Happy nation

文月

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四章 物語の主人公

7.同級生に魔物退治をしているところを目撃されたけど、そもそも魔物を退治したのは、同級生(さくらこ)じゃない。

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(四章 4のサカマキside)

 ※途中、微妙に18k? 入ります。ご注意ください。


 そんな時だった。
 Happy nationと地球。
 この全く違う世界が、‥共通点を持ち始めたのは‥

 Happy nationと地球とを隔てる膜が消えたのだ。

 初めは、俺さえも気が付かない様な小さな綻びだった。
 俺は、魔物の気配に敏感だ。
 それこそ、この世界における「アレルギーか」って位に敏感だ。
 見えなくても、五感でその存在に気付く。
 だのに、‥こっちに来てちょっと鈍くなっていたのかもしれない。
 多分、平和ボケって奴だ。俺は、気を抜いていたんだ。
 気が付いた時には、魔物の地球への侵入を許していた。

 あっちに帰って「膜」を修復するべきか? と考えたが、‥魔物がこの世界にいるし、来てる分を葬ったところでまた来るであろう今の状態で、ここに桜子を置いていくのは心配だし、カツラギやフミカもまだ(当たり前だけど)自分で自分の身も守れない。魔力が多少なりともある二人は、他の子供よりも、魔物に狙われるだろう。
 いま、この場を離れるわけにはいかない。こっちにできた綻びをまず埋めないといけない。先ずは、その綻びを探すのが先だ。

 カツラギと、桜子のことが何よりも心配だ。‥正樹は‥男だから何とか自分で自分の身位守ってほしい。
 俺は、正面から桜子と会うことに決めた。

 いつかと同じ。
 男だったら、怪しまれたら困るから、女の恰好。
 今は、やっと人型を取れるようになったフミカもいる。邪魔にならない様に、おんぶ紐で背負っている。
 どこをどう見ても、怪しくない。正樹に聞かれたって「産院で知り合いになった」って言えばいいだろう。‥カツラギは、保育園にも行っていないから「保育園の友達」って設定もない。
 因みに‥フミカに至っては、保育園はおろか小学校すら入れられない。‥戸籍がないからね。
「え、サカマキさん。その子は‥」
 久し振りの再会を喜び、フミカを見てちょっと驚いた顔した桜子は、フミカを俺が産んだと聞いたら、‥さっきの比じゃない位驚いた。
「サカマキさんって、やっぱり女の人だったんですね。‥なんか、良かった~。神様みたいな人で、性別はない様なものって考えるようにしてたけど、やっぱり、ずっと頭の中に男の人がいたって‥ちょっと複雑だったんです」
「‥‥‥」
 そんなことを、ほっとした様な笑顔で言われたら
「いや、男か女かで言ったら、ほぼ男」
 とは‥言いにくい。
 折角桜子が喜んでるんだから、わざわざ「要らない事」は言わなくてもいい。
 別に嘘を言うわけではない。‥黙っておけばそれで双方丸く収まるんだ。なら、黙っておかない手はない。
 俺は‥でも、男かっていうと、完全にそうじゃないらしいし‥。
 サメみたいな感じかな。
 両性具有?
 いや、でも、俺に「女性とまぐわい、相手を妊娠させる機能」は‥ない気がする。‥何となく。試したことはないが、試そうとも思わない。そもそも、もう誰ともまぐわう気などない。あの時は、‥仕方がなかったんだ。
 自分の感覚を人から与えられるのは、嫌だ。
 痛いのも、‥そうじゃないのも。
 魔物に傷付けられたなら、一瞬だ。「痛い! 」って叫んで、傷をつけた相手を一瞬で消し去ればいい。自分はそれ程の力を持っているし、そのことに何の躊躇もない。
 だけど、「あれは」違う。
 アララキは俺を傷付ける気なんてまるでない。
 いつも通り、優しい手つきで俺に触れた。‥いつもは触れないところを執拗に触れられ、痛みとも快感ともつかない様な感覚を拾い、自分の声とは思えない様な声が自然と漏れた。余りの恥ずかしさに、アララキの手から逃れようとして「嫌だ」って言っても、アララキはにこにこと微笑むばかりで、やめようとしない。‥いや、ニヤニヤだったけか? いつも俺には甘いばっかりで、俺が「嫌」って言うことは「ごめんごめん」ってへにゃっと眉毛を下げて情けない顔して笑ってやめてくれるのに! あの時ばっかりは、やめてくれなかった。
 唇だけじゃなくって、色んな場所に口づけを落とし、時々、強く吸い付いて俺の身体に赤い痕を残す。普段俺が傷一つつけて来ただけで大騒ぎする奴が、だ! 満足そうな顔で、赤い痕に触れて、俺の瞳を見つめて微笑んで、また口づけて来る。
 いつもの穏やかなアララキとは違う、ギラギラした様な‥獲物を捕獲するような、欲を孕んだ熱っぽい瞳。‥あの瞳は、ダメだ。どうも、俺まで‥変になる。獲物として狙われてるって危機感を感じるならまだわかる。‥正常な判断だ。でも、ぞくぞくしたあの感覚は違った。嬉しいような‥狂おしいような気持。もっと触れてほしい、その目に射抜かれたいような‥なんとも‥もどかしい感覚に襲われて、気付いたら腕を伸ばして、アララキの背中を引き寄せて‥抱き着いていた。
 裸で抱き合っていると、肌が合わさったところがあんまりにも熱くって、でも、離れたくなくって、汗だくになって抱き合った。何度も口づけした。余裕なんてどこにもなかったし、‥理性なんかもぶっ飛んじゃって‥なんか、もう無我夢中だった。怖いとか‥痛いとか‥嫌だって気持ちさえ‥もうどうでもよくなってた。
 初めに手放したのは、恥ずかしいって感情。
 俺は、今思い出したら悶絶ものの恰好をアララキにされるがまま取らされ、アララキの凶悪に‥凶暴に猛った男根を(あの例の使い道のなかった肛門疑惑の場所に)あてがわれ、突き抜かれた。あれは‥肛門じゃなかったんだ。「調べる」って言って、そこに指をいれたりしていたアララキの様子が徐々に「おかしく」なってきた時には、ちょっと焦ったが、だけど「こうしなければいけない」ってことは、即座に分かった。いや、「こうすれば、フミカが産める」ってことか。
 アララキが、俺が飲もうとして紙からだしたフミカの核を口移しで飲ませてくれた。俺の手が少し震えていたからだろう。
 あの時の俺はどうかしてたんだ‥いや、どうかしてたのは俺だけじゃなかっただろう。
 気が付いたら二人とも野生動物みたいにお互いを貪りあっていた。それは、あさましく荒らあらしい行為だった。お互い汗やら涙やらにまみれて、ぐっちゃぐちゃになった。
 何か、暖かく、‥幸せな時間だった気がする。

