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19.夢は‥選べない。

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 夢の中で女の子が出て来た。
 どんな顔かなんて覚えてない。
 だけど、夢の中で僕はその子とまるで古くからの友達のように接している。
 ‥夢の中ってそういうことよくあるでしょ? 
 
 多分「友達同士な」僕とその子が何でもない話をする。
 それだけの夢。

 名前も知らない。
 その子が僕に名乗った感じも、僕がその子を名前で呼んだりもしなかった。
 その子はわざわざため息をついて‥僕に「どうしたの? 」って聞いて欲しいアピールをする。
(聞いて欲しいなら、そう口に出して言えばいいのに)
 って思う。僕は心の中で苦笑いしながらも「いつものことだから」その子に
「どうしたの? 」
 って聞く。
 その子は、はあ‥ってため息をついて
「貴方は気楽でいいわ。私は悩むことがいっぱいなの。人の悩みなんて聞いてられない位にね」
 っていうんだ。
 (‥聞いて欲しいアピールしたくせに、嫌なこと言う奴だな)
 僕はやっぱり苦笑いするだけ。「いつものこと」だし「言ったところでどうなるわけでもない」から。それに、僕もその子が「なかなか苦労をしているらしい」てことを知っているから。‥多分、いつもアピールされてるから「苦労しているんだろう」って頭の中にインプットさせられているんだろう。

 それっ位、僕とその子は親しい(って設定らしい)

「それで‥どうしたの? 」
 僕はもう一度その子に聞く。
 その子は今度は話す気になったらしい。伏目がちに俯いて‥
「俊哉は‥リンゴは好き? 」
 って聞くんだ。
 僕は一瞬キョトンとなったよ。
 真剣な顔して、‥僕を能天気呼ばわりして、そんなことで悩んでたの? 
 って。
 その子は僕の困惑なんてお構いなしさ。(いつもの如くね)
 それどころか、すぐに答えない僕に
「どうなの? 」
 若干イラついた、って表情を向ける。
 僕は小さくため息をついて。(それこそそれもいつものことだから、反論するのも馬鹿らしいって思ったんだ)
「どうだろ。リンゴ全般的に好きって程、好きではないかな。硬くって水気が多いリンゴは好きなんだけど、柔らかい食感のリンゴは好きじゃないんだ。
 酸っぱいか甘いかは別に問題じゃないんだけど」
 って答えた。
 その答えはその子にとってお気に召したらしく、その子はにっこりと微笑んで
「そうよね。
 だから、俊哉を選んだの。リンゴはキライって頭から否定して、リンゴの味すら知らない‥知ろうとしない人たちじゃ話にならないもの」
 って言ったんだ。

 だから僕を選んだ? 

 夢の中の僕は首を傾げている。あんなに今まで好き放題だったその子のことを「いつも通り」って流して来た夢の中の僕が、だ。
 そう客観的に見れるようになった瞬間、目が覚めた。

 そんな夢。
 起きた時の印象は最悪。「なんなの? 」って感じ。
 でも‥
 夢は‥選べない。


「俊哉。おはよう。‥今日は怖い夢見なかった? 」
 いつも通りの麗しいクラシルさん。
 朝から目が嬉しい。
 この笑顔を起きてすぐに見れるなら、10数年のルーティンを捨ててしまっても別に問題ないって感じ。
 起きて、冷たい水で顔を洗って、コーヒーメーカーをセットして、軽く体操して(屈伸程度)、パンを焼いて、下の兄さんを起こして、コーヒーとパンで朝ごはんを食べる。コーヒーメーカーって粉の分量さえ間違えなかったらちゃんと美味しくコーヒーを淹れてくれる。お湯沸かして‥とかしないでもいいのがいいし、ちゃんと美味しい。
 なんとなく習慣と化してた朝のコーヒーだけど‥、そういえばここに来て一度も飲んでないけど、不思議と‥今の今まで思い出さなかったや。
 朝のコーヒー < 起き抜けのクラシルさんの笑顔
 ってことかな?
 僕は
「大丈夫です」
 って笑って‥それとなく頭の上のフードを確認する。
 よしよし、今日もフードを被ったまま眠れてた。
 もうフードなしの生活とか考えられない。マスクが手放せなくなるのと同じ感覚かな。
 このフード付きTシャツ。この前買い物に行った時に、見掛けて一目惚れしたんだ。別にデザインがいいとかそういうのではない。
 ローブに比べって日常的かなって、それだけの事。外出にはやっぱりローブを着るだろうけど、家にいる時はちょっと‥って思ってたんだ。ローブは‥そうだな‥ジャケットとかコートみたいな感覚。外出時は切るけど部屋では着ないでしょ? 
 その点Tシャツはいい‥。フード付きなのがいい。
 じっと見てたらクラシルさんが買ってくれた。洗濯替え含めて二枚。
 以来、家にいる時は大概これ。
 正直着心地がいいってわけでは無いけど、洗いざらしたらそのうち生地も柔らかくなってくるだろう。
 ‥今はそれを期待するしかない。
 そういえば市場といえば‥

「あ。カンナさん」
 市場でカンナさんを見掛けた僕が何気なく呟いた時、クラシルさんが目を見開いて
「‥俊哉は俺たちの区別がつくんだな」
 って言った。

 区別がつく?

