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三章 高遠 桜子
14.義務付けられた「運命」を、ただの「きっかけ」に変えられる奇跡
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(カツラギside)
運命って、怖い。
「そういう運命」って人は諦めたり、「奇跡」って喜んだりするけど、‥その運命にしばられてきた私たちからしたら、運命なんて‥呪いでしかない。
神の都合で自分の人生を決められた‥私たち、神の道具は、意思を持って勝手に動いてはいけない。‥禁止されてるというか、本来ならそんなことできない。プログラムされたロボットみたいなもんだ。
プログラミングに従って動くだけの道具。だけど、神はそれなりの愛情を持って、その道具に特別な力を与えたんだ。
過酷な運命に立ち向かえる精神力だとか、力だとか。
そんな‥特別な道具。
そこにあったのは、一方的な愛情だ。信頼やなんかはない。道具に意思はないからね。(意思はないって思ってたからね)
特別な力を持った道具が勝手に動いたら、それは使用者にとっては、脅威でしかないでしょう? だから‥道具が意思を持つなんてことは‥神にとって想定外だったんだ。
ここにきて、私たちは何度も何度もその禁忌を冒している。
神が壊すって決めた道具‥サカマキを、カツラギとフミカが庇ったこと。
そもそも、‥サカマキに嫌悪感を抱かない存在がいたってこと。
そして、そんな二人を、意思を持たないはずの道具‥サカマキが救い出したこと‥。
人の生命を‥運命を曲げるなんて‥それは神の領域への干渉だ。
誰よりも神の呪いを受け、誰よりも運命に縛られて、でもそれをそれまで一度も悔やんだことのなかったサカマキの取った、生まれて初めての神に対する反逆行為だった。
それを、サカマキは「自分の意志」だって言った。
道具には本来ないはずの「意志」。
きっと、神にとっての最大の想定外だっただろう。
そういえば、サカマキは桜子に「運命の出会い」を願ってたんだっけ?
恋愛の何たるかを知らないサカマキは、桜子の意思という言葉で、「恋愛」の途中経過を全部桜子に丸投げした。‥正樹の人柄を信用していたってサカマキは言っていたが、面倒だから、流れに任せたってことだろう。
サカマキには珍しいその「いい加減さ」は、でも、正しかった。人の恋路には第三者の干渉は必要ない。(必要ない‥というか、そればっかりは、どうしようもないことだよね)
楽しいって笑うのも、苦しいって泣くのも、愛しいって想う気持ちも‥全部自分の気持ち‥自分の意志なんだ。
自分で決めてるって思い込んでるだけで、実は神の手の上で踊らされているだけかもしれない。(= 運命)
でも‥少なくとも、自分のこころと向き合い、自分が傷つき、その痛みを人のせいにせず、自分の考えの結果って思えたならば、それは‥紛れもなく自分の意志なのだろう。(= 意思)
私は‥あの時死ぬはずだった私は‥気が付けばサカマキに連れられ、この世界に来て、桜子の身体に居候している。‥これは、自分の意志ではなかった。だけど、今、ここに居続けているのは、自分の意思に反していることではない。‥いやいややっていることではない。
桜子だってそうだ。元々は、サカマキに言われて正樹と会った。でも、‥今桜子が正樹と一緒にいるのは、桜子の意思に他ならない。恋愛感情っていう、桜子の紛れもない意思だ。
押し付けられた「運命」なんかじゃなくて、ただの「きっかけ」
桜子にとって今の状態は、サカマキの言うところの「瓢箪から駒」っていう状態なんだろう。
でも、その瓢箪(日常)から出た駒(正樹との恋)を受け止めたのは、他ならぬ桜子なんだ。
そういうこともあるんだろう。
じゃあ、‥私たちもそう堅苦しく考えないで、
神から無理やり運命を押し付けられたけど、なんだかんだで今は幸せ‥って思える日が来るかもしれないって‥来てもいいんだって思おうって‥思えた。
不思議だ。
