Happy nation

文月

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一章 世界の均衡は崩れ、魔物があふれた。だけど、‥これ以上均衡が崩れようとも俺は、友を死なせたくはなかった。

2.なければ、作ればいいって発想。

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 自分が何も出来ないというのは、もどかしい。
 三人が戦地に向かってから、もうすぐ1週間。‥そう長い時間ではない。だけど、‥まるで何年も年がたったように感じられた。
 傍に居られたなら、‥何も出来ない事実は変わらなくても、もう少し平常でいられた。だのに‥。
 取り越し苦労だってことは、‥わかっている。
 フミカなら、‥大丈夫だろう。だって、殺しても死なない位丈夫だ。
 カツラギは‥賢者だから、前線に出ることは無い。
 だけど、‥魔法使いで、本来だったら後方支援であるはずのサカマキは、攻撃魔法が使えるからという表向きの理由で、いつも最前線に立たされる。
 ‥本当の理由は‥
 弾避けだ。
 許せない。
 自分が居たら、サカマキを守ってあげられるのに‥。
 いつも戦いの度そう言ってた
 そしたら、不機嫌な顔して
「俺なんか守ってどうすんだよ。魔物を倒してさっさと帰るぞ」
 って怒られて、その後、僕がしゅーんとなったら‥まったくアララキはしょうがないなあ、ってふにゃっとした微笑を向けられるんだ。
 その微笑みを見たら、愛しくって、可愛くって、‥胸がきゅーってなって‥
 で、実際に抱き着いてしまって、サカマキに
「そんなことしてる間か! 」
 って、攻撃魔法用のロットで殴られる。
 あれは、結構痛い。
 ふふ、
 ちょっと思い出し笑いをしたアララキの鼻先を、懐かしい‥愛しい香りがかすめる。
 泣きそうで‥堪らない気持ちで、勢いよく顔を上げる。
「‥サカマキ! 無事だったのか‥! 良かった‥」
 駆けて行って、サカマキの足元に崩れる様に、すがる様に‥抱き着く
 もう離さないって気持ちで、強く抱きしめる。
 抵抗もせず、アララキに抱かれるに任せていたサカマキの声が頭上から聞こえて来て、
「カツラギとフミカが‥」
 目を見張って、見上げた。
 サカマキは、泣いていた。
 真っ赤に目を腫らして泣いていた。
 アララキは立ち上がって、サカマキをもう一度自分の胸に抱きしめた。
 アララキの身長は、サカマキより頭一つ分以上大きい。抱きしめたら、丁度胸に収まった。
「‥でも、僕は、‥サカマキが無事だったことが何よりうれしい‥っ! 」
 ‥サカマキの匂いを胸いっぱいに吸い込む。
 サカマキの香り、サカマキの暖かさ‥。
 ‥やっと取り戻した。
 俺の‥サカマキ。
 他の誰もいなくても、サカマキだけいれば‥。
「サカマキさえいれば‥」
 口づけようとして、
 ぞわっとするような気配を、サカマキのすぐ近くに感じた。

「‥相変わらずクズだな、アララキ」
 気配が発した言葉。その声は、低い‥地獄の底から聞こえてきたような声だった。

「‥は‥。‥フミカ‥」
 ‥なぜかそんな気がしたし、
 きっと間違っていないだろう。

「俺の魔力をもってしても、魂だけ保護するのが精いっぱいだったんだ。‥肉体を作って入れないと‥この魂も消滅してしまう」
 で、現在、アララキは人払いした自分の執務室でサカマキの話を聞いている。
 サカマキを自分の膝にのせて、だ。
 落ちないように、ってぎゅうぎゅう抱きしめていると、安心する。
 ここにサカマキが確かにいるって‥安心する。
 アララキは、とろける顔でサカマキの熱を感じながら、彼の話を、一応聞いていた。
「うん。分かった。適当に見繕ろう。カツラギは、‥鏡とかが便利かな。ええと、フミカはこの人形なんかどうだ? うむ、昔の姿より、可愛いな。‥いや、戦いやすいように可動式のを作ってやろう」
 ニコニコと請け負う。

「‥‥‥」
 ぞわっと‥先ほどのフミカとは違った悪寒。(多分、カツラギだ)

「呪うぞ‥」
 さっきと同じ悪寒。(フミカだな)

