れてるだけですね」と言われ安堵した後は、「カツラギは元気になったら鍛え直さないとな! 」(←基本、ここの大人は皆脳筋なんだ)って、ほっと胸を撫ぜおろした村人たちだったが、カツラギは「次の日にはけろっとしてるだろう」っていう皆の予想に反して、そのまま三日間目覚めることは無かった。
今まで、風邪すらろくにひいたことのなかった村人からしたら、三日も飲まず食わずで眠り続けるなんて大ごとだ。村中「原因不明の病だ」「悪霊に憑かれたか」「いや女の呪いか」と大騒ぎになった。(‥最後の一つは、モテるカツラギをやっかんだ奴だったんだろうな。‥多分。)だけど、どうしようも出来ないし、どうやら命にかかわることでもなさそうだ‥っていうので、結局部屋の前に、神官からもらって来たお札が貼られた(←どうやら「悪霊退散」的なものらしい)
脳筋で基本リアリストな村人たちが、神頼みをしたとは、思っていない。多分「やることはしました」って外に対するアピールだろう。悪霊憑きの噂の出た者を放っておくと「村の危機管理体制」云々で後々何か言われかねない。誰にって、「国」にだ。あの頃の国は、何か悪いことがあったら、人のせいにする為に、村の「弱味」を常に集めていたからね。
これで日照りなんかがおきたら、「あの村の悪霊が国に仇をなした」って言われるに決まっている。だから、そんなこと言われないための対策を練って置いたに過ぎない。村人自体は結構冷静だったよ。
結局、カツラギの目が覚めたのは、4日目の朝だった。
いやにさっぱりした顔で「喉が渇いたな」って言ったカツラギと、「寝すぎて目が無くなるんじゃないかと思ってたぞ」って言った村人たちの様子になんかやけに感動‥でもないんだけど‥なんか「いいな」って感じがした。
仲間以上、だけど、親子でもない「何か」‥僕には前世も含めて兄弟っていたことないけど、こんな感じなのかなって思った。村の人たちって、そういえば、ホントに年上の‥それこそ引退した冒険者たち以外は皆兄弟みたいな感じだったよ。冒険者たちは、先生で父親でおじいちゃんだったな。女の冒険者は、皆の母親代わりだった。口うるさかったけどあったかかったし、何より肝がすわってた。
カツラギが眠ってるとき、医者が「寝てるだけ大丈夫」って言っても「ホントかな‥」って思ったけど、母さんたちが「大丈夫。明日になったら元気になってるさ」って言ったら「そうだな」って思えた。
だから‥ってんでもないんだけど‥我ながら冷たかったかなとも(今となったら)思うんだけど、「カツラギは大丈夫だろう」って特に見舞いに行くこともなく‥、僕はサカマキの世話に夢中だった。
‥まあ実際、大丈夫だったわけだけど、あの頃の僕にアドバイス出来るならば(例え見せかけだとしても)弱ってる奴には少々オーバーな位優しくしておかないと、後々恨み言を言われるぞ‥と言っておきたい。
だけど、‥(あの頃の僕に何を言っても)まあ聞かないだろうなあ。
仏頂面の男と超かわいい天使の世話どっちを選ぶっていったら、‥そりゃあ聞くまでも無いだろう?
カツラギの世話をしようと思ったら、サカマキを放っておかなければいけなくなるでしょ? そんなこと僕には出来なかった。する選択肢なんてどこにもなかった。
他の誰にもサカマキを触らせたくなかったし、ずっと目の端に入れておきたかった。
目を離してサカマキが迷子になったりでもしたら‥って心配だったし、寝返りうって俯いちゃって窒息したら‥って心配だったし。ましてや攫われでもしたら‥!!
だってあんなにかわいかったんだ。
見てたら誰だって自分のものにしたくなる。
今でも超かわいいけど、あの時のサカマキもそりゃあ可愛かった。
人型も取れない、ふわふわもこもこのひよこのサカマキ‥!! カメラが無いのを恨んだことは、それまでの僕の人生には無かった。だけど、あの時以降の人生、カメラを切望したね‥!
