この世界では僕が思うイケメンはイケメンとは言われない様です。

文月

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27.こころの一部が欠けた様な感覚(side 修斗)

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 俊哉だけいればいいって思ってた。

 両親の愛情とかって思えば周りに比べてそう感じられなかった。
 別に両親から育児放棄されてたとは言ってないよ? 
 そういうことじゃなく、両親は「両親の義務を果たしていた」に過ぎなかったってこと。
 一緒に買い物行ったり、恋バナで盛り上がったり‥は女の子と女親との関係じゃないからしないとしても‥男の子と男親だったら‥一度は「男同士の会話」とかしそうじゃない? ‥そういうのは無かった。
 そもそも、父親に見守られてるって‥感じたことなんてない。
 心配し過ぎる母さんに
「もう、母さん鬱陶しい! 」
 とか言ったことも‥思ったこともないし。
「彼女が出来たら紹介してね~」
 とか‥鬱陶しいこと言われたこともない。
 それどころか、
「今日学校で何があった? 」
 とかも‥思えば聞かれたことない。
「プリントあったら出しなさいね」
 とは言われてたけど。
  
 母さんは父さんしか見てない。昔からずっと。
 
 見た目超純和風な父さんが国際結婚なんてハイカラなことをしているのは、母さん(と、母さんのファミリー)からの猛烈アプローチがあったかららしい。今でも母方の祖父母から「あの時のあの子(母)は凄かった! あんまりあの子が熱心だから、俺たちも「娘の為に一肌脱ぐか! 」って頑張ったんだぞ」って笑い話の様に聞かされる。‥一見微笑ましいけど、縦に大柄のじいちゃんにぐいぐい来られたら‥普通に怖かっただろう。ばあちゃんは「ステラおばさん」って感じの普通の穏やかなご婦人なんだけど、人のいい感じでぐいぐい行くからな。‥あれはあれで、押しが強い。父さんも‥大変だっただろう。
 ‥でも、そんなことでもしなかったら「あの」父さんは結婚しなかったっぽい。結婚に興味なさそうだし。結婚に‥というか人付き合いが壊滅的に苦手な人だから。
 父方の祖父母は国際結婚ってことで‥まあそれなりにいろいろ思ったっぽい。特に祖父は古いタイプの人だったからね。
 祖母は心配はしてたけど、冷静に見守ってたって感じ(だろう、想像だけど。ばあちゃんはそういうタイプだ)
 だけど、最後は
「本人同士のことだから」
 ってなったのは、母方の両親のプッシュが凄かったのと‥
「きっと、これを逃したらあの子(父)は結婚しなさそう」
 って危機感があったから。
 ‥多分、これが大きかっただろう。
 孫抱きたさが勝ったって感じ? ‥あと、なんだかんだ言って、じいさんもばあさんも母さんのこと気に入ってるよな。息子が愛想無さ過ぎて、愛想のいい義娘が可愛いって思ったのかも。

 父さんの淡泊さは、ちょっと兄さんに受け継がれている。
 だけど、兄さんは父さん程じゃない。生徒会長とかやってたし。
 性格以上に‥兄さんは見た目が9割以上父さん似だって思う。
 黙ってると睨んでるって勘違いされる吊り目がちな切れ長の目とか、「開くのか? 」って疑われるほどきゅっと結ばれた薄い唇とか、硬めのストレートの髪だとか。鼻筋が通った整った顔とかね。
 もう、殆ど父さんのコピーって感じなんだ。
 違いって言えば、肌の色が若干黄色っていうより白いかなって感じなのと、目の色が黒と言うより茶色で‥若干青味がかかっているって違い位かな。

 兄さんは‥俺からいわせると‥父さんの持ってる遺伝子の内のいい所を全部持って行っちゃった感じ。
 長身になれる遺伝子、骨格がカッコイイ遺伝子。
 全部兄さんが持って行っちゃった。
 おかげで弟の俺と俊哉は長身になれなかったし、骨格も華奢で「色っぽくない」。鎖骨とか手の指とかちょっと骨っぽくて頑丈めの方が色っぽくない? 俺も俊哉も華奢なんだ。
 あと、兄さんは声が良い。低いんだけど、低すぎなくて通りがいい。低すぎて「何言ってるか‥聞こえ辛い」とかは、ダメなんだけど‥兄さんは聞きやすいんだ。あと、これが一番いい所で、全然甘さがない。‥俺ね、甘い声って苦手なんだ。ゾワってくる。‥身内相手にゾワッとか洒落なんない。
 ‥これは、父さんにも言える。母さんは
「顔もだけど、(父さんの)声にビッときた」
 みたいなこと言ってた。‥母親の萌えポイントとか聞きたくない。
 父さんの遺伝子の内、使えるのって俺に言わせたらそれだけ。あとは、碌な奴残ってない。
 頑固だし、融通が利かないし、口下手だし、無表情だし、そんなんだから(さっきも言ったけど)人付き合いが壊滅的に下手だし。そんなんだけど、「話してみたら意外といい人だった」ってギャップがあったらいいけど‥話してみようにも話が三分以上続かない。お酒も一滴も飲めないし。‥しかもそのことで、周りに気を配ったりとか‥全然ない。(飲み会で平気でウーロン茶飲んでるタイプ)
 そんな社会人としてイマイチな父さんは、手先が不器用だったり、出不精だったり‥と父親としてもイマイチだった。お陰で俺たちは家族で出かけた思い出とか皆無なんだ。‥その理由が、父親が忙しかったからとかじゃなく、ただ出不精だったから‥とかいうのがもう‥最悪だ。
 だけど、社会や会社は父さんに冷たくなかった。
 仕事は出来る方だったから会社的には問題がないんだ。人望もあるしね。
 社内ではコミュ障だけど取引先と話すのに問題があるわけでもないのが幸いだった。父さんは口下手だけど、それは日常に置いてだけのことで、言わなければいけないことはちゃんという人だし、やらなきゃいけないこともきちんとやる人なんだ。
 ‥だけど、一番大きいのはあの顔だろう。あの顔だからこそ女子社員が父さんを丸ごと受け入れて‥それどころか「クール! 」って絶賛してくれる。(口下手なのは「クール! 」不器用でも「ギャップ萌え‥」だから、イケメンは得してる)そうなったら、男性社員だって女子社員に嫌われたくないから変に父さんに絡まないよね。酒を強要とかしたら絶対女子社員から総攻撃受けるの分かってる。‥よって、父さんは平和に社会人生活を送れてるんだ。
 父さんはあの顔に凄く助けられてるんだ。‥もっと自分の両親に感謝すべきだと思う。

