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四章 物語の主人公
21.『僕の未来予想図』の責任の所在
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(サカマキside)
「‥そろそろ、時間だな」
公園の中央に立っている時計を見ながらフミカが立ち上がる。
アララキとは違う、長い髪が風に泳ぐ。
ふわふわとしていた昔の彼女の髪ではない。さらっとしたストレートだ。
色も昔みたいに日に透ける色じゃない。
昼間はただただ‥見慣れなくて、違和感しかなかったのに、ようやく慣れたのも‥この夕焼けに踊る髪を見たのがきっかけだったっけか。
ああ、おんなじだ、フミカだ‥。
って、思ったんだ。
あっちでのフミカは、髪がすっごくながかったけど、こっちであんなに髪を伸ばしたらきっと目立っちゃうな、なんて「わかる」位こっちに‥黒い髪の人たちがいる国に‥慣れた。
黒髪と黒い目は同じなのに、アララキはこっちの人たちとは違う。肌の色も違うんだけど、そもそも顔の作りが違う。アララキの顔は、「ハーフ? クオーター? 」ってこっちの御婦人方に聞かれる感じの‥所謂「彫りが深い」顔なんだ。
それは、フミカも一緒。フミカも子供ながら、目鼻立ちがはっきりした「美人顔(←ってよく言われてる)」ならしい。(顔の美醜については、よくわからん)
造りは全くアララキと一緒だけど、性別の違いは明白だ。身体に付いた筋肉も、骨格も、まだ子供なんだけど‥やっぱり全体的に女の子らしく丸みを帯びている。頬がふっくらしているのは、年齢的なものだろう。
薄い唇を結び、凛とした表情で前を向く。
表情の乏しい彼女がよくしていた貌だが、以前の彼女はその素朴な色合いと柔らかな髪質のせいで、ふんわりほんわか‥な羊みたいに見えた。だけど今は、整いすぎた美貌と黒基調の色合いのせいか、若干冷たい印象を感じる‥。
同じ表情をしているのに、造作や色合いによってまるで受ける印象が違う‥。
そう思って、改めてフミカを見た。
切れ長で涼し気な目元、黒曜石の様な瞳。絹のような肌触りの皮膚はきめ細かくて真っ白で、長い黒髪と相俟って、まるで日本人形の様だ。
清涼な美しさだ。
同じ顔をしているアララキは俺にこんな表情は見せない。いつも、やけに嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
俺は不器用で‥その笑顔に笑顔を返すことが出来ないのがもどかしい。
「そうだな、もう帰らないとね」
立ち上がろうとするアララキにカツラギが畳んだパックジュースのゴミを渡して来た。
フミカが飲み切ったパックジュースは、さっきカツラギが無言で回収して、畳んでいた。
黙って細々と世話を焼く様子は、まるで兄の様だな‥と思ったり。
「ああ」
それらのゴミを回収するのは、アララキだ。フミカの服の衿を直してやり、尻についた土埃をはらってやって、「セクハラか」と睨まれている。
まるで『普通の』父親みたいだ。
自国では、絶対にしない。(‥するわけがない)
‥違和感がないように、
こっちの人間に「合わせる」。
『皆と同じ』だったら、違和感も感じないから、印象にも残らない。そういえば、こっちの人間はそういうことを大切にする。否、そういうことを気にする。
アララキがHappy nationの人間だって知ってる人間もいるとは思う。(この前、検査機器の所にもいたしね)、テレビを見た者もいるかもしれない。だけどまさかそんな人物がこんなところにいるわけがない‥。
普通にしてたら、案外目につかないもんだ。
まさか、
異世界人が、生成りの綿のTシャツと綿パンというラフな格好して、子連れでパックジュース飲ませてるわけがない。
ただ、ちょっとカッコいいかな‥って目につくくらい。
それくらい。
黒目黒髪という、Happy nationでは目立つ特徴は、ここでは目立たない。それが、ちょっと面白いなと思ったり。
