Happy nation

文月

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四章 物語の主人公

23.鳩的life。

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「まあ、結論は‥サカマキはそんなこと気にしないでいい、ってことと、相変わらずあいつはアホだってことだ」
 フミカは、笑いが収まらないって顔でもう一度、ダメ押しの様に言った。
「‥賢者なんだけどね」
 何でも知ってて、誰よりも賢い‥賢者なんだけどね。
 サカマキは苦笑いする。
 フミカは、さっきまでの爆笑と違う‥ふ、っと呆れた様に笑った。
「それな。‥俗な賢者様もいたもんだ」
 って肩を‥人間だったらすくめたんだろうけど、鳩な二人は、ちょこんと首を傾げただけ。
 庭の二羽の鳩は今日も仲良くちょこんと並んで枝に止まっているのだった。

 ただいま~。
 玄関の方で声がする。
 桜子だ。
 正樹も会社に行き、カツラギを幼稚園に送っていった桜子が帰って来たのだ。
 今は、家には家族の誰もいない。でも、桜子はいつも挨拶をする。
 桜子曰く『家に』挨拶しているらしい。
「だって、この家は、正樹君のご両親の家でしょ? 時々は帰ってこられるかもしれないでしょ? もしかしたら、いつもおられるかもしれないし」
  だから、挨拶しなくちゃね。
 って。
 ‥なんか、今まで霊魂を守って来た者が言うのは変だと思うけど、‥なんか怖いよその発想。
 嫌だよ。
 だって、桜子がいない間その正樹のご両親と一緒にお留守番してたってことでしょ? このくだらない話ご両親が聞いてたかもってことなんでしょ? ‥ご遠慮したいよ‥。
 でも、
「その方が賑やかで楽しいでしょ? 」
 って桜子は言うんだ。
 なんか‥桜子らしいなとも思ったり。

 遺影代わりの写真たてにお水を供えて、お花の水を替える。仏壇は、お父さんの弟さんの家にあるらしい。正樹が「いつか引き取らせてください」って言ったっていう話は、叔父さんから結婚式の後聞いた。(勿論サカマキたちが聞いたわけではない。サカマキたちは、所謂立ち聞きしてただけだ)
 鳩の姿で式場の外でぼんやり見てましたよ?
「正樹は昔からしっかりした子供だった」
 って、叔父さんが誇らしそうに正樹に言って、正樹が照れたように笑っていたのを覚えている。で、その後、義叔母さんが
「でも、こんなに早く結婚するとは思わなかったけどね」
 ふふ、って笑って、正樹も「へへ」って笑って‥。
 いいお式だった。
 いい人たちが一杯祝ってくれた、いいお式だった。桜子も嬉しそうだったし、‥凄く綺麗だった。
 あんなに綺麗な人お嫁さんに出来る正樹は幸せもんだなって思った。
 
 桜子と正樹の日常は、特にキラキラしたもんでもないけど、あの幸せなお式の延長の様な穏やかで優しい日々だ。
 桜子が言う様に、ここに正樹の両親が楽しそうに一緒に微笑んでてもおかしくないのかもなあ‥なんて思ったりも、する。
 え? サカマキは霊魂は見えないのかって? ‥それは、専門外ですけど‥? 魂と、死霊(なんか死霊っていうと、いっきに悪霊感漂うな)は別ですよ?
 
 まあ、それはそうとして‥。

 今はまだ、ここに仏壇はない。
 代わりに写真たてに写真が飾ってあるだけだ。
 水を供えるときには、一言話しかける。
「今日も正樹君も翔も私も元気です。ありがとうございます」
 って。
 ‥なんか、俺の都合で結婚してもらったってちょっと後ろめたく思ってたけど、その相手と桜子との間に愛が育まれてるって思うと、なんか‥嬉しい。
 悪いことじゃなかったな、って思える。
 ‥カツラギの奴にも言ってやりたい。
 俺の都合で‥なんて、
 正樹や桜子に失礼だぞ! って。
 あいつは、馬鹿だよな~。

