Happy nation

文月

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二章 世界の前提と、誤算。

6.運命補正

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(フミカとカツラギの会話)


 アララキはヤンデレ‥。

 サカマキを過保護に溺愛するアララキは、サカマキを2歳位の時から、養育していた。
 ‥おはようからお休みまで、そりゃあもう鬱陶しい程構い倒していたんだろう。
 普段の‥っていうか、今ここにはアララキはいないが、あっちでのアララキをちょっと思い出しただけでも‥容易に想像がつく。
 ‥じゃあ、普通ならサカマキからしたらアララキは物心つく前から傍にいて鬱陶しい程世話を焼いてきたお父さん‥的な者という認識になるはずだろう。(いや、お母さんかもしれん。サカマキに構い倒すアララキに男性っぽさなんか‥皆無だった‥いや、お母さんだとしても、やっべぇお母さんって感じだけど‥)まあ、保護者だな。
 ‥だけど、サカマキは「全くしょうがないなあ、いつまでたってもアララキは子供っぽいなあ」っていつも言ってるし、そういう生温かい視線でアララキを見ている。
 どっちかというと、自分の方が年上って感じで接している‥?
 ‥何故だろう。
 どこで立場が逆転したんだろう。
 意識が‥認識が変わったんだろう。

 我は、アララキたちとは違い、同郷ではない。王都に来て知り合ったのだ(だけど、アカデミア時代からだからそれなりに付き合いは長いほうだ)
 我は、サカマキのアララキに対する態度からサカマキとアララキが「物心ついて以来の幼馴染」だと思っておった。
 サカマキに対しては‥惚れた弱味だろうが‥情けない感じになってしまうアララキを大人ぶりたいサカマキが「年上風」吹かせてて‥だけど、実はアララキはサカマキより年上で‥っていう「微笑ましい」のを想像してた。
 でも違った。
 サカマキは、まだ人型も取れてないような幼い時からサカマキによって養育されてた。
(‥自分が育てた子を溺愛って、‥なんか「自分好みに育ててます」みたいで‥なんかイヤラシイな‥)
 だけど、サカマキは、アララキを「しょうがないから好きにさせて置いてやってる。アララキは子供っぽいから」だ。
 ‥どうなってるんだろう。
 どういう風に育てたんだ?
 ってか、どういう風に育ったんだ?
 ってか‥どこかで変わったってことかな??

「サカマキは昔っから、アララキに対してあんな感じだったのか? 」
「ん? いいや? 普通に親を慕う子供みたいに懐いてたよ。村の大人もサカマキのことを普通に可愛がってたし。私の育ったあの村は、「特別な感じ」の人間が多かったよね。
 サカマキが高位魔法使いであるって「私が告げて」からも、サカマキへの態度が変わらなかった者も多かった」
 ‥特別な感じの者でないと、‥サカマキが高位魔法使いだって分かったら、態度が変わるってことか?
「‥つまり、人間が出来てるか出来てないかってことか? 」
「‥違う。そういう問題じゃない。あれは、‥あればっかりは‥そういう問題じゃない。
 人間が出来てても、生理的なことはどうしようもない。
 ‥意志の強さでなんとかできることでもない。
 トイレに行きたいのを意志の強さで我慢はできないだろう? 」
「え~‥うん、まあ‥そうだよね‥」
 ‥じゃあ、どういうことなんだろう‥。
「俺たちと同じ‥じゃないかな。
 サカマキの呪いが効かない特殊な‥特別な変わった感じのタイプ」
 カツラギが肩をすくめる。
 ‥変わったねえ‥。
「アララキがサカマキのこと特別に可愛がっていたから変わらなかった‥とかでもないみたいなんだ。
 アララキのことそれこそ本当の子供のように可愛がっていた老人の態度がゴロリ‥と変わってしまったりしたからね‥。あの時は、私たちの心が痛かったよ‥」
「じゃあ、サカマキも‥」
 ‥きっと、カツラギが思う以上に‥ショックを受けただろう。
 言うならばおじいちゃん(おばあちゃんか? )って感じで可愛がってくれてた人から急に恐れられ‥拒絶されるんだ。
 ‥我なら耐えられない。
 そうフミカは思い、眉を寄せたが、カツラギが首を振る。
「いいや、サカマキはなんとも思ってない‥って感じだった。
 ‥なぜなら、サカマキもまた、私が告げたことによって、認識が変わった一人だったから‥」
「自分に対する認識がって事? 」
 フミカは驚いて目を見開く。
「すぐ‥じゃなかったな。‥次の日起きたら、すっかり変わってたって感じだったかな。
 私から‥(自分が行為魔法使いであるという)事実を聞いた後、顔を真っ青にしたサカマキをアララキが「可哀そうに‥ショックだったんだね」って慰めて、‥私を睨み付けて、サカマキにはいつも通り「お休みのキッス」して、寝かしつけた。
 ‥その間、サカマキは調子は悪そうだったものの、何ら変わった様子はなかった。‥まるで死んだように眠り続けた。
 あんまりピクリとも動かないから、ひそかに「生きてるのか? 」って焦ったくらいだった。
 ‥だけど、起きたら昨日のことが嘘みたいにケロッとしてて、それどころか妙にさっぱりした顔で、サカマキの頭にまとわりついて寝ているアララキの腕を苦笑しながらどかして、『アララキも大きいんだから、そろそろ一人で寝れるようにならないとなあ』って言ったんだ。丁度、今と同じ様な口調。「魔法使いである俺は、アララキより精神的に大人だから、俺が面倒を見るのは当たり前だろ?」の感じだ。ホントに、あの一晩の間にころっと変わってしまったんだ」
 ‥一晩で変わった。
 変わったから、周りの反応を見ても「自分は、嫌われ者の高位魔法使いだから仕方がない」って納得した‥ってことか‥。
 だから仕方がないって、嫌われることを受け入れた‥。
 だけど、アララキやカツラギの自分への態度が変わっていないこと‥については、昨日の夜の記憶から理解できていた‥。
 理解できて「嫌われていない」と認識していた。
 だけど、それだけ。
 今までの、お世話をしてくれた大好きなお兄ちゃん‥って感情ではなくなっていた。
「‥そうか‥じゃあ、ショックを受けたのはむしろアララキか。サカマキの自分に対する態度がかわっちゃったんだもんなあ」
 その時、アララキはどう思っただろう。
 ‥何となく、聞かなくても想像はつくんだけど‥。
「そりゃあ、ショック受けてた。昨日のサカマキの比じゃない位。『サカマキが壊れた‥』って」
 この世の終わりって顔してたらしい。
 ‥想像つく。
「‥成長したとは言わないんだな」
「言わなかったな」
 カツラギが頷く。
「反抗期だ‥とも言わなかったんだな」
「ああ」

