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一章 世界の均衡は崩れ、魔物があふれた。だけど、‥これ以上均衡が崩れようとも俺は、友を死なせたくはなかった。
5.桜子の目覚め。
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「ん‥」
思想やなんかの、他者と共有しない「自分だけの」空間である「意識」と、表情やなんかの他者と共有できる「意識」
意識が戻る。っていうのは、後者にあたるんだろう。
目を開けろって意識すれば、‥自分の身体程自由には動かせまいが、動かすことは出来るだろう。今は、「桜子」の意識に「桜子」は不在で、「桜子」にも許可を取ったので、今は桜子の身体を桜子に変わって動かすことが出来る。‥それ位に、俺と桜子の魂の相性はいい。別に、運命の相手だとかそういった話をしているわけではない。
だって、俺の運命はもう生まれた瞬間から決まっている。
…魔物を倒して、魔物と共に滅びる。それが、高位魔法使いの運命。
賢者であり、預言者であるカツラギだって言ってたじゃないか。
だから、カツラギは俺を見張っているんだって。
俺が、俺の使命をちゃんと果たすか。
俺が、「いざとなったら」怖気ついたりしないかって。
だのに、だ。
フミカにも‥カツラギは話しておくべきだったんだ。
まさか、あそこでフミカが俺を庇うなんて思ってもいなかった。
そして、カツラギがそれに巻き込まれるなんて‥。
二人は死ぬ定めになんてない。
そういった定めにあるのは、俺だけだ。
だから、‥俺は、二人を助けなければいけない。
‥二人を助けたい。
アララキと、カツラギとフミカと‥俺の大事な‥唯一大事な宝物‥。
その為に、俺は桜子を利用する。だけど、桜子も言ったじゃないか。今自分が死んだら、母親が悲しむって。だから、死にたくないって。‥だから、これは只の取引だ。俺は、桜子を死なせない。そのかわり、俺は桜子を利用して子供として、カツラギとフミカを産む。
桜子として。
だから、俺は桜子が目覚めるまで桜子の代わりに生きる。
‥桜子のことを何も知らないのに、だ。
その為には、目覚めなければいけない。
だが、‥まだ下調べが万全ではない状態だのに、果たして目を覚ましてもいいのだろうか?
そんなことも考えたが、‥寝ている状態では桜子自身のことですら情報の収集もままならない。‥諦めて目を覚まそうと思う。
「‥」
ええと、‥何言おう。目覚めの第一声だ‥
薄目を開けて世界を伺った。
‥なんだ‥眩しい。これが、この国の人型の目に映る世界か。
‥案外視野は狭い。ああ、それは薄目で見てるからか。目を開ければ、視野も広がるだろう。それにしても‥眩しい。
‥こんなに眩しくって、目を開けても大丈夫なんだろうか。
目をぱちぱちさせていると、
「え! 桜子!! 桜子! 」
目の前にはさっき見た、ご婦人‥白い服を着た男‥医者(多分)が「お母さん」って話しかけてたから、少女の母親だろう‥が、これでもかって程目を見開いている。
‥怖い。
近い。
乗らないでくれ、重い。
「奇跡です! 」
男の方のテンションも凄いな。
俺の瞼をぐいって開けないでくれ。
「これ見える?! 」
って指を目の前で振らないでくれ。‥何のつもりだ。そりゃ見えるだろう。
俺は黙って頷く。
医者がまた歓喜の声‥何だか分からない声を出している。
嬉しそうだな‥。
あれだ、魔法の研究所で新薬が完成した時、あのテンションだ。
同じ現象に直面しても、片方は驚き、片方は喜ぶ‥というか、テンションが上がる(そうだな、これは、喜んだというより、テンションが上がったって感じだ)
「先生、ありがとうございます! 」
って今度は先生を褒め始めたぞ。そして、泣きだす。‥忙しいな。
‥俺は何か言わねばならんが、‥何を言おうか‥。こういう場合に、言うべき正しい言葉‥。意識の隅に仮置きしてるカツラギにこっそりと聞いてみたら、母親に声をかける、じゃないか? って言ってきた。
ああ、そうか、母親に声をかける、だ。
‥そういえば、母親の事をさっき桜子は何と呼んでおったか。
母親といえば、「母上」「マム」「ママ」「お母さま」‥、ああそうだ‥
「お母さんたちが悲しむ‥」
って言ってたな。
ってことは‥。
「お‥」
一瞬、話し方を忘れた様な感じを覚えた。やっぱり、自分の身体じゃない。目を開けるとき以上に違和感がある、発声練習をしたいくらいだ。‥そんな不自然なこと勿論できないから、ぶっつけ本番だ。
記念すべき第一声を‥
「お‥母さん‥? 」
恐る恐る、
言ってみた。
口が渇いて話しにくい。思った以上にかすれた声が出た。
‥俺として、正しい挨拶は「初めまして」だけどな!
