この世界では僕が思うイケメンはイケメンとは言われない様です。

文月

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34.好き、‥だから、さよなら。(side 俊哉)

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 修斗のこと好き?
 ‥好きだよ。
 ‥一緒に居たら楽しい。真っすぐ僕のこと見てくれる。
 じゃあ、ずっと一緒に居たい?
 ‥居たくない。だって、修斗は‥違うんでしょ? 違うから、ずっとここにいられない‥消えちゃうんでしょ?
 ずっとここに居られるように‥私なら出来るけど?
 ‥しないで。
 ‥それは‥絶対に誰かを悲しませることになるよね?
 え?

「ずっとここに修斗がいるってことは‥修斗がここから消えちゃう様に、どこかから修斗がずっと消えちゃうってことでしょう? ‥そんなこと、絶対にダメだ」
 優しい王子様の仮面を脱ぎ去るように、険しい表情で王子様はあの子を睨んだ。


 僕は、あの子と王子様が話すのを‥ガラス越しの場所で見せられていた。
 ガラス越しじゃないのかもしれない。ガラス越しだから相手の声は聞こえるし、姿も見える。だけどこちらの姿はあちらからは見えていない様だ。マジックミラーっていうの? そんな‥手も出せない、声も届かない場所(マジックミラーは声は届くのかな? 。そういうの、詳しくないから分からない)だった。そこで、僕は王子様の選択を一方的に見せられていた。
 僕の意見なんて聞かないってことだろう。
 王子様の選択をただそこで見ていろってことだろう。
 僕はただ、あの子を恨んで、憎んだ。
 声の限り「止めて! 」って叫んだ。
 だけど‥声は届かない。
 王子様が僕に気付くこともない。

 あの子が王子様に聞く。
「修斗のことが好き? 」
 王子様が目を見開き‥そして、次の瞬間、恥ずかしそうに‥微かに微笑む。
 その顔は、幸せそうで‥僕は心が痛くなる。
 王子様が躊躇いがちに
「‥好きだよ」
 って言う。
 その顔を見てたら、僕が止めるのは‥残酷だとすら思えて‥胸が締め付けられた。
 でも、次の言葉
「‥一緒に居たら楽しい。真っすぐ僕のこと見てくれる」
 を聞いた時、僕は何か違和感を感じた。
 その感情は‥?
 僕の「引っかかり」は、でもあの子にとってはどうでもよかったみたい。
 続けて
「じゃあ、ずっと一緒に居たい? 」
 って聞いた。
 王子様は苦笑いして
「居たくない。だって、修斗は‥違うんでしょ? 違うから、ずっとここにいられない‥消えちゃうんでしょ? 」
 って言った。
 それを聞いて、あ! て思った。
 王子様は‥わかっていてる。わかっているっていうか‥何かに気付いているって思った。
 そして‥願った。
 お願い‥兄さんに居て欲しいって言わないでって。そして、お願い‥兄さんを諦めて! ってあの子に願った。
 でも、やっぱり僕の願いはあの子には届かないんだ。
 神様だから絶対に気付いているのに‥あの子は‥聞かない振りをしたんだ。
「ずっとここに居られるように‥私なら出来るけど? 」
 苦笑いして‥まるで聞き分けのない子供に諭すようにあの子が言った。
 私なら出来るから、貴方は頷けばそれでいいの。
 ‥そう言っているように聞こえた。
 だけど、王子様は首を振った。
「しないで」
 きっぱりとした口調で言って、
「それは‥絶対に誰かを悲しませることになるよね? 」
 って言葉を繋ぎ‥あの子を見る。
「え? 」
 あの子が戸惑ったような表情を見せる。

「ずっとここに修斗がいるってことは‥修斗がここから消えちゃう様に、どこかから修斗がずっと消えちゃうってことでしょう? ‥そんなこと、絶対にダメだ」
 優しい王子様の仮面を脱ぎ去るように、険しい表情で王子様はあの子を睨んだ。