桜子は、賢者でも、「エライヒト」でも何でもないし、それどころか‥なんにもしてないのに、私たちをこんな風に前向きに‥幸せにしてくれたんだ。
桜子と正樹は、それから一緒に学校から帰ったり、休日はデートに出かけたりするようになった。友人である恵子や美佳に報告したのは、放課後、桜子からだった。
二人は「桜子がねえ‥」とちょっと驚きながらも、「幸せそうで良かった」と我が事の様に喜んで、美佳は、「なんか桜子、感じが変わった。女らしくなった。恋は人を変えるってホントだね」って笑ってた。
‥イヤ、タシカニヒトガカワッテマスカラ‥。とは、勿論言えないけど。
でも。誰も不審感なんか感じてなかったよ。
「この桜子偽物じゃない? 誰かがすり替わってるんじゃない? 」
なんて、‥お話みたいなこと誰も考えない。
ちょっとの違和感は、「いい意味での変化」って評価され、それがでも、普通になって‥どんどんなんとなく、‥いつのまにか消えていくものなんだろう。
だって、本人なんだから。
サカマキが桜子のフリをする不自然さとは、違う。
努力して無い記憶に相槌を打たなくても、「桜子らしくない」って言われようとも、本人なんだから堂々としていられる。「え~そんなの忘れちゃったよ」って言って笑ってればいいし、「私らしくないって‥。逆に私らしいって何よ~。私より私を知ってるアンタ何者~」って笑ってられる。
代わったなんて誰も思わない。「変わった」って思うだけだ。
この頃なんか感じ変わったね、何かあった? って。
人は、変わるものだ。高みを目指す意思によって向上し、悲しみの為にふさぎ込み、こころを閉ざすこともある。変わり変えられる。それは、人として自然なことなんだ。
それにね。そんなにみんなひとりの人間に注目してない。
多くの彼らにとって、桜子はただの「クラスメイトの一人」ってだけ。
桜子を好きな人と桜子が好きな人に「変わったね」「いい傾向だね」「昔に戻ったみたい」「相変わらずだね」って言われながら、慣れていってもらって‥そしてそのうち、桜子は、ホントの桜子に戻っていくんだ。
まるで最初からずっとそうだったみたいに。
‥まあ、学力とかそういったものはどうにもならないけどね。
だけど、桜子は実際頑張っている。
魂の無理がない限りで、サカマキと一緒に授業を聞いて、授業に追い付くために夜はサカマキから勉強を教わっている。サカマキとの勉強は、先ずは中学の勉強からだから、高校の授業なんて聞いてもわからないだろうのに、きちんと聞いている。
「今しかできないことだものね」
って。
「雰囲気だけでも、満足! 」
中学生の桜子、入学式、卒業式‥
今まで大変だった自分のことばっかりで気付かなかった。
‥桜子はそんな経験を全てできなかったってこと。
桜子はもちろん文句なんか言わないけど‥だけど、そうだよな‥。
修学旅行は自分でいけ、って言ったら、桜子、なんか嬉しそうだった。
それまでに「一日桜子で居れる練習」しないとな。
桜子は、「分からないことを1つずつ消してやるぞ」っていう意気込みで毎日勉強に取り組んでいる。
もともとの性格と、‥美佳の言う様な「恋のなせる業」なんだろう。
あと、これも恋の力って奴だろうか。桜子も一日「表」に出ていることも出来るような体力がついてきた。だから、休日は一日桜子が「表」に出てるんだ。そんな時は、サカマキも遠慮して、桜子の体調不良に気を遣う位に接触を留めている。どんな話してるとか、どこに行くかとかまでは関与しない。そういうの、プライバシーだし。
体力的には大丈夫でも、まだ勉強の方は「追い付けてる」とはいえない。だから、授業のある日は依然サカマキが「表」にでてるのは変わりはないんだけどね。この頃は、正樹と一緒に放課後勉強したりしてるみたい。‥微笑ましいカップルだね。
恋愛の求道者である私、カツラギとしては、‥ちょっと物足りな~い感じはまあ、しないでもないんだけどね。だけど、恋愛と結婚ってのは違うかもな~ってこの頃思い始めてる。
正樹は、「恋人には物足りないけど(← あくまでカツラギの意見です)、結婚相手向き」って言われるタイプ?
