Happy nation

文月

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五章 世界の異分子

9.ハイスペックな少年と、拾った『ひよこ』

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 カツラギを見た時の第一印象は、

 ‥チート。
 これが、チート。まさに、これがそう。

 だった。
 白銀の髪とタンザナイトの瞳の整った利発そうな顔。
 一言でいうと‥凄い美形。
 神に選ばれた子供って感じ。
 ‥でも、神々しいとかじゃない。「つくりもの」って感じ。
 世の中なんにも興味なんてないって冷めた目。真っ白な肌。これまた寒そうな色の‥サラサラの白銀の髪。
 冷たい感じの‥氷の美貌って感じの奴だった。

 カツラギは、‥村の前に捨てられていたらしい。
 だからだろうか‥。だから彼は、世を拗ねた様な顔をしているんだろうか。誰も信じられない‥信用してないって表情をしてるんだろうか。(そんなガラでもない気もする)

 あの村が孤児ばっかり集めてるって有名だったから、ここに置いておけば何とかしてくれると思ったのだろう。そういう子供は、カツラギだけじゃない。
 子供を売る親も多かったから、売らずに「まともに」育ててくれそうなとこに置いてきたってのは、‥親切だったのかな? 
 ‥多分そうなんだろう。(売られたらきっと、「まともな」生活なんて出来なそうだもんな‥)
 そんなことを考えて、悲しくなった。
 カツラギと年が近かった僕は、「分からないことはカツラギに教えてもらえ」ということになった。
 先輩的な?
「よろしくお願いします‥」
 お世話になりますってペコってお辞儀してみたけど‥
 ってか、僕と2つ位しか変わらない奴に、‥そもそも子供にお世話になるとか、あるか? だけど、村での生活は‥それ以上に「この世界」では、先輩には違いない‥わな。
 カツラギは
「はい」
 って言って頷いて、でも、僕を見ようともしなかった。
 ‥こ れ は‥
 あれか!? あれなのか!? 神の試練「どんなに愛しても、愛を返してくれない。そんな相手」か!? コイツを!? コイツを落とせというのか!?
 え
 無理。
 可愛くない。
 全然、食指動かない。
 どう見ても、男だし。
 男でも‥女の子と見まがうみたいな子なら、‥百歩譲って、頑張ってみようかな~って感じ(‥感じかなぁ)かもしれないけど、これは、無理。
 どう見ても、男じゃん。キレイな顔してるけど、どう見ても「受け」って顔じゃないし、こいつが「受け」じゃなかったら、僕が受け? 無いわ~。絶対ない。
 キレイ系「お兄さん」攻めとか、‥ないわ~。この子、どうみても、「S」じゃん。‥ないわ~。僕、「M」っ気とかないんで! 男か女かっていうより、自分が受けになる選択肢がまずなくって、しかも、相手がSとかもう問題外って感じ。好きな子には甘えられたいし、でろっでろに甘やかしたいタイプなんで! ‥この子、甘えてこないでしょ? 絶対。‥しかも、甘えて来ても全然可愛くない‥。
 ふわふわしてないって地点で、もうだめ。
 「可愛いふわふわ系」一択なんで、僕。
 もう、負けでいいです。
 (あっさり)
 ‥いや‥諦めてどうする。‥ツンデレ‥ツンデレになるかも。え~なるかな~‥ツンデレ。
「ねえ」
「‥‥‥」
 見てよ、この絶対零度の、「お前に興味なんてありません」って顔。無表情どころか、虫を見るような目っていうの? 氷の女王ってあだ名がつく顔だよ‥。絶対、デレてるの想像できない‥。
「ねえ!? 」
「‥‥え? なに? 」
 ‥てか、もしかして僕を呼んでた!?
 ‥ああそうか。さっきエヴァンじいさんに「こいつに聞け」って言われたんだっけ。
「あ‥ごめん。ちょっとぼう‥っとしてた」
 「カツラギ」は、不機嫌な視線をちらり、と僕に一度だけ向けると、顎をくいっと上げた。
 ついてこいってことだな、
 僕は苦笑いでそれに従った。
 ついて行った先は、井戸だった。
 井戸で水汲み。
 朝起きた子供が一番にする仕事が「井戸で水汲み」ならしい。しかも、体力がいるから、主に男の子の仕事の様だ。
 あ~。これカラカラやるんだよね‥。あの「つるべ」って奴ね~。‥どうやってやるんだろう。
 僕の表情に、カツラギが舌打ちをする。
 ‥ったく、そんなことも知らねえのか、この役立たず。
 言わなかったけど、絶対そんなこと思ってる‥。そういう顔した。
 Sだし、性格悪い。絶対、嫌すぎる。恋人どころか、友達にすらなりたくない。
 いやいや、日本人は「表面上仲良く」得意でしょ。出来る出来る。(と、自分に言い聞かせる)
「ごめん。教えてほしい」
 お願いすると、舌打ちでもしそうな表情でもう一度僕を見て
「覚えて。一回で。やってみせるから。一回で覚えて。それから、これからは君がやって。僕、こういう力仕事向いてないから」
 ブチってきそうになったけど、苦笑いをどうにか作った。
 だってまあ、僕新入りだし最初はしょうがないよね‥。
 我慢我慢。