でも、映像に留めるってことは別の人間がサカマキの姿を見ることもできるってことだ。‥サカマキを見るのは僕だけでいい。だから、カメラなんていらないな。
‥とにかくだ。
当時の僕にカツラギに使う時間なんてなかった。
今になって思い返しても‥やっぱりないな。
それに、‥目が覚めた後は、女の子が取り合いしてお世話してたから僕が世話をするまでも無かった。寧ろ、あの中に入って行ったら邪魔!! とか言われてたに違いない。
だから、断じて僕が冷たいとかじゃない。
それに、サカマキのお世話の片手間でお見舞いに来られるより、全身全霊でカツラギloveな女の子たちにお世話される方がいいでしょ? それだよ。
‥だから、未だに「私が大変だった時、アララキは冷たかった‥」っていうのは止めてほしい。
カツラギは全然大変じゃなかったから。僕は知ってるんだからな!! お前が大変だったのは病中じゃなくて寧ろ病後で、それは確実にお前のせいじゃないか!
お前が、お世話してくれた女の子全員に手を出したから‥「私がカツラギ様と結婚するんだから! 」「私よ! 」ってなって、ちょっとま、女の子同士の関係最悪だったんだからな!! あの時カツラギって何歳だったっけ‥確か10歳とか(※正確には9歳)だった気がする。地球だったら小学生5年か6年‥とんでもねえな‥と思うけど、ここは男は17歳で成人だからもう青年って扱いなのかな‥? まあ、‥思い出すカツラギが、「鼻たらしたガキ」だった時はない。いつもませてたし、いつもモテてた。キラッキラはしてなかったけど、ちらっちらと女の子は熱い視線で盗み見してたし、カツラギが微笑めばみんなぽ~となった。ここ、キラッキラの王子だったら、キャーキャーと黄色い悲鳴をあげられて、微笑めばバタ~ン(←古典的表現)。そうじゃ、ないんだよ。
見た目はシブいんだけど、実態は、キラッキラの王子よりゲスイっていうね。
キラッキラの王子は「君がお見舞いに来てくれたら、病気も治る気がするよ」どまりだろうが、うちのシブい王子は、多分そんな甘いだけで腹も膨れない言葉、言わない。カツラギがどういう風に言うかなんて、僕はカツラギじゃないからわかりゃしないし、心底どうでもいい。
が
カツラギと女の子しかいないカツラギの部屋‥カツラギのテリトリーで二人きり。‥何があったかなんて、考えなくても分かるってもんだ。
‥いや、何があったかはわかんないな。「何か」が「あった」ってことは、考えなくてもわかる、だな。たかが10歳に(肉体的に)できることなんて、まあ、きっとたかが知れてる。‥よかったよ10歳位で。うん。女の子が傷物になるとか、不幸すぎるもんな。
‥そういえば、あの後あの子たちどうなったんだろう‥。(注 そんなこともあったな。あの頃は若かったなって思い出話になってます。‥女の子はシビアで現実的です)
いやはや‥あの時の女の争い見てて、「女怖い‥」ってなった少年たちもいたから、ほんとカツラギは悪い先輩だったよな~。
悪い色男に騙されて悪い夢を見て‥傷ついた女の子と、悪い色男のせいで女子に夢を持てなくなった男の子‥。
だけど、女の子は元々強いから、きっと立ち直れるし、この先カツラギほどクズに会うことも無いだろう。‥村に残ってる少年たちだって、間違いなく全員カツラギより誠実だったから、誰と結婚してもきっと女の子たちは幸せになれると思う。
カツラギは‥う~ん‥クズなだけじゃないんだけど、なんで色恋事ってなったら、あんなに節操なかったんだろうなあ‥。いや‥でも、基本あいつは欲望に忠実だよな。知識欲だって性欲だって‥あいつは我慢をしない。寝食を忘れて書庫に籠ったり、仕事したり‥。
あいつにとって、仕事‥知識欲も性欲も同じ。
全部自分本位で、自分の欲求を通したいだけ。
でも‥人ってその(欲求を通したい)傾向が強いか弱いかだけで、自分本位ってのは皆変わらないよね。ただ、それを表に出すか出さないかだけの違いだと思う。
表に出すことによって、人がどう思うかって考える。
人の目を気にする。人の気持ちを慮る。‥その傾向が強いか弱いか。
単純に
自分本位度が低くって人の目を気にする度が高い傾向にある人は「凄くいい人」に見えて、自分本位度が高くて、人の目を気にする度が低い傾向にある人が「自分勝手な人」って判断される。これは公平な目で見た「性質」だ。だけど、人間の判断ってのは、それに「補正」が加わる。その補正は、プラスとマイナスが両方ある。容姿やら口調、日頃の行い、言葉の選び方‥。それらのプラス補正が入り、なぜか‥本来の性質を覆すものもいるし、‥悲しいかな逆も然りだ。
カツラギは‥
容姿(+)
日頃の行い(-)→ だけどこれすらも「まったく~♡しかたないわね~♡」でプラス補正に変わっている。
言葉の選び方(+)
というプラスの補正により、本来の性質「クズ」を覆し「悪い男‥でも憎めない・ほっとけないの‥」「大好きなお兄様」の称号を獲得した男なのだ‥!
