Happy nation

文月

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五章 世界の異分子

4.あの頃、僕は甘かった。

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 まあね‥、自分自身の姿が子供になってるから、転生(転移? )は間違いないだろうけど、まあ、異世界かどうかってのは‥分からない。もしかしたら、只の「秘境の地」ってこともあるかもしれない。‥だけど地球では、あんな獣はいないし‥。
  なら、
「あ、これ、異世界だ」
 ってなるでしょ??? 
 ‥なるよね? 地球じゃない = 夢か撮影(偽物)か異世界か、でしょう。(多分)
 そんなに、「オタク的な知識アレコレ」はない。今となっては残念なことだけど‥。
 でも、見たことない系の獣を見て、ここが異世界かも? ってなった瞬間、「(異世界なら)‥使えるかも、魔法」って思う位の好奇心はある。
 ‥もしかして、僕も魔法とか使えちゃったりする? ‥のかな?
 何となくだけど、手に意識を集中させ‥るとか、それっぽい感じ‥。
 イメージは‥攻撃したいから‥火とかかな?
 結果、火が手からぶわってでて、獣が驚いて逃げていった。
 え? むしろ‥いつの間にこの獣ここに?? 
 さっき見えてたのとは違う獣だった。‥どうやら、僕のすぐ近くに獣が、それこそ気配なく(もちろん音もなく)近づいて来ていた様だ。
 ‥あぶなかった‥。野生動物(※見たことない系獣その二)、怖いよ‥。
 いや、違うのか。そんな悠長なこと言っていてはダメだ。
 ‥しまった。逃がしてしまった。
 ってことなのかな? もしかして‥。
 食料にするべきじゃなかっただろうか? 貴重なタンパク源的な‥。(‥ってか、食べられたんだろうか? )
 ‥食用に向いてたかどうかは、今の一瞬じゃ判断つかなかった。
 色も‥アレだし(なんか緑色をしていた)見たことない獣だったしなあ‥。毒とかあったかも。そもそも、毒が無いにしても、肉を‥生食とか無理。肉の刺身とか‥ダメなタイプなんだ。食わず嫌い的な感じなんだろうけどさ。
 だけど、焼こうにも火がないし、‥それ以前に捌く刃物とかもない。
 食用かっていう知識と、捌くための刃物、焼くための火。
 ああそうか、そういうことも考えた後で獲物をゲットしないとな‥。仕留めただけだったら、食料じゃなくって、ただの死体だ。
 死体‥。リアルだな~。‥いや、生きていくためだ。そんなこと言ってられない。
 刃物はあれだ、石器とか作ろう。縄文時代の武器的な奴。小さい動物なら‥いや、動物は、ちょっとハードル高いな‥。魚とかだったら、くし刺しにして丸焼き的な感じ‥とか?
 落ち着いて考えよう。なんとか方法はあるはずだ。
 こんな「なり(←どう見ても現地の子供)」だけど、僕には発展した文明の‥知識が残っている。それに、大人だ。
 ‥できる、なんとか。それこそ、余裕なはずだ。
 地球の何千年という知識。異世界転移あるある。知識によって救われるって奴を実践する! 。
 まずは、石器からスタートだ。獲物を捕まえたら毛皮とか骨とかが手に入って‥(※はい、そうです。完全に「捕らぬ狸の皮算用」って奴です)
 ‥まずは出来るところから、だな! 