 ‥壊れた。と。

 ‥いつかは来る親離れ子離れっていっても、‥急すぎるわな。
 昨日の今日って。
 だからって、‥壊れたもおかしい気もするけど(笑)‥でも
「あながち嘘じゃない気も‥なんかする。私も、‥なんとなく覚えが‥ある。サカマキを始めてみた時、サカマキが高位魔法使いであるって分かった時、丁度その瞬間くらいの記憶が無い。一日まるまるぐらい。それから、少しの間、‥皆がおかしかったけど、思えば、皆からすれば私がおかしくなっていたのだろうね。
 賢者として自覚したことによって、私の人生に「運命」からの‥補正というか‥なにかが入ったんじゃないかと思うんだ。性格そのものが書き換えられたのかもしれないね。
 ‥だから「私と結婚するって言ってたじゃない」って自覚後に何人かの女性に言われたけど、覚えがなくって、‥一体、賢者として自覚する前の私はどんな奴だったんだって思ったね‥」
 ‥いや、それは、‥今でも変わらんぞ。
 忘れたっていうか、あんまり無自覚に無責任に口説くから、カツラギ本人は「そんな気なかった」って奴だろ? カツラギはいつでもどこでもクズでタラシって話だろ? それは、‥運命補正は関係ないと思うぞ? 立場を自覚した‥とか位はあるかもしれないが‥。
 真面目な話をしてる時、水を差すみたいだから言わないけど‥。

「運命による干渉‥かあ‥」
 フミカは知らず、小さくためいきをついていた。

 神の定めた「運命」にそって生きることを余儀なくされた、サカマキやカツラギ‥。
 ‥そして、それ‥「運命」に「関わらない」‥それに引っ張られない、特別なタイプの人間。
 運命に、抗える意思を持った‥別の運命を持っている人間? もしくは‥神に不必要って切り捨てられた‥相手にもされてない人間? 
 「特別な人間」‥。
 サカマキたちの育った村の人たち、そしてアララキや、我‥。
 
 我らは一体どんな立場の人間なんだろうか。
 ‥でも、それが分からなくても、解明する手立ては我々にはないし、もし万が一に‥分かっても‥我らがすること‥出来ることは変わらない。
 精一杯、‥自分が正しいと思うように生きるだけだ。

 そして、神は我らの人生‥死‥までも運命として、我らに突き付けて来る。

 今回、死ぬはずだった我ら。
 我と、そして、‥神の用意した「運命の」重要な1ピースであるはずのカツラギ。
 我ならともかく‥カツラギまで‥? サカマキを必要な運命のポジションに据えたから、もう用なしというわけだろうか? ‥それは‥あまりにも‥あんまりだ。

「神が作りたもうた運命に逆らうって、‥どういうことなんだろうな」
 そう呟いたカツラギは、ちょっと不安げで

 だけど、‥すこしおもしろそうにも見えた。
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