‥幼馴染ながら恐ろしい。あ、因みに女の子相手にカツラギは氷の微笑なんて見せない。あれは、男相手だけ。(王都以降だな)あれは、100%人を意識していないゲスな顔なんだ。ゲス(ゲスな顔しても絵になるって羨ましいね)‥だけど、それはそれでファンが付いてる。(男のファンもいるって聞いてる)
あ~、考えれば考える程、カツラギは‥ヤバいな~。
ワーカーホリックで自分の欲望に忠実で、ドS。きっと健康管理とか自分じゃ出来なそう。
あいつには、よっぽどしっかりした人が傍についていてくれないと駄目な気がするな~。
‥フミカも、ワーカーホリックなところあるから‥ストップかける役目は果たしてくれそうにないなあ。
だけど‥何となくこの前「翔」になったカツラギを見た時、なんか変わったなって思った。
仕事や使命、Happy nationから離れてカツラギはちょっと変わった。それはサカマキだってそうだ。 フミカも‥いや、フミカは一番変わってない。フミカは、一番「病んだ」ところがなかったから‥かなあ?
桜子やら‥地球の人たちと過ごした時間。考え方も、何もかもが違う地球での生活を受け入れるうえで自分で学んだこと‥考えたこと。
人からの影響と、自分の心境の変化。
色んなものがカツラギたちを変えていって‥戸惑いながら、その変化を受け入れていく。
変わらないものなんてない?
‥僕はそうは思わない。変わってくものは、もともと「変えるべきだったもの」で「変わるのを‥変えるのを待っていた」ものだ。本当に変えたくないものは、どうやっても変わらない。
サカマキの事が好き。
その気持ちは絶対に変わらない。
サカマキにこの気持ちが理解できなくても、僕の気持ち‥それは変わらない。
サカマキは僕を拒まない。
でもそれは、サカマキが僕の気持ちを受け入れているんじゃない。僕の気持ちを拒む術を知らないだけだ。僕がサカマキにそう教えて来た。
一番愛してる者に、「魂の隷属」を強いる。
‥虐待だ。
最も卑劣で‥愚かな行為だ。
だけど僕は
サカマキを手放したくない。
絶対に‥。
今思えば、急に「使命」を思い出したりとかして頭がパンクしちゃった的な奴だったんだろう。
だけどあの時は何が何だか分からなかったから、そりゃあ焦った。
村の皆の驚きは僕以上だった。
‥だけど、あの日僕に支えられて帰って来たカツラギを見た時の皆の反応は、「普段動かない奴が急に動いたりしたから筋肉がびっくりしたんだろうな」だった。(‥日頃の行い‥)
とは言え、その日の夜熱が上がって、そのまま次の日になってもうなされ続けたカツラギを見て皆は流石にマズいと思ったらしい。隣村から医者を呼んで来たりと、大騒ぎになった。
子供が多い村なんだけど、実はこういうことって珍しい。
自然治癒がモットーっていうのは、この世界の常識みたいだし、なんといっても、この世界の人たちはみんなすごく丈夫なんだ。
‥まあ、魔物なんかがいる世界だからね。
だから、医者の役割は主に出産やら、大きな怪我‥骨折やなんかの処置だった。小さな傷や軽い病気は「舐めてりゃ治る」「寝てりゃ治る」、って感覚だった。
魔法が存在する国だから、魔法で治癒‥っていうのも勿論あるみたいだけど、こんな田舎には「病が平癒する様に訓練を受けた魔法使い」なんかはいない。
まあ、そもそも需要がないから供給されないって感じでも、ある。
