Happy nation

文月

文字の大きさ
上 下
28 / 116
三章 高遠 桜子

13.恋っていうピュアなことに不向きなメンバーばっかり集まっちゃってるんです。

しおりを挟む
 さて、恋と言えば、
 私。
 カツラギです。
 サカマキじゃ、何にも分かっちゃいませんからね。
  でも、私が直接出て行くわけにはいきませんので、サカマキのこころの中にアドバイスします。引っ張られちゃなんだから、サカマキがつくった魔道具で遠隔指示ですよ☆
 さて、この魔道具
「耳に付けるピアスみたいにしてみたけど、原理は「糸電話」って感じかな。遠隔といっても、近い距離しか無理」
 サカマキがドヤ顔で説明してました。
 糸電話っていうのは、本で見たから知ってます。紙コップ二つの底を糸でつなぐ子供の遊び道具ですよね。図鑑に載ってました。
 紙コップに向かって話しかけたら、声は紙コップの底を振動させ、その振動は糸を伝わってもう一方の紙コップに届く。当然糸が必要だし、繋いでいる相手しか会話できない。
 だけど、サカマキの魔道具は見た目にはワイヤレスなんだ! (魔力の透明な糸で繋いでいるらしく、よく目を凝らせば見えるらしい)しかも、口のところに持ってかなくても聞こえるの!! (骨伝導なんだって)魔法オタクなサカマキは魔道具作りにも凝ってるんだ。
 さて、つけてるのは、私、カツラギ(主に発信側)とサカマキ(主に受信側)です。
 耳に見慣れない物を付けたサカマキに気付いた桜子が、「珍しい」って顔をサカマキに向けた。
 普段、桜子が表に出ているときは、頭の奥に引っ込んで姿を見せることは無いのだけど、会話をする時には、頭に声だけじゃなくって、姿も「見せる」んだ。
 電話じゃなくて、テレビ電話って感じかな。
 声だけだったら、「誰と」話してるか分からない。姿を見せたら安心するし、顔を見て話すのは礼儀だってのが、サカマキの持論。まあ、表情が見えるほうが安心するよね。 


「あれ? イヤリング付けたの? 」
 桜子がコテンと首を傾げた。
「朝はつけてなかったのに」
 ってちょっと不思議そうだ。

 明け方に起きて来た桜子には、今日から「放課後練習」を始めることを伝えた。
 放課後までは、サカマキが「表」に出て、いつも通り授業を受けて、いつも通りクラスメイトと話したり、食事をしたりする「日常生活」を桜子に見せた。
 その時、疑問に思ったりしたことは、夜の「ミーティング」時に確認する。あくまでも、普通の一日ってものに慣れてもらうのが目的だ。休み時間ごとに何処かに移動して‥とか普通じゃないでしょ?。
 因みに食事なんだけど、‥サカマキ自体は食事を必要としないんだけど、桜子の身体は栄養を必要としているから、食事をとらないわけにはいかないってわけで、ここにきて初めてし始めた「サカマキにとって」の新習慣だ。サカマキにとって、これが実は(地味に一番)きつかった。なんせ、飲み込むってことが分からない。(カツラギやフミカに教えられ)口には入れてみたものの‥その後が分からない。「飲み込め」って言われても‥。無理に口に押し込んだらむせ返るし、喉に流し込んだら詰まるし、詰まったら呼吸困難に陥るし‥もう、地獄だった。(一時は脱水症状に陥って点滴までした)でも、今はすっかり慣た(死活問題だしね)。だけど、おいしいとか楽しいとかいう感想は‥今でも持ててるかは疑問。(軽くトラウマになってるしね)
 今でも「桜子の身体の為に」食べてるって感じだ。
 何とか飲み込むのに慣れた時に感じた「美味しい」って感情は、でもサカマキ自身の感覚ではなく、おそらく「桜子が好きな食べ物なんだろうな」って分かったらしい。(起きた桜子に確かめたら、やっぱりそうだった)
 桜子は、果物全般が好きで、脂っこい物甘ったるいものが苦手。だから、食欲がない桜子に桜子の母親は食べやすく柔らかい桃なんかを食べさせてくれた。サカマキは渡されたそれを(母親の前で盛大にむせ返っても悪いから)一人でゆっくりと食べた。その際に、桜子の感覚で「美味しい」と感じながら、母親の愛情にじーんとした‥らしい。
 ちなみに、私やフミカは実体がある時は普通に食事をとっていたが、今は霊体だから要らないようだ。