 ‥さて、この少年、カツラギは何もかも「向いてない」男だった。(というか、やらないだな。向いてないって言って、やらない)
 その無駄に整った顔を使って、自分の食事当番なのに
「僕、料理とか‥苦手なんだ‥」
 って年上のおねーさんに「お願い」して、年下の子供は「上手上手、これも出来る? 」っておだてて利用して。
 ‥結局何も自分でしていないっていうね。
 そんで、村の大人はそんなカツラギを苦笑いで眺めながらも
「あいつは人を使うのが上手いな」
 なんて感心してたりして。
 それでいいのか‥!!
「おい、おまえ‥!! 」
 流石にここに来て一か月もしたころには、僕もキレたね。
 僕は「カツラギだからしょうがないか」とか、ないぞ。皆がみんなお前に甘いと思うな!?
 カツラギの肩を掴んで抗議しようとすると、
 カツラギがあんまりにも毒がぬけた顔で振り向いたから
 ‥なんか面食らった。
 今日は睨まないんだ。
 しかも
「‥今日は、森に薪にする樹の枝を拾いに行こう」
 なんか、‥今日のカツラギは仕事をする気があるようで?
 ‥そうなれば、何も言えないじゃない?
「は!? 樹の枝!? ‥ああ、まあ‥そうだよな。雨が降る前に拾っとかないとな‥」
 僕は、すっかり出鼻をくじかれた~って感じになった。