「桜子! 」
身体を起こそうとしたら、鉛のように重かったので、手を貸してもらって枕を背中に入れてすこし座った。
座るというより、辛うじて頭を上げた程度だ。
喉を触っていると、少し腰を上げた母親が水が入ったコップを手に戻って来た。飲めと言っているのだろうが‥何分俺は、飲食の習慣がない。食べられなくもないが、‥食べる必要がない。ああ、そういえば人間は飲食の必要性があるんだな。‥面倒だな。
半分以上失敗してこぼしてしまったがが、口元と喉を何とか潤すことはできた。
そこで初めて、そうか、これが「喉が渇く」って奴なんだな。
って実感した。
知識として知っているのと実感して知るのは、全く違う。
ああ、‥それより、「あれ」を言わないと。
「ココ‥どこ? わたし、なんで‥? 」
事前資料の中にこんなのがあったんだ。「目が覚めたら、記憶喪失」という「布石」。
その為に、定番のシュチュエーションを、俺はありとあらゆるパターンで勉強しておいたんだ。一応カツラギにも目を通してもらったから‥大丈夫だろう。
ちなみに、俺の場合は、『事故から目が覚めたら、事故のショックだか、打ちどころが悪くて‥記憶喪失のパターン』だ。
゚‥そうだな、辛うじてお母さん位は分かるけど、その他の事が、よくわからん‥って位にしておくか。
その場合俺がすべきことは、さっきのセリフを言って‥ちょっと不安そうな顔をして‥、あと、涙の一つ流せればいいんだけど、無理だし、ってかやり過ぎは良くないし。
だから、不安そうな顔のまま、もう一声、定番の
「ここどこ? 私何があったの? 」
だ。
これ位アピールしておいたら、医者もあのセリフを言うだろう。
「‥一時的な、意識障害でしょう。いっぺんにいろいろ聞くことはせず、ゆっくり思い出してもらいましょう」
そうそう、これこれ。
ゆっくりで、お願いします。
‥MRIで調べられても、特に何の原因究明にはならないと思います。さっき、ちょっと『診た』けど、脳に外傷はない様だから。
催眠術によって過去の記憶を思い出させるって方法があるらしいけど、‥そんなことされても、無いものはどうやったってない。‥そういうことはやめてもらいたい。
あくまで、ゆっくり、原始的な方法で思い出させて(学習させて)もらいたい。
‥家でのことは、家族に聞けばいいけど、学校のことは‥どうするべきかねえ。
‥まあ、とにかく身の回りのことから、か。もう少し入院することになりそうだしな。
「ええ‥ええ‥! 」
医者の言葉に頷く『お母さん』。いい人そうだ。
『お母さん』よろしくお願いします。
‥とにもかくにも、彼女との信頼関係から築いていこうと思っています。
思想やなんかの、他者と共有しない「自分だけの」空間である「意識」と、表情やなんかの他者と共有できる「意識」
意識が戻る。っていうのは、後者にあたるんだろう。
目を開けろって意識すれば、‥自分の身体程自由には動かせまいが、動かすことは出来るだろう。今は、「桜子」の意識に「桜子」は不在で、「桜子」にも許可を取ったので、今は桜子の身体を桜子に変わって動かすことが出来る。‥それ位に、俺と桜子の魂の相性はいい。別に、運命の相手だとかそういった話をしているわけではない。
だって、俺の運命はもう生まれた瞬間から決まっている。
…魔物を倒して、魔物と共に滅びる。それが、高位魔法使いの運命。
賢者であり、預言者であるカツラギだって言ってたじゃないか。
だから、カツラギは俺を見張っているんだって。
俺が、俺の使命をちゃんと果たすか。
俺が、「いざとなったら」怖気ついたりしないかって。
だのに、だ。
フミカにも‥カツラギは話しておくべきだったんだ。
まさか、あそこでフミカが俺を庇うなんて思ってもいなかった。
そして、カツラギがそれに巻き込まれるなんて‥。
二人は死ぬ定めになんてない。
そういった定めにあるのは、俺だけだ。
だから、‥俺は、二人を助けなければいけない。
‥二人を助けたい。
アララキと、カツラギとフミカと‥俺の大事な‥唯一大事な宝物‥。
その為に、俺は桜子を利用する。だけど、桜子も言ったじゃないか。今自分が死んだら、母親が悲しむって。だから、死にたくないって。‥だから、これは只の取引だ。俺は、桜子を死なせない。そのかわり、俺は桜子を利用して子供として、カツラギとフミカを産む。
桜子として。
だから、俺は桜子が目覚めるまで桜子の代わりに生きる。
‥桜子のことを何も知らないのに、だ。
その為には、目覚めなければいけない。
だが、‥まだ下調べが万全ではない状態だのに、果たして目を覚ましてもいいのだろうか?