優しいし、穏やかだし、華はないけど、‥なんか癒し系? って感じだし。
‥まあ、華はないわな~。勉強も、中の上って感じだし、スポーツも「体力テストに特化してる」(つまり基礎体力はあるけど、それがスポーツやなんかに活かされてないって感じだね)って感じだ。その証拠に、サッカー歴は長かったみたいだけど、いまいちパッとしてない。リフティングなら一日中でもやってられそうって感じかな。技術もあるし、基本もしっかりしてる、体力も問題はない。だけどその活かし方がわかってないって選手。
‥そういうのって、センスだ。
あとは、性格。競争心ってのに乏しくって、いつも穏やかな正樹にはそういうの向いてないんだ。あと、気働きも苦手だし、ちょっとトロイところあるしね。(でも桜子にはそれも「なんか可愛い」って思えるらしい)
何ていうかな~、正樹ってとにかく「普通の子」って感じ。普通ってなんだって思うかもしれないけど‥、特に目立った子じゃないって意味ね。根暗じゃないし、‥でも、どっちかというと地味って感じかな~。
でも、その「普通」でほんわかした感じが、桜子とはあってるらしい。二人の冬のデートは専ら桜子の家のコタツでほっこり読書デートだ。試験前は試験勉強したり、ね。その二人にお菓子を出して、桜子のママが一緒におしゃべりしていったり、なんか可愛らしいの。
私は、こういう恋愛したことないから、なんか新鮮ですね。
そんなこんなで、桜子のブレインメンバーであるサカマキ(そして、私とフミカ)はすっかり正樹に慣れつつあったし、その人柄にも満足だ。
(普通だけど)顔も‥悪くない。素朴ないい顔してると思う。‥若干地味目だけど。
ちょっと、見た目ショタっぽい感じだけど、‥別に悪くはない。桜子と正樹のどちらに似たいかと言われたら、正統派美人の桜子一択だけど、まあ、フミカなら正樹似でもいいんじゃない?
ってちょっと先のことも考えたりしたりして。
まあ、桜子ママからの信頼も厚く、すっかり可愛がられてる正樹は、この頃は週末家族で一緒にご飯を食べる程遠野家に慣れ親しみつつある。
所謂、家族公認って奴だ。
「結婚するなら、もうここで住んだらいいのよ、だって、正樹君だって一人は寂しいし、ご飯作るのだって大変でしょ? 正樹君の大学なら電車通学でしょ‥駅にだったら、ここからの方が近いわ! 」
ってママさん。
‥近いっていっても、微妙だけどね。同じ小学校区内だ。そう変わるわけがない。
だけど、正樹が「自分の家に愛着がある」って話をしたら、桜子と一緒になって泣いていた。パパさんも。で、結婚するまでは、週末桜子宅に泊まりに来て、結婚したら正樹の家で住めばばいいねって話になった。家も近いから、桜子両親も大満足だ。
‥こんだけがっつり囲い込まれたら、優しい正樹だ。‥逃げられないだろう。
‥よくやった、桜子ファミリー!!
さて、その付き合う際、どっちから告白をしたかというと‥
「私と付き合ってくらさい‥!! 」
桜子だった。
しかも、大事な場面だのに‥
‥噛んだ。
桜子。昨日あんなにカッコつけてたのに、噛んだ。
でも、‥正樹は気にしてないっぽい。ってか、それどころじゃないっぽい。
顔真っ赤にして、こくこく頷いてる。
なんか涙目。
ちょっとカッコ悪い。
ってか‥っ!
甘酸っぱい。私の「お父さん」と「お母さん」甘酸っぱい。
こんな甘酸っぱい恋から、やがて私みたいな俗物が生まれるって‥ちょっと‥一周回って笑えた。
でも、‥なんだか生まれるのが楽しみにもなったんだ。
甘酸っぱい両親と一からスローライフ。‥やっぱり大人になればあっちに帰らなきゃダメかもだけど(一応賢者ですからね。なに、こっちとあっちの時間の過ぎ方は全然違います。きっとあっという間です)、それまでは、スローライフで「人生のやり直し」も悪くないかもしれない。
初めての両親と‥。なんてちょっと照れくさいですね。
あ、また脱線した。
桜子の告白って話だ。
告白前夜、
「私、正樹君のこと好きかもしれない~」
なんて、私からしたらすっごい「今更」なこと泣きそうな顔でサカマキに相談した桜子にも驚いたが、
「ホントか?! (← 心の声、口には出していない)」
と、目を見開いたサカマキに、もっと驚いた。ええ! そこで驚くの!! って奴だ。桜子の場合は、当事者だし、今まで小学生だったから仕方がないかな~としても、サカマキは「もういい大人」だ。‥分かるだろう!? って思ったんだ。
サカマキはその「初めて知ったこと」を「やっぱりな」という顔で誤魔化した。(勿論私からしたら全然誤魔化せてはいないんだけど、桜子もそれどころじゃないらしく気付いていない。依然、泣きそうな顔をしてサカマキを見上げている)
年上にアドバイスを求めてるって顔で、見上げてる。
‥なにこの、茶番劇。
「い‥いや。俺も、そんな気はしてたぞ」
と、サカマキが、にやりと笑う。
‥いや、(そんな気なんて)してなかっただろう。
ツッコミをいれる私たちを無視して、サカマキは、なんと!
