Happy nation

文月

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三章 高遠 桜子

2.引継ぎ資料が‥異次元級の面白さなんです。

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(桜子side)


 さて、私は今例の大学ノートを僅かにうきうきとしながら開いている。
 自分が知らない自分史って、そう読めるものじゃない。
 5年の間の私は一体どんなだっただろうか。
 期待しながら、ノートを開く。
 そこに気負いなんて、勿論ない。日記という形で書かれた、サカマキさんの5年間の戸惑いと奮闘の日々の記録だ。それがどんなに忘備録程度のメモの羅列でも、私は笑って受け入れよう、と何故だが「おねーさんぶった」私がそこには、確かに居た。

 ‥なんで私はあんなに上から目線‥ってか「おねーさん」ぶれたんだろう。ってか、‥サカマキさんが子供(っていうか、初心者)なのは間違いない。なんせ、「桜子歴」5年なんだから。‥そもそも、異世界人的には何歳なんだろうか? 

 というか‥サカマキさんは、女だとか男だとかいった以前に、‥本当に人間なんだろうか?
 異世界では、人間の常識的なものも全然違うんだろうか??
 ‥恐るべし異世界。


 ‥その『日記』は、「高遠 桜子」という、「面白びっくり人間」の、普通じゃあ絶対にない伝記だった。


 その記録は、案外癖のない字で書かれていた。
 書き方も業務日報っていう程、事務的じゃない。(そもそも頭は小学生のままの私は業務日報なんてしらないけど、何となくそういう感じってことで‥)線が細く小さめで‥何となく私の字に似ている。きっと、私のノートを見ながら文字を練習したのだろう。
 きっと、それまで見たこともない文字だっただろう。
 日本語って海外の人からしたら難しめだって、何かで聞いた気がする。漢字もあるし、平仮名もカタカナもあるし。
 ‥私の記憶を覚えることに加え、文字や言葉まで‥。サカマキさんの苦労はどんなだったろうかって、胸がきゅってなる。
 それにしても‥もっと綺麗な字で書いておけばよかった。恥ずかしい‥。普段、見られること前提でなんか書いてない。いや、私だって書こうと思ったらもっときれいな字も書ける‥。‥っていっても仕方ないか‥。いろいろモヤモヤして中々日記の内容に移れない。‥いや、諦めよう。
 ぺらり、とページをめくる。
 決して綺麗ではないが、読みやすい。‥そして、やっぱりどうしても女子っぽくない。
 ‥私と似ているが、私の字より若干丸みが無いのは、サカマキさんの性格が字に出ているんだろう。
 字は体を表すっていう。
 そう思うと、丸みのない「私に似せた字」は、サカマキさんの真面目な頑張り屋さんな性格が現れているように思えた。

「5月11日。あ、これ連休明けて直ぐ。‥私、連休中に事故に遭ったんだったっけ。だから、‥起きて直ぐぐらいだね」

『 5月11日

 桜子の担任であるらしい男が見舞いに来てくれた。
 顔色が悪そうな、ひ弱そうな老人だ。名前は日下先生というらしい。健康そうではないが、誠実そうで人はよさそうだ。
 こっちの世界の学校では、「クラス」の35人が全員同じ場所に集められて同じ教育を受けるらしい。そして、教える先生は、この「日下先生」一人だという! 信じられない。こんなに細い身体にそれだけの体力があることがにわかに信じがたい。しかも、一日中、だ。6時間!? 朝から夕方まで‥。‥私はとてもじゃないが出来ない。‥自分の仕事をしているならまだしも、‥年端もいかない子供に教育を施すのだ。‥並大抵ならぬ苦労がいるであろう。(顔色が悪いのも頷ける。きっと毎日無理を続けているのだろう。本当に頭が下がる)
 ‥せめて困らせない様にしよう。と心に誓った。
 しかし、このくにの「学校」とういうのは、‥凄い。
 寄せ書きという、一枚の紙にクラスの仲間たちのメッセージを書き溜めたものを貰った。
 一番の友達は「美佳さん」だと認識されている様だが、‥私には確認する術がない。‥あっているのだろうか? 』