 父さんはとにかく実直に会社勤めしてるだけ。‥父さんは父さんが生きていくだけで精一杯なんだ。
 真面目な性格と、確実で正確な仕事っぷり。それと、あの顔。それらを最大限に利用して、父さんはただ毎日‥家族を養うためだけに働いて、生きている。その上、町内関係や育児とかまで求めるのは、‥彼には酷な話なんだろうなって思う。
 ああ、後父さんの会社員生活を支えているのは、幼馴染の小岩井さんだ。というか‥なによりも、小岩井さんの存在は大きい。
 小中高と同じで、大学、就職先まで同じ。小岩井さんは「腐れ縁」だって言うけど‥小中まではそうだろうけど‥高校より先は絶対、小岩井さんが父さんに合わせてくれたのが明白だ。
 小岩井さんは、あの頼りない幼馴染がとにかく心配なんだって。
 怖い‥ストーカー? とか思わない。ただ、有難いとしか。小岩井さんは、ただ、いい人だ。世話好きでおせっかいで‥貧乏くじ引きやすいタイプっているじゃない。そういうの。
 小岩井さんが父さんのフォローをしてくれて、足りない分を補ってくれてるから、周りと円滑とは言えないまでも何とか付き合って居られてる。
 ‥ちょっとlove的な感情はあると思う。‥小岩井さん本人も気付いてないみたいだから俺から言うことは絶対無いけど。(ホントに気付いてないかな。気付いてない振りしてるだけじゃないかな? )
 だけど、気付いてるかも。自分では気付いてるけど、周りには絶対気付かれたくない。‥特に父さんには‥。
 ‥それでも構わないって思う。それで小岩井さんがいいって思ってるなら‥俺が言うべきことは何もない。
 (諸々の感情を隠して)昔からずっと幼馴染で、今も独身の小岩井さんは‥俺は凄いって思う。相手があの父さんってのが一番凄いけどね。

 ‥父さんのことについてなんか熱く語りすぎた。
 とにかく何が言いたいかっていうと‥そんな両親だから俺たちは普通の団欒みたいなものを知らないって話だ。
 兄さんは、あんな感じだけど‥長男だからって随分頑張ってた。
 俺たちの世話とかも‥大変だったって思う。
 まあ‥俺なんかは
「お前は出来るだろ」
 って随分ほったらかされてたけど。
 ‥兄さんはだけど俺だけじゃない。
 俊哉に対しても「俊哉は何も出来ないから」って‥そういうとこがあった。
 兄さんも不器用だったんだ。

 兄さんはそんな感じだったけど、俊哉は可愛かった。
 俺たち兄弟は昔っから癒し部分を俊哉に過剰に求めてるところがあった。盲目的に「可愛いもの」ってあたまで俊哉に接していた。‥実際に俊哉は可愛かったし。‥素直で、兄を立てる‥明るく可愛い弟。俊哉は俺たちの理想の弟だった。
 俺たち兄弟の中で父的なポジションは啓史(長男)で、母的なポジションは俊哉だったな。優しくって、いてくれるだけで安心って存在だった。
 ‥俊哉は、ホントにイイ子だった。
 皆がとやかく言う顔も俺たち兄弟にとっては可愛いかった。(兄弟の欲目って言われようとかまわない)
 カメラの被写体とかさ「最高の瞬間を撮るぞ」って日々好意的な視線で見てるから、最高の瞬間を逃さず撮ることが出来るんだって思う。‥始めっから「つまらないもの」って思ってる者にはその瞬間を見つけられないよ。
 その瞬間を切り取りたい、俺が「街の写真屋」になりたいって思ったのは‥思えば俊哉がきっかけだったのかもしれない。

 小さい頃は声を上げてよく笑ってた俊哉は、学校に行き始めてから、控えめにしか笑わない様になった。
 弟の顔のことでとやかく言う奴らがいるらしいことを聞いた。‥全員ぶち殺したいって思った。
 そんなどうでもいい奴らのせいで傷ついてる弟が可愛そうで仕方がなかった。
 そんな奴らに仕返しすることも、俊哉は求めてなかった。‥優しい子だったから。
 だけど、やっておけばよかった。
 やられるたびに、倍ほどやり返しておけばよかった。
 俺がずっと傍にいて‥守ってやればよかった。
 まさか‥俊哉がそんなクズどもに「殺される」とは‥そんなことが分かっていたら、俊哉を下宿なんかさせるんじゃなかった。‥家から出すんじゃなかった。
 だけど‥それもきっと俊哉が求めることではなかったのだろう‥。

 俺は‥毎日後悔と絶望の日々を送っている‥。
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