「よし、俺に任せろ、奴にそれとなく自覚させてやる」
なんて恐怖の発言をする。‥やめておけ‥絶対に。ピアス型糸電話で呟こうとした時、
桜子が首を振った。
「‥私が言う」
って、きっぱりとした顔で言った。これが、「昨日カッコつけてた」の内容だ。‥実際にかっこよかったよ?
だけど、結果は、‥あの通りっていうね。
なんか、桜子らしくって逆にあんしんした。
にしても‥サカマキ。
無理にでも会っていれば、その内ラブも生まれるかもしれない。って奴‥。投げやりってか‥他力本願なあの計画が‥思いのほかうまくいった。
どういうことが起こるかわからないものだよね。
運命だったのか、それとも桜子が単純だったのかは分からないけど、この恋は、「悪くない」。桜子が自分で選んだんだし、桜子を愛する者たち(家族と、美佳と恵子)もチェックして「問題ない」って言ったんだ。
決して、サカマキも適当に妥協して選んだわけじゃない。
たまたま、桜子と同じ歳で、偶然学校が同じで、たまたま桜子が覚えてて、それを「運命だ」なんて無理やり騒いだサカマキに後押しされて、なんとなく‥なはずだったのに、気がついたら、特別な人になってた。
優しい運命の神様っていうのが、頑張ってる桜子に優しく微笑みかけてくれたんだよ、ってサカマキが桜子に言ってた。
「運命であって、押しつけじゃないよ」
ってわざわざ強調しなくても‥もう、いいだろ。
‥万人に優しい神は、だけど、自分の道具‥サカマキや私‥にその優しさを向けることはない。
そもそもね、神は人には優しいけど、自分にはびっくりするほどストイックなんだ。
それが「公明正大」ってもんならしい。
神は、道具である私たち‥特にサカマキに‥あたかも、自分自身の分身かのように、当たり前に快楽を戒め、清廉潔白を求め、自己犠牲を強いてきた。
神は我らを試したわけでも、我らを嫌っているわけでもない。
逆に、近過ぎて、自分と我らの人格が別だって‥忘れちゃってるんだ。
親が、子供に過剰に自分の理想やら要求を押し付ける‥あれと、同じ感じ。
‥ああ、もっと酷い。
子供の人権‥生存権すら、自分に起因してるって思っちゃう‥昔の王様って感じ。
だから、サカマキのこと殺すのに、サカマキの意志なんか関係なかった。「もういいんだよ、もう楽になってもいいんだよ」位の優しさでもって、サカマキに手をかけた。
むしろ、サカマキを庇って「自分の仕事」を放棄した私に驚いただろう。
それ以上にフミカに。
神にとってフミカは、想定外だったんだろう。
まさか、命を賭してまでサカマキを庇うなんて思ってなかっただろう。(ってか、フミカなんてアララキに比べれば予想範囲内だと思うぞ? )
だから、びっくりして‥一瞬動けなくなって‥
その間に、サカマキはするりと逃げ出した。
‥泳がされてるだけだったりして。
でも、‥シナリオを書く人(= 神)、主演俳優(= その他大勢の人々)。
神が思った以上に、シナリオ通りに人は動かない。
アドリブ厳禁のシナリオさえも、変えていく。
だからこそ‥人生は面白い。
運命って、怖い。
「そういう運命」って人は諦めたり、「奇跡」って喜んだりするけど、‥その運命にしばられてきた私たちからしたら、運命なんて‥呪いでしかない。
神の都合で自分の人生を決められた‥私たち、神の道具は、意思を持って勝手に動いてはいけない。‥禁止されてるというか、本来ならそんなことできない。プログラムされたロボットみたいなもんだ。
プログラミングに従って動くだけの道具。だけど、神はそれなりの愛情を持って、その道具に特別な力を与えたんだ。