「あってる。美佳ちゃんが幼稚園からの一番の友達! 」
 桜子が日記の問いかけに返事する。

『 まだ、名前と顔が一致しない。
 まずはそれから覚えようと思う。 』

「‥苦労かけたなあ‥」
 桜子はしみじみと呟いた。
 そして、ページを読み進める。
 まだ入院中らしい、両親から聞いたことの忘備録がメモされている。日下先生や、美佳たちの名前が何度も出て来る。お見舞いに何度も来てくれたらしい。

「結構、美佳ちゃんたちがお見舞いに来てくれてるみたい。‥美佳ちゃんたち、私の違和感に気付かなかったかな」
 ‥でもまあ、記憶喪失だからなあ。変わったのも仕方が無いかって感じになるのかなあ。
 でも、実は別人。
 ‥分からないでいて欲しいけど、‥結構複雑。

 そして、『桜子』(←サカマキin)は、5月20日に退院したらしい。記憶喪失ではあったが、それ以外の外傷は幸い軽く、通院での様子見と言うことになった様だ。

 それ以降は、忙しかったから書く時間がなかったのか、特にあまり変わったことがなかったのか、メモ書き程度しか書かれていない。掃除当番や給食当番なんかの方法が忘備録程度に書かれているだけのページもあった。それでも、毎日何かしら書かれた日記に、彼の真面目で誠実な性格を見た。

 
『 6月20日

 明日からプール開きだという。
 プールというのは、人がつくった泳ぎを特訓する為の訓練所であるらしい。
 文官の学校だが、兵士のように泳法の授業があるというのが素晴らしい。 』

「なんだ? 文官の学校って‥しかも、兵士」

『 今まで、泳いだことは無かったので、‥焦った。ここでも「泳ぎ方忘れちゃった」って言わねばならんと思っていたら、
「相変わらず桜子は金槌ね。‥せっかく助かった命、今度は水難事故で失う様な事無いようになさいね」
 と、同じクラスの女子の恵子に言われた。
 恵子は、桜子が気になるらしく、よく声をかけてくれる。 』

「‥恵子、どこの悪役令嬢だ。言い方‥言い方‥! 」
 きっとニヤニヤ笑いながら言ったに違いない‥。いや、悪役令嬢だったら高笑いして言うだろう。(※恵子は悪役令嬢ではない)

『 ‥心配してくれる友がいるのは、素晴らしい。
 桜子はよい友達に恵まれておるな。 』

「いやいやいや。どう考えても、嫌味だから‥! 」
 ‥恵子め‥。記憶喪失者(なんだ記憶喪失者って‥。そんな言葉あるか)にも容赦ないな‥。
 そして、その嫌味に気付かないサカマキさん‥。きっと悔しそうな顔なんてしてないだろう。悔しがらせようとした相手が悔しがらない。‥恵子の悔しそうな顔が目に浮かぶ‥。

『 だが、この機会に泳ぎを覚えておくことにした。
 「お母さん」が、
「せっかく桜子がやる気になったんだから、夏休みのスイミングの夏期講習、「夏、地獄の猛特訓」に行きましょう! 」
 と言ってくださった。
 毎日休憩をはさんで3時間、朝昼二回。それを一か月続けるという特訓らしい。お母さんには感謝をしてもしきれない。お礼を言ったら
「桜子! いいのよ‥! 」
 と抱きしめて下さった。
 ‥お母さんは桜子のものだのに、悪いことをした 。』

「‥お母さん。確実に嬉しそう。スパルタ特訓、私なら絶対受けない。思いついて押し付けた無理難題を何の文句もなく実行する「私」お母さんきっと感激だ‥」
 ‥親孝行した。
 知らない間に。
 ‥ってか、どんな講習だ。「夏、地獄の猛特訓」って、名前からしてヤバい。
「紙が挟まってる。なになに。最終的には、遠泳目指して、とにかく泳いで泳いで泳ぎつくす。4泳法の取得は勿論の事、着衣水泳も取り入れる。初日は、水に親しむため、顔付、水中じゃんけんから始め、その後、バタ足‥うん。普通っぽい。だけど、時間がえげつない。一日午前3時間、午後3時間ってなんじゃい。夏の予定表も挟まってるけど、朝の散歩。ラジオ体操、スイミング、昼食、スイミング、塾。
 なんじゃこの詰め込み」
 ‥そうか、勉強してくれって約束したからな。
「全国小学生模試、二桁の順位って‥ひくわ~。見たことないわ~。‥私、絶対できないよ、こんなの‥」
 なんか涙のあとついてるけど‥めっちゃ悔しかったんだ‥凄い反省点なんかがメモってある。
 ‥こんな私、いない。

