この世界では僕が思うイケメンはイケメンとは言われない様です。

文月

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28.俊哉のいない日々。(side 修斗)

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 俊哉がいない日々に、俺はまだ慣れない。
 兄さんのことは分からない。
 兄さんにはもう別に家庭があるから、俊哉のことだけに構ってられないだろう。
 だから、俊哉のいない実家で、毎日俊哉の写真の前の水と花の水を変えているのは俺だ。
 花が枯れたら買って来て変える。
 そんな代り映えしない毎日。
 両親は相変わらずここに居ない。
 だから、俺はここに一人で住んでいる。
 ‥俊哉が下宿してからはそんな生活をしていたけど、だけどあの時は電話をすれば俊哉が出てくれた。
 会いに行こうと思えばいつでも行けた。

 だけど‥今は、電話をしても、会いに行っても‥俊哉はいない。
 どこにも‥いない。

 両親は‥まだ俊哉がいないことを受け入れられていない様だ。
 葬式の日、母さんは俊哉の顔を見れなかった。
 泣いて取り乱して‥アメリカから来た祖父母が彼女を慰めていた。
 英語はそんなに分かる方じゃないから何を言ってたかは分からなかったけど。
 父さんはそんな時も‥何考えてるのか相変わらず分からない無表情だったけど‥誰もいないところで泣いているのを見た。
 それ以来、この俊哉の遺影と骨壺の置いてあるこの部屋に、二人は入ってこない。‥来れないんだ。
 俺はそんな二人に
「(赴任先に)早く帰った方がいい」
 って言った。
 俺にだって、一人で悲しむ時間が欲しい。

 俊哉が殺されたって分かったのは、防犯カメラの映像を見た時だった。
 音は入ってなかった。
 映像もよくない。ただ、何人かの学生と俊哉が一緒に階段で話しているのが映っていた。
 普通に話をしている感じで別に言い争っている様子もなかったので、学校は
「仲間同士話していた時に、仲間の一人が悪意ではなく俊哉君の腕を引っ張ったようです。その時たまたま運悪く俊哉君がバランスを崩して‥転落した」
 って警察に説明した。
 別に殺意があったわけでも、俊哉を突き落としたわけでもない。これは事故だって言いたかったんだろう。問題を大きくしたくなかったんだろう。
 警察は
「悪意が無かろうが、階段で人の腕を引っ張るという行為が危険だってことくらい誰でもわかるだろう」
 と言った。
 単なる転落事故で片付けられなかったのにほっとした。
 だけど‥正直奴らが例え傷害致死罪で捕まろうと、俊哉は帰ってこない。‥どうでもいい。俺はその件は兄さんに任せることにした。

「俊哉がいなくなったら、俺を俺として見てくれる者なんて誰もいなくなっちゃうじゃないか」
 俊哉の写真を見ながら、‥つい、声に出して呟いていた。
 兄さんは俺の事しっかりしてるから心配ない‥って手のかからない弟としか見てない。
 あと‥
「生意気な方の弟。俊哉は素直で可愛い」
 って感じかな。
 それは母さんや父さんにも言える。
 両親が一番信用しているのは兄さんで
「啓史が二人を見てくれてるから安心だ。家のことを啓史がしてくれてるんだから、修斗は弟の世話ぐらいしなさいね」
 って言われてる。
 母さんにとって俺の認識は、マイペースで年中反抗期のガキだった。
 母さんはそんなに俺を個人的に見てなかったよね。「長男程頼りにならない、マイペースでだけど、別に心配ない子」その決めつけだけで僕を見ているに過ぎない。
 それをいったら皆からも
「修斗君は我が儘っぽい所が可愛い」
「あの顔だから‥何してても許せちゃう」
 とか
「面倒くさいことなんて絶対しなさそう。将来は、世話女房的な年上の人と結婚してそう」
 とか言われてた。
 ‥別に誰かに面倒見てもらえなきゃ生きていけない程頼りない奴じゃないぞ。俺に紐男になれとでもいうのか。
 実際に、キャリアウーマンな美人に
「私が養ってあげるわ。貴方はただいてくれるだけでいいの」
 とか言われたし、年上マッチョに
「俺が守ってやる」
 とか言われたけど‥ないわ~。上から目線のおねー様とか無いわ。マッチョとか‥もっとない。全然興味ない。ウザい。男だからとかじゃなくて、視覚的に暑苦しいのとか興味ない。マッチョもケバイおねーさんも興味ない。
 確かに年下と年上だったら年上の方が好きだけど、俺は、儚い感じの上品な年上美人が好きなの。お世話して、でろっでろに甘やかして溺愛するのが夢なんだ。自分でも執着傾向がある自覚はあるけど‥執着されるのは嫌なの。
 養ってもらう? 冗談じゃない。俺の何を知っててそんなこと言ってるんだ。
 ‥そもそも、皆俺の事見てない。
 見た目が女顔だからって
「料理とか得意そう」
 とか決めつけないで欲しい。
 そんなこと言われるからかえってやりたくなくなったじゃないか(いいわけ)
「仔犬とか‥小動物好きそう」
 寧ろ、キライ。俺ね、動物に嫌われるタイプなの。睨んだら犬に目を逸らされるタイプなの。
「子供のころ近所のガキ大将に苛められてたっぽい。だけど、実はその子は修斗のこと女の子だと思ってて‥好きだったの! 」
 少女漫画か。そもそも、近所のガキ大将は俺の兄だ。俺や近所のガキは皆アイツの子分としてこき使われてた。‥俊哉以外は。そもそも、俊哉を苛める奴を懲らしめてたら結果ガキ大将になったって感じだっけ??
 子供の頃の俺は‥生傷の絶えないただのガキだったぞ。
「甘い物好きそう」 
 って言われてチョコレートとかもらうけど、甘党なのは寧ろ兄さんだ。俺は、甘いものより煎餅とかの方が好きだ。俊哉は果物好きで、兄弟でも好物が被らなかったから、俺たち兄弟はお菓子の取り合いとか全然なかった。
 ‥いやあった。
 煎餅は兄さんも好きだったし、俊哉も好きだった。
 兄さんが俺から煎餅を取り上げる → そのうち何枚かを俊哉にあげる。
 ってことは、‥昔からよくあった。
 三人兄弟の真ん中って結構辛いポジションだって思う。

 小さい頃は‥そんな感じで‥それでも楽しかった。
 兄弟とその他。
 兄弟が一番の生活のベースで周りはそこから派出したものに過ぎなかった。
 だけど‥一足先に大人になった兄さんは、新しく家族を作って、今ではそれが一番の生活のベースだ。
 俺もそのうち新しい家族を作るんだろうか?
 ‥そしたら、俊哉は?
 俊哉は‥ホントに一人ぼっちになってしまう? 
 ‥そうなる前に、俊哉は死んでしまって‥結果、一人ぼっちになってしまった。

 もう、新しい家族を作ることが出来なくなった俊哉が可愛そうで‥今まで俊哉の兄弟として俊哉に伝えることを伝えてこれたかな。俊哉を笑わせてあげることが出来てたかな。‥俊哉に俺が出来ることはなかったのかな‥。
 そんなことばっかり気になる。

 俊哉を失って一人ぼっちになった俺と、死んでしまって一人ぼっちになった俊哉。
 俺と俊哉はどう違うんだろうか。

「こんな世界に生きてたって仕方がない。俺は‥俊哉に‥会いたい」
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