過酷な運命に立ち向かえる精神力だとか、力だとか。
そんな‥特別な道具。
そこにあったのは、一方的な愛情だ。信頼やなんかはない。道具に意思はないからね。(意思はないって思ってたからね)
特別な力を持った道具が勝手に動いたら、それは使用者にとっては、脅威でしかないでしょう? だから‥道具が意思を持つなんてことは‥神にとって想定外だったんだ。
ここにきて、私たちは何度も何度もその禁忌を冒している。
神が壊すって決めた道具‥サカマキを、カツラギとフミカが庇ったこと。
そもそも、‥サカマキに嫌悪感を抱かない存在がいたってこと。
そして、そんな二人を、意思を持たないはずの道具‥サカマキが救い出したこと‥。
人の生命を‥運命を曲げるなんて‥それは神の領域への干渉だ。
誰よりも神の呪いを受け、誰よりも運命に縛られて、でもそれをそれまで一度も悔やんだことのなかったサカマキの取った、生まれて初めての神に対する反逆行為だった。
それを、サカマキは「自分の意志」だって言った。
道具には本来ないはずの「意志」。
きっと、神にとっての最大の想定外だっただろう。
そういえば、サカマキは桜子に「運命の出会い」を願ってたんだっけ?
恋愛の何たるかを知らないサカマキは、桜子の意思という言葉で、「恋愛」の途中経過を全部桜子に丸投げした。‥正樹の人柄を信用していたってサカマキは言っていたが、面倒だから、流れに任せたってことだろう。
サカマキには珍しいその「いい加減さ」は、でも、正しかった。人の恋路には第三者の干渉は必要ない。(必要ない‥というか、そればっかりは、どうしようもないことだよね)
楽しいって笑うのも、苦しいって泣くのも、愛しいって想う気持ちも‥全部自分の気持ち‥自分の意志なんだ。
自分で決めてるって思い込んでるだけで、実は神の手の上で踊らされているだけかもしれない。(= 運命)
でも‥少なくとも、自分のこころと向き合い、自分が傷つき、その痛みを人のせいにせず、自分の考えの結果って思えたならば、それは‥紛れもなく自分の意志なのだろう。(= 意思)
私は‥あの時死ぬはずだった私は‥気が付けばサカマキに連れられ、この世界に来て、桜子の身体に居候している。‥これは、自分の意志ではなかった。だけど、今、ここに居続けているのは、自分の意思に反していることではない。‥いやいややっていることではない。
桜子だってそうだ。元々は、サカマキに言われて正樹と会った。でも、‥今桜子が正樹と一緒にいるのは、桜子の意思に他ならない。恋愛感情っていう、桜子の紛れもない意思だ。
押し付けられた「運命」なんかじゃなくて、ただの「きっかけ」
桜子にとって今の状態は、サカマキの言うところの「瓢箪から駒」っていう状態なんだろう。
でも、その瓢箪(日常)から出た駒(正樹との恋)を受け止めたのは、他ならぬ桜子なんだ。
そういうこともあるんだろう。
じゃあ、‥私たちもそう堅苦しく考えないで、
神から無理やり運命を押し付けられたけど、なんだかんだで今は幸せ‥って思える日が来るかもしれないって‥来てもいいんだって思おうって‥思えた。
不思議だ。
桜子は、賢者でも、「エライヒト」でも何でもないし、それどころか‥なんにもしてないのに、私たちをこんな風に前向きに‥幸せにしてくれたんだ。
桜子と正樹は、それから一緒に学校から帰ったり、休日はデートに出かけたりするようになった。友人である恵子や美佳に報告したのは、放課後、桜子からだった。
二人は「桜子がねえ‥」とちょっと驚きながらも、「幸せそうで良かった」と我が事の様に喜んで、美佳は、「なんか桜子、感じが変わった。女らしくなった。恋は人を変えるってホントだね」って笑ってた。
