Happy nation

文月

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二章 世界の前提と、誤算。

4.聖獣を溺愛し過ぎるアララキと淡泊なカツラギ

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 ‥一体、いくつの時の話なんだろうか。
 子供の頃に‥って言ってたけど、考えることとか行動力とか‥子供じゃないよな‥。

 正直ちょっとドン引きする。
 しっかりしてるってレベル‥とかではない。
 その時、サカマキは「まだ人型も取れない程の子供」‥。
「‥主とサカマキはそんなに年が違うのか? 」
 ‥我は、自分の中に浮かんだその疑問をそのまま口にした。
 今は所謂霊体の状態だ。肉体がある時よりずっと隠し事がしにくいように思える。
 感情が、‥うっかりすると、ダイレクトに表情に出やすい。だから、以前よりも気を張っていないといけない。
 恩着せがましく「心配してます」って顔見せて、自分の浅ましさを知られるのは嫌だし、そうじゃなくても、心配してるとか、信用しているとか、‥言わなくて、伝えなくてもいいことまで伝えたくない。そういうのは、‥エチケットだし、人間の尊厳にかかわる部分だ。
 だから、‥なるだけ気になったことは、その場その場で聞いて行った方が、後々ストレスにならないんじゃないか、と思う。
 それに、以前だったら、忙事‥その他日々の雑多な他の考え事に紛れて忘れてしまうであろう小さなことでも、暇な今ならうっかりすると、二・三日覚えていて、ずっと引っかかったままってことも、ありえる。
 ‥それでも、多少は隠し事ができて、プライバシーが保護されているのは、術者であるサカマキのお陰だろう。プライバシーの保護以上に我の精神の保護に役立っている。サカマキにそんな「心配り」は出来ないだろうが、我のことを女として一応「気を遣っては」いるのだろう。
 家族でも恋人でもない人間同士が24時間ずっと生活しなければならない異常な状態。
 だけど、‥そのなかでも、変に気を使ったり、‥危機感を感じたりはしないのは、相手がカツラギという人間だから‥だろう。
 潔癖ではない。だけど、我を絶対に情欲の対象として見ない、そんな男。
 例えば、「我が」肉体的な寂しさに耐え切れなくて(※絶対ないと言い切れる)欲情したとしても、別にカツラギは我を軽蔑しないだろう確信は持てるほど、俗っぽく(※何なら、友達のよしみとして、性欲処理すら手伝ってくれるだろうほど、俗っぽい。だが、その場合であっても、カツラギには「その気」はなく、あくまでも「友達のよしみ」)だけど、カツラギが我をそんな目で見ることは無いと絶対的な確信がある。それは、‥絶対的な信頼だって程。
 それは、カツラギの性的対象が男だとか、女だとかそういう問題で、我が対象から外れているわけではなく、‥カツラギにとって、対象以外は、対象外なんだ。
 それは、アララキにも言えた。
 アララキにとっては、サカマキだけ。
 サカマキ以外は、アララキにとっては対象外なんだ。それは、もう断言できる。
 ‥まあ、それはそうとして。
 今重要なのは、「カツラギにとって我が対象外である為、我は安全」だし、なんかの言葉がフラグになることも、‥導火線に火をつけるようなこともない‥とても、無味無臭な関係だって話だ。
 それは、カツラギだけではなく、我も、だ。我は、恋愛そのものに関心がない。自分が、他の誰かに頬を染めている姿なんて‥想像もできない。
 ‥でも、無味無臭とはいえ、‥相手に対して、関心くらいはある。
 今まで、‥本当に(カツラギたちに限らず)他人に無関心過ぎたなあ。
 暇になった今、いろんなことを考える時間ができたのだけは良かった。

 さて、‥今の関心は、「一体いくつの時からカツラギは「カツラギ」だったのか」という話。
 カツラギは、我の質問を受けて「年? 」とちょっと指を折って数えながら
「‥私は、アララキより2つ年上だ。アララキとサカマキは5つ違いだ」
 答えた。
 ‥ってことは、サカマキとカツラギは7歳違い。‥カツラギと会った時のサカマキが2歳位としたら、9歳か‥。ませたガキって感じ‥かな?
 そういうことの‥しとこう。
 ‥それはそうと‥
 ‥我はサカマキより二つ年上だから、カツラギと我は5つ違い。
 ‥ん。寧ろ、カツラギはもう少し上だと思っておった。まさか、5つしか(! )違わないとは! ‥何となく、‥ショックだ。(サカマキが我より年下だと知った時もショックだったが)
 勿論、見かけの問題じゃない。多民族が過ごす王都では、年齢(や性別)が不肖な者だらけだ。
 ‥そういうことじゃなく‥こう、‥何となく悟ってくれ‥!!
 ‥我が幼いわけではない。‥我は普通‥カツラギやサカマキたちが異常なだけ‥。そ、そうか。アララキはサカマキと比べて幼いんじゃなくって、アララキは普通で、サカマキがカツラギ同様悟ったところがあるだけなんだ‥。
「ふ‥ふうん。アララキとサカマキは5つも違うんだな。‥同じくらいだと思っておった」
 我は、‥なんとなく、どうでもいい話をしておいた。

