Happy nation

文月

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四章 物語の主人公

18.カツラギ・今後の予定、

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(サカマキside)

 
 さて、今の状況。
 適性検査から一夜明けた‥つまり‥次の日の昼間、
 正樹が出かけたのを見計らって、しかも桜子には眠ってもらって、4人で話し合っている。
 4人って、俺(桜子の姿だ)と翔(カツラギ)とフミカとアララキだ。
 先ず場所に困った。
 今日はアララキも一緒だし、家でってのは、さすがにアウトかな‥とは思う。アララキは男だし、上背もあるから目立つし(顔も派手だしね)、‥多少顔バレもしている。
 しかも、俺だけなら(女友達・酒井 真紀として)家族付き合いまでしてるし、問題はないって以前なら思えてたんだけど、正樹になんか勘繰られちゃってるから、自分の姿でも、桜子と接触が取りづらい。
 因みに正樹に対して、あまり腹が立ったから「‥俺と会うのは、正樹も快く思っていないらしいな‥」って悲し気な顔で桜子に呟いといた。優しい桜子が「正樹さんを怒っとく! 」っていうのは、まあ、想定内も想定内ってことで。(きっと、怒られてしゅんとなっただろう。いい気味だ。あれで、正樹は桜子に弱いから)
 ‥波風は波風マズいが、さざ波位たてておいてもイイでしょう。
 そもそも‥今回必要なのは、桜子ではなく、カツラギだけなんだ。だけど、4歳児を一人呼び出すわけにもいかないし‥ってかんじだしね。
 思った以上に不便だ。
 結局、桜子がカツラギを幼稚園に迎えに行くタイミングで、ちょっと時間を貰うことにした。
 これなら、ママ友と話してたって感じで‥変じゃなくない? 幼稚園にパパが迎えに来ることもあるもんね?場所も、近所の公園だ。子供たち用にパックジュースやなんかを用意しておいたら、あら不思議、幼稚園のお迎えのついでにちょっと立ち話してるママ友って感じに偽装完了☆見とがめられても、フミカは翔の友達だってのも間違えじゃないし、アララキは間違えなくフミカの父親だ。‥顔もそっくりだし。

 ただ、まあ‥女の桜子と男のアララキが会ってるってのは、よくは‥ないけどな。
 
 パックジュースって(カツラギ的に)どうだろう‥、って思ったけど、喉が渇いていたのか、カツラギは文句を言うこともなく、オレンジ100%なんかをちゅうちゅう飲んでる。フミカは彼女の希望でグレープジュースだ。
 見た目天使な二人がこうして並んでると凄く可愛いし、和む。
 まさか中身がover twentyの歩く辞書なおっさんと、脳筋な美少女軍人だとは誰も思わないだろう。(そりゃあな)
「オレンジより、「僕は」(←外向け)リンゴジュースの方が好きですよ? 」
 ‥知るか。
 話し方も、‥人を小馬鹿にした様な表情も、カツラギそのものなのに、‥翔なカツラギは5歳児で、そして、人の子だ。5歳児と知り合いとはいえ他人の男。外で会ってたら、誘拐を疑われかねない。怪しい関係と思われるのも困るしね。
 桜子は兎も角、あの‥正樹の子供だ。
 正樹は‥あんなに見た目草食系でショタなチビッ子だのに、あの‥何とも言えない迫力‥ってか恐ろしさ。‥ほんとヤになっちゃうよ。もともと、そこを見込んで桜子を託したわけだけど、‥予想以上だったってことだな。
 怖いって、目つきが悪いとかそういうのじゃないよ? 口も悪くない。なんて言うのかな~、やたら勘がいいし、攻撃が(口撃ね)的確なの。頭がいいんだろうね。あとは‥桜子に対して、ちょっとヤンデレ? って感じ‥かなあ。嫉妬とかが、けっこう明け透け‥って感じ?
 そんな怖い正樹に会ってるところを見られでもしたらややこしいから、話は手短に終わらせねば‥。いや、問題はないはずなんだよ? あの後、すぐ「すみません、変なこと言いました」って正樹には謝られたし‥。アララキについても、「フミカちゃんのお父さんなんですよね」「またお父さんも一緒に遊びに来てくださいね」って笑顔で言われたし(※笑顔がかえって怖かったのは言うまでもない)、問題はない(※よって、問題しかない)、ないはずなんだけど、ね‥。なんか、正樹怖いよね‥(※結果そこにたどり着く)。