 ‥石器って咄嗟に思ったけど、‥どうやって作るんだ? どういうのが、石器に向いてる石で、どうやって削ればいいんだろう。削れる石って、そもそも物を切れる程硬いのか? なんか写真を見る限り、ガラスみたいな感じの石だったっけ? なんて石だっけ? 確か‥黒曜石。‥でも、そんなの、何処にあるんだろ?
 過去の人間が苦労の末発明した道具‥知識を、使うだけ。あるのを当たり前だと思って、‥その仕組みにまで考えが及ばなかった。使いこなす術しか学んでこなかった。これでは何の役にもたたない、「人の褌で相撲を取る」ことすらできない。そもそも、相撲ってなんぞや、って感じ?
 今の僕には何もない。
 なんの経験もない。
 僕がもし、軍人だったら、戦って獣を倒せたかも。サバイバル術とかで、テントっぽいもの張ったり、獣をさばいたり、火を起こして調理したり‥。
 だけど、僕は勿論軍人じゃないし、(それどころか)ボーイスカウトにすら入っていなかった。
 サバイバルの知識なんか、ない。もちろん経験もない。‥ガチなキャンプすら行ったことない。
 人気のキャンプ場はカマド完備(一応薪式ではあったけど)で、洗い場も整備されてて、鉄板のレンタルすらできた。
 ここは、そんなキャンプ場じゃない。
 ‥何でこんなことになったんだろう。
 愛とかどころじゃなくない? そんな相手に会うまで、僕、ここで生きていける自信ないですけど? 
 ‥リアル・生命の危機。
 なんか、異世界転移なら、神様が「チートをつけてあげるよ」って展開がお約束だけど、そういうのもなかったな。‥そういうの、ほんっと何もなかった。説明とかすらなかった。
 ‥なんか、すっごい腹立ってきた。
 食べるものもない。そして、力がない子供で、身を守る武器もない。寝るところも、ない。事前説明もない。
 ここには見たことない獣はいるし、もうすぐ夕暮れ。夜とかになるとヤバいんだろう。獣って大概夜行性じゃん? ‥樹の上とかで寝なきゃいけないんだろうな。幸い外で寝ても大丈夫そうな気候だ。後は、害虫の類だけど‥そういえば、全然見てない。危険な蜂どころか蚊すら見てない。害虫が‥っていうか、虫全般見てない。もしかして、虫とかこの世界にはいないのかもしれない。
 とにかく、今日は何とか凌いで(‥一日位最悪何も食べなくても何とかなるだろう)明日になったら周囲を散策して、人家とか見つけて、そこに泊めてもらおう。
 そう思ったら‥(むしろ)子供で良かった。子供の方が警戒されなくていい。「迷子で、何も分からない」が、すんなり通る。そこで、ここの常識その他教わって‥もおかしくない。
 だって、ホントに、何にもわかんないんだもん。大人だったら絶対怪しまれるよね‥。「記憶喪失で‥」的な、もっともらしい理由考えなきゃならないよね。
 あと、子供の方がイイってのは、そうだな‥性的な目で見られないって点だと思う。‥女だったら、そういう心配もしなくちゃならないよね。そういう、‥貞操の危機的な? そういうのが、男の子供にはない。‥でも、男でも、奴隷とかがあるのか‥。
 いや、でも子供でも、ショタ好きな変態とかもいるな‥。そういうのに捕まったらどうしよう‥。そういうのも、異世界転移あるあるだよな‥。
 水に映した程度だから、黒目黒髪って位は分かったけど、顔はどんなだったか分からん。‥これで、見目麗しいって感じだったら、一気に「捕まって性奴隷コース」まっしぐらだ。マズイ。人家を見つけても、‥安心できない。
 おじいさんとかおばあさんとか‥(人畜無害そうな‥)そういう人を希望します‥。
 
 とぼとぼとぼとぼ。

 池の周りを散策することにする。
 食料確保を何としてでもしなければ‥って思わなかったら、何となく気も楽だ。お腹は減るが、‥明日人家が見つかれば‥。
 甘ちゃんな現在人に、急に思想をサバイバルに切り替えろっていうの、無理だと思う。
 だけどそんな甘い考えも、足が疲れてきて、喉が渇いてきて、更に空腹になったころには、焦りに変わっていった。
 ‥もしかして、‥ヤバいのか? 
「‥‥‥」
 もう、無駄口聞く元気すらない。
 これだけ歩いてるの人家どころか、人にすら合わない。本格的に人家探しをするのは明日、今日はとにかく情報収集と現状把握って決めてたけど、‥(人家が)見つかったらそれに越したことはない‥って軽~く考えてたけど‥ホントにない。
 池の周り、森の反対側がちょっと開けてるから、こっち方向に‥って期待してたけど、視界が開けててかなり先まで見通せるのに、何にも見えない。
 見渡す限りの草の海だ。
 丈の長い草がざざざーって、それこそ波みたいで(多分)凄いいい景色‥なんだろうけど、お腹がすき過ぎて、苛立ちしか沸いてこない。
 空腹は人間の心から、色んな思考力を奪う。
 冷静さすら失わせる。
 喉の渇きは‥、人を惨めにする、な。
 僕は、その場にへたり込んだ。
 もう眠ってしまいたいけど、‥この場所は危険だ。夜になったら、きっともっと危険だ。
 とにかく、今日の寝床を確保しよう‥。
 樹の上‥樹の上‥。僕が登れて、獣が登れない系の樹‥。
 それにしても、お腹減った。
 足痛い。
 現在人ってホント、使えない。
 しかも、‥子供ってこんなに体力なかったんだ‥。