‥イヤ、タシカニヒトガカワッテマスカラ‥。とは、勿論言えないけど。
でも。誰も不審感なんか感じてなかったよ。
「この桜子偽物じゃない? 誰かがすり替わってるんじゃない? 」
なんて、‥お話みたいなこと誰も考えない。
ちょっとの違和感は、「いい意味での変化」って評価され、それがでも、普通になって‥どんどんなんとなく、‥いつのまにか消えていくものなんだろう。
だって、本人なんだから。
サカマキが桜子のフリをする不自然さとは、違う。
努力して無い記憶に相槌を打たなくても、「桜子らしくない」って言われようとも、本人なんだから堂々としていられる。「え~そんなの忘れちゃったよ」って言って笑ってればいいし、「私らしくないって‥。逆に私らしいって何よ~。私より私を知ってるアンタ何者~」って笑ってられる。
代わったなんて誰も思わない。「変わった」って思うだけだ。
この頃なんか感じ変わったね、何かあった? って。
人は、変わるものだ。高みを目指す意思によって向上し、悲しみの為にふさぎ込み、こころを閉ざすこともある。変わり変えられる。それは、人として自然なことなんだ。
それにね。そんなにみんなひとりの人間に注目してない。
多くの彼らにとって、桜子はただの「クラスメイトの一人」ってだけ。
桜子を好きな人と桜子が好きな人に「変わったね」「いい傾向だね」「昔に戻ったみたい」「相変わらずだね」って言われながら、慣れていってもらって‥そしてそのうち、桜子は、ホントの桜子に戻っていくんだ。
まるで最初からずっとそうだったみたいに。
‥まあ、学力とかそういったものはどうにもならないけどね。
だけど、桜子は実際頑張っている。
魂の無理がない限りで、サカマキと一緒に授業を聞いて、授業に追い付くために夜はサカマキから勉強を教わっている。サカマキとの勉強は、先ずは中学の勉強からだから、高校の授業なんて聞いてもわからないだろうのに、きちんと聞いている。
「今しかできないことだものね」
って。
「雰囲気だけでも、満足! 」
中学生の桜子、入学式、卒業式‥
今まで大変だった自分のことばっかりで気付かなかった。
‥桜子はそんな経験を全てできなかったってこと。
桜子はもちろん文句なんか言わないけど‥だけど、そうだよな‥。
修学旅行は自分でいけ、って言ったら、桜子、なんか嬉しそうだった。
それまでに「一日桜子で居れる練習」しないとな。
桜子は、「分からないことを1つずつ消してやるぞ」っていう意気込みで毎日勉強に取り組んでいる。
もともとの性格と、‥美佳の言う様な「恋のなせる業」なんだろう。
あと、これも恋の力って奴だろうか。桜子も一日「表」に出ていることも出来るような体力がついてきた。だから、休日は一日桜子が「表」に出てるんだ。そんな時は、サカマキも遠慮して、桜子の体調不良に気を遣う位に接触を留めている。どんな話してるとか、どこに行くかとかまでは関与しない。そういうの、プライバシーだし。
体力的には大丈夫でも、まだ勉強の方は「追い付けてる」とはいえない。だから、授業のある日は依然サカマキが「表」にでてるのは変わりはないんだけどね。この頃は、正樹と一緒に放課後勉強したりしてるみたい。‥微笑ましいカップルだね。
恋愛の求道者である私、カツラギとしては、‥ちょっと物足りな~い感じはまあ、しないでもないんだけどね。だけど、恋愛と結婚ってのは違うかもな~ってこの頃思い始めてる。
正樹は、「恋人には物足りないけど(← あくまでカツラギの意見です)、結婚相手向き」って言われるタイプ?