 森の中、カツラギはひょいひょいと枝を拾っては僕の背負う籠に放り込んでいく。そして、きょろきょろと何かを探すみたいに、周りを見回す。
 そして
「ほい、これ。アララキ。これの世話するの、新入りのお前の仕事な」
 ひょいっと、急にカツラギはしゃがむと、黄色い薄汚れたぬいぐるみを、片手で拾い上げると、僕に渡して来た。
 ‥何する。
 嫌がらせで汚いぬいぐるみを渡されたと思った僕はそれを振り払おうとして‥それが、ほんのり温かいことに気付いて目を見開いた。
 ‥ぬいぐるみじゃない。(しかも、ぼろタオルでもない)
「‥へ? ‥「これ」? 」
 しかも、すっごい手触り、いい。
 ‥ふわふわ、もこもこ。この世界に来て、初めての手触りだ。
 しかも、すっごい軽い。羽毛みたいな‥
 あ、これ‥羽毛だ。動物の毛皮じゃなくって羽毛だ。
 これって、「あれ」? あの、縁日なんかで見る‥あの黄色の
「ひよこ!! 」
 大きさが、あれとはちょっと‥だいぶ違うけど。
 ‥だって、このモフモフ‥バレーボールよりデカいぞ??
 ‥かわいい‥!!
 めっちゃくちゃ、可愛い!! 
「は? ひよ‥? これは、神獣の‥幼獣だ。しかも、「高位魔法使い」運命の子供だ。これを殺したら未来が変わるから、死なせるなよ」
 カツラギが首を傾げる。
 あ‥ひよこってこの国にはない言葉なんだ?
 しかし、カツラギはさっき何て言った?
 なんか、やけに声が小さくって‥聞こえなかったんだ。あの単語だけ「こうい‥」なんって言ったんだ?
「こうい‥何? 」
 聞き返しても、カツラギは答えてくれなかった。
 こうい‥そのあとに、これははっきり聞こえた‥「運命の子供」って言葉。
「運命の子供? 」
 このもこもこもふもふには、不似合いな言葉だね?
 カツラギが、(それには)うむと頷く。
 あ、これ「知らなくても仕方が無い言葉」なんだ。
 カツラギは、カツラギ的に常識的な言葉を分かってない場合、すんごい嫌な顔をするけど、「知らなくても仕方が無い言葉」を知らない分には寛大なんだ。
 時には、ちょっとドヤ顔で説明してくれたりする。
 案外、慣れて来るとこいつも面白いところがある。
 面白いだけで、相変わらず可愛くはないけど。
 で
「これは、心中の幼体で‥しかも、将来‥魔物を倒す、戦闘型の凄い魔法使いになる。それは、神獣がみんなそうってわけではなく、この子がそういう運命を持った子供だからだ」
 今日は、ドヤ顔で説明してくれた。
「‥魔物を倒す‥? 」
 ‥このふわふわが? このもこもこが? 可愛さで相手を萌え死に‥じゃないわな。‥ええと、大きく成ったら、強くなる的な? ひよこの大人はやっぱりあれだよな。‥鶏?
 もっとデカくなるらしい。
 鶏っぽいから‥、嘴でコンコン!! 的な感じ?
 ひいぃ!! 想像しただけで、僕が萌え死ぬ‥!!
 思わずぎゅっと抱きしめたら、手にべっとり血が付いた。
 この子‥血が出てる!! 
 焦る僕に、カツラギももこもこを覗き込んで、傷口を探した。
 傷口は、首の(多分首)の下の辺りにあった。
 頸動脈とか‥大丈夫だよね!?
 焦ったけど、きっとそういう重要な血管傷付けてたら、もっと血だらけになってただろう。
「どこかでひっかけたかな。‥虐められたんじゃなかったらいいんだけど。まあとにかく、家に帰ろう」
 カツラギが淡々とした口調で言って、ひよこの首根っこを(怪我をしていない方の背中側だな)ぼろ雑巾みたいに掴む。ひよこはぐったりとして動かない。声すら上げない。
 ‥乱暴にそのかわいいのを扱うな~!!
 僕は、カツラギの手からひよこを奪い取った。
 腕に大事に抱え込むと、ちょっと意外な位暖かかった。
 生きてる。
 そして、やっぱり可愛い。
「ピーヨン。もう大丈夫だからな! お家帰って、手当てしような! 」
「‥勝手に名づけるな。そいつには、もう既に名前がある」
 ‥しかも、名前‥だっせぇ。ピーヨンってなんだ。何処からきた。
 カツラギが呆れた顔で僕を見る。
 アララキにしてみれば、ひよこは「ピヨピヨ」ってイメージなのだが(だから、「ピーヨン」)この世界の人間であるカツラギにとってはそうではないらしい。まあ、「ピヨピヨ」どころか、「ひよこ」すら知らないんだから、仕方が無い。(後日談 因みに、記憶力のいいカツラギはこれから十数年後、自分の第二の母(←桜子)に「ひよこはピヨピヨ」と絵本を読まれた時、この時のことを思い出して何となく笑ってしまったという。)
「既に? 」
 僕は首を傾げる。
 そういえば、こいつ「ピーヨン(仮)」がここにいることを知っていたような‥。
「‥サカマキ‥。そいつの名前は、サカマキ‥だ」
 頭を押さえながら、カツラギが不機嫌そうな顔で言った。
 その顔色が‥
「‥どうしたんだよ、急に。‥顔色が悪いぞ? 早く帰るぞ! 」
 青いというより、真っ白だった。
「‥ああ‥」
 カツラギが力なく頷いた。
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