Happy nation

文月

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二章 世界の前提と、誤算。

8.妙に悟ったサカマキとサカマキに欠損した感情

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 夜、あたりがすっかり暗くなり、周りのみんなが眠りについた時間。フミカはなぜか眠れずに、ただ周りの景色をぼんやりと見つめていた。

 物音ひとつ聞こえない。
 ここは‥静かだ。

 この身体の本当の主の桜子は、相変わらず眠ったままだ。
 サカマキが、我らに話しかけて来ることは、ない。
 我らが話しかけたことに頷いたり、必要があれば答えることもあるが、我らに話しかけて来ることってのは、そういえばない。
 そもそも、毎日忙しそうだな。それに、‥余裕がなさそうだ。ずっと、緊張してる。そりゃそうだ、他人になりすませてるのだ。一時も気を抜けないだろう。異世界の人間だし、性別も違うし、‥知り合いでもない。もう、分からないことづくめだ。

 サカマキの‥というか桜子のだな‥目を通して外を見ると、サカマキはよくいろんな勉強をしている。アルバムだので桜子のことを覚えたり、教科書を順番に覚えたり。
 桜子の目を使って外の世界を見るっていうのは、‥体力を使うからそうやらないんだけど、(※カツラギは、知的好奇心を体力に変換させているのかよくやっている。カツラギは普段はインドアのくせに体力がある)サカマキが起きているときはずっと勉強しているらしいってことは、気配で分かる。寝てると、ぷっつり気配が消えるから分かるんだ。‥初めは「あれ?! サカマキ居なくなった」ってびっくりしたものだ。

 今も、サカマキの気配はない。
 きっと眠っているのだろう。‥夜ぐらいゆっくり寝て、身体を休めて欲しい。


 サカマキは‥フミカが言うように、時々、本当に居なくなっている。
 本当に寝ているときもあるが、殆どは、違う。
 サカマキは桜子の身体を抜け出して(鳩の形で)図書館に行っていることを、カツラギやフミカには言っていない。(言ったら、絶対カツラギがついて行きたがるのが分かっているからだ)
 だけど、本体は別にあり、霊体だけで桜子のこころにシンクロさせているサカマキと違い、フミカとカツラギは霊体だけなのでは単体では動けないのだ。
 ‥そんなこと言ったら、きっとカツラギは怒るだろう。
 いや‥拗ねる、かな。
 とにかく、面倒くさいので言いたくないのだ。(だけど、そのことを、カツラギもフミカもまだ知らない)