 だけど、もうごめんだ。

 ‥あんまり恥ずかしくって、しばらく忘れていたが‥ふとした折に思い出した。
 思い出したら、もう恥ずかしくって恥ずかしくって、‥悶絶した。
 
 あんな、‥恥ずかしいのはもうごめんだ。‥嫌な思い出じゃないし、過去の記憶として熱を失っていくものでもない。「なかったこと」にはしないが、二度とはごめんだ。
 ふと、今それを思い出した。
 目の前には桜子。
 ごめん、桜子。‥俺が今こんなこと頭ん中で考えてるなんて‥絶対知られたくないな。
 桜子も、「そういうことして」カツラギが生まれたんだろうけど、桜子たちはあんなんじゃないと思う。
 ‥いや、想像するのはよそう。それこそ、下世話だ。
 いや、下品なのは俺たちか‥。
 ‥何言ってるんだ‥。

「あ、でも、私サカマキさんが、私の事を邪まな目で見てないって、分かってるから! ごめんね、変なこと言って。複雑とかないよ! うん、ごめん。‥怒った? 」
 桜子は、ちょっと頬を赤く染めて、俺の表情をうかがうみたいに、上目で見上げて来る。
 ‥まだ言ってた。ごめん、聞いてなかった‥。
「え? 」
「サカマキさん‥顔が真っ赤だよ。‥今までそんなこと意識してすらなかったんだね、なんか、ごめん。私だけ自意識過剰で‥恥ずかしいね」
「あ、いや‥うん、こっちこそごめん。そうだよな、桜子に恥ずかしい想いさせて来たんだよな。男かも‥って思ったらなおさらだよな。
 俺‥その‥くせで、時々俺とか言っちゃうから紛らわしかったよな。‥これからも言っちゃうかもだけど、気にしないで欲しい。
 ええと‥
 改めて謝る。ごめん。
 ‥でも、これからも何度か桜子の意識を借りないといけないと思う。‥魔物が出てるから、外に出る用事は俺が変わる。俺は、桜子の護衛だと思って欲しい」
「え? 私の護衛? う~ん。大丈夫だよ? 魔物が出るっていっても、都会だけでしょ? ここでは、見たことないし。別世界のことって思っちゃうね」
 なんて、へらりと笑うと、桜子は呑気なことを言う。
「でも、サカマキさんがいてくれたら心強いな! これからよろしくね! 」
 口ではそう言いながらも、表情で分かる。
 ちっとも、心配とかしてない。だって表情に‥ちっとも、危機感が感じられない。
 いつも通りの、ほかほか陽だまりの笑顔。俺の、皆の大好きな桜子の笑顔だ。
 この笑顔を絶対に守りたい。
 4歳になるカツラギは、仏頂面で図鑑をめくっている。賢者じゃなくても、知識欲は変わらなんだろう。
 ‥相変わらず活字中毒だね。カツラギって感じするわ~。