「‥私はまだ、‥ここを動けない。物理的に。なんせ、自分の事も自分で決定権がない子供ですからね。こっちの世界には「自分の事が自分でできるならば、自分で何とかして暮らしていけ」的な考え方はないんですよ。今が5歳だから、最低でも高校を卒業する18歳になるまで、私はここで親の保護下にいることになります」
 パックジュースを畳ながら、カツラギが言う。
 なんだその癖。今までなかったよな? そもそも、パックジュースなんかない世界に住んでた方が長いんだけど。新しい癖がカツラギに増えている。(これも、なんか嬉しいね)
「あと、13年は自由に動きが取れないってことだな」
 確認を取る様に言って、ゆったりと頷いたのはフミカだ。隣でアララキと俺も頷く。
 効率をよくするために、ここに来る前に聞きたいことやら確認しておきたいことを三人(フミカとアララキと俺)でまとめておいた。無駄話をしている時間は、ない。
 今から、高校を卒業するまで。‥卒業するのが大体18歳だから、今の年齢5歳をひけば、13年。
 カツラギが直ぐに動けないこと位は、だけど、予想済みだ。
 ‥寧ろ、短い。
「‥正樹は普通にカツラギに大学まで行ってほしいって思ってるって思うぞ」
 カツラギとしての都合を「翔」に押し付けるわけにはいかない。「翔」には「翔」の生活がある。そこは尊重したい。勿論、親の希望もだ。
 しかも、この場合‥。
「それは‥カツラギもそうだろう? 」
 勉強好きなカツラギなら当然そうだろう? 
 俺は、カツラギの表情を確かめながら尋ねた。
「人からわざわざ習いたいようなことがあれば、ね。既に学問として世に出ている学問‥本に書いていることを分かりやすく教わるんだったら、自分でやれば済むことだからね~」
 さっきまでと変わらない無表情‥どころか、ちょっと不機嫌な顔になっている。
 おや?
 って思った。
 でも、まあ‥そうかも。
 カツラギならそうかも。
 誰かにわざわざ説明されに行くだけに、自分の時間を使う、とかカツラギにはあり得ない‥かも。
「まあな‥。でも‥なあ」
 俺は苦笑いしてなんとなく頷いた。
 だけど、カツラギ‥。お前はカツラギなんだけど、同時に「牧野 翔」っていう桜子の子供で、この世界の人間になってるんだからな?
 大学に通うってこと、人間なら、学ぶってこと以外に、いい職に就くため、学歴とか人脈を広げる‥とかって意味があるんだからな?
 そもそも、カツラギはこっちで就職するのかな? でも、もしそうなら就職の為に大学に行っておくのも大事かな‥とも思うぞ?
 ‥学歴のため‥とかカツラギは納得するのかな~。
 でも、案外「この国ではそういうもの」って納得するのかな。(するかな‥)
 俺がちょっと苦笑いした意味が分かったのだろう。カツラギも苦笑いを返す。
「人間的には‥まあそうなんだろうけどな~。でも、無駄なことに時間は使いたくないっていうかな~」
 カツラギが、小さくため息をつく。
「既存の学問じゃなくて、新しい学問を‥っていうなら、研究するってことになるんだけど‥あいにくと私は未知の分野を開拓していく過程にも、解明していく過程にもそう興味はない。解明されたあとの技術を知識として知れればそれで問題ないんでね」
「‥カツラギってそうだよね‥」
 今度は、フミカと俺がため息をつく番だ。
 因みに、俺は主に魔法という分野において、分からないことは何でも自分で解明したい、発見したい、分析したいっていう、研究者タイプだ。
 カツラギとはタイプが違うけど、どっちがいいとか俺はいう気はない。