規則正しい生活と自然の恵みで皆健康、いいことだよね。あと、この村の人たちは(この世界の標準の人たち以上に)鍛えてるから丈夫。子供たちも小さい頃から鍛えられてるしね。その理論でいえば、何だかんだいってサボってるカツラギが一番ひ弱なのもまあ‥頷ける。
医者から「疲れてるだけですね」と言われ安堵した後は、「カツラギは元気になったら鍛え直さないとな! 」(←基本、ここの大人は皆脳筋なんだ)って、ほっと胸を撫ぜおろした村人たちだったが、カツラギは「次の日にはけろっとしてるだろう」っていう皆の予想に反して、そのまま三日間目覚めることは無かった。
今まで、風邪すらろくにひいたことのなかった村人からしたら、三日も飲まず食わずで眠り続けるなんて大ごとだ。村中「原因不明の病だ」「悪霊に憑かれたか」「いや女の呪いか」と大騒ぎになった。(‥最後の一つは、モテるカツラギをやっかんだ奴だったんだろうな。‥多分。)だけど、どうしようも出来ないし、どうやら命にかかわることでもなさそうだ‥っていうので、結局部屋の前に、神官からもらって来たお札が貼られた(←どうやら「悪霊退散」的なものらしい)
脳筋で基本リアリストな村人たちが、神頼みをしたとは、思っていない。多分「やることはしました」って外に対するアピールだろう。悪霊憑きの噂の出た者を放っておくと「村の危機管理体制」云々で後々何か言われかねない。誰にって、「国」にだ。あの頃の国は、何か悪いことがあったら、人のせいにする為に、村の「弱味」を常に集めていたからね。
これで日照りなんかがおきたら、「あの村の悪霊が国に仇をなした」って言われるに決まっている。だから、そんなこと言われないための対策を練って置いたに過ぎない。村人自体は結構冷静だったよ。
結局、カツラギの目が覚めたのは、4日目の朝だった。
いやにさっぱりした顔で「喉が渇いたな」って言ったカツラギと、「寝すぎて目が無くなるんじゃないかと思ってたぞ」って言った村人たちの様子になんかやけに感動‥でもないんだけど‥なんか「いいな」って感じがした。
仲間以上、だけど、親子でもない「何か」‥僕には前世も含めて兄弟っていたことないけど、こんな感じなのかなって思った。村の人たちって、そういえば、ホントに年上の‥それこそ引退した冒険者たち以外は皆兄弟みたいな感じだったよ。冒険者たちは、先生で父親でおじいちゃんだったな。女の冒険者は、皆の母親代わりだった。口うるさかったけどあったかかったし、何より肝がすわってた。
カツラギが眠ってるとき、医者が「寝てるだけ大丈夫」って言っても「ホントかな‥」って思ったけど、母さんたちが「大丈夫。明日になったら元気になってるさ」って言ったら「そうだな」って思えた。
だから‥ってんでもないんだけど‥我ながら冷たかったかなとも(今となったら)思うんだけど、「カツラギは大丈夫だろう」って特に見舞いに行くこともなく‥、僕はサカマキの世話に夢中だった。
‥まあ実際、大丈夫だったわけだけど、あの頃の僕にアドバイス出来るならば(例え見せかけだとしても)弱ってる奴には少々オーバーな位優しくしておかないと、後々恨み言を言われるぞ‥と言っておきたい。
だけど、‥(あの頃の僕に何を言っても)まあ聞かないだろうなあ。
仏頂面の男と超かわいい天使の世話どっちを選ぶっていったら、‥そりゃあ聞くまでも無いだろう?