優しいし、穏やかだし、華はないけど、‥なんか癒し系? って感じだし。
‥まあ、華はないわな~。勉強も、中の上って感じだし、スポーツも「体力テストに特化してる」(つまり基礎体力はあるけど、それがスポーツやなんかに活かされてないって感じだね)って感じだ。その証拠に、サッカー歴は長かったみたいだけど、いまいちパッとしてない。リフティングなら一日中でもやってられそうって感じかな。技術もあるし、基本もしっかりしてる、体力も問題はない。だけどその活かし方がわかってないって選手。
‥そういうのって、センスだ。
あとは、性格。競争心ってのに乏しくって、いつも穏やかな正樹にはそういうの向いてないんだ。あと、気働きも苦手だし、ちょっとトロイところあるしね。(でも桜子にはそれも「なんか可愛い」って思えるらしい)
何ていうかな~、正樹ってとにかく「普通の子」って感じ。普通ってなんだって思うかもしれないけど‥、特に目立った子じゃないって意味ね。根暗じゃないし、‥でも、どっちかというと地味って感じかな~。
でも、その「普通」でほんわかした感じが、桜子とはあってるらしい。二人の冬のデートは専ら桜子の家のコタツでほっこり読書デートだ。試験前は試験勉強したり、ね。その二人にお菓子を出して、桜子のママが一緒におしゃべりしていったり、なんか可愛らしいの。
私は、こういう恋愛したことないから、なんか新鮮ですね。
そんなこんなで、桜子のブレインメンバーであるサカマキ(そして、私とフミカ)はすっかり正樹に慣れつつあったし、その人柄にも満足だ。
(普通だけど)顔も‥悪くない。素朴ないい顔してると思う。‥若干地味目だけど。
ちょっと、見た目ショタっぽい感じだけど、‥別に悪くはない。桜子と正樹のどちらに似たいかと言われたら、正統派美人の桜子一択だけど、まあ、フミカなら正樹似でもいいんじゃない?
ってちょっと先のことも考えたりしたりして。
まあ、桜子ママからの信頼も厚く、すっかり可愛がられてる正樹は、この頃は週末家族で一緒にご飯を食べる程遠野家に慣れ親しみつつある。
所謂、家族公認って奴だ。
「結婚するなら、もうここで住んだらいいのよ、だって、正樹君だって一人は寂しいし、ご飯作るのだって大変でしょ? 正樹君の大学なら電車通学でしょ‥駅にだったら、ここからの方が近いわ! 」
ってママさん。
‥近いっていっても、微妙だけどね。同じ小学校区内だ。そう変わるわけがない。
だけど、正樹が「自分の家に愛着がある」って話をしたら、桜子と一緒になって泣いていた。パパさんも。で、結婚するまでは、週末桜子宅に泊まりに来て、結婚したら正樹の家で住めばばいいねって話になった。家も近いから、桜子両親も大満足だ。
‥こんだけがっつり囲い込まれたら、優しい正樹だ。‥逃げられないだろう。
‥よくやった、桜子ファミリー!!
さて、その付き合う際、どっちから告白をしたかというと‥
「私と付き合ってくらさい‥!! 」
桜子だった。
しかも、大事な場面だのに‥
‥噛んだ。
桜子。昨日あんなにカッコつけてたのに、噛んだ。
でも、‥正樹は気にしてないっぽい。ってか、それどころじゃないっぽい。
顔真っ赤にして、こくこく頷いてる。
なんか涙目。
ちょっとカッコ悪い。
ってか‥っ!
甘酸っぱい。私の「お父さん」と「お母さん」甘酸っぱい。
こんな甘酸っぱい恋から、やがて私みたいな俗物が生まれるって‥ちょっと‥一周回って笑えた。
でも、‥なんだか生まれるのが楽しみにもなったんだ。
甘酸っぱい両親と一からスローライフ。‥やっぱり大人になればあっちに帰らなきゃダメかもだけど(一応賢者ですからね。なに、こっちとあっちの時間の過ぎ方は全然違います。きっとあっという間です)、それまでは、スローライフで「人生のやり直し」も悪くないかもしれない。
初めての両親と‥。なんてちょっと照れくさいですね。
あ、また脱線した。
桜子の告白って話だ。
告白前夜、
「私、正樹君のこと好きかもしれない~」
なんて、私からしたらすっごい「今更」なこと泣きそうな顔でサカマキに相談した桜子にも驚いたが、
「ホントか?! (← 心の声、口には出していない)」
と、目を見開いたサカマキに、もっと驚いた。ええ! そこで驚くの!! って奴だ。桜子の場合は、当事者だし、今まで小学生だったから仕方がないかな~としても、サカマキは「もういい大人」だ。‥分かるだろう!? って思ったんだ。
サカマキはその「初めて知ったこと」を「やっぱりな」という顔で誤魔化した。(勿論私からしたら全然誤魔化せてはいないんだけど、桜子もそれどころじゃないらしく気付いていない。依然、泣きそうな顔をしてサカマキを見上げている)
年上にアドバイスを求めてるって顔で、見上げてる。
‥なにこの、茶番劇。
「い‥いや。俺も、そんな気はしてたぞ」
と、サカマキが、にやりと笑う。
‥いや、(そんな気なんて)してなかっただろう。
ツッコミをいれる私たちを無視して、サカマキは、なんと!