「‥サカマキの名は‥」
「私が「知ってた」よ」
 賢者の「記憶」だろう。
 無自覚な自動強制解呪機のモフモフは、拾って来た当時、まだ人語を話さなかったらしい。‥話せなかったのではない。だれも教えるものがいなかったのだ。更に、誰もサカマキに話しかけてこなかった。‥サカマキは完全に成長に支障をきたしていたらしい。
 常に周りを警戒して、近付く者を威嚇しまわっていたという。その様子に、今までサカマキがどんな扱いを受けて来たかが分かった。
「‥成程。それで、サカマキに、両親はいたのか? ‥探したのか? 」
「いても、名乗り出て来はしないだろうって思ったから、探しはしなかったよ」
「‥そうだな」
  自分の息子が生まれながらにして忌み嫌われる存在だったら、親も辛いだろう。
 ‥もしかしたら、親がその森に‥誰か親切な人に拾われるのを願いながら‥逃がしたのかもしれないしな。
 ‥というか、そういう風に思いたい。
 

 子供の成長に愛情は必要。
 サカマキに暑苦しい程の愛情を注いだのは、アララキだった。
 ‥今のアララキのサカマキに対する溺愛っぷりを見ていたら、容易に想像がつく。
 夜寝る前に「お休みのキッス! (←アララキの言い方)」をして、腕に抱き込んで寝て、朝起きれば、「おはようのキッス! ←以下略」。身体を暖かいお湯で丸洗いして、ふかふかに乾かして、ご飯を手ずから与える。
 日中はずっと背中におんぶ紐で縛って移動。で、暇さえあれば話しかけるほどの可愛がり様だった。
「拾って来たその日から、アララキが中々目を覚まさないサカマキを一生懸命世話しだんだ。‥サカマキが2歳位だったから‥アララキは7歳位の時だったかな。サカマキは2歳と言っても、ホントにガリガリで小さかったから、洗ったら、毛がペタンってなって、もう‥見るも哀れな感じになってたぞ。
 そんな小さな獣を、森に木の実を拾いに行く時も、アララキは背中に背負って行っていた。木の実拾いは子供たちの仕事だからね。‥村は働かざる者食うべからずだった。それは、私が「賢者」だって分かっても変わらなかった。まあ、そんなこと生きるためには言っていられないからね。だけど、皆いい人たちだったよ。‥豊かではなかったが、穏やかな村だった。
 いい人たちじゃなかったら、孤児の私やアララキを育ててはくれなかっただろうね。あの村には、そういう、親に捨てられた、親のいない、そして‥子に死なれた親が沢山いた。そんな村だったから、サカマキのことも優しく招き入れてくれたんだ。
 サカマキが高位魔法使いであろうことと、もう少し大きく成ったら、私が賢者として城に連れて行く話は、村の長老とアララキに‥サカマキを拾って来た日に、した。アララキは、「サカマキは味方もいないのに城に連れていかれて可哀そうだ」ってボロボロ泣いて「僕が一緒にいる。一緒にいれるように、王様になる」っていったんだ」
「‥目に見えるようだな」
「それから、アララキは昼間は剣術に励み、村での狩猟に精を出し、身体を鍛え、夜は私が勉強をおしえた。サカマキは、アララキの背中で‥もしくは膝の上でそれを聞いて‥気が付いた時には全部覚えていた。‥あれも、思えば運命の子としての‥チートだったのだろうな」
 サカマキとカツラギ、立場は違えど、同じく神が定めた運命を持ち、そしてそれに従う「運命の子供」。あの、年齢より悟った性格も、そのせいだろう。
 だけど、アララキは‥どんなに努力したとしても、普通の人間だった、ということなんだろう。

「‥どういう気持ちだったんだ? やっぱり、良心が痛んだの‥か? これから友達が、便利な厄介者として扱われるのを分かっていて連れて行くのって‥。‥友達になるべきではなかったと思ったりはせんかったか? 」
 ‥性格も何も知らない者を‥「この者が定めを追いし、高位魔法使いである」と王都に連れて行く方がきっと、楽だっただろう。
 我などは、‥普通の人間だからそう思う。
 そう、アララキ同様、我も普通の人間だ。
 運命なんか背負っていないし、特別な能力も持っていないし、‥達観してなんていない。
 だから、運命の子供の気持ちなんか、‥想像もつかないし、きっと共感は出来ないだろう。
 
「何とも? 」
 カツラギは、予想通りの返事を予想通りの表情で言った。
 だが、ちょっと苦笑いして、少し躊躇した後
「ただね。私が‥サカマキのことを‥友達だと思っていることが、‥少々予想外ですね」
 と言った。
 ‥カツラギらしからぬ「人間らしい」意見。
 我にとっても予想外だったが、カツラギにとってはもっと予想外だったようだ。戸惑いと、自己嫌悪、 そして少しばかりの誇らしさ。
 神意に背く背徳感と、ちょっとの「してやった感」。
 ‥そうだ。冷たく冷静なようで、完璧じゃない、性愛にだらしないクズで薄情だけど、憎めない。
 カツラギのそういうところ、我もアララキも知っている。だから、友達だって言えるんだ。
 サカマキが‥どう思っているのかは分からない。
 だけど、死んでいく運命だった我らを咄嗟に魂だけの結晶にした‥彼の行動こそが、我らのことを大事に‥手放したくないと‥思ってくれていたのだろうと思わせた。

 世界の災厄って、人々はサカマキのことを言う。
 魔物を狩るだけの‥機械だって。
 だけど、カツラギと一緒だ。
 完璧な機械なんかじゃない。
 そんな面を見せているのが、我らの間だけで‥我らだけが、彼らのそんな面を知っているんだったら、‥せめて我らが彼らを守ろう。彼らを


 ‥神に呪われた、‥運命の子供たちを‥。
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