‥でも、アララキほど真っ黒っていうのは、ここ『日本』でも珍しいかもな。正樹の目も薄茶色っぽいし、地毛の色が明るい者も少数だがいるみたいだしね。わざわざ染めているらしい者がいるのには驚いた。黒髪、キレイだと思うのにな。
「それじゃあ」
笑顔で別れる。
桜子(俺)は、カツラギと。
アララキは、フミカと‥一羽の鳩と。
時間にちょっと細工をしたから、4人がここにいた『時間』自体は短い。
ほんの立ち話程度。カツラギとフミカが丁度ジュースを飲んでしまう位の時間しか話していない様に、周りには見えているだろう。
魔法で、4人だけ時間を切り取れば‥って思うだろうが、それって、結構大魔法だ。桜子とカツラギは人間だしね。
(カツラギside)
桜子と手を繋いだまま家路を急ぐ。
まだ正樹は帰らないだろうが、買い物と夕食の用意がある。
‥しかし、正樹はあんな子供みたいな顔で会社員って。‥なめられてなかったらいいんだけど。
辺りは徐々に夕焼け色に変わってきて、明かりがひとつひとつと増えて来た街から、夕飯の準備をする香りが漂ってくる。
こっちの人間は、食事の準備にやけに時間をかける。
Happy nationでの食事は、パンとスープ‥まあ、ついてもそれに野菜サラダがつく位だ。解体された肉やら野菜が市場で手に入るという点は、こことそう変わらない。田舎ならまだしも、都市である王都で、狩りにいって肉を手に入れる‥なんてことはない。野菜も近隣の村で収穫されたものを運んできて売っている。
スーパーのような、「いろいろ売っている店」があるわけではなく、店主と消費者の距離はもっと近い。それに慣れている私には、ここの暮らしは少々薄情にも思えたり。
少々不満もあるが、今現在の私のような、日常生活に演技が必要な人間には寧ろそのような希薄な関係の方が楽ではある。‥『普通の』子供のフリとか疲れるしね。
きゅ、と桜子が私の手を握る力を強くした。
「‥サカマキさんから思いつめた顔でお願いされたから、お願い聞いちゃったけど、‥サカマキさん、無理とかしてないかな」
「桜子」がぽつりと呟いた。家に帰るからだろう。サカマキは奥に引っ込んで、今は桜子が前面に出てきているようだ。
声に力がない。
「なにか‥私にできることとかないかな‥。力になれることないかな‥サカマキさんの手伝い出来ないかな‥」
って、自分を責める様に‥しょんぼりした声を出す。
桜子の横顔を見上げる。
予想通り桜子は、心配そうな顔をしていた。
‥桜子は、本当にお人好しだな。
自分の身体を乗っ取って、意識を奪い去る様な奴の心配をするなんて。
「‥サカマキが無理なんかしたら、アララキが黙ってないから大丈夫だと思うよ」
小声で呟く。
周りには聞こえない位小さな、小さな声。
だけど、桜子はそれを拾って
「よかった。‥サカマキさんにいい旦那さんがいてくれてよかった。‥シングルマザーになったんじゃないかって心配してたんだ」
‥いい旦那さんかなあ。
『これぞ、違和感の頂点』
って感じの発言だなあ。
シングルマザーってのも、結構な爆弾発言だな。
「遠距離恋愛だったんだね」
ってちょっと嬉しそう‥ってか、楽しそうってか。「なんか意外だね~」って微笑んでる。
今度は、自分の事の様に嬉しそうに。
ホントに桜子って人がいい。優しくって‥心配になる。
‥っていうか‥さっきの発言‥さらっと聞き流しそうになったけど‥
‥恋愛は、
してない‥んじゃないかな? 。(サカマキだもん‥)よくわかんないけど。
地味に笑いのツボに入りそうになった。
「どうした? 翔。面白い顔して。何か面白いことがあったの? 」
‥おお、出た。
「正樹さん! おかえり~! 」
‥もう一人のヤンデレ(← 愛情表現行動は控えめ)
「とーさん、仕事おわったの? 」
私も、子供のふりをせねばな。
「うん。一緒に帰ろ」
子供みたいな顔の正樹が、にっこりと子供みたいな顔で微笑む。
それを見て、桜子もふわっと子供みたいな顔で笑う。
‥子供みたいな
純粋に、『幸せな』笑顔。
正樹なんて見かけに反してけっこう腹黒なのに‥こんなに無邪気な笑顔ができるんだなあ。‥桜子相手だから?