「うん。おかしい? 」
 サカマキがイヤリングに手を触れながら、首を傾げる。
 桜子が首を振って否定する。
「可愛い。サカマキさんがおしゃれしてるの珍しいから嬉しい」
 って花が咲くみたいに笑う。
 桜子だからこそ、って笑顔。
 サカマキだったら、こんなに無邪気に笑えない。

 カツラギは、サカマキ越しに桜子を見ながら思った。


(カツラギside)

 今は放課後なので、桜子が「表」に出ています。で、サカマキは「裏」でサポート。私は、その(更に)裏でコッソリ見てます。
 さて、桜子の周りには現在、人はいません。作戦中は桜子もサカマキと話す必要があるから、仕方が無いけど独り言を言うことになる。‥傍から見たらやっぱりちょっと気持ち悪いし、しかもまだ練習中だから、もとの桜子(サカマキinの桜子)と違和感を感じそうな美佳や恵子との接触は特にNGってことで。そこら辺はおいおいね~。
 違和感を抱かれるくらいには‥5年間サカマキは頑張って来たんだ。
だけど、それは‥サカマキだから苦労したってのはある。きっと、桜子にいれかわったら‥(あ、違うな「元に戻ったら」だな)その違和感なんて一瞬で解消されて、あっさり周りと打ち解けていくんだろう。(なんせ本人なんだしね)それは、ちょっと複雑な気持ちになるね。5年間サカマキの傍でサカマキの頑張りを見て来た者としては、ね。(それはフミカもおなじだろう)
 ‥まあ、桜子も気にしている学力の方はなんともならないだろうけど‥。
 それだけが救いかな(私たち的にね)

「ラピスラズリ‥かな? 似合うね! そういうの。サカマキさん。っていうか‥。サカマキさん、美人さんだからしみじみ見たら、照れた~」
桜子がへへ、っと笑ってちょっと顔を赤くする。
 サカマキもふふ、と笑う。それ、アクセサリーとかじゃなくって、糸電話だけどね。因みに私もお揃いのを付けています。‥誰かとお揃いとか初めて持ちます。‥その初めてがサカマキってのがちょっと笑いますね。
 ‥アララキに知られたら、ちょっと怖いです。
「ありがとう! さて‥桜子‥昨日の正樹の話だけど‥」
 照れ隠し‥かな? サカマキがちょっと咳払いして、話を変える。桜子も、話が「本題」に入ったことに、ちょっと表情を改め、真剣な顔になる。
 こういう、素直なところは「小学生」らしい‥というか、桜子自体の性格なのかな。
 素直でよろしい。スれてない。このまま大人になって欲しい。(もう、身体は大人なんだけどね)
 身体は大人だのに、心は演技じゃなくて、純真無垢‥とか、なんかエロい‥。そういうジャンルもあるんだろうが、私は興味はないなあ~。別に幼児趣味はないし、何より面倒くさい。背徳とか興味ないしね~。(←カツラギ・脱線中)
 ぼ~としてたらしく、サカマキに睨まれました。いけないいけない‥。
「正樹君? 」
 首を傾げる桜子。真面目に聞いて、真面目に検討。そして、サカマキの指示に反論なし。
 そこは普通‥「なんで? 」ってなるよ‥。
 純真無垢はいいけど‥悪い奴に騙されないようにしないと‥ですね。
「うん。‥ちょっとお話してみたら? ええと‥案外いい奴っぽかったし、何だかんだいって、そう接点はないから‥桜子が変わったって分からないかも‥だし、練習にはいい相手じゃないかなあって‥」
 サカマキも大概チョロイと思うのに‥それ以上。
 サカマキよ。桜子ちゃん(中身小学生)だから騙されるんであって、別にアンタの「腕が上がった」とかじゃないのよ。そこで「俺って、策士‥」みたいな顔しない‥。

 まあ、今回は時間もないし、いいや。

 「正樹」いいと思いますよ。スれてないし。初心者向け。
 本体に「桜子」として戻る練習と、結婚相手を見つける為の恋愛の練習。
 お互いのこと、気に入れば、お試しからそのまま恋人になるもよし。初心なふたりだ。遊びで‥ってのはないから、そういう確率は高いと思うなあ~。