「頭がイイと賢いは違うわな」
 フミカがしみじみとした口調で言う。
「それはそうだな」
 噛みしめる様にサカマキが頷く。

 ポッポポッポ。クルックルック―

 傍から聞いたら、鳩の鳴き声にしか聞こえない。


「おはよ~。鳥さんたち、リンゴ切ったよ~」
 って、桜子が「皮をむいた」リンゴを手に樹の下から呼ぶ。
「降りてきて食べよ~」
 て。
 これは、他の人に聞かれてもおかしくない様にするいつものパターン。
 降りて行って、するり、ってリビングに入って、
 人の姿になる。
 鳩語、フミカとしゃべるのには問題はないけど、桜子には通じないみたいなんだ。
 ‥アララキには通じるのかな。なんか、気力で解読しそうだな‥って思ったのは、フミカだ。(勿論試そうとも思わないし、言わないが。‥それで、サカマキがアララキ引くわ~ってなったら、嫌じゃない? だって、いちお「両親」だしね。)
「俺は今要らない。ごめんね。後でもらう」
 ってこれは、サカマキのいつものセリフ。
 今ってか、
 要らないんだけど、そういうの言いにくい。だから、後で。貰った分は、フミカが結局食べている。多かったら、鳥仲間的なものに分けてあげてもいいわけだ。
 俺は食事の習慣なんて元々ないのに、桜子時代は桜子に合わせて食べてたの苦しかったとか、‥言う気ないから。気取られたくないし。
 絶対、そういうの桜子は気にするよね。
「我は頂こう」
 ってフミカ。
 ‥悪いね。

「こっちの食べ物と、あっちの食べ物って違う? 」
 リンゴをフミカと桜子が食べながら、ガールズトークをするのもいつもの事。
 『初めて会った時』から桜子は、「フミカさんって、初めて会ったって気がしない」って言ってた。照れ笑いしながら、「見かけがっていうより、なんか‥懐かしい感じがする。おかしいよね? 」って。
 ‥おかしくはないわな。
 ‥まあ、初めてじゃないしね。
 ずっといましたよ。
 ‥とか、言わないけど‥。
 フミカとカツラギが、サカマキの友達だってことは知ってるから、サカマキたちしかいない時は、桜子もフミカを大人扱いしてくれる。カツラギは‥でもやっぱり自分の子供だからだろう、微妙だ。
 つい最近まで、記憶も戻ってなかった。つまり、その間は、純粋に桜子と正樹の子供だったわけだ。
‥無理もない。
「ん? 別に何も変らないぞ。リンゴはリンゴだし、食べてるものは変わらない」
 あ、でも、こっちのリンゴの方が甘い気がするな。とリンゴを咀嚼しながらフミカが付け加えた。
 ここの人間は、品種改良だとか、植物を美味しくする努力が凄いよね。

 朝はリンゴなどの果物。
 昼は植物の種やなんか。
 晩は‥おやつ位の時間にカツラギたちと一緒に軽くパン。

 桜子はフミカたちに食事を用意してくれる。
 水は常時木につられたペットボトルから飲める。
 鳩のままでも嘴を突っ込めば飲めるが、人間に戻った時に飲む。その方がずっと楽だ。
 サカマキも水くらいは口にするんだ。

「桜子。夕飯の買い物は今日はどうする? カツラギを迎えに行った時に行くか? 」
「ん~、ちょっと煮込み料理したいから、先に買いに行く」
 夕食の準備に時間を掛けたいって話だ。
 そうそう。これはあっちとの大きな違いだ。あっちの方がこっちより調理法はシンプルだな。
 こっちの人間は、‥何て言うか、凄いよね。食に対する情熱とか。尊敬に値する。
 あっちでは「食べられればいい」って感覚が強かったよな‥。
 美味しいものが食べたければ買いに行けって感じなの。
「じゃあ、俺が行く」
 いつものパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、サカマキが顔を上げる。
「‥大丈夫なのに~。‥分かった。お願いします。ん~でも、今日は一緒に服を見に行こう? サカマキさんの夏服。夏にも着れる様な薄手の長袖のTシャツだったら、今の方が品揃えがいいから。‥サカマキさんたちと一緒だったら、出掛けてもいいでしょ? 」
 守ってくれるんだよね? ってにこって笑う。
 つられて笑顔で「まあ‥勿論守るけど」って言っちゃった。
 あの笑顔に逆らえる奴なんていないよ。
 っていうか‥
 自分の服ねぇ‥。
 ‥正直面倒臭い。
 別に服なんかどうでもいい‥。
 サカマキはちょっと眉を寄せた。
 ‥でもそれよりも
「‥正樹は嫌じゃないかな。疑惑の俺と桜子が一緒だったら‥」
 見られたら、困るんじゃないかな‥なんて。
 サカマキがぽつり、と言って、眉を寄せた不安げな表情で桜子を見上げると、桜子が「え! 」って驚いた顔になった。
 そしてすぐ、この前のことを思い出し
「もう、ホントに正樹君は‥。私の交友関係まで口出されたくないわ! 」
 ちょっと怒り出したのだった。
 全然迫力なんてないんだけどね☆