「カツラギが賢者として、物知りなのも、だからか妙に悟ってるし冷めてるところがあるのは‥分からないでもないけど、サカマキもやたら悟ってるし、‥大概冷めてるよな‥」
 寝る前まで本を読んでいたサカマキが「看護師」に言われて本を置いて、電気が消え、サカマキの気配が消えるのを確認してから、フミカが言った。
 ゴロリとフミカに背を向けて横になっていたカツラギがちらりと顔だけでふりかえり
「熱くなれるものが‥感情が欠損してるからでしょ? 」
 さも興味なさそうに言った。
「熱くなれる感情? 」
 フミカが首を傾げる。
「愛です」
 ふ、とカツラギが鼻で笑う。
「‥我にもそれはないが」
「貴女のそれは、‥貴女の嗜好と情緒の欠如やら未成熟によるものでしょ? サカマキのは違いますよ。‥もともと欠損してるんです。生物としての生存本能を欠くためにわざわざ神が欠損させてるんです」
 ふふ、と今度は身体ごとフミカの方を向いて、だけど寝転んだ姿勢のまま、カツラギが言った。
 目を少し細めて笑うカツラギは知的で上品で、‥まさか、下半身にだらしないクズ寄りなタイプには見えない。
「なんで? 」
 コテンと首を傾げるフミカは、もともとの容姿の良さから、そりゃあ可愛らしく見えるんだけど、‥カツラギにとってフミカは、その口調と思想から、「筋脳」「武士」的分類で、恋愛の対象になり得ない。
 可愛くって、楽しくって、イージーで大人で、エロい子が遊び相手には最高。あ、でも、ひと時の遊びでも、バカはいや。バカは‥白けるじゃない? 知的な子で色っぽいのがいいんじゃないか。エロくても、バカっぽいっじゃ、ただ盛ってるだろ? って萎える。
 まあ、だけど、「好みのタイプ」じゃないから、こうして男女間の友情が実現してるんだから、それはいいことだ。
 ‥なんて、顔にも出してません。
 フミカも、流石にカツラギがそこまでクズだとは思ってません。
 カツラギは、ポーカーフェイス。そして、「知的・キレイ系イケメン」
「サカマキだけじゃなくって、高位魔法使いは‥神が必要に応じて発生させたコマだから、その意思や思想が他に‥他人に‥影響を及ぼすのは、神にとって都合が良くないから。だから、高位魔法使いってのは、皆が皆コミュ障で他とあまり関わりを持たないんだ」
 何でもないことのように言う。
 それに、他人も高位魔法使いには関わらないしね。と付け加える。
 カツラギの言葉に、フミカはちょっと驚いた顔をした後、‥
「個人の性格ではなく‥ってことか‥」
 まさか、DNAに埋め込まれた「プログラミング」だったとは‥。
 ちょっといたたまれない顔をした。
 自分の意志ではなく、‥コミュニケーション能力が神の意思で、ない。その理由が他人と必要以上に関わらせないため。‥何とも、下世話で狭量な神もいたものだ。

 ‥胸糞悪い。

「そう。使い捨てのコマが子孫を残すなんて神にとって、以ての外なんだろうね。
 だから‥高位魔法使いは、全員性欲が無かったと文献にあった」
 カツラギが付け加えたことは、正直、フミカにはどうでも良かったが、ちょっと思い当たることはあった。
 サカマキのアララキに対する態度、だ。
 アララキはどう考えても溺愛してるのに、‥サカマキはその感情に「気付いていない」ように見えている。
 もしや‥
「‥じゃあ、サカマキは「かまとと」ぶってるわけでも、アララキを弄んでいるわけでもないのか」
 ということになるまいか?
「そう」
 カツラギが頷いた。
 ‥そうだったんだ‥
 あれ、‥「お決まりの鈍感」じゃなかったのか(←なんの「お決まり」だ)
 もしくは
「‥すげぇ小悪魔なのかと思ってた」
 ‥あれだ、確信犯ってやつ。
「あいつにそんな器用なことが出来るか」
 カツラギがあからさまに「はあ? 」って呆れた様な声を出した。
「違いないな」
 はは‥。
 フミカが渇いた笑いを浮かべた。

 ‥性欲がない。
 ‥生物としての本能が初めから欠損してるって‥人道的に考えて‥どうだ。

 でも

「性欲はないってことは、子供が出来ないとは‥でも違わないか? 子孫を残されたくないなら、性欲云々じゃなく、生殖能力をなくすべきじゃないか? 」
 ‥性欲がなかったってさっきカツラギは言った。
 ‥生殖能力がなかった、ではなく、だ。
 でも、それだったら、‥高位魔法使いの方にその気がなくても、それこそ無理やりでも‥子孫を残す行為をすることは出来るってことではないか? それは、神の意に反してはいないのか? 
 それに、‥子ができたとしても、‥能力が一代限りで、子孫には受け継がれないなら問題は無いだろう。それがわかっていれば、無理にでも高位魔法使いとの間に子供を残そうなんて者は出なくなるだろう。
 だって、無理やり自分の嫌悪感と戦い高魔法使いとの間に「そういう行為」をするって目的は、高位魔法使いの能力が遺伝された子供を産む‥って目的だよね?