 でも、‥練習って口に出すのは‥失策だと思うぞ、サカマキ。‥今更撤回するのもちょっと‥だから桜子には訂正しなくてもいいけど、‥今後は失言は控えて下さい。
「(え! 練習っていったらまずかった!? )ええと‥俺としては正樹はお勧めじゃないかな~って。今まで見て来た‥っていっても、今まで接点はなかったけど、‥評判とか聞く限り、正樹は悪い奴じゃないし‥」
 あああ、グダグダだ。
 ちょっと頭痛がする。‥サカマキ、ガンバレ!!
「うん? そうなの? 」
 あからさまに不審なサカマキの様子に、桜子が苦笑している。
 サカマキもばつが悪そうに苦笑し返すと、「ああそうだった、正樹と言えば‥」と呟く。桜子が首をコテンと傾げる。
「‥一年程前かな、正樹、ご両親が事故で亡くなったって‥だから、家族の話はしない方向で‥」
 サカマキが注意事項を告げた途端、桜子は目を見開いた。
「ご両親が‥どちらも? じゃあ、今正樹君はどうしてるの? 」
 眉間に皴を寄せて、サカマキに問いかける。
 その目からつーと一筋涙が流れた。
 サカマキは桜子の涙に動揺して
「あんまり詳しくは知らないけど、高校生だから一人で暮らしますって、通夜にクラス皆で行った時親戚っぽい人に話してたのを見た‥様な気がする」
 おろおろと落ち着かない口調で桜子の質問に答えた。
「大丈夫? 」とか「どうしたの? 」って声をかけなきゃって思うけど、何て声をかければいいのかわからなかったんだろう。サカマキは、今まで人とそう接してきた経験がないから‥。
「そっか‥」
 桜子が、泣き声でそれだけ呟いて俯く。


 ‥見たっていうのはもちろん嘘で、実際にはサカマキが調べた。(例の鳩の姿で)

 正樹のご両親が亡くなったのは一年前。クラスで通夜に行ったのも確か。だけど、正樹たちが大勢の人がいる時に勿時そんな話をするはずがない。通夜の時、桜子の格好をしたサカマキたちが見たのは、親戚に心配されながら、だけど気丈に一人で立っていた正樹の姿だった。
あの時、誰も何も話してなんかいなかった。
 正樹の話が桜子から出た地点で、サカマキは正樹のことを色々調べたんだ。調べる位‥わけがない。
鳥になって飛んでいって正樹が一人暮らししている一軒屋も見に行った。その一軒家は、彼の両親が買った持ち家らしく、正樹は生まれ育ったその家に今も一人で住んでいるようだ。
親戚たちが、「一人で暮らす」と言った正樹にそれ以上何も言わなかったのは、それもあるのだろう。
住む場所があるっていうのは強い。正樹は(誰が見ても)真面目だから、悪い友達のたまり場にする‥って心配もないだろうし。
職員室に忍び込んで、正樹の成績やなんかも調べた。
高位魔法使いは大概のことは出来るんだって。魔法は科学にも引けはとりませんよ!(byサカマキ)
結果、桜子の相手として、問題なしの結果だった。(いやほんと、正樹、理想的な恋人候補だ!! )

 ふと見ると、桜子がボロボロ涙を流していた。
「そっか‥」
 もう一度呟く。
言葉少なく、静かに、でも盛大にボロボロ涙をこぼしている。高校生の見た目だけど、中身はまだ小学生。だから、それこそ、ガキ丸出しで泣いている。
 ぎょっとなったサカマキは、「おい、どうした桜子」と声をかけようとして、‥やめた。
 そこに、‥放課後の誰もいなかった図書館に、人が現れたから。
「‥遠野さん? どうしたの‥? 」
 ‥声の主は、正樹だった。
 まさに、運命だね。
 こんなタイミングで現れちゃうんだ。
 これを運命と言わずして何と言おう?
「何か‥あった? 」
 正樹を見上げながらボロボロ涙を流し続ける桜子に、正樹はオロオロしている。
 慰めようか、でも、何て言おう? って顔だ。そんな正樹の顔を見てると、カツラギはもどかしくなって‥男なら抱きしめてやれ! と言いたくなる。
 だけど、地球で急にそんなことやったら「痴漢! 」って‥大問題だ。(しかもここ学校だしね)
 あっちだったら、「そこそこ知り合い」程度でも慰めるために抱きしめる‥とか結構普通なんだけど‥。まあ、私ならその流れで、親睦を深めたりくらいはしますけどね。新規開拓はしないんじゃなかったかって?? 私の場合はそこそこだろうが、知り合いって地点でもう、新規ではないですよ。その内八割はそういう関係が既にある‥しね?
 (まあ、それはおいといて)紳士な(←こっちでは、普通)正樹は勿論そんなことしない。
 オロオロと桜子にハンカチを差し出して、桜子が泣き止むまで傍にいるだけ、だ。
「大丈夫? 落ち着いた? 」
 泣き止んだ桜子に正樹はハンカチを改めて握らせて、
「さっき買ったんだ。良かったら」
 ってパックジュースを手渡した。
「ここでは飲めないから、出ようか」
 って、はにかみながら微笑む。

 ピュア~。甘酸っぱい~。

 桜子が真っ赤になって、こくこく頷く。

 何々~? 少女漫画~? 美咲ちゃんに昔サカマキが押し付けられてた少女漫画、こんなんだったんじゃない?? 
 リアル桜子、ピュア~。ここでサカマキin桜子なら(‥そもそも泣きださないけど)「あ、いや、大丈夫なんで」ってしれっとした顔して言ってそう~。ま、それは‥きっと私でもそうですね。私、恋は主導権握るのが好きなんで、心配されるとかそういうの嫌なんです。(あ。私のことはどうでもいいですね)
 まあ、何にせよ。今表に出てるのが桜子で良かった~って話。
 桜子、きっとこの中で一番女子力在りますね! 実はこの中にはもう一人女子がいるんですけど、‥フミカじゃこうはいきません。
 昨日、ちょっと『そういう知識)』の話をサカマキとして以来、‥フミカの視線が怖いですよ。
 なんか、娘に冷たい目で見られる父親になった気持ちですかね~。
 ‥私、独身だしそんなに年もくってないのに、朴念仁な息子(サカマキ)と、ちょっと微妙なお年頃の娘(フミカ)を持った父親の心境と‥立場に立たされてます。
 フミカさん‥、昨日のアレはセクハラじゃないです。
 はい。
 必要に迫られて‥サカマキと話してただけなんです。
 ‥ああ、このままじゃ私、知恵の化身じゃなくて、エロの化身って認識をフミカにされてしまいそうです‥。(←今更)‥そんな明け透けな話はしてないですよ?? どっちかというと、明け透けな話をしてたのは、サカマキですよ?? あいつ、何も知らないもんだからまるで科学の実験みたいに、核を「イレる」だの、最中にタイミングを見計らって‥だの‥。
 ‥どっちかと言われると、冷たい目で見られるべきは、あいつ!!
 私は、分かってるだけなの!!

 なんて心の中で私が悶えてる間に、桜子と正樹は移動したみたいです。
「大丈夫? 何か‥悲しいことを思い出したの? 」
「! 」
「「!」」
 この正樹の言葉に驚いたのは、桜子だけじゃなかった。
 サカマキも、私、カツラギも(今近くに居ないからわかりませんが、もしかしたらフミカも)だった。
 
 正樹は、だれも覚えていないかもしれないことを、ちゃんと覚えてて、‥今でも気にかけていた。

「記憶喪失‥って辛いよね。だのに、遠野さんは‥頑張ってる。凄いと思う」
「‥‥‥」
 ‥頑張ってたのはサカマキさんだけど‥って桜子が心の中で呟いたのが分かった。‥ってか、そう顔に書いてある。桜子、顔に出過ぎ。
「頑張ってなんか‥」
「たまには、‥気を抜いてしまうの、仕方が無いと思う。僕だって、時々、心がぽっかり空っぽになる」
「! 」
「「! 」」
 はっとした顔を見せた桜子に、正樹は焦った顔になる。
「ごめん! 心配させるようなこと言っちゃったね」
 ‥そうか、正樹は謝るんだ。
 ‥そうか‥。
「さ。帰ろっか」
 優しく正樹が微笑む。
 優しくて、暖かくて、‥強い微笑みだ。
「‥いっしょに‥」
 桜子が正樹の顔を真っ赤な顔で見つめる。
「ん? 」
 首を傾げた正樹の顔も、本人は隠せているつもりかもしれないが、(勿論隠しきれてなんかいないのだが(笑))真っ赤だ。
「一緒に帰りませんか‥? 」
 正樹の様子を伺うみたいに、桜子がおずおずと言った。
「! ‥喜んで! 」
 ふわっと、‥まるで花が咲くような‥可憐な‥嬉しそうないい笑顔で正樹が即答した。
しおりを挟む

処理中です...