「よし、俺に任せろ、奴にそれとなく自覚させてやる」
なんて恐怖の発言をする。‥やめておけ‥絶対に。ピアス型糸電話で呟こうとした時、
桜子が首を振った。
「‥私が言う」
って、きっぱりとした顔で言った。これが、「昨日カッコつけてた」の内容だ。‥実際にかっこよかったよ?
だけど、結果は、‥あの通りっていうね。
なんか、桜子らしくって逆にあんしんした。
にしても‥サカマキ。
無理にでも会っていれば、その内ラブも生まれるかもしれない。って奴‥。投げやりってか‥他力本願なあの計画が‥思いのほかうまくいった。
どういうことが起こるかわからないものだよね。
運命だったのか、それとも桜子が単純だったのかは分からないけど、この恋は、「悪くない」。桜子が自分で選んだんだし、桜子を愛する者たち(家族と、美佳と恵子)もチェックして「問題ない」って言ったんだ。
決して、サカマキも適当に妥協して選んだわけじゃない。
たまたま、桜子と同じ歳で、偶然学校が同じで、たまたま桜子が覚えてて、それを「運命だ」なんて無理やり騒いだサカマキに後押しされて、なんとなく‥なはずだったのに、気がついたら、特別な人になってた。
優しい運命の神様っていうのが、頑張ってる桜子に優しく微笑みかけてくれたんだよ、ってサカマキが桜子に言ってた。
「運命であって、押しつけじゃないよ」
ってわざわざ強調しなくても‥もう、いいだろ。
‥万人に優しい神は、だけど、自分の道具‥サカマキや私‥にその優しさを向けることはない。
そもそもね、神は人には優しいけど、自分にはびっくりするほどストイックなんだ。
それが「公明正大」ってもんならしい。
神は、道具である私たち‥特にサカマキに‥あたかも、自分自身の分身かのように、当たり前に快楽を戒め、清廉潔白を求め、自己犠牲を強いてきた。
神は我らを試したわけでも、我らを嫌っているわけでもない。
逆に、近過ぎて、自分と我らの人格が別だって‥忘れちゃってるんだ。
親が、子供に過剰に自分の理想やら要求を押し付ける‥あれと、同じ感じ。
‥ああ、もっと酷い。
子供の人権‥生存権すら、自分に起因してるって思っちゃう‥昔の王様って感じ。
だから、サカマキのこと殺すのに、サカマキの意志なんか関係なかった。「もういいんだよ、もう楽になってもいいんだよ」位の優しさでもって、サカマキに手をかけた。
むしろ、サカマキを庇って「自分の仕事」を放棄した私に驚いただろう。
それ以上にフミカに。
神にとってフミカは、想定外だったんだろう。
まさか、命を賭してまでサカマキを庇うなんて思ってなかっただろう。(ってか、フミカなんてアララキに比べれば予想範囲内だと思うぞ? )
だから、びっくりして‥一瞬動けなくなって‥
その間に、サカマキはするりと逃げ出した。
‥泳がされてるだけだったりして。
でも、‥シナリオを書く人(= 神)、主演俳優(= その他大勢の人々)。
神が思った以上に、シナリオ通りに人は動かない。
アドリブ厳禁のシナリオさえも、変えていく。
だからこそ‥人生は面白い。
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寺一(テライチ)
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──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
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執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
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他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
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エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
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閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
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2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
魔王の求める白い冬
猫宮乾
BL
僕は交通事故に遭い、別の世界に魔王として転生した。最強の力を貰って。だから何度勇者が訪れても、僕は死なない。その内に、魔王はやはり勇者に倒されるべきだと思うようになる。初めはそうではなかった、僕は現代知識で内政をし、魔族の国を治めていた。けれど皆、今は亡い。早く僕は倒されたい。そう考えていたある日、今回もまた勇者パーティがやってきたのだが、聖剣を抜いたその青年は、同胞に騙されていた。※異世界ファンタジーBLです。全85話、完結まで書いてあるものを、確認しながら投稿します。勇者×魔王です。
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