 あれは‥高位魔法使いが使う高等魔法は、高位魔法使いじゃないと出来ない。
 魔力が高く、特別だからこそできるもので、どんなに高位魔法使い自身がつきっきりで教えたからといって、魔力が低い者には使えないのだ。

 ほかの理由ってのは‥考えられない。
 だって、あいつは嫌いだけどあいつの顔は好き、あいつの顔した子供は欲しい‥
 っていうような「嫌いのレベル」どころじゃないんだもん。
 あいつとそういう行為するくらいなら、死んだほうがマシ‥レベルだもの。
 なのに、得るものはない‥っていうね?
 チートは一代限り。
 魔力の継承が叶わないんだったら、別に呪い持ち、コミュ障な高位魔法使いは恋愛の対象にもなり様はないし、普通に関わり合いたいものでもない。

 そもそも、高位魔法使いとの結婚は法律で禁止されてるし。
 そう、嫁としても婿としても「いい条件(=優良物件)」でもない。
 魔物が出れば、死を恐れず討伐に行く定めで、いつ死ぬか分からないし。国が給料を管理してて、自分の手元にお金を持ってないし(※使うときは、特別なカードを使う。これを使ったら、国に全部情報が即時に送られるから、逃亡を試みようとか考えても、無理。直ぐに迎えが来る。交通機関のお金を払う際は、その旨を国に申請しておく必要がある。まあ、コミュ障な高位魔法使いが一人で移動とか、出来ない)出歩くの嫌いな出不精だし、そもそもコミュ障だし。
 住むところは、三食付きの住居(これにかかるお金は、預かられている給料から引かれる)が国から支給されてるから、街にも出ない高位魔法使いは結局死ぬまで全然保管されたお金を使わないということは、結構多いらしい。
 高位魔法使いは、‥とてもじゃないけど、恋愛できるような環境にはいなかった。

 恋愛感情がない上に、周りも高位魔法使いの恋愛を望んでいなかった。
 もし、
 もの好きが現れて、高位魔法使いと恋に落ちて、
「一緒に国を出て暮らしましょう、逃げましょう」
 ってなったら一大事だ。
 そうまで行かなくても、気持ちが浮つき(モテない奴に彼女ができたら、きっと舞い上がっちゃうだろう)仕事に支障をきたし、‥国の利益を大幅に損ねかねない。魔物の侵略を許すことになるかも知れない。

 誰も、高位魔法使いの幸せなんて鼻っから考えたことはない。
 ただ、他に替えのきかない「道具」が逃げないように、
 国民の皆が嫌がるから住居の外に出ないようにする。
 そのための決まりだった。

 今までは、だ。

 アララキに王様が変わってから、これも変わった。
 高位魔法使いだって結婚が出来るようになった。
 ‥する者はいないけど。(コミュ障だし、性欲がないし。魔法が何より大事な魔術狂ばっかりだし)
 そして、希望すれば、給料を手渡しに変えるようにも出来るようになった。
 これについては、希望者が何人かあった。
 本が好き、甘いものが好き。
 コミュ障で、恋愛に無関係。だけど、‥高位魔法使いだって、好きなこと位ある。
 だけど、そのくらい。
 相変わらず、外出しようってものはそう多くなかった。

 高位魔法使いだって、こころはある。
 好き、はないが、いや、はある。
 自分にあからさまに嫌悪の表情を向ける者たちを見て、気分がいいわけがない。

「胸糞悪いなあ‥」

 だけど、‥アララキや、我‥
 「運命」に「関わらない」‥それに引っ張られない、特別なタイプの人間。
 物好きな変わり者‥。
 
 神は、我らが特別な人間だってことを知っているだろうか‥。
 きっと知っているのだろう。
 ‥もしかしたら、今回神は最初から、我らを殺す予定だったのかもしれない。
 自分の計画に逆らう存在は、確かに邪魔だから。
 
 でも、そういうんだったら、「そういう存在」の筆頭は、誰が見ても、アララキだ。
 そんなアララキではなく‥我ら。
 そして、その内一人は、サカマキ同様「運命の子」‥賢者であるカツラギだ。

 神は‥何を「試そうとしている」んだろうか。
 神は、我々に何を期待しているのだろうか‥。
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