カツラギの世話をしようと思ったら、サカマキを放っておかなければいけなくなるでしょ? そんなこと僕には出来なかった。する選択肢なんてどこにもなかった。
他の誰にもサカマキを触らせたくなかったし、ずっと目の端に入れておきたかった。
目を離してサカマキが迷子になったりでもしたら‥って心配だったし、寝返りうって俯いちゃって窒息したら‥って心配だったし。ましてや攫われでもしたら‥!!
だってあんなにかわいかったんだ。
見てたら誰だって自分のものにしたくなる。
今でも超かわいいけど、あの時のサカマキもそりゃあ可愛かった。
人型も取れない、ふわふわもこもこのひよこのサカマキ‥!! カメラが無いのを恨んだことは、それまでの僕の人生には無かった。だけど、あの時以降の人生、カメラを切望したね‥!
でも、映像に留めるってことは別の人間がサカマキの姿を見ることもできるってことだ。‥サカマキを見るのは僕だけでいい。だから、カメラなんていらないな。
‥とにかくだ。
当時の僕にカツラギに使う時間なんてなかった。
今になって思い返しても‥やっぱりないな。
それに、‥目が覚めた後は、女の子が取り合いしてお世話してたから僕が世話をするまでも無かった。寧ろ、あの中に入って行ったら邪魔!! とか言われてたに違いない。
だから、断じて僕が冷たいとかじゃない。
それに、サカマキのお世話の片手間でお見舞いに来られるより、全身全霊でカツラギloveな女の子たちにお世話される方がいいでしょ? それだよ。
‥だから、未だに「私が大変だった時、アララキは冷たかった‥」っていうのは止めてほしい。
カツラギは全然大変じゃなかったから。僕は知ってるんだからな!! お前が大変だったのは病中じゃなくて寧ろ病後で、それは確実にお前のせいじゃないか!
お前が、お世話してくれた女の子全員に手を出したから‥「私がカツラギ様と結婚するんだから! 」「私よ! 」ってなって、ちょっとま、女の子同士の関係最悪だったんだからな!! あの時カツラギって何歳だったっけ‥確か10歳とか(※正確には9歳)だった気がする。地球だったら小学生5年か6年‥とんでもねえな‥と思うけど、ここは男は17歳で成人だからもう青年って扱いなのかな‥? まあ、‥思い出すカツラギが、「鼻たらしたガキ」だった時はない。いつもませてたし、いつもモテてた。キラッキラはしてなかったけど、ちらっちらと女の子は熱い視線で盗み見してたし、カツラギが微笑めばみんなぽ~となった。ここ、キラッキラの王子だったら、キャーキャーと黄色い悲鳴をあげられて、微笑めばバタ~ン(←古典的表現)。そうじゃ、ないんだよ。
見た目はシブいんだけど、実態は、キラッキラの王子よりゲスイっていうね。
キラッキラの王子は「君がお見舞いに来てくれたら、病気も治る気がするよ」どまりだろうが、うちのシブい王子は、多分そんな甘いだけで腹も膨れない言葉、言わない。カツラギがどういう風に言うかなんて、僕はカツラギじゃないからわかりゃしないし、心底どうでもいい。
が
カツラギと女の子しかいないカツラギの部屋‥カツラギのテリトリーで二人きり。‥何があったかなんて、考えなくても分かるってもんだ。
‥いや、何があったかはわかんないな。「何か」が「あった」ってことは、考えなくてもわかる、だな。たかが10歳に(肉体的に)できることなんて、まあ、きっとたかが知れてる。‥よかったよ10歳位で。うん。女の子が傷物になるとか、不幸すぎるもんな。
‥そういえば、あの後あの子たちどうなったんだろう‥。(注 そんなこともあったな。あの頃は若かったなって思い出話になってます。‥女の子はシビアで現実的です)
いやはや‥あの時の女の争い見てて、「女怖い‥」ってなった少年たちもいたから、ほんとカツラギは悪い先輩だったよな~。
悪い色男に騙されて悪い夢を見て‥傷ついた女の子と、悪い色男のせいで女子に夢を持てなくなった男の子‥。