そんなことも考えたが、‥寝ている状態では桜子自身のことですら情報の収集もままならない。‥諦めて目を覚まそうと思う。
「‥」
ええと、‥何言おう。目覚めの第一声だ‥
薄目を開けて世界を伺った。
‥なんだ‥眩しい。これが、この国の人型の目に映る世界か。
‥案外視野は狭い。ああ、それは薄目で見てるからか。目を開ければ、視野も広がるだろう。それにしても‥眩しい。
‥こんなに眩しくって、目を開けても大丈夫なんだろうか。
目をぱちぱちさせていると、
「え! 桜子!! 桜子! 」
目の前にはさっき見た、ご婦人‥白い服を着た男‥医者(多分)が「お母さん」って話しかけてたから、少女の母親だろう‥が、これでもかって程目を見開いている。
‥怖い。
近い。
乗らないでくれ、重い。
「奇跡です! 」
男の方のテンションも凄いな。
俺の瞼をぐいって開けないでくれ。
「これ見える?! 」
って指を目の前で振らないでくれ。‥何のつもりだ。そりゃ見えるだろう。
俺は黙って頷く。
医者がまた歓喜の声‥何だか分からない声を出している。
嬉しそうだな‥。
あれだ、魔法の研究所で新薬が完成した時、あのテンションだ。
同じ現象に直面しても、片方は驚き、片方は喜ぶ‥というか、テンションが上がる(そうだな、これは、喜んだというより、テンションが上がったって感じだ)
「先生、ありがとうございます! 」
って今度は先生を褒め始めたぞ。そして、泣きだす。‥忙しいな。
‥俺は何か言わねばならんが、‥何を言おうか‥。こういう場合に、言うべき正しい言葉‥。意識の隅に仮置きしてるカツラギにこっそりと聞いてみたら、母親に声をかける、じゃないか? って言ってきた。
ああ、そうか、母親に声をかける、だ。
‥そういえば、母親の事をさっき桜子は何と呼んでおったか。
母親といえば、「母上」「マム」「ママ」「お母さま」‥、ああそうだ‥
「お母さんたちが悲しむ‥」
って言ってたな。
ってことは‥。
「お‥」
一瞬、話し方を忘れた様な感じを覚えた。やっぱり、自分の身体じゃない。目を開けるとき以上に違和感がある、発声練習をしたいくらいだ。‥そんな不自然なこと勿論できないから、ぶっつけ本番だ。
記念すべき第一声を‥
「お‥母さん‥? 」
恐る恐る、
言ってみた。
口が渇いて話しにくい。思った以上にかすれた声が出た。
‥俺として、正しい挨拶は「初めまして」だけどな!
「桜子! 」
身体を起こそうとしたら、鉛のように重かったので、手を貸してもらって枕を背中に入れてすこし座った。
座るというより、辛うじて頭を上げた程度だ。
喉を触っていると、少し腰を上げた母親が水が入ったコップを手に戻って来た。飲めと言っているのだろうが‥何分俺は、飲食の習慣がない。食べられなくもないが、‥食べる必要がない。ああ、そういえば人間は飲食の必要性があるんだな。‥面倒だな。
半分以上失敗してこぼしてしまったがが、口元と喉を何とか潤すことはできた。
そこで初めて、そうか、これが「喉が渇く」って奴なんだな。
って実感した。
知識として知っているのと実感して知るのは、全く違う。
ああ、‥それより、「あれ」を言わないと。
「ココ‥どこ? わたし、なんで‥? 」
事前資料の中にこんなのがあったんだ。「目が覚めたら、記憶喪失」という「布石」。
その為に、定番のシュチュエーションを、俺はありとあらゆるパターンで勉強しておいたんだ。一応カツラギにも目を通してもらったから‥大丈夫だろう。
ちなみに、俺の場合は、『事故から目が覚めたら、事故のショックだか、打ちどころが悪くて‥記憶喪失のパターン』だ。
゚‥そうだな、辛うじてお母さん位は分かるけど、その他の事が、よくわからん‥って位にしておくか。
その場合俺がすべきことは、さっきのセリフを言って‥ちょっと不安そうな顔をして‥、あと、涙の一つ流せればいいんだけど、無理だし、ってかやり過ぎは良くないし。
だから、不安そうな顔のまま、もう一声、定番の
「ここどこ? 私何があったの? 」
だ。
これ位アピールしておいたら、医者もあのセリフを言うだろう。
「‥一時的な、意識障害でしょう。いっぺんにいろいろ聞くことはせず、ゆっくり思い出してもらいましょう」
そうそう、これこれ。
ゆっくりで、お願いします。
‥MRIで調べられても、特に何の原因究明にはならないと思います。さっき、ちょっと『診た』けど、脳に外傷はない様だから。
催眠術によって過去の記憶を思い出させるって方法があるらしいけど、‥そんなことされても、無いものはどうやったってない。‥そういうことはやめてもらいたい。
あくまで、ゆっくり、原始的な方法で思い出させて(学習させて)もらいたい。
‥家でのことは、家族に聞けばいいけど、学校のことは‥どうするべきかねえ。
‥まあ、とにかく身の回りのことから、か。もう少し入院することになりそうだしな。
「ええ‥ええ‥! 」
医者の言葉に頷く『お母さん』。いい人そうだ。
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