「じゃあ、‥まあ、俺も13年はここから動けないな」
 カツラギをここに一人置いて、って選択肢はない。
 カツラギの今後の予定がどうあれ、だ。これは決定事項だろう。
「え! なんで! サカマキ! カツラギなら一人でだいじょう‥」「俺には、カツラギをここに連れて来た責任があるし、カツラギみたいな非・戦闘員、魔物が出るこの世界に一人で置いていけるか。魔物が出る以上、桜子も心配だし」
 反論しようとするアララキの言葉に、サカマキが被せ気味に反論する。
 サカマキの意見に、アララキはいつもなら、ちょっと拗ね気味に‥だけど、「‥サカマキが言うなら‥」ってしぶしぶ承諾するんだけど、今回は長期戦になりそうなだけにアララキもいつも以上に引かない。
 ‥13年も更に離れて暮らすとか‥ありえない。
 今までだって、‥長かった。これ以上更にとか有り得ない。
 ふう、とフミカが呆れた様なため息をつく。
「アララキはサカマキが正義感が強くって責任感が強いことは知っているだろう? サカマキがそんな無責任なことするわけがないだろう? 」
 う‥。
 アララキが固まる。
 もう、反論も出来ませんってとこか? 
 そうそう! だから、納得しろ!
 俯いて、ちょっと肩を落としてる姿はでも、‥ちょっとかわいそう‥かなあ‥

 なんて思ってたら、
 頭を上げて、下から睨み付けるみたいに、フミカとカツラギを見上げたアララキは
「魔物を倒して、ひずみを埋めればさえ、カツラギを置いていっても、心配ないでしょう? 」
 ‥ちっとも、諦めてなかった。

 おい、お前ホント、サカマキ以外どうでもいいのな!! 愛が‥重いわ~。
 フミカは‥ちょっと苦笑い通り越して、ドン引きだ。

「素質のある地球人鍛えて、さっさと「クエスト」クリアしてもらっちゃいましょう? 」
 ってニヤリ。
 アララキが悪い笑顔を浮かべた。
 綺麗な顔が浮かべる微笑は‥まさに魔性の色気がプンプンで‥
 やめろ、2歳児の父親が浮かべる笑顔じゃないぞ、と頭を叩いてやめさせた。

「クエスト? 」
 苦笑いのフミカがアララキに説明を求める。
「こっちの、『ゲーム』での用語だよ。RPGっていうのかな? ‥分類は詳しくは分かんないんだけどね。
 クエストっていうのは、ゲーム側がプレーヤーに課す課題みたいなもんだ。それをクリアしたら報酬がもらえる。プレーヤーはストーリーを進める為に、そういうクエストを受けながら経験値や報酬を貯めるんだ」
 アララキが自信満々に説明する。
「ゲーム? 」
 フミカはわかってない。そこそこここ生活は長いが、‥そういえば、格闘ばっかりでゲームとは無関係って生活をしてきた。それについては‥、まあ、カツラギも俺もそう変わらない。
 桜子は女の子だし、周りにゲーマーはいなかったからね。

 にしても‥詳しいな。アララキ‥。

「そう、ゲーム。こっちの人にとっての非日常、だ。
 だけど、それは、あっち(Happy nation)の日常と、驚く程似通っている。
 こっちの人の中に、‥どうやらHappy nationからの転移者だか、転生者がいるようだね。恐らく無自覚だろうが、彼らはその時の記憶を覚えていて、Happy nationのことを地球とは違う「異世界」として「認識して」いるようだ。そして、その記憶を「創造力」と勘違いし、それをゲームという形で他者に伝えてるようだね。
 この世界には、魔法はないが、
 殆どの人が魔法のことを知っている。
 使えないから、現実のものとしては信じてはいないが、‥その存在は知っている。
 彼らにとって、Happy nationはまさに、ゲームの世界の具現化そのものなんだ。
 それこそ「ゲーム感覚」で今この状況を、ここの人たちは楽しんでいる様だ」
 にやり、と笑う。
「転生者? 転移者? 」
 つまり、Happy nationの関係者は、自分でも知らないうちに自国の知識をこっちに伝えてるってわけだ。
 だけど、その存在は「実際にあるんだけど、遥か遠い」月やなんかとは違い‥ないけどあったらいいなって「理想やら希望」で、実際にあるものという認識はない。
 だけど、‥今、Happy nationは「実際にあるもの」として認識された。
 だったら、こっちの人たちが「Happy nationはそういう国」っていう風に「理解する」のも、容易いだろう。

「なら、ゲーム感覚で、こっちも「おもてなし」しようじゃない? 」

「アララキ‥? 」
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