 この、平和な光景を、絶対に守りたい。
 そう‥誓った。

 そんな感じで、今ではすっかり桜子とは「ママ友」だ。正樹も交えて家族ぐるみの交流すらしてる。俺のことは、シングルマザーだと認識してもらっている。別にここではそう珍しくもないことだし、誰もそれについては触れない。桜子のママさんは「サカマキさんって、なんか懐かしい感じするわ~会ったことない? 」なんて、ぼんやりふんわりしてるのに、‥意外と鋭い感じで、思わずびくっとしてしまう。

 そんな時だ。
「‥来る」
 例の「気配」がした。
 いる。奴がいる。
 奴って‥‥魔物だ。
 嫌ぁな雰囲気がビシビシ来る。‥今まで気付かなかったのは、フミカの育児に専念し過ぎてたせいか? 授乳とかしてたし‥。って、‥そんなのは言い訳だな。
 俺が一人で討つか? でも、‥この頃魔物を討伐するために、Happy nationから兵士も来てるし、‥出来れば今は会いたくはないな。今後、動きが取りにくくなるのは、困る。
 まだ、今は困る。
 だから‥
「‥ちょっと身体を貸してほしいんだ。さっき、あんまり会いたくないやつがいるのが見えたんだけど(←嘘)、どうしても買い物には行きたい‥だから、今日はそれを頼むために来たんだ」
「ふうん? 」「いいよ? 」
「すまない。子供たちは、俺が連れていく。フミカもカツラギと一緒に出掛けられたら楽しいだろう」
「そだね。じゃ、お願いします」
「ん。あ、なんかついでに買っておくものある? 駅前の本屋に行くから、スーパーが近い」
「あ! じゃあお願いしちゃおう~」
 そんなやり取りをして家を出て、‥桜子の姿でスーパーで買い物をする。桜子に頼まれた買い物。本屋なんてのは、口実だったから別に本当は用事なんかない。今日は、桜子は、意識の一番奥で「眠ってもらっている」起きてたら、魔物とやり合ってるのが見えちゃうからな。気持ちのいいものじゃないから、桜子には見せたくはない。
 桜子を危険に巻き込むなよって感じだけど、‥あんな雑魚い魔獣くらい「俺なら」なんてことはない。魔法なら跡形もなく消せるだろう。
 お、丁度長い棒的なもの(※魔法の杖の代わり的な? )が「買い物リスト」にあった。‥折らない様に気をつける必要はあるがな。
 カツラギやフミカは‥記憶は戻ってなくても、条件反射で「自分の身に危険が迫れば」対応するだろう。


 ‥くらいの感じだったんだけど‥まさか、フミカがグーパンチで倒しちゃうとはなぁ‥。条件反射どころじゃなく、覚醒したみたい。前世の記憶を取り戻したフミカは
「え! なに、なんか‥この顔、‥アララキに似てる‥」
 って自分のショーウインドーに映った顔を見て、凄いドン引きしてた。
 ドン引きってか、‥絶望? ‥次の瞬間にはまじ泣きし始めた。
「将来、ヤンデレでストーカー気質で持てる力を全部恋愛につぎ込んじゃうような残念な奴になったら‥自分で自分が許せる気がしない‥。私の中に、あいつの病んでる血が‥どうしよう‥」
 なんて、(言ってることは殆ど聞こえないが)ぶつぶつ言ってる。
 多分、一言でいえばアララキの血が自分に混ざってるのが嫌だ、みたいなことだろう。
 ‥二人はいい友人関係だったと思うけど、‥どうしたのかな?

 なんてことはない。
 友達だったらいいけど、こいつが肉親ってのは‥ましてや、親ってどうやねん。ってところだ。サカマキ以外みんな共感できただろう。
 サカマキがそうは思わないってのは愛のせいかって?
 ‥それは違う。残念ながら、サカマキに「恋愛感情」は理解できない。サカマキの「好き」は、シンプルに「好き」で、細かく区分されてない。好きか好きじゃないか、好きじゃなかったら、一緒にいない。一緒にいるのは好きだから(≠恋愛感情)‥だけのコトだ。
 シンプル イズ ベスト☆

 あ、カツラギは、相変わらず無表情だったよ。
 さ、っとフミカの後ろに隠れて、じっとしてた。
 たしかに、フミカの後ろは安心だろうけど、‥お前それでいいのか‥? そこら辺がカツラギっぽい‥。ってか、
 こいつも記憶戻ってないか? 


 まさか、いやあ、誰か(しかも元同級生)に見られてたとはねぇ‥。
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