‥なんか、羨ましい。
親子なのに‥、この二人と血が繋がった子供なのに‥
私にはこの笑顔ができる気がしない。
ずっと、‥大人になるまでずっとこの人たちと一緒にいたら、この人たちの『家族』として‥この人たちの愛情を素直に受けて大人に成ったら‥
‥いつかこの笑顔が出来るようになるんだろうか。
実験・観察なんて気の長くって、時間のかかるものに興味はないけど、
新たな魅力を手にする為の努力って思ったら、‥試す価値はあるかも。
‥ってか
私の顔‥、この頃どんどん正樹に似て来た気がするんだけど‥。
あんな子供っぽい顔で、大人なナンパとかできる気がしない。
子供っぽい形(なり)して、油断させて、実は狼‥とか、私はそういう趣味はない。
「おねーさん! 」
ってかわい子ぶるのは、‥セックスもろくにできない子供のうちだけで充分だ。大人に成ってまで子ども扱いとか、冗談じゃない。母性本能で近づいてきた女にそういうこと出来る気がしない。
クールでスマート。
男たるもの、そうじゃなきゃ。‥それが私のモットーだ。
あと、これは絶対絶対の絶対事項なんだけど‥
‥絶対部下にはこんな姿見せたくない。
そんな生き恥晒すくらいなら‥あっちには帰りたくない。
サカマキ! 末代まで祟ってやるからな!!
‥お前がそもそも、正樹なんて不思議物件見つけてくるから‥もうちょっと、スマートでイケメンな相手を桜子に会わせておけば、こんな悩みなんてなかっただろうに‥!
‥でも、きっと「そういうの」は、桜子の好みじゃないんだろうなあ‥。
にしても、もうちょっと‥! (怒り心頭)
「‥今度は怒り出したの? 何か嫌なこと思い出した? 幼稚園で色んなことがあったのかな? 翔は、表情が豊かだね」
‥幼稚園なんぞどうでもええわ!
きっ、っと睨み付けたくなったが、寸でのところで我慢。俯いて、誤魔化す。
くすくすと正樹が笑う。
‥女子高生でももうちょっと大人っぽい笑い方するぞ。女子中学生か。
なんで女子かって? 。
正樹、男子っていうより女子っぽいもん。
あと、男性とか女性とかじゃないよ。
男子、女子。
大人じゃないの。‥大人のエロス皆無。
普通さ、会社帰りの父親ってちょっとくたびれてたりするじゃん? それがない。「あーお腹減った~」「ふふふ、正樹ちゃん、部活帰り? 育ち盛りだからいっぱい食べなよ~」って会話を近所のおばちゃんにされそうな感じ。貫禄ゼロ‥!
ま‥まあ、若いから‥貫禄はまだ、ね。‥22・3だったら、イケイケゴーゴーの遊び盛りだしね、まだ枯れてないよね‥。でもさ、若々しさ‥、それとも違う気がするんだよな~。なんか、初々しい‥。
あれだね。
ショタな属性。
‥ないわ~。
‥父さんが「それ」とか、‥無いわ~。
自分が将来的にそうなる‥とか、無いわ~。
「‥俺は関係ないと思うぞ」
サカマキは、いつも夜は、リビング前のいつもの樹の巣箱(※桜子が作ってくれた。鳩の親子用だから、やたらデカくて、桜子母爆笑)で寝るんだけど、今日は、二階の窓から、カツラギに視線で呼び寄せれて、現在鳩のままカツラギの部屋の窓辺にいる。
この部屋は、元々は正樹の部屋だったんだって。
まだ一緒に寝るって当たり前のように言った桜子に、カツラギが「NO」って言ったのは、幼稚園入園を明日に控えた日だった。
「僕、もう子供じゃないんで」
カツラギはそう男らしく宣言したらしい。
それを聞いた桜子は、きょとんと、正樹は「あはははは」って、休み時間の女子高生みたいに笑ったらしい(カツラギ談 休み時間の女子高生って www)。
で、今まで三人で寝てた一階の和室から、皆で二階に移動して来たってわけだ。
カツラギは、子供部屋。桜子夫婦は、以前は正樹の両親が使っていた主寝室を使うことにした。
子供部屋は六畳一間のフローリングの部屋だ。痛みも気にならないし、特に手を付けることもしなかった。家具もそのままだ。勉強家だった正樹の「年季の入った学習机」は引き続き翔なカツラギが使うことになった。
「関係ない?! いいや。『結婚相手は‥優しくって~、あんまり身長が大きくなくって~、草食系。ココが一番大事。草食系がいい』ってお前言ってたじゃないか。まんま正樹だよな!? ‥お前が抱かれるわけじゃあるまいし、お前の趣味を桜子に押し付けるなよ! 」
ぼそぼそと、小声で、でも、口調は厳しくはっきりと。
サカマキを睨みつけながらカツラギがマジギレしている。もう、目は吊り上がらんばかりだし、青筋すら浮かんでそうなくらい、真っ赤な顔して怒っている。
鳩なサカマキは流石鳥だけあって、夜目が利かない。
‥正樹、どんな顔してるのかな? 見えないや!
って位。全然、カツラギの怒りは伝わっていない。
「別に俺が押し付けたわけじゃない。俺の趣味って‥そんなわけあるか。
ほんとうにたまたま、だ。桜子が選んだのが偶々そういう正樹だったんだから仕方が無いだろ?
まあ‥確かにな‥今回はたまたま研究が上手いこといって、俺が行為に立ち会わないでよかったけど、‥もしかしたら、俺が桜子の中にはいったまままぐわわなくちゃいけない場合もあったんだぞ? ‥マッチョとかホント無理だって思うじゃん」
けろ、っとした口調で言った。
説教相手のそんなお気軽な態度に、カツラギの怒りは、更にヒートアップだ。
「アララキだって、そこそこ細マッチョだよね!? 中に入ってどころじゃなくガッツリ本体でアララキと子作りセックス出来ちゃう奴が、「マッチョとかマジ無理」とか言ってんじゃねぇよ!! 」
ちょっと、羽とかむしりそうな勢いでサカマキの身体を握る。
うわ、っちょっとびっくりした。ふわっとしてる。羽毛、思った以上に柔らかいし、思った以上に細い。
びっくりして、怒りが一瞬そげたのは、秘密だ。
「‥カツラギ、口調がおかしいぞ。‥そんなにいや? 天使でショタな外見で中身ドSな腹黒賢者、ギャップ萌えが半端ないと思うけど‥」
‥サカマキには全然気づかれてなかったみたいだし‥。
ってか‥
「~~~!! 」
天使でショタな外見で中身ドSな腹黒賢者。
どこに需要在るんだ~!!!
そんなのにキュンキュンしちゃうドМなオタクとかショタ好き変態女は、私の恋愛対象じゃねぇ!!
私の恋愛は、もっと、ドライでスマートな感じ!!
その時のカツラギは、まさか自分がショタ好きな変態(そして殆どが男)に「頂かれちゃう(受け)」未来があるとは思ってもいないのだった。
「‥そろそろ、時間だな」
公園の中央に立っている時計を見ながらフミカが立ち上がる。
アララキとは違う、長い髪が風に泳ぐ。
ふわふわとしていた昔の彼女の髪ではない。さらっとしたストレートだ。
色も昔みたいに日に透ける色じゃない。
昼間はただただ‥見慣れなくて、違和感しかなかったのに、ようやく慣れたのも‥この夕焼けに踊る髪を見たのがきっかけだったっけか。
ああ、おんなじだ、フミカだ‥。
って、思ったんだ。
あっちでのフミカは、髪がすっごくながかったけど、こっちであんなに髪を伸ばしたらきっと目立っちゃうな、なんて「わかる」位こっちに‥黒い髪の人たちがいる国に‥慣れた。
黒髪と黒い目は同じなのに、アララキはこっちの人たちとは違う。肌の色も違うんだけど、そもそも顔の作りが違う。アララキの顔は、「ハーフ? クオーター? 」ってこっちの御婦人方に聞かれる感じの‥所謂「彫りが深い」顔なんだ。
それは、フミカも一緒。フミカも子供ながら、目鼻立ちがはっきりした「美人顔(←ってよく言われてる)」ならしい。(顔の美醜については、よくわからん)
造りは全くアララキと一緒だけど、性別の違いは明白だ。身体に付いた筋肉も、骨格も、まだ子供なんだけど‥やっぱり全体的に女の子らしく丸みを帯びている。頬がふっくらしているのは、年齢的なものだろう。
薄い唇を結び、凛とした表情で前を向く。
表情の乏しい彼女がよくしていた貌だが、以前の彼女はその素朴な色合いと柔らかな髪質のせいで、ふんわりほんわか‥な羊みたいに見えた。だけど今は、整いすぎた美貌と黒基調の色合いのせいか、若干冷たい印象を感じる‥。
同じ表情をしているのに、造作や色合いによってまるで受ける印象が違う‥。
そう思って、改めてフミカを見た。
切れ長で涼し気な目元、黒曜石の様な瞳。絹のような肌触りの皮膚はきめ細かくて真っ白で、長い黒髪と相俟って、まるで日本人形の様だ。
清涼な美しさだ。
同じ顔をしているアララキは俺にこんな表情は見せない。いつも、やけに嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
俺は不器用で‥その笑顔に笑顔を返すことが出来ないのがもどかしい。
「そうだな、もう帰らないとね」
立ち上がろうとするアララキにカツラギが畳んだパックジュースのゴミを渡して来た。
フミカが飲み切ったパックジュースは、さっきカツラギが無言で回収して、畳んでいた。
黙って細々と世話を焼く様子は、まるで兄の様だな‥と思ったり。
「ああ」
それらのゴミを回収するのは、アララキだ。フミカの服の衿を直してやり、尻についた土埃をはらってやって、「セクハラか」と睨まれている。
まるで『普通の』父親みたいだ。
自国では、絶対にしない。(‥するわけがない)
‥違和感がないように、
こっちの人間に「合わせる」。
『皆と同じ』だったら、違和感も感じないから、印象にも残らない。そういえば、こっちの人間はそういうことを大切にする。否、そういうことを気にする。
アララキがHappy nationの人間だって知ってる人間もいるとは思う。(この前、検査機器の所にもいたしね)、テレビを見た者もいるかもしれない。だけどまさかそんな人物がこんなところにいるわけがない‥。
普通にしてたら、案外目につかないもんだ。
まさか、
異世界人が、生成りの綿のTシャツと綿パンというラフな格好して、子連れでパックジュース飲ませてるわけがない。
ただ、ちょっとカッコいいかな‥って目につくくらい。
それくらい。
黒目黒髪という、Happy nationでは目立つ特徴は、ここでは目立たない。それが、ちょっと面白いなと思ったり。
‥でも、アララキほど真っ黒っていうのは、ここ『日本』でも珍しいかもな。正樹の目も薄茶色っぽいし、地毛の色が明るい者も少数だがいるみたいだしね。わざわざ染めているらしい者がいるのには驚いた。黒髪、キレイだと思うのにな。
「それじゃあ」
笑顔で別れる。
桜子(俺)は、カツラギと。
アララキは、フミカと‥一羽の鳩と。
時間にちょっと細工をしたから、4人がここにいた『時間』自体は短い。
ほんの立ち話程度。カツラギとフミカが丁度ジュースを飲んでしまう位の時間しか話していない様に、周りには見えているだろう。
魔法で、4人だけ時間を切り取れば‥って思うだろうが、それって、結構大魔法だ。桜子とカツラギは人間だしね。
(カツラギside)
桜子と手を繋いだまま家路を急ぐ。
まだ正樹は帰らないだろうが、買い物と夕食の用意がある。
‥しかし、正樹はあんな子供みたいな顔で会社員って。‥なめられてなかったらいいんだけど。
辺りは徐々に夕焼け色に変わってきて、明かりがひとつひとつと増えて来た街から、夕飯の準備をする香りが漂ってくる。
こっちの人間は、食事の準備にやけに時間をかける。
Happy nationでの食事は、パンとスープ‥まあ、ついてもそれに野菜サラダがつく位だ。解体された肉やら野菜が市場で手に入るという点は、こことそう変わらない。田舎ならまだしも、都市である王都で、狩りにいって肉を手に入れる‥なんてことはない。野菜も近隣の村で収穫されたものを運んできて売っている。
スーパーのような、「いろいろ売っている店」があるわけではなく、店主と消費者の距離はもっと近い。それに慣れている私には、ここの暮らしは少々薄情にも思えたり。
少々不満もあるが、今現在の私のような、日常生活に演技が必要な人間には寧ろそのような希薄な関係の方が楽ではある。‥『普通の』子供のフリとか疲れるしね。
きゅ、と桜子が私の手を握る力を強くした。
「‥サカマキさんから思いつめた顔でお願いされたから、お願い聞いちゃったけど、‥サカマキさん、無理とかしてないかな」
「桜子」がぽつりと呟いた。家に帰るからだろう。サカマキは奥に引っ込んで、今は桜子が前面に出てきているようだ。
声に力がない。
「なにか‥私にできることとかないかな‥。力になれることないかな‥サカマキさんの手伝い出来ないかな‥」
って、自分を責める様に‥しょんぼりした声を出す。
桜子の横顔を見上げる。
予想通り桜子は、心配そうな顔をしていた。
‥桜子は、本当にお人好しだな。
自分の身体を乗っ取って、意識を奪い去る様な奴の心配をするなんて。
「‥サカマキが無理なんかしたら、アララキが黙ってないから大丈夫だと思うよ」
小声で呟く。
周りには聞こえない位小さな、小さな声。
だけど、桜子はそれを拾って
「よかった。‥サカマキさんにいい旦那さんがいてくれてよかった。‥シングルマザーになったんじゃないかって心配してたんだ」
‥いい旦那さんかなあ。
『これぞ、違和感の頂点』
って感じの発言だなあ。
シングルマザーってのも、結構な爆弾発言だな。
「遠距離恋愛だったんだね」
ってちょっと嬉しそう‥ってか、楽しそうってか。「なんか意外だね~」って微笑んでる。
今度は、自分の事の様に嬉しそうに。
ホントに桜子って人がいい。優しくって‥心配になる。
‥っていうか‥さっきの発言‥さらっと聞き流しそうになったけど‥
‥恋愛は、
してない‥んじゃないかな? 。(サカマキだもん‥)よくわかんないけど。
地味に笑いのツボに入りそうになった。
「どうした? 翔。面白い顔して。何か面白いことがあったの? 」
‥おお、出た。
「正樹さん! おかえり~! 」
‥もう一人のヤンデレ(← 愛情表現行動は控えめ)
「とーさん、仕事おわったの? 」
私も、子供のふりをせねばな。
「うん。一緒に帰ろ」
子供みたいな顔の正樹が、にっこりと子供みたいな顔で微笑む。
それを見て、桜子もふわっと子供みたいな顔で笑う。
‥子供みたいな
純粋に、『幸せな』笑顔。
正樹なんて見かけに反してけっこう腹黒なのに‥こんなに無邪気な笑顔ができるんだなあ。‥桜子相手だから?
‥なんか、羨ましい。
親子なのに‥、この二人と血が繋がった子供なのに‥
私にはこの笑顔ができる気がしない。
ずっと、‥大人になるまでずっとこの人たちと一緒にいたら、この人たちの『家族』として‥この人たちの愛情を素直に受けて大人に成ったら‥
‥いつかこの笑顔が出来るようになるんだろうか。
実験・観察なんて気の長くって、時間のかかるものに興味はないけど、
新たな魅力を手にする為の努力って思ったら、‥試す価値はあるかも。
‥ってか
私の顔‥、この頃どんどん正樹に似て来た気がするんだけど‥。
あんな子供っぽい顔で、大人なナンパとかできる気がしない。
子供っぽい形(なり)して、油断させて、実は狼‥とか、私はそういう趣味はない。
「おねーさん! 」
ってかわい子ぶるのは、‥セックスもろくにできない子供のうちだけで充分だ。大人に成ってまで子ども扱いとか、冗談じゃない。母性本能で近づいてきた女にそういうこと出来る気がしない。
クールでスマート。
男たるもの、そうじゃなきゃ。‥それが私のモットーだ。
あと、これは絶対絶対の絶対事項なんだけど‥
‥絶対部下にはこんな姿見せたくない。
そんな生き恥晒すくらいなら‥あっちには帰りたくない。
サカマキ! 末代まで祟ってやるからな!!
‥お前がそもそも、正樹なんて不思議物件見つけてくるから‥もうちょっと、スマートでイケメンな相手を桜子に会わせておけば、こんな悩みなんてなかっただろうに‥!
‥でも、きっと「そういうの」は、桜子の好みじゃないんだろうなあ‥。
にしても、もうちょっと‥! (怒り心頭)
「‥今度は怒り出したの? 何か嫌なこと思い出した? 幼稚園で色んなことがあったのかな? 翔は、表情が豊かだね」
‥幼稚園なんぞどうでもええわ!
きっ、っと睨み付けたくなったが、寸でのところで我慢。俯いて、誤魔化す。
くすくすと正樹が笑う。
‥女子高生でももうちょっと大人っぽい笑い方するぞ。女子中学生か。
なんで女子かって? 。
正樹、男子っていうより女子っぽいもん。
あと、男性とか女性とかじゃないよ。
男子、女子。
大人じゃないの。‥大人のエロス皆無。
普通さ、会社帰りの父親ってちょっとくたびれてたりするじゃん? それがない。「あーお腹減った~」「ふふふ、正樹ちゃん、部活帰り? 育ち盛りだからいっぱい食べなよ~」って会話を近所のおばちゃんにされそうな感じ。貫禄ゼロ‥!
