Happy nation

文月

文字の大きさ
上 下
41 / 116
四章 物語の主人公

8.気づいてなかったわけではない。

しおりを挟む
 目撃者の顔を見たけど、‥知ってる奴だったけど‥勿論声をかけるわけはない。
 こんな時俺が取るべき正しい行動は、「気付かなかったフリ」だ。
 だって、見られちゃったんだもん。その事実は変わらないんだもの。今更どうしようもなくない? 目撃者は消すって効率的(あっちの世界でなら、絶対そうした)な方法取ったら、こっちの社会的には問題があるんだし。
 ‥ってか、こっちの世界じゃなきゃ、隠すことでもないけどね。
 魔物を狩れる者が狩る、のは当たり前だ。
 目撃者の名前‥何ていったっけ。たしか、学生時代、正樹と一緒にいるのをよく見た。だけど、学生時代の俺(=桜子)と正樹には、共通の友達っていないんだ。
 正樹と一緒にいたわけだから、正樹の友達だろうが、俺の友達ではない。
 よって、名前も知らない。
 知るかよ、男なんて。
 桜子的にも、別に男の友人なんていらないし。
 向上心が旺盛で裏表がない恵子や、実は面倒臭がりで淡泊だけど桜子には優しい美佳。その二人がいれば別にそれでよかった。(桜子は、恵子が癖があって美佳は天使みたいにいい子って思ってるようだけど、俺からしたら、その認識反対。恵子は、ツンデレなだけで、普通にイイ奴で美佳は天然で天使な見かけとは反対に、腹黒)
 桜子は、ちょっと優しすぎるし、人に対する垣根が低すぎる。‥俺を受け入れてくれたのだって、彼女が「そう」だったからこそ、なんだけど‥ちょっと心配でもある。
 反対に、正樹はちょっと人を疑っているところがある。そりゃあ、もう、疑いすぎてるってくらいのレベル。
 時々、(桜子との)入れ替わりのタイミングが合わなくって俺と(※勿論見た目は桜子だ)鉢合わせることがあるんだけど、(‥時々っていうか、実は結構ある‥)そんな時、正樹は必ず「なんか今日の桜子は変だな」って顔で見てくる。
 ‥勿論口に出したりはしない。でも、目がそう語っている。
 普段桜子に見せる様な笑顔なんて見せない。ただ、じ‥っと俺を見て一瞬眉を顰める。
 ‥あの顔が怖い。
 正樹は、あの(一見)穏やかな表情で常に周りの人を観察している。
 自分の事をどう思っているか、その人が自分の敵か、敵じゃないのか。
 敵だって判断しても、直接攻撃するようなことはしない。ただ、「敵だから用心しよう」って頭に留め置くだけの事だ。
 臆病とかじゃない。慎重なんだ。
 ‥こっちの世界において、敵だから、やられる前に潰しておこうって考えはないね。そんなことしようものなら警察に捕まるね。(でも、自分が「殺られる」かもしれないのに、何もせずに見てる‥とか悠長なこと、向こうではありえないんだけどね)
 地球は紳士的で、‥平和なところだね。
 まあ、そんな風に、正樹はそんな平和な場所でさえも、すごく周りを警戒して生きてるってこと。(そういう意味では、この世界に即した危機管理能力が出来てるってことだよね)
 正樹は、人当たりはいいが、友好的な人間ではない。
 ちょっと心配な程お人好しで、表裏がない桜子だからこそ正樹は好きになったんだろうが、桜子は色々と頼りない。‥社会に出るには心配なんだ。なんていっても、桜子は社会にもまれてきたわけではない。目が覚めたばかりの中身小学生の女の子だ。結婚を勧めたのは、何も学力だけの問題じゃない。学力なら努力で何とかなる。実際桜子も努力していた。
 だけど、心の成長っていうのは、昨日今日で出来るものでもない。
 ‥桜子の素直すぎて、人を疑わない純粋すぎる性格もその成長を妨げる要因になるだろう。

 桜子を「守って」もらうには、正樹ほど腹黒い奴の方が丁度いいんだ。
 正樹は、腹黒いよね。‥ホントの友達なんているのかな。さっきの目撃者の彼とはよく一緒にいたけど、本当に信用してるんだろうか?