だけど、女の子は元々強いから、きっと立ち直れるし、この先カツラギほどクズに会うことも無いだろう。‥村に残ってる少年たちだって、間違いなく全員カツラギより誠実だったから、誰と結婚してもきっと女の子たちは幸せになれると思う。
カツラギは‥う~ん‥クズなだけじゃないんだけど、なんで色恋事ってなったら、あんなに節操なかったんだろうなあ‥。いや‥でも、基本あいつは欲望に忠実だよな。知識欲だって性欲だって‥あいつは我慢をしない。寝食を忘れて書庫に籠ったり、仕事したり‥。
あいつにとって、仕事‥知識欲も性欲も同じ。
全部自分本位で、自分の欲求を通したいだけ。
でも‥人ってその(欲求を通したい)傾向が強いか弱いかだけで、自分本位ってのは皆変わらないよね。ただ、それを表に出すか出さないかだけの違いだと思う。
表に出すことによって、人がどう思うかって考える。
人の目を気にする。人の気持ちを慮る。‥その傾向が強いか弱いか。
単純に
自分本位度が低くって人の目を気にする度が高い傾向にある人は「凄くいい人」に見えて、自分本位度が高くて、人の目を気にする度が低い傾向にある人が「自分勝手な人」って判断される。これは公平な目で見た「性質」だ。だけど、人間の判断ってのは、それに「補正」が加わる。その補正は、プラスとマイナスが両方ある。容姿やら口調、日頃の行い、言葉の選び方‥。それらのプラス補正が入り、なぜか‥本来の性質を覆すものもいるし、‥悲しいかな逆も然りだ。
カツラギは‥
容姿(+)
日頃の行い(-)→ だけどこれすらも「まったく~♡しかたないわね~♡」でプラス補正に変わっている。
言葉の選び方(+)
というプラスの補正により、本来の性質「クズ」を覆し「悪い男‥でも憎めない・ほっとけないの‥」「大好きなお兄様」の称号を獲得した男なのだ‥!
‥幼馴染ながら恐ろしい。あ、因みに女の子相手にカツラギは氷の微笑なんて見せない。あれは、男相手だけ。(王都以降だな)あれは、100%人を意識していないゲスな顔なんだ。ゲス(ゲスな顔しても絵になるって羨ましいね)‥だけど、それはそれでファンが付いてる。(男のファンもいるって聞いてる)
あ~、考えれば考える程、カツラギは‥ヤバいな~。
ワーカーホリックで自分の欲望に忠実で、ドS。きっと健康管理とか自分じゃ出来なそう。
あいつには、よっぽどしっかりした人が傍についていてくれないと駄目な気がするな~。
‥フミカも、ワーカーホリックなところあるから‥ストップかける役目は果たしてくれそうにないなあ。
だけど‥何となくこの前「翔」になったカツラギを見た時、なんか変わったなって思った。
仕事や使命、Happy nationから離れてカツラギはちょっと変わった。それはサカマキだってそうだ。 フミカも‥いや、フミカは一番変わってない。フミカは、一番「病んだ」ところがなかったから‥かなあ?
桜子やら‥地球の人たちと過ごした時間。考え方も、何もかもが違う地球での生活を受け入れるうえで自分で学んだこと‥考えたこと。
人からの影響と、自分の心境の変化。
色んなものがカツラギたちを変えていって‥戸惑いながら、その変化を受け入れていく。
変わらないものなんてない?
‥僕はそうは思わない。変わってくものは、もともと「変えるべきだったもの」で「変わるのを‥変えるのを待っていた」ものだ。本当に変えたくないものは、どうやっても変わらない。
サカマキの事が好き。
その気持ちは絶対に変わらない。
サカマキにこの気持ちが理解できなくても、僕の気持ち‥それは変わらない。
サカマキは僕を拒まない。
でもそれは、サカマキが僕の気持ちを受け入れているんじゃない。僕の気持ちを拒む術を知らないだけだ。僕がサカマキにそう教えて来た。
一番愛してる者に、「魂の隷属」を強いる。
‥虐待だ。
最も卑劣で‥愚かな行為だ。
だけど僕は
サカマキを手放したくない。
絶対に‥。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
51
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる