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三章 高遠 桜子
10.最初で最後の我儘
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私は、桜子の子供として、桜子をずっと守っていくことを決めた。
せめて、ずっとあなたを守っていく。
だから‥
私をサカマキの傍に居させてください‥。
サカマキの友達でいさせてください‥。
‥貴女にとっては、‥私が貴女を守る位では済まないことだとは、わかっていますが‥どうか‥。
サカマキの闇は、‥こんなにも深い。
人に恋愛感情を持てないサカマキは、結婚も出産もただの「行為」にしか思えない。
桜子は‥子供を産む道具じゃない。
‥だのに‥。
だけど、‥まさに道具としてこの世に産み捨てられたサカマキに‥そのことは理解できないし、そんなサカマキを非難する意味は‥ない。
意味がないから、しなくてもいいって風にはならないとは思うけど‥。
気が付けばフミカも傍に来て、泣いていた。
‥貴女‥泣くこともあるんですね。
似合いませんよ‥。
カツラギとフミカが寄り添って泣いているのを、サカマキは見ないふりをした。
‥これは、俺の我儘だ。最初で最後の我儘だ。
カツラギやフミカが望んだわけではない。いらないお世話だ、桜子に迷惑をかけるなって言われるだろう‥わかってるから、その話をあの二人にはしてこなかった。だけど、当たり前に、あの二人は知っていた。
そして、受け入れようとして‥だけど、到底受け入れられなくて泣いている。
自分たちの為に、他の誰かの一生を決めさせようと俺がしている‥。
そして、その原因となっているのが‥自分たちであること‥。
それは到底、許されることではない。
だけど、二人はそれを受け入れようとしてくれている。
‥俺のために。
だけど、やっぱり、辛くて‥自分たちが許せなくて‥泣いている。
カツラギとフミカを泣かせたかったわけではない。
俺の我が儘のせいで‥彼らはずっとこの先もそんな罪悪感を持ち続けるのだろう。
桜子にも、迷惑をかける。
一生モノの迷惑だ。(※迷惑では済まない)
分かってる。
でも、‥俺は時間が惜しい。
タイムリミットは迫っているんだ。
もう、6年目になろうとしている。
肉体のない霊体が6年、‥後3年くらいは猶予はあるだろう。‥それ位は、俺が何とかする。だけど、‥5年はもたない。
時間がない。
6年かけて、カツラギとフミカの霊体はやっと桜子に馴染んできた。‥逆に、それ位時間がかかる。俺みたいに魔法で無理やり桜子の意識を乗っ取っているんじゃない。いうならば、俺は、背中に張ったシップみたいなものだ。外に張ったものだけど、中に利く。手が届きにくくて、自分では外しにくい。俺の場合は外からも見えない様にしているから‥透明なシップって思ってもらったらいい。
だけど、カツラギやフミカは違う。異物として排除されない様に気をつけながら、徐々に馴染ませた。今更、別の身体を探して、一から‥じゃ間に合わない。
「私は、‥覚悟を決めました。どうするか一緒に考えましょう。‥相手の方は‥私たちがどうすることも出来ません。‥手を貸すこと位はできますが、最終的に決めるのは、桜子です。
核は、サカマキが用意するのですよね。核の用意は、大丈夫ですか? 」
‥説得は諦めた。‥サカマキがどうしてもするっていうんだったら、私も出来る限りのことをするまでです。‥せめて、桜子にピッタリの相手を探してみせます。
さっきから(あいかわらず)無言のフミカも頷いた。顔がいつも以上に真剣だ。
‥恋愛感情云々は問題はないが‥結婚を考えたこともない男(と、恋愛に興味が全くない女)が「結婚相手」を探すなんて‥奇妙な話です。正直、‥自信はないです。
でも、‥相性がいいってのは、分かると思うんです。それこそ、「経験と実績」ですね。サカマキにあるわけがないから、ここは私が主導権を握る他無いと思います。(フミカも、サカマキもあてにはなりません。‥きっと、桜子も同じような感じでしょう‥彼女の場合は単純に経験不足ですね。意識がまだ小学生並でしょうし)
それは、私が担当させていただきます。
サカマキはサカマキの仕事を頑張ってもらいたい。
私がそういうと、サカマキは神妙な顔で頷いた。
「ああ」
サカマキは、自分の仕事について、しっかり責任を持つタイプです。途中経過についても、手を抜かない。「終わりよければ‥」タイプじゃないんです。慎重派の彼にとって、ぶっつけ本番なんて以ての外なんです。なんとかなるさ、なんて楽観的な言葉を彼から聞いたことはありません。
「問題は‥核を入れる‥時期とタイミングと、方法だ」
さっきから、独り言は物騒ですけど‥。
「生々しい話になってくるな‥」
「カツラギとフミカ自身を核にするから、‥失敗は許されない。しかも、‥核にしている時間が長すぎてもいけないから‥核でいる時間が長すぎると、人格が壊される恐れがある。子宮内や産道ってのは、虎視眈々と「記憶の初期化」を狙ってくるからな。‥そうだ、その対策も取らなくちゃな‥。
‥まあ、とにかく、あらかじめ子宮内に入れておいて、いつあるか分からない性交を待つのは、得策じゃない‥」
排出されても困るしな。
とも。
‥なんだろ。
マッドなサイエンスだ‥。
性交って‥。色っぽさがゼロどころか、‥グロくすら聞こえる‥。
そんなことを思いながら顔を青くしていると、
サカマキは、一際真剣な顔をして
「スル直前。これだな」
言った。
どれだよ。
「ホントは、直接イレタ方がいいんだけど、桜子は嫌がるだろうから‥カプセルタイプの魔法にして、口から飲めるようにしよう。飲んで身体に入れたら、‥魔法で転移」
‥直接イレル。
まあな、確かに、あっち(※ サカマキたちの母国)では、出産を希望するカップルがヤル前に、パートナーがイレルな。‥相当の信頼関係が無いと、‥無いわな。‥サカマキが桜子に‥。無い。いくら、指で押し込むといっても、無い。
「核が、卵巣に入る様にだけプログラミングしておけば、擬態の魔法で核は卵子として排卵されるから、後は問題ない。‥やっぱりイレル方が楽だな‥、なに‥座薬だと思えば‥ちょっと場所は違うようだが‥」
‥絶対に嫌だろ‥。
気が重くなって来た。
恋愛感情云々の前に、‥お前、人を実験動物扱いするの‥ヤメロ‥。
さっきから、出産の話をしているわけだが‥
「桜子には、まだ相手もいないわけだよね? ‥まずはそのことからじゃない? 」
そればっかりは、ここで部外者が集まって相談していてもどうしようもないことだ。
桜子と、相手の問題なのだ。
「一生を共に生きたいって思う相手を見つけるのは‥大変な話だと思うよ? 出産は大変だし、その子供を育てていくのも大変だ。環境やら金銭的な問題やら、愛情だけではどうしようもない問題が発生する」
‥ただ、「子供の将来」に責任を持つ必要は、今回は無いから、ましって私は思うし、サカマキもそう考えているだろう。
「カツラギもフミカも、勝手に大きく成れるだろ? 」
案の定、サカマキがきょとんとした顔して、首を傾げた。
だけど
人の子として、人から産まれて来るんだ。
‥親としてはそういうわけにはいかないだろう。
それに
「流石に赤ん坊の内は無理だと思うけど‥。しかも、赤ん坊には何も出来ないよ? 自分で食事をとることすらできないと思うけど‥」
‥流石に、ね。
赤ん坊の内から自我とか持ってそうだけど、‥物理的に無理だろう。
しかし‥赤ちゃんプレイとか‥興味ないなあ~。そういうの‥全然、興味ないなあ~いや‥でも、なかなかできる体験でもないしなあ‥。初めてのことってのは、やっぱりなんでも体験してみたいっていうか‥。
「そう‥だな」
サカマキが一瞬、今気づいた、って顔をする。
「そうだよな‥生まれて、三年位は流石に自分でなんとか‥は無理だよな‥」
私のちょっと邪まな感情とか、‥顔には出て無いだろうから、きっとサカマキは分からない。
真剣な顔で悩み始めた。
‥いい傾向だから、このままもう少し悩んでもらおうと思う。
「しかも‥さっきから、出産出産って軽々しく言ってるけど、出産をするには、デキる原因になることをしなきゃならないんだ。日常生活とは全くかけ離れた行為だ。‥あの行為がデキる相手かってのが、先ず一番に考えなきゃいけないことだと思う」
さらに真剣な口調でサカマキに話しかける。
「好きなら出来るわけじゃないってこと? 」
サカマキが首を傾げる。
‥そうじゃないんだよな~。サカマキは、私のこと節操なしで、「来る者拒まず」だと思ってるだろうけど‥来た者を、自分好みにしてからじゃないと、やってないんだよね~。そう節操なしでもないんだよね~。
※結局やる辺りが、節操なし。
‥後が面倒だからこの頃は「新規開拓」はしてないし。
馴染みで、後腐れないところで納めてます。私、人間関係に時間を割くの趣味じゃないんで。
「好きにも種類があるってこと。例えば、私はサカマキのこと好きだって思うけど、それは、友達としての好きだ。私はサカマキとアレをしようとは絶対に思わない」
サカマキ相手に言葉を選んでも仕方が無いから、事実だけをずばっという。
「俺とは子供を作ろうと思わない、ってことだな」
サカマキもそれは理解できたらしく、私の顔を見てしっかりと頷く。
「まあ‥そうね。だけど、アララキは‥アララキのサカマキに対する「好き」は私の好きとは違う」
‥さて、これが分かるか、だ。
「違う? 」
ほら、首を傾げた‥。
「あのさ‥アララキのお前に対する想い‥サカマキは‥恋愛感情だって‥分かってた? あの行為‥ねちっこい? いや、しつこい? あの接吻が‥恋人にするものだって‥分かってた? 」
ああ、言い間違えた。
‥分かってるわけがない。
私はなんて、冷たい友達なのだろう。
分かるわけがないことを、友達に責める様に聞いている‥。
サカマキが首を振る。
「‥正直、‥分かってなかった。アララキは精神的に年上の俺に甘えてるだけなんだろうって思ってた。でも、子が親を慕う‥親が子を愛する想いとは違うって、桜子の両親を見ていて分かったから、‥じゃあ、アララキは俺のことをどう思っているんだろうって。「愛してる」ってどんな意味の「愛」なのだろうって。考えたりマンガ(美咲に押し付けられた)を読んだりして、あれが恋愛感情っていうものだろうか? って、分かった。‥分かったからといって、「そうなのか、アララキは俺の事好きだったのか」としか思わなかったが‥」
そう言ったサカマキの顔が寂しそうで
悲しそうで‥。
「‥嫌だった? 」
カツラギは、サカマキの顔を覗き込むように聞いた。
サカマキが首を振る。「嫌だったんじゃない」って呟き
「ただ、その時のアララキの気持ちを想像して‥なんて俺は今まで酷い態度を取って来たんだろうって‥」
‥「仕方が無いこと」とはいえ‥。だ。
‥そういう感情が分からない。‥呪いで「理解できない」サカマキだから。‥分かってやれっていうのは、無理なんだろう。
それは分かる。分かるが‥。
アララキも可哀想だけど、‥同じくらいサカマキも可哀想だ。
「きっと、桜子も今は‥そういう恋愛感情は分からないし‥考えられないだろう。でも、この先きっと桜子は理解できる‥そういう感情になる日が来る。‥それが普通のことだから」
「‥人間はそんなに単純じゃないですよ‥」
‥貴方も、「普通の」人間だ。
人間ではないけど、‥何もかもが、普通じゃないって自分で悲観してしまって欲しくない。
恋だって、「絶対できないもの」ってあきらめて欲しくない。
‥せめて
俺も出来ればいいな。
って、
恋もいいもんだな。
って思って欲しい。
初めからないもの、‥自分には関係が無い物って思わないで欲しい。
「‥まあ、でもアララキは‥気にしないかも。‥サカマキが恋愛を理解できないってこと。「二人分、僕がサカマキを愛するから問題ない」とかいいそう。イイ笑顔で」
いいそう‥っていうか、100%言うな‥。
そういう確信がある。
ここに居ない、もう一人の友の顔を思い出し、くすり、と笑った。
「‥それは、確かに言いそうだな。流石、カツラギ、俺よりアララキとの付き合いが長いだけあるな」
サカマキも笑う。困った様な、でも優しい顔だった。
「そんなに濃いい付き合いはしてませんけどね」
サカマキの言った「アララキとの付き合いの長さ」の言葉に、私はちょっと眉を寄せた。
‥腐れ縁だとは思うけど、それだけだ。
まあ、凄い奴だとは思う。私が賢者だって分かっても、サカマキが「高位魔法使い」だって分かっても、アララキは変わらなかった。
ほんの少しも、だ。
まさに「ふうん、それが何か? 」って感じだった。
私は‥あの時のアララキの何でも飲み込んじゃうような漆黒の瞳を見て‥底知れない様な恐怖と‥でも、総てを受け止めてくれるような妙な安心感を覚えたのを‥今更のように思い出した。
せめて、ずっとあなたを守っていく。
だから‥
私をサカマキの傍に居させてください‥。
サカマキの友達でいさせてください‥。
‥貴女にとっては、‥私が貴女を守る位では済まないことだとは、わかっていますが‥どうか‥。
サカマキの闇は、‥こんなにも深い。
人に恋愛感情を持てないサカマキは、結婚も出産もただの「行為」にしか思えない。
桜子は‥子供を産む道具じゃない。
‥だのに‥。
だけど、‥まさに道具としてこの世に産み捨てられたサカマキに‥そのことは理解できないし、そんなサカマキを非難する意味は‥ない。
意味がないから、しなくてもいいって風にはならないとは思うけど‥。
気が付けばフミカも傍に来て、泣いていた。
‥貴女‥泣くこともあるんですね。
似合いませんよ‥。
カツラギとフミカが寄り添って泣いているのを、サカマキは見ないふりをした。
‥これは、俺の我儘だ。最初で最後の我儘だ。
カツラギやフミカが望んだわけではない。いらないお世話だ、桜子に迷惑をかけるなって言われるだろう‥わかってるから、その話をあの二人にはしてこなかった。だけど、当たり前に、あの二人は知っていた。
そして、受け入れようとして‥だけど、到底受け入れられなくて泣いている。
自分たちの為に、他の誰かの一生を決めさせようと俺がしている‥。
そして、その原因となっているのが‥自分たちであること‥。
それは到底、許されることではない。
だけど、二人はそれを受け入れようとしてくれている。
‥俺のために。
だけど、やっぱり、辛くて‥自分たちが許せなくて‥泣いている。
カツラギとフミカを泣かせたかったわけではない。
俺の我が儘のせいで‥彼らはずっとこの先もそんな罪悪感を持ち続けるのだろう。
桜子にも、迷惑をかける。
一生モノの迷惑だ。(※迷惑では済まない)
分かってる。
でも、‥俺は時間が惜しい。
タイムリミットは迫っているんだ。
もう、6年目になろうとしている。
肉体のない霊体が6年、‥後3年くらいは猶予はあるだろう。‥それ位は、俺が何とかする。だけど、‥5年はもたない。
時間がない。
6年かけて、カツラギとフミカの霊体はやっと桜子に馴染んできた。‥逆に、それ位時間がかかる。俺みたいに魔法で無理やり桜子の意識を乗っ取っているんじゃない。いうならば、俺は、背中に張ったシップみたいなものだ。外に張ったものだけど、中に利く。手が届きにくくて、自分では外しにくい。俺の場合は外からも見えない様にしているから‥透明なシップって思ってもらったらいい。
だけど、カツラギやフミカは違う。異物として排除されない様に気をつけながら、徐々に馴染ませた。今更、別の身体を探して、一から‥じゃ間に合わない。
「私は、‥覚悟を決めました。どうするか一緒に考えましょう。‥相手の方は‥私たちがどうすることも出来ません。‥手を貸すこと位はできますが、最終的に決めるのは、桜子です。
核は、サカマキが用意するのですよね。核の用意は、大丈夫ですか? 」
‥説得は諦めた。‥サカマキがどうしてもするっていうんだったら、私も出来る限りのことをするまでです。‥せめて、桜子にピッタリの相手を探してみせます。
さっきから(あいかわらず)無言のフミカも頷いた。顔がいつも以上に真剣だ。
‥恋愛感情云々は問題はないが‥結婚を考えたこともない男(と、恋愛に興味が全くない女)が「結婚相手」を探すなんて‥奇妙な話です。正直、‥自信はないです。
でも、‥相性がいいってのは、分かると思うんです。それこそ、「経験と実績」ですね。サカマキにあるわけがないから、ここは私が主導権を握る他無いと思います。(フミカも、サカマキもあてにはなりません。‥きっと、桜子も同じような感じでしょう‥彼女の場合は単純に経験不足ですね。意識がまだ小学生並でしょうし)
それは、私が担当させていただきます。
サカマキはサカマキの仕事を頑張ってもらいたい。
私がそういうと、サカマキは神妙な顔で頷いた。
「ああ」
サカマキは、自分の仕事について、しっかり責任を持つタイプです。途中経過についても、手を抜かない。「終わりよければ‥」タイプじゃないんです。慎重派の彼にとって、ぶっつけ本番なんて以ての外なんです。なんとかなるさ、なんて楽観的な言葉を彼から聞いたことはありません。
「問題は‥核を入れる‥時期とタイミングと、方法だ」
さっきから、独り言は物騒ですけど‥。
「生々しい話になってくるな‥」
「カツラギとフミカ自身を核にするから、‥失敗は許されない。しかも、‥核にしている時間が長すぎてもいけないから‥核でいる時間が長すぎると、人格が壊される恐れがある。子宮内や産道ってのは、虎視眈々と「記憶の初期化」を狙ってくるからな。‥そうだ、その対策も取らなくちゃな‥。
‥まあ、とにかく、あらかじめ子宮内に入れておいて、いつあるか分からない性交を待つのは、得策じゃない‥」
排出されても困るしな。
とも。
‥なんだろ。
マッドなサイエンスだ‥。
性交って‥。色っぽさがゼロどころか、‥グロくすら聞こえる‥。
そんなことを思いながら顔を青くしていると、
サカマキは、一際真剣な顔をして
「スル直前。これだな」
言った。
どれだよ。
「ホントは、直接イレタ方がいいんだけど、桜子は嫌がるだろうから‥カプセルタイプの魔法にして、口から飲めるようにしよう。飲んで身体に入れたら、‥魔法で転移」
‥直接イレル。
まあな、確かに、あっち(※ サカマキたちの母国)では、出産を希望するカップルがヤル前に、パートナーがイレルな。‥相当の信頼関係が無いと、‥無いわな。‥サカマキが桜子に‥。無い。いくら、指で押し込むといっても、無い。
「核が、卵巣に入る様にだけプログラミングしておけば、擬態の魔法で核は卵子として排卵されるから、後は問題ない。‥やっぱりイレル方が楽だな‥、なに‥座薬だと思えば‥ちょっと場所は違うようだが‥」
‥絶対に嫌だろ‥。
気が重くなって来た。
恋愛感情云々の前に、‥お前、人を実験動物扱いするの‥ヤメロ‥。
さっきから、出産の話をしているわけだが‥
「桜子には、まだ相手もいないわけだよね? ‥まずはそのことからじゃない? 」
そればっかりは、ここで部外者が集まって相談していてもどうしようもないことだ。
桜子と、相手の問題なのだ。
「一生を共に生きたいって思う相手を見つけるのは‥大変な話だと思うよ? 出産は大変だし、その子供を育てていくのも大変だ。環境やら金銭的な問題やら、愛情だけではどうしようもない問題が発生する」
‥ただ、「子供の将来」に責任を持つ必要は、今回は無いから、ましって私は思うし、サカマキもそう考えているだろう。
「カツラギもフミカも、勝手に大きく成れるだろ? 」
案の定、サカマキがきょとんとした顔して、首を傾げた。
だけど
人の子として、人から産まれて来るんだ。
‥親としてはそういうわけにはいかないだろう。
それに
「流石に赤ん坊の内は無理だと思うけど‥。しかも、赤ん坊には何も出来ないよ? 自分で食事をとることすらできないと思うけど‥」
‥流石に、ね。
赤ん坊の内から自我とか持ってそうだけど、‥物理的に無理だろう。
しかし‥赤ちゃんプレイとか‥興味ないなあ~。そういうの‥全然、興味ないなあ~いや‥でも、なかなかできる体験でもないしなあ‥。初めてのことってのは、やっぱりなんでも体験してみたいっていうか‥。
「そう‥だな」
サカマキが一瞬、今気づいた、って顔をする。
「そうだよな‥生まれて、三年位は流石に自分でなんとか‥は無理だよな‥」
私のちょっと邪まな感情とか、‥顔には出て無いだろうから、きっとサカマキは分からない。
真剣な顔で悩み始めた。
‥いい傾向だから、このままもう少し悩んでもらおうと思う。
「しかも‥さっきから、出産出産って軽々しく言ってるけど、出産をするには、デキる原因になることをしなきゃならないんだ。日常生活とは全くかけ離れた行為だ。‥あの行為がデキる相手かってのが、先ず一番に考えなきゃいけないことだと思う」
さらに真剣な口調でサカマキに話しかける。
「好きなら出来るわけじゃないってこと? 」
サカマキが首を傾げる。
‥そうじゃないんだよな~。サカマキは、私のこと節操なしで、「来る者拒まず」だと思ってるだろうけど‥来た者を、自分好みにしてからじゃないと、やってないんだよね~。そう節操なしでもないんだよね~。
※結局やる辺りが、節操なし。
‥後が面倒だからこの頃は「新規開拓」はしてないし。
馴染みで、後腐れないところで納めてます。私、人間関係に時間を割くの趣味じゃないんで。
「好きにも種類があるってこと。例えば、私はサカマキのこと好きだって思うけど、それは、友達としての好きだ。私はサカマキとアレをしようとは絶対に思わない」
サカマキ相手に言葉を選んでも仕方が無いから、事実だけをずばっという。
「俺とは子供を作ろうと思わない、ってことだな」
サカマキもそれは理解できたらしく、私の顔を見てしっかりと頷く。
「まあ‥そうね。だけど、アララキは‥アララキのサカマキに対する「好き」は私の好きとは違う」
‥さて、これが分かるか、だ。
「違う? 」
ほら、首を傾げた‥。
「あのさ‥アララキのお前に対する想い‥サカマキは‥恋愛感情だって‥分かってた? あの行為‥ねちっこい? いや、しつこい? あの接吻が‥恋人にするものだって‥分かってた? 」
ああ、言い間違えた。
‥分かってるわけがない。
私はなんて、冷たい友達なのだろう。
分かるわけがないことを、友達に責める様に聞いている‥。
サカマキが首を振る。
「‥正直、‥分かってなかった。アララキは精神的に年上の俺に甘えてるだけなんだろうって思ってた。でも、子が親を慕う‥親が子を愛する想いとは違うって、桜子の両親を見ていて分かったから、‥じゃあ、アララキは俺のことをどう思っているんだろうって。「愛してる」ってどんな意味の「愛」なのだろうって。考えたりマンガ(美咲に押し付けられた)を読んだりして、あれが恋愛感情っていうものだろうか? って、分かった。‥分かったからといって、「そうなのか、アララキは俺の事好きだったのか」としか思わなかったが‥」
そう言ったサカマキの顔が寂しそうで
悲しそうで‥。
「‥嫌だった? 」
カツラギは、サカマキの顔を覗き込むように聞いた。
サカマキが首を振る。「嫌だったんじゃない」って呟き
「ただ、その時のアララキの気持ちを想像して‥なんて俺は今まで酷い態度を取って来たんだろうって‥」
‥「仕方が無いこと」とはいえ‥。だ。
‥そういう感情が分からない。‥呪いで「理解できない」サカマキだから。‥分かってやれっていうのは、無理なんだろう。
それは分かる。分かるが‥。
アララキも可哀想だけど、‥同じくらいサカマキも可哀想だ。
「きっと、桜子も今は‥そういう恋愛感情は分からないし‥考えられないだろう。でも、この先きっと桜子は理解できる‥そういう感情になる日が来る。‥それが普通のことだから」
「‥人間はそんなに単純じゃないですよ‥」
‥貴方も、「普通の」人間だ。
人間ではないけど、‥何もかもが、普通じゃないって自分で悲観してしまって欲しくない。
恋だって、「絶対できないもの」ってあきらめて欲しくない。
‥せめて
俺も出来ればいいな。
って、
恋もいいもんだな。
って思って欲しい。
初めからないもの、‥自分には関係が無い物って思わないで欲しい。
「‥まあ、でもアララキは‥気にしないかも。‥サカマキが恋愛を理解できないってこと。「二人分、僕がサカマキを愛するから問題ない」とかいいそう。イイ笑顔で」
いいそう‥っていうか、100%言うな‥。
そういう確信がある。
ここに居ない、もう一人の友の顔を思い出し、くすり、と笑った。
「‥それは、確かに言いそうだな。流石、カツラギ、俺よりアララキとの付き合いが長いだけあるな」
サカマキも笑う。困った様な、でも優しい顔だった。
「そんなに濃いい付き合いはしてませんけどね」
サカマキの言った「アララキとの付き合いの長さ」の言葉に、私はちょっと眉を寄せた。
‥腐れ縁だとは思うけど、それだけだ。
まあ、凄い奴だとは思う。私が賢者だって分かっても、サカマキが「高位魔法使い」だって分かっても、アララキは変わらなかった。
ほんの少しも、だ。
まさに「ふうん、それが何か? 」って感じだった。
私は‥あの時のアララキの何でも飲み込んじゃうような漆黒の瞳を見て‥底知れない様な恐怖と‥でも、総てを受け止めてくれるような妙な安心感を覚えたのを‥今更のように思い出した。
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