 しかし、ホントに誰だっけ。
 知っているっていっても、学校が同じだっただけで話したことはない。
 同級生だってことは分かるんだけど‥。どんな奴かは、分からない。
 だけど、あの正樹の友達だ。悪い奴じゃないだろう。多分‥「人畜無害」ってタイプだろう。
 ペラペラ喋らないでくれたらいいな。‥しゃべるようだったら、なんか方法考えなくちゃいけなくなっちゃうから。

 桜子はまだしも、桜子の息子であるカツラギ(今は「翔」か)が疑惑の目で見られるのはまずいな。(見た目は子供だしね)
 桜子に、「正樹の友達に見られた」って説明するのが嫌だな~。
 折角桜子に知られない様に色々考えたのに‥どう説明しよう。でも、説明しないわけにはいかない。
 ‥奴は桜子(=学生時代の俺)にとっては、ただの同級生だけど、正樹の友達だからな。‥この先会わないとも限らない。はじめから、「こいつは自分を疑っている」って自覚は持っておいてもらわないといけない。
 ‥いっそ、桜子があいつと会いそうな時は、俺が代わりに対応した方がいいかもしれないな。そうなると、桜子を常に監視することになるな。普段は、桜子とカツラギは一緒にいることが多いだろうから、‥カツラギの微か~な魔力をGPS機能で監視しておけばいいか。(あくまで安全管理でストーカー的なものでは無い。多分、アララキがサカマキをGPS機能で監視しているのもそんな意味合いで、ストーカー的なものではない。‥多分)

 でも、まあ、そんな失敗もあったけど、今回のことは無駄じゃなかった。
 カツラギとフミカの記憶が戻ったのだ!
 一匹ぐらい生け捕りにして(実は一匹じゃなかった)「膜の綻び」の場所を聞きだしたり、泳がせて行動を見よう‥って思ってたのに、フミカが全部やっちゃったのは‥ちょっと計算外だったけど。
 ‥全く、フミカがあんまり派手にやったから、魔法で後始末する羽目になっちゃったよ‥。
 あれは、‥あの光景は、普通の地球人が見たら、ちょっとトラウマものだったな。同級生君‥ええと‥ああ! 思い出した中田君だ! 中田君が目を瞑っててくれててよかったよ。あそこで、勇気を振り絞って向かってこられてたら、‥邪魔になったし、変な気を遣わなくっちゃいけなかったからね。
 あ、でも、‥こっちの人間って、変にそういうの美徳にしてるとこあるよね。身を挺しても女性は守らねば‥とか、男なら男らしく‥とか。
 そりゃ、弱い者を強い者が守るのはあたりまえだよ? だけど、それは女だから弱いとか、男だから守る側って話じゃない。強いから守るんだ。強くないのに、守ろうとしても‥そりゃ無理ってもんだ。そういうのは、「強い」わけでも「男らしい」わけでもない。無謀っていうんだ。それを恥だと思うんだったら、強く‥本当に強くならなければならないと思う。
 そういうもんじゃない?
 俺だって、俺が桜子を100%守る自信があるから桜子の姿でここに‥魔物がいると分かっているここに来たんだ。でもま~確かに、正樹に知られたら殺されそうなことだよな。桜子を囮にして魔物をおびき寄せて‥なんて。もう出来ないな。‥全く、フミカの奴考えなしに全滅させよってからに!! 魔物側が仲間が一気に減ったことに気付いてもっとたくさんの仲間をあっちから送ってきたらどうするつもりだ!
 Happy nation側が不審に思って調査しに来たらどうするつもりだ!! (あ、‥でも、これは来るだろうな~。バレると困るな~。でも、カツラギとフミカはあっちにいた時とは見た目全然違うからバレないだろう‥でも、フミカ‥アララキそっくりだ‥っ)
 あ~もう、問題山積だ~っ!
 頭を抱え込んでち、と思わず舌打ちしてしまった俺に気付いたチビフミカが黒くって綺麗なちょいたれ目の瞳で俺を見上げて(あ、でもアララキより目が澄んでるね! このキラキラな目は、まさしくフミカだね! )
「大丈夫! あの程度の雑魚、何匹来ても私の敵じゃないよ! 」
 ってにっこり笑った。
 アララキそっくりの顔で、アララキでは絶対しない様な無邪気な笑顔で。
 思わずほっこりしかけたけど‥

 ‥そういう問題じゃないわ!!

「もしさ‥。Happy nationの人間が「君は王の子供だから、Happy nationに行きましょう」って言ってきたらどうする? ‥っていうか、あっちで死んでしまったフミカがあっちに帰る術はそれしかないと思う。‥フミカはHappy nationに帰りたいか? 」
「今そんな話してる場合か。相変わらずサカマキは呑気というか‥ちょっとずれてるっていうか‥」
 フミカが呆れた様な表情で俺を見上げる。
 ‥呑気でズレてるのはお前だ!!
 ブーメランしても仕方ないから、口にはしない。
 代わりに軽く睨んで、ため息をついた。
「我があっちに帰る時は、‥主も一緒だ。勿論、我にとって主は母親ではないし、アララキも父親ではない。主もアララキも大事な友達だ。きっと、それはカツラギも変わらないと思うぞ。でも、‥我と違ってカツラギはあっちに帰りにくいな。両親が地球人だから‥。
 ‥でも、カツラギにとって、あっちに帰るのと、こっちに残るのは、どっちが幸せなんだろうな」
 ‥それは、フミカも一緒だろう。
「こっちには、カツラギが知らない知識‥カツラギが大好きな知識があふれている。それこそ一生かかっても取得しきれない位の‥だ。だから、一生カツラギは退屈しないだろう。‥退屈しないから、女に狂うこともないだろう。‥あいつは、いい奴‥まあ‥いい奴‥かなあ‥まあ、悪い奴じゃ‥ないんだろうけど‥女にっていうか下半身にだらしないところが、良くない。あれさえ治ったなら、あいつは‥かなり完璧な奴になれるだろう」
 ‥フミカにおけるカツラギの認識‥。
 その「いい奴」と断言できない感!! いっそ、カツラギが気の毒になるけど‥、でも、こればっかりは共感だわ~。
「けど、ま、そういうクズなとこも含めて友達だって思ってるんだよな~。‥完璧な奴って、なんか面白くないじゃん? アララキも、完璧な君主だけど、サカマキに対してはヤンデレで粘着質で、変態っていう欠点があるし、サカマキも、最高位の高位魔法使いだけど、ただの魔法オタクで目的の為には手段を選ばない社会不適合者でさ。‥だけど、‥だからこそ、愛おしいって思う」
 って、にっこり。
 うん、フミカも、武術オタクで、毒舌で、女子力ゼロな変わり者だけど、愛おしいよ?
「Happy nationに帰るかどうかは、もっと後で、自分で‥自分の意志で決めようと思う。だから、ま。それまでは隠れきろう? 『お母さん』? まださ、我はこっちでしたいこといっぱいあるんだ~。桜子の身体で道場ってのに通ったであろう? あれ、もっと他のものもしてみたい。こっちは、カツラギじゃないが、学びたいことがいっぱいじゃ! 」
 ホントに、呑気。
 だけど、‥フミカだ。
 ‥フミカが居てくれて、ホントに良かった。‥フミカをあの時諦めなくって本当に良かった。
 そうだ。悔やんで、悩んでも仕方が無い。
 自分のあの時の判断は、間違えじゃなかったし、‥これからだって、「なんとか」なる。‥なんとか、フミカやカツラギ、アララキがいれば出来る。
 ‥桜子にだって会えたんじゃないか。
「‥そうだな。くだくだ考えて、うじうじ悩んでても仕方が無いな! 」
「そうそう! 人生、前進あるのみ! だよ! 大丈夫、我は強いし、サカマキも充分強い。‥何も恐れることは無い。ここは「ホーム」じゃなくて、「アウエー」だから他の人まで守れないかもしれないけど、‥でも、我らのせいで他の者を不幸にしない様にすることはできる。桜子を守ること位もできる。そしてきっと、この世界もHappy nationも何事もなかったように元通りになる。
そうだろ? 
そうこうしてる間に、我も大人になる。その時になったら、我はあっちに帰るか、こっちに残るか決める。‥それで遅くはない。
勝手にHappy nationに連れ戻されるなんてゴメンだし、‥ましてや、アララキの娘って呼ばれるなんて‥考えただけで‥」
 そう言ったフミカの顔が、本当に嫌そうで、思わず笑ってしまった。
 そんな俺をみて、フミカも笑う。
「笑ってろ。
 サカマキは一人じゃない。
 カツラギはあてにならぬが、我がいるし、‥アララキはずっとサカマキの一番の味方だ」
 ‥悔しいけどな。と、フミカが小声で付け加えた。
 桜子が言ってたじゃないか‥。
 子供は親のものじゃないって。子供は子供自身のものだって。
 俺があれこれ考えたり、心配する必要なんてない。
 ‥それどころか、「子供」は俺のことを心配しているじゃないか‥。
 心配されない様にしっかりしよう、って思うのが、ベストな考え方なわけじゃない。‥この場合の正解は

「ありがと。‥これからも、よろしくな」

 なのだろう。って思う。
しおりを挟む

処理中です...