Happy nation

文月

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四章 物語の主人公

3.妻と違和感。

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(正樹side)


 ある日、かすかな明かりに目が覚めたら、桜子さんが机に座って、真剣に何かを書いていた。
 ‥桜子さん? 眠れないのかな?
 ‥手紙でも書いているのかな? 
 ほのかな明かりの中無心に手を動かす桜子の顔は真剣そのものだ。
 ‥真剣な顔。まるで、‥別人みたい。
 いつもの、ふわふわと微笑む陽だまりみたいな笑顔じゃない。(一人で、夜中何かをニヤニヤ笑いながら書いてたらヤバいが)
 真剣で、どこか怒ったような顔にも見える。
 その顔が全くの別人に見えて‥、一瞬血の気が引く。

「桜子さん? 眠れないの? 大丈夫? 一緒に寝ようか? 」
 声をかけると、少し驚いた桜子さんが手を止めて、
「大丈夫だよ。ちょっと、思い出したこと書いとかないと忘れちゃいそうでさ」
 いつもと変わらない穏やかな声で言った。
「そう? 」
 安心した。
 いつもの桜子さんだ。
 そして、そのあとは
「もう終わったから寝るね」
 ってそのまま寝た。

 思い出したことってなんだろう。

 (書いていた)内容が気にならないわけではないが、‥何でもかんでも聞いていいものでもないと思う。

 それにしても、あの時の桜子さんの様子‥。
 なんか、別人みたいだった。
 あの感覚、実は‥時々感じていた。

 ホントにちょっとしたことなんだ。

 笑い方だとか、
 話し方‥
 あとは‥これが一番大きいんだけど‥
 雰囲気。
 そういうのに、違和感を感じる。

 時々
 桜子さんが桜子さんじゃないような気持ちになるんだ。

 友人に相談したら
「まあ、子供が産まれたら妻も母親って感じになって、女として感じられなくなるわなあ」
 って
「よくあることさ」
 って言われた。

 実際にはまだ生まれてはいないわけだが‥。
 現実に桜子さんのお腹の中には赤ちゃんがいるわけだから、桜子さんの中では「もう母親」的な変化があるのかもしれない。
  
 ‥そういうもんかなあ?
 僕は桜子さんを子供の母親だとは思ってないつもりだけど、桜子さんにとっては、「妻というより、母親」って感じなのかな? 
 ってことは、もう僕は父親ってことになる‥。
 なんか、この歳でそれはなんか寂しい気がする。
 子供の両親って前に、僕たちは夫婦だって思うから‥。
 妻ってか、愛しい人?
 まあ‥声にだしていうことは恥ずかしいけど、僕は桜子さんを愛している。
 結婚してから、学校とかもあってバタバタだったけどそんな日々も楽しかった。
 もう少し、そのままで‥って思ってたけど、予想外に早く子供が生まれた。
 桜子さんが欲しがったんだ。
 ‥あれは意外だったなあ。
 それが原因かな?
 二人きりの時間を子供に「取られた」?
 そんなことないって思ってただけで、僕は‥
 子供に嫉妬してるのかもしれない。
 子供に、桜子さんを取られたような気がして、寂しくなってそんなこと思ってるのかも‥?

 だとしたら、僕ってなんて狭量な人間なんだろう。

 そんな僕のこと知ったら、桜子さんはきっと幻滅するだろうから、気づかれないように、‥言わないようにしよう、と思う。
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