「私は‥貴方の為を‥」
 ってあの子が言おうとした言葉を王子様は首を振って遮った。
「要らない。‥それは要らないお世話だ」
 そこに‥
 かっての優しい王子様はいなかった。
 あの子は、眉をちょっと寄せて‥悲しそうな表情を一瞬見せた。同情を買おうとしてるの? って思ったけど‥そうじゃなかったみたい。すぐに首を振って「私は平気」みたいな表情を作った。
 悲しそうな表情は「つい」そして、平気な顔は「作った」。
 同情を買おうとか‥あの子はそんな器用な真似が出来るわけでは無いみたい。
 ふう‥と小さく息を吐いて気持ちを落ち着ける。
 俯いて
「‥ホントに‥要らないことをしてしまった。修斗にも悪いことをしたわ。ごめんなさいね、修斗」
 ボソリ‥とそう言う姿は息子に子離れを宣言された母親のようにも見えて、ちょっと胸が痛んだ。
 ‥ホントにこの子は分からない。
 無邪気な子供みたいだったり、母親みたいだったり‥。ああ、母親みたいってのは間違いないだろう。だって、この世界の創造主なんだから。
 そして‥今まで誰とも暮らして来なかった‥というか、人間じゃないから人間のことが分からないんだ。
 ‥それは仕方がない。
 修斗兄さんが物陰から現れた。
 いつからそこにいたんだろ? いつから聞いてたんだろ? って思った。
 兄さんは首を振り
「何が? 結構楽しかったよ。俊哉にも会えた。君が何のつもりで王子様に俺を会わせたのか‥それはよくわからなかったけど‥でも、会えてよかった。
 誰かに対して、心配したり‥は違うな、その境遇に憤りを感じたり‥とかって今まで俊哉に対してしかそういう感情持ったことなかった。俊哉以外の人間のこと、俺は気にかけたり出来るんだって‥自分のことだのに今まで知らなかった。‥驚いた。‥だから、感謝してる」
 って兄さんが言った。
 それって、兄さんには王子様に対して恋愛感情なんてないって言ってるわけでしょ? ‥王子様的にはちょっと傷付くんじゃない? って思ったら、王子様も
「うん。‥修斗と会えて僕もよかった。
 褒めてもらえてうれしかった。‥今までそんなこと言われたことなかったから‥ホントに。
 褒められて‥何か自分が変わったのを感じた。
 誰かに愛されたい。誰も認めてくれなくても‥その人だけは‥って人ならいるかもって‥そんな欲が出て来た。
 僕は諦めずに探そうって思う。‥今まで、頭から無理って思って「特別な乙女探し」を‥本気で取り組んでこなかったけど‥これからは僕も探そうって思う。
 人に頼ったら‥嫌な思いをする人も出るだろうから、自分で‥自分の足で歩いて、もしかしたらこの世界のどこかにいるかもしれない「誰か」を探したい。
 そんなこと自分が思える日が来るなんて‥僕は思ってもいなかった。それは‥君と修斗のお陰だ。‥あと、俊哉のね」
 王子様然とした綺麗な笑顔じゃなくって、子供みたいな無邪気な笑顔。
 こんな表情、王子らしくないって言われるかもしれないけど、どうせ夢だからいいじゃない? って王子様は笑った。
 よかった‥王子様も‥
 兄さんに恋愛感情を持ってなかったみたい。そうおもって‥あからさまにほっとした自分が居て‥はっとした。
「じゃあ、修斗。もう会えないだろうけど。楽しかった」
 王子様と兄さんは笑顔で別れる。
 あの子は最後まで謝りっぱなしだった。

 そして、僕も目が覚めた。
 ハッピーエンドだった。
 兄さんは死なずに済んだ。そして、王子様も兄さんに会ったことで明日への期待みたいなものを持てるようになった。国中を探したらもしかしたら見つかるかもしれない。‥特別な乙女の先祖返りとかもいるかもしれないし、‥好みがこの国の標準とは別な子もきっと‥いるだろう。
 そしたら、王子様も幸せになれるだろう。
 間違いなく、ハッピーエンドだ。
 でも‥ホントかな。ホントに王子様は兄さんのこと何とも思ってなかったのかな。
 だって‥あの優しい王子様だもの。‥無理してそう言ったのかもしれない。兄さんに心配かけない様に。
 王子様は‥唯一幸せな恋愛が出来るかもしれない機会をなくしてしまったのかも? 
 ‥僕だけ。
 僕だけ幸せ。
 それでいいんだろうか? 優しい人たちが誰かの‥相手のために自分の幸せを我慢しているのに‥
 僕だけが幸せ。
 それでいいんだろうか? 

 それでいいわけがない‥。
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