 服屋に向かう途中で、パン屋による。
 食パンと、フミカ用のふわっふわの白パン。それと、この頃のカツラギ‥翔のマイブーム「プチカンパーニュ」だ。シンプルに何も入っていないのも美味しいのだが、特に翔が気に入っているのは、ドライフィグやらドライプルーン‥つまり、ドライフルーツが沢山入ったほんのり甘いタイプだ。
 そう甘党ではないカツラギらしいチョイスだなと思ったり。お肌にも良さそうだし。カツラギって、結構美容に気を遣うんだ。
「フミカちゃんも何かパン選んで? 」
 幼児なフミカが首を傾げる。
 小さいが、恐ろしく整った顔の子供だ。
 店の外の客も、ちらちらフミカを見ている。
 ‥目立っているといえば、もう一人の美人、サカマキもだ。
 パーカーとTシャツのシンプルな格好、ユニセックスな容姿と飾らない表情は、何時もは少年っぽく見えるのに、フミカと手を繋いでいる今はボーイッシュな母親に見える。
 サカマキは、桜子の言葉に、フミカを抱っこしてパンの棚が見えやすいようにしてやった。
 されるままサカマキに抱っこされたフミカは、棚をくるりと見回して、ふるふると小さく首を振って、「いつもの白パンがいい」と、桜子に告げた。
 ふふ、と微笑んで桜子がトレーに白パンをもうひとつ置く。「これは明日の」って。

「フミカちゃんは、食べ物だったら何が好き? 」
「我? そうだな~。ナツカがつくった甘い揚げパン。あれが好きだった」
 いつまでもサカマキに運ばれてるのもな、と思ったが、店で埃を立てるのもなんだから、店から出るまでは運ばれておこう。
 とか頭の中で考えながら答えた。
 ナツカの揚げパン。
 何とはなしに言ったんだけど、‥思いだしたらちょっと食べたくなった。
 でも、ナツカにまた会える日は来るだろうか‥。
 我は、すっかり変わってしまった‥。
「揚げパン! おいしそうだね! ナツカさんってお母さん? 」
 ちょっと物思いにふけっていた。はっと気づいて顔を上げると、桜子と目が合った。
 桜子がにこり、とフミカに微笑みかける。
 母親?
「いいや? 。我の幼馴染じゃ」
 ふるり、小さく首を振る。
「幼馴染! サカマキさんと同じ? 」
 ん? サカマキ? ああ、確かに誰より親しくしているな。
 でも。
 フミカはもう一度、今度はさっきより大きく首を振る。
「サカマキやらアララキやらは、付き合いの長さだったらそう長くはないな。アララキとサカマキ・カツラギは幼馴染だと言っておったな。でも、‥時間じゃなく、我は、サカマキたちを一生の友だと思っている」
 フミカが微笑んで説明すると、サカマキがちょっと照れたらしいことが分かった。
 見上げたサカマキの顔がちょっと赤くなっている。
 ‥サカマキはシャイだな~。
 微笑ましくって緩んだ口元を隠すために、フミカはコッソリ俯いて
 桜子は
「素敵‥。そんな幼馴染の二人(サカマキとアララキ)が結婚して子供を産んで‥なんか少女漫画みたいだよね~」
 目をキラキラさせた。
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