 怪訝な顔でクラシルさんを見たら、クラシルさんはさも当たり前と言わんばかりの表情で
「普通の奴らに俺たちを区別する者はいない」
 って言ったんだ。
 そう言われて、思い当たったことがあった。
 つまり、アレだ。「かっこいい人と‥その他大勢」の「その他大勢」の扱い。
 僕は納得して‥腹が立ったんだけど、クラシルさんは僕には理解できてないと思ったのか‥
「普通の奴らとは違う醜い者って差別して、それ以上の関心を持たない。
 だから、奴らは俺たちを個人として‥区別して認識することはない」
 って説明を付け加えた。
 そう‥その他大勢はその他大勢で、名前すら認識されないんだよね。失礼な話だよね。僕らにだって名前も個性もあるのにね。「陰キャ」って言葉で括られたりもするよね。
 別にイイよ。そういう人たちに認識されたいとか思わないから。
 僕が
「だけど、まあ認識してくれなくてもこっちも別に関係ないって思いますけどね」
 っていうと、クラシルさんは一度キョトンと首を傾げてから、
「確かにそうだな」
 ぷはって笑い出した。
「そうやって普段は俺たちのこと認識せずに‥目にも入れたくないって無視してるくせに、有事の際‥何か自分たちに危険が迫り、俺たち力のある者の力が必要な際には‥平気で俺たちに助けを求めてくるんだ」
 うん。分かる。普段は無視してるのに、「宿題見せて~! 」とか用事があるときは、あたかも友人みたいに頼って来るよね。
 僕は「そうそうそれね」って同意する。
 ってか、クラシルさんは騎士団。用事の規模が違う。危険度も‥桁違い。
 都合のいい時だけ‥のレベル超えてる。ホント、ちょっと改めた方がいい。
 僕が憤りを感じていると、クラシルさんはふふって笑って
「そんな時でもさ、本能的なのか何なのか分からないけど‥俺たちの中でも比較的不快ではないと判断できるものに助けを求めるんだ。そんな時でも‥だ。笑っちゃうよね。
 ‥つまりそういうことだ。別に彼らは俺たちの区別がつかないわけじゃなくて、普段それ程‥頭っから俺たちの事否定して‥見ないようにしてるってことなんだな」
 って話を締めくくった。

 あ‥これ、リンゴの話と一緒だ。

 ふと、僕は今朝の夢を思い出していた。
「リンゴはキライって頭から否定して、リンゴの味すら知らない‥知ろうとしない人たち」
 あの子が言ってた、アレ。
 あれは‥ここの人のことだったんだ。リンゴは比喩表現だったんだ。
 ここのひとは、醜い人って頭から否定して、普段は、その人たちの個性すら知ろうとしない‥。
 あの子は「そういう人たちじゃ話にならない」って‥非難してた。
 僕は「そうじゃない」から「選んだ」。

 ‥選んだ?
 
 話し相手に選んだ‥ってこと? それとも、あの子は僕に何かして欲しいことがあるの? 何かを頼みたいの? 
 ‥何か分からないけど、僕の意志を無視して勝手に資質を試されて‥勝手に選ばれても、困る。
 夢は‥選べない。
 夢の中で、この先あの子が「親しいからいいでしょ? 」って頼んでくるのかもしれないけど‥知ったこっちゃない。

 ああ‥そうか、今まで何となく考えてたこと。
 僕がここに来た意味。僕がここに呼ばれたわけ。
 神様‥きっと「あの子」‥の意志‥
 神様は、ここに「間違えや偶然ではなく」僕を呼び、何かを頼もうとしてる。
 それはきっと、街の噂と無関係では無くて、僕は神様に

 王子を助けるために呼ばれたんだ‥
 醜い者に偏見のない‥そして、きっと醜い者って蔑まれてきたからこそ‥醜いと言われてきた者の気持ちが分かるだろうから‥。
 
 今まで考えていたモヤっとしてたものが一本の