この世界では僕が思うイケメンはイケメンとは言われない様です。

文月

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32.願い。(side 修斗)

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 そんな話をしていると、どこか遠くで目覚まし時計が鳴って、俺は目が覚めた。
 さっきまで夢の中にいたときは、そこが夢だなんて思わなかったけど‥目が覚めたってことはさっきまでは夢の中にいたのだろう。
 ‥そういうことは稀にある。
 だけど、悪い夢の時の方が多いかな。
 ‥こんなのは夢だ‥さっさと覚めて‥って思う。
 現実に生きててもそういうことはよくある。俊哉が死んでしまったとき、何度も思った。

 ‥これは悪い夢だって‥夢なら覚めてって‥。

 止めなかったから、目覚ましはまだなり続けている。
 スマートフォンのアラーム。‥電子的な機械音だ。
 俊哉の優しい声とは比べものにならない。
 俊哉が起こしてくれなくなってから、俺は目覚まし時計で起きるようになった。
 俊哉の淹れてくれるコーヒーの香りのしなくなった家。
 俊哉の話声、笑い声がしなくなった家。
 やけに広く感じて‥俺は時々、ここから越してどこかに移り住みたい気持ちになる。
 どこに行ったって、俊哉はもうどこにもいないんだから変わりはないんだけど。

「あそこにも‥俊哉いなかった‥」
 声に出して呟いていた。
 俊哉がいるからって聞いて行ったのに、そこにいたのは見知らぬ美人で、美人は‥まるでバケモノみたいに嫌われていた。
 あの世界にいる時は‥そういうものも異世界なんだからあるのかも? って何故か流しちゃったけど‥夢から覚めたら‥酷く変で‥嫌な気持ちになった。
 なんであんな夢見たんだろう。
 俺には気付かないコンプレックスでもあるのか?
 俺はこんなで美人とは程遠い。全然気にしてないって思ってたけど‥実は潜在的には美人に対してコンプレックスがあって‥羨ましいって思ってた?

 別の世界では美人は持て囃されてなくて‥嫌われてる。

 そんな世界があれば‥想像したら気が晴れるだろう。‥そんな願望が‥俺にはあった? そういう願望があるんだけど‥気が付かない振りをしてた? 
 そんなことを一瞬考えたけど‥
「そんなのどこが気が晴れるんだ? 」
 って思った。
 いつも兄さんが言ってるじゃないか「人なんて関係ない」って。‥それだよ。人なんて関係ないんだよ。
 でもね。‥一人で生きてるわけじゃないんだ。やっぱり人の目は気になる。「その服変だよ」って言われたら‥自分が好きで着てても「じゃあ変えるか‥」って思うし「その髪型変だよ」って言われても‥やっぱり変えてる。
 俊哉のこと認めない‥変だっていう世間のことを忌み嫌ってるのに、‥そんな世間の意見にいちいち反応して‥結局は従ってしまう。

「他人にどうこう言われる筋合いなんてねぇよーだ」
 
 苛立ち紛れに‥わざわざ誰に聞かせる為でもなく口に出して呟き、ベッドから勢いよく立ち上がる。
 ホントに‥夢見が悪い。
 だけど‥現実世界では絶対にお会いできない様な美人に会えたからいい夢だったのかも。
 俺にとっては超美人なんだけど、他人にとってはそうじゃない。他人が彼のことをチヤホヤすることはない。だから彼は思いあがって自分の美しさを鼻にかけるような鼻持ちならない奴にならないし、二股かけたり、他の人と俺を比べたりなんてしない。

 理想の「自分だけの美人」。

 きっと、恋人になれたら‥俺にだけ心を許してくれるんだろう。俺にだけ依存してくれるんだろう‥。他の人に目移りなんてしないし、他の人も俺の恋人に色目を使ったりしない‥。
 そんなことを‥チラリとでも考えてしまったことに‥ゾクっとした。
 ああ‥なんて怖いんだろう。
 そんなの‥歪んでる。
 頭ではそれを分かっていても‥俺は‥

 夢だし、異世界だからって思うから、そういう欲望を持つ。そもそも、地球で「現実に」生きていればそんなこと思わない。そんなこと思おうもんなら、手が後ろに回る。人様に一生後ろ指刺されて生きる羽目になる。(※ 欲望を持っただけでそうなるわけでは無いが)
 そんな考えは、人間蔑視だし‥人権軽視だ。

「そもそも、不健全だよね。‥普通の恋愛じゃない」
 別に独り占めなんてしなくていい。
 ライバルがいっぱいいようと、ライバルをぶった切ってその子の一番になればいい。
 目移りが心配なら、その子の一番になれるように‥自分を磨けばいい。
「でも、あの世界ちょっと‥そういうんじゃない感じだった。頭っから「不細工! 」って決めつけて「よく見るとちょっと可愛いかも? 可愛いとこあるかも? 」「左斜め45℃だけは見れる」とかが無い世界だった‥。もう‥頭ごなしに「無い! 」って感じだった‥。
 ‥わからんわ~あの美貌が「怖い」だったら‥どんなんが美人なんだよ‥」
 気が付けば‥独り言が多くなった。
 聞いてくれる人がいない。一緒になって「どうだろ? 」って首を傾げてくれる人がいない。一緒に笑ってくれる人がいない。
 なのに、聞いてくれていないって分かってても‥口に出して言ってしまう。

 ‥寂しくて仕方がないんだ。
 
 街を歩いていても、人は沢山いるのに自分は一人だ。
 別に俺に石を投げたりする奴どころか‥酷い言葉を掛けて来る奴すらいない。それどころか、好意的な言葉を掛けて来る者さえいる。
「あの世界では不細工って言われたけどね(笑)」
 心の中で呟いて(街中だから独り言とか言わない)ちょっと笑えて来た。
 俺は何にも変わって無いのに、まるで違う者にでもなったかのようだ。
 変な世界。
 だけど‥あの世界には‥俊哉がいるかもしれない。
 別な世界。

「あの世界では‥俊哉は嫌な思いはしていない? あの美人みたいに‥他人の勝手な価値観で判断され嫌われて‥傷ついてない? 」

 生き直し。
 ‥そんなことがもしあるんだったら、今度こそは俊哉に幸せになって欲しい。
 心無い他人の言葉に傷付いたりしない様に‥こころ安らかに幸せに過ごして欲しい。叶うなら、恋人を作って‥愛し愛され幸せに‥もう、これ以上ないって位に幸せに過ごしてほしい。

 ‥叶うなら‥
 そんな俊哉の笑顔が‥俺は見たかった。
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