ま‥まあ、若いから‥貫禄はまだ、ね。‥22・3だったら、イケイケゴーゴーの遊び盛りだしね、まだ枯れてないよね‥。でもさ、若々しさ‥、それとも違う気がするんだよな~。なんか、初々しい‥。
あれだね。
ショタな属性。
‥ないわ~。
‥父さんが「それ」とか、‥無いわ~。
自分が将来的にそうなる‥とか、無いわ~。
「‥俺は関係ないと思うぞ」
サカマキは、いつも夜は、リビング前のいつもの樹の巣箱(※桜子が作ってくれた。鳩の親子用だから、やたらデカくて、桜子母爆笑)で寝るんだけど、今日は、二階の窓から、カツラギに視線で呼び寄せれて、現在鳩のままカツラギの部屋の窓辺にいる。
この部屋は、元々は正樹の部屋だったんだって。
まだ一緒に寝るって当たり前のように言った桜子に、カツラギが「NO」って言ったのは、幼稚園入園を明日に控えた日だった。
「僕、もう子供じゃないんで」
カツラギはそう男らしく宣言したらしい。
それを聞いた桜子は、きょとんと、正樹は「あはははは」って、休み時間の女子高生みたいに笑ったらしい(カツラギ談 休み時間の女子高生って www)。
で、今まで三人で寝てた一階の和室から、皆で二階に移動して来たってわけだ。
カツラギは、子供部屋。桜子夫婦は、以前は正樹の両親が使っていた主寝室を使うことにした。
子供部屋は六畳一間のフローリングの部屋だ。痛みも気にならないし、特に手を付けることもしなかった。家具もそのままだ。勉強家だった正樹の「年季の入った学習机」は引き続き翔なカツラギが使うことになった。
「関係ない?! いいや。『結婚相手は‥優しくって~、あんまり身長が大きくなくって~、草食系。ココが一番大事。草食系がいい』ってお前言ってたじゃないか。まんま正樹だよな!? ‥お前が抱かれるわけじゃあるまいし、お前の趣味を桜子に押し付けるなよ! 」
ぼそぼそと、小声で、でも、口調は厳しくはっきりと。
サカマキを睨みつけながらカツラギがマジギレしている。もう、目は吊り上がらんばかりだし、青筋すら浮かんでそうなくらい、真っ赤な顔して怒っている。
鳩なサカマキは流石鳥だけあって、夜目が利かない。
‥正樹、どんな顔してるのかな? 見えないや!
って位。全然、カツラギの怒りは伝わっていない。
「別に俺が押し付けたわけじゃない。俺の趣味って‥そんなわけあるか。
ほんとうにたまたま、だ。桜子が選んだのが偶々そういう正樹だったんだから仕方が無いだろ?
まあ‥確かにな‥今回はたまたま研究が上手いこといって、俺が行為に立ち会わないでよかったけど、‥もしかしたら、俺が桜子の中にはいったまままぐわわなくちゃいけない場合もあったんだぞ? ‥マッチョとかホント無理だって思うじゃん」
けろ、っとした口調で言った。
説教相手のそんなお気軽な態度に、カツラギの怒りは、更にヒートアップだ。
「アララキだって、そこそこ細マッチョだよね!? 中に入ってどころじゃなくガッツリ本体でアララキと子作りセックス出来ちゃう奴が、「マッチョとかマジ無理」とか言ってんじゃねぇよ!! 」
ちょっと、羽とかむしりそうな勢いでサカマキの身体を握る。
うわ、っちょっとびっくりした。ふわっとしてる。羽毛、思った以上に柔らかいし、思った以上に細い。
びっくりして、怒りが一瞬そげたのは、秘密だ。
「‥カツラギ、口調がおかしいぞ。‥そんなにいや? 天使でショタな外見で中身ドSな腹黒賢者、ギャップ萌えが半端ないと思うけど‥」
‥サカマキには全然気づかれてなかったみたいだし‥。
ってか‥
「~~~!! 」
天使でショタな外見で中身ドSな腹黒賢者。
どこに需要在るんだ~!!!
そんなのにキュンキュンしちゃうドМなオタクとかショタ好き変態女は、私の恋愛対象じゃねぇ!!
私の恋愛は、もっと、ドライでスマートな感じ!!
その時のカツラギは、まさか自分がショタ好きな変態(そして殆どが男)に「頂かれちゃう(受け)」未来があるとは思ってもいないのだった。
応援ありがとうございます!
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