 だか、大丈夫。慣れた。気にしない! 
 サカマキは、まだ本調子では無いらしい。アララキの腕を振り払いもしないし、‥発言に怒ることもしない。‥余程ショックが大きかったんだろう。可哀そうに。
 今も、ちょっと首を振って
「だめだ。‥生身の肉体を作ってやらないと魂は移せない。‥俺ならこの魂を核にして肉体を作ってやる‥つまり子として産んでやることも出来る。俺の魔力があれば出来る。‥逆に俺くらいの魔力量と魔法の技術がないと‥不可能だ」
 と言っただけだった。
 が、さっきサカマキは何を言った? ちょっと変わった単語が混じった気がしたが‥。
「子? 」
 アララキが抱きしめたまま後ろからサカマキの顔を覗き込んだ。
「サカマキ! では、僕と‥! 」
 今すぐ襲い掛かりそうな勢いで、アララキがサカマキの背中を強く抱きしめる。サカマキが首を振る。
「‥俺のこの姿では、当たり前だが子は作れない。俺は、直ぐにスペア‥地球に転移して、女の人型に憑依して子を成す」
 何でもないことの様にぼそっと、しかし強い口調でサカマキが呟いた。
「な‥! 」
「ここではだめなのか? なぜ、スペアで‥」
 スペア‥つまり、地球だ。
 サカマキが地球で、女の人型に憑依して、男の人型と子を‥成す!? 
 そんなこと許すわけがない。
 ほろほろとサカマキが涙を流し始めた。
「この世界では、カツラギもフミカも死亡した者と認識されている。順当な方法で‥転生させようとしたら、一度この魂を手放して、輪廻の輪に戻さなければいけない。そうして、転生してこの世界に戻ってこれるのは‥何年後‥いや、何千‥何万年後になるか分からない。そして、‥転生して来たときには、カツラギの記憶も、フミカの記憶もなくなっている‥。いずれにせよ、普通の方法ではもう二度と生きて二人とは会えない。俺はそんなの嫌だ‥耐えられない。我が儘だって言われても‥倫理に反しているって言われても、俺は嫌だ‥」
 泣きじゃくりながら話すサカマキが可哀そうで、「もういいんだよ」って何度も言いかけた。‥ってか、フミカもカツラギも言ってやれよ。友達かそれでも!
 ‥でも、サカマキは言わないだろう。
 悲しくって、泣いて、でも、自分で何とかするって‥頑張るんだ。
 それが、僕が誰よりも愛するサカマキって男だ。
「サカマキ‥」
「だから、不正に転生させなければならないのだが、‥この世界では、バレるリスクも高い」
「それに、二人の魂を不正に捕獲してしまったから、‥俺は転生課に捕まる。一刻も早く、逃げなければいけない。そんな理由で、のんびりとここに居るわけにはいかない。‥俺がここで人型の女に転生してアララキと子を成すことが無理なことも‥さっき言った理由と同様だ。そもそも、転生しても女になるとは限らぬし、‥記憶が消えてしまってはどうにもならぬ」
 涙をぐいっと強引に拭う。
 目が真っ赤になっている。
 そんなに目をこすっちゃダメだ‥。
 サカマキ‥サカマキ‥。
 ああ、‥他の方法があるならなんでもするのに‥。
 その方法しかないって‥頭では納得しても、心は到底納得できない。
「そんな‥サカマキぃ‥」
 情けない声をだしたら、
 また、フミカとカツラギの悪寒が。

 ‥うぜえ、情けない声出すな。

 って悪寒だのに、言葉で‥伝わってくる。‥エスパー‥。
「‥転生なんて悠長な方法は選んでおれない。‥スペアの人型・女に憑依して、そのものの子宮を使わせてもらう」
 サカマキがもう一度目元をぐっとこすって前を向いた。

「鬼畜‥」
 お、この声は‥カツラギ‥かな? 声って言うか、やっぱり気配だけど‥。

「言ってられるか」
 ちょっとサカマキが微笑む。
「じゃあ、サカマキ自身がスペア(←地球)の人型の男と交配するわけじゃないんだね? 」
 なんとなくほっとしたアララキがあからさまに明るい声をだすと、
「そうだな。‥魂は、俺だが」
 サカマキが、また、アララキのテンションを地の底まで叩き落した。
 俺しか、魔術を執り行えないからな。と。
「ああああ、それでさえも嫌だあぁ! 」

「‥お主、我らが死んだと聞いた時より激しく動揺しておらぬか‥」
 また、フミカの地の底からの声が聞こえた(これは声だった。凄い精神力だ)が、それは
「‥‥‥」
 聞こえないふりしておいた。
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