「お、これ‥シソっぽい。シソのにおいする。‥絶対食べられる。良かった、家(←もちろん、転生前の、だ)が畑作ってて」
 生のまま齧る。
 苦い。
 毒か毒じゃないのかは、‥多分、美味いとか美味くないとかじゃないんだろう。
 食べて死なないとか、死ぬとかなんだ。
 勿論お腹がいっぱいになる、とかはない。
 だって、葉っぱだ。生の葉っぱでお腹いっぱいになるとか、無理だろ。
 栄養とか‥今は、それどころじゃない。
 とにかく、食べるもの寝るところ、飲み水。
 こういう葉っぱと‥あと、魚? 池が目の前になるし‥。
 魚の切り身しか知らない‥とかじゃない。魚もおろせるし、魚の釣り方もわかる。‥釣り竿は無いけど、まあ、木の棒で代用できる‥って、針がない。糸も無い。
 ‥その前に‥
「この池、魚いるかなあ‥それに、この水飲んで平気なのかな‥」
 僕の第六感が警鐘を鳴らしている。
「絶対無理だ」
 と。
 だって、もう「入浴剤はいってる? 」って位、真緑の色してるし。
 食物性プランクトン濃縮って感じだし。
「よくてお腹壊す、悪くて死ぬ」
 ‥生水怖い。
 ‥沸かせばいいかな。
 沸かすっていっても、火もないし、鍋もない。
 でも、‥背に腹変えられない‥多少お腹を壊すぐらいなら‥、いや、濾過すればなんとか‥?
 そんなことを考えながらイケを見つめること数分、馬っぽい‥如何にも草食~って感じの獣が池に近寄ってきた。
 よし、観察だ。毒見‥というか、あいつが飲んだら、‥飲もう。
 いや、‥でも、まだ切羽までは詰まっていない‥もうちょっと待とう‥。
 それ程、‥真緑入浴剤池は抵抗感満載だった。
 しかも、しばらく観察を続けていると‥
 ある法則に気づいた。
 見るからに肉食っぽい動物は池を回避していくのだ。で、別のところで水を飲んでる。目を凝らせば‥小さな川だ。森の奥から聞こえた水音、やっぱりあれは川だったのだ。

 でも、‥さっきまであの川あんなにはっきり見えてた??

 草食っぽい動物は、この入浴剤入り池。肉食っぽい動物は、川。

 ‥どういうことだ? 

 食の嗜好の食違い? 草食動物だから、池の中のプランクトンも摂取してるよ~って感じ?
 それとも、消化器官が草食っぽい動物の方が発達してて、草食動物には消化できるけど、肉食動物にはあの(ま緑の水)消化できない的な? 
 でも、‥なら、川の水飲んだらいいじゃん? 川の水の方が綺麗なら‥。消化できるか出来ないかじゃなくて、より消化に優しい方を飲む方がいいに決まっている。
 って、川からなんか見たことない色の手が出てきて肉食っぽい動物引きずり込もうとしてる~!! ‥そうか、危険度が川のが高いんだ!! しかも、‥肉食獣に会う確率が高いってね‥。
 ‥そりゃ、多少マズくても安全な方選ぶわな‥。
 おお‥。沈んだよ‥肉食っぽい動物。
 あの川‥怖えぇ‥。
 
 川の水を飲むのは、危険。
 池で水を飲むのは、草食っぽい動物だけ。
 水を飲むなら、きっと川の方がイイが、川は‥危険。

 ‥ダメだ。
 もう、お腹が限界‥かも。空腹すぎて、気分が悪い。
 喉が渇いた‥。
 弱ってる僕に獣が容赦なく寄って来たから、また手から火を出して、獣除けにする。(随分、勘が発達して来た気がする。気が付けたよ‥、獣が近づいてきたの‥)何処の世界でも、獣は火を怖がる‥。手も熱くならないし、‥どういう原理かわかんないけど、魔法最強‥。
「ああ、そうか、火が出たなら、出るかも水‥」
 しかも、さっき手から出した火‥あれで木の枝を燃やして焚火みたいにしたらいいんじゃないか‥?
 気付かなかった~。
 まあ‥そういうこともある‥それより‥水‥。
 水水‥って呟きながら手に力を籠めると、問題なく出た。
 透明な水。
 葉っぱをコップ代わりにして飲む。
 普通に美味しい。
 火と水ゲット。
 異世界万歳。
 ‥後は、食べ物探すだけ。
 ‥だけって程簡単でもないな‥。
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