『 8月2日~

 林間学校。
夏の特訓のお陰で、泳げる様になり、恵子にも「‥そう。貴女にも、人様に迷惑をかけてたって自覚あったのね」と褒められた。
恵子は、ツンデレという奴なんだろう。この前、本で読んだ。(←ホントはカツラギに吹き込まれたフミカから聞いた) 』

「‥褒められてない。ツンデレでもきっと無い‥」
 ‥サカマキさん、スーパーポジティブ。

『 林間学校とやらは、課外授業といい、座学では学べない知識を得るのが目的らしい。山登りで体力促進をはかったり、野外活動という、野外での調理実習や、夜間移動訓練などで、非常時においても動揺しない強靭な精神を鍛えることも訓練に練り込んであるのが素晴らしい。つまり、野営の訓練なのであろう』

「いや、訓練って‥。自衛隊とかじゃないから。‥ってか、夜間移動訓練ってもしかして、肝試しか? 驚いてくれなくて、先生さぞ寂しかっただろう‥。それに、野営って‥。ちゃんと宿舎に泊まったはずだろ? いや、泊ったよね? 」
 ※勿論泊りました。

『 しかし、この世界は本当に平和だ。
 こんな山の中だのに、魔獣の一匹、野生動物の一匹出ない。
 ‥身体を鍛えていない者が多いのは、この環境のせいだろうが、「もしもの時」の為に日頃から訓練は欠かせてはいけない。
 とはいえ、人口が多く、場所が狭いこの国では訓練の場所すらない。訓練がしたければ、この前の水泳のように先生のいる「スクール」に通うことになるようだ。この前、空手の教室を見学させてもらい、お母さんが
「護身術にいいんじゃない? 」
 とおっしゃって、習わせていただくことになった。(※日記には書いていないが、「この道場を見たい、行きたい通いたい」と言ったのは、フミカ。因みに、空手を習っている時は、フミカが表に出て来ていた。ほんの数時間位だったらそんなことも出来るようになった。‥カツラギの知識欲と同じ感じで、フミカは格闘技に関する愛情が強すぎる) 』

「空手‥。いや、怖いから。‥私そういうキャラじゃないから‥。‥今はもう流石に通ってないよね? もう、あれから5年たったってことは、‥中学三年生とかかな。あ、もしかして高校生?? 」
 ‥高校生になって、まだ習ってるとかってないよね??

『 空手は、接近戦に役に立つ。今度の大会に先生がエントリーしてくれた。試合では、自分のレベルを確認し、知らない相手と試合をすることによって、自分の可能性を広げたりすることを期待している。他の人を見て、技を学ぶことも出来よう。楽しみだ』

『この前、空手の大会で優勝した。(フミカin)』

「何やってる!? 私!? ってか、私じゃない‥ええと‥サカマキさん。アナタ、一体、何者ですか!? 」
 ‥あんなに綺麗可愛いのに‥。
 ってか、
「こんなの‥私、戻れる気がしないんですけど~!! 」

『 気象予報士の試験に合格した。(カツラギin)』
『 英検準二級合格(サカマキの実績) 』

「やるか~!! 小学生が‥! 」

 あ、また意識が‥。

 ‥その後の記憶が無いのは、‥多分ショックのあまり気絶したんであって、寝落ちしたわけではない。と思う。‥いや、‥ショックで寝落ちしたのかな。
 なんにせよ、‥その後の記憶はない。
 そんなこんなで、ショック受けたりしながら、大学ノート4冊分の「日報」を読み終えたるまでには、一週間を要した。やたら時間がかかったのは、‥ショックで気絶したり‥いや、‥起きたばっかりで疲れやすかったからだろう。
 その間、サカマキさんが二度ほど覗きに来てくれただろうか。
 相変わらず綺麗可愛いお顔を見て、なんか遠い目をしちゃった。
 ‥このクールビューティーがあんな筋脳(フミカin)だったり、ガリ勉(カツラギin)だったり‥。案外天然(全員天然)だったり‥。
 恵子とは、ライバル対決の末(? )(←恵子が一方的に挑んできているだけ) 後に、親友的なものになっていたり。
 ‥わかんないもんだなあ。
 ってか、‥私は

 ‥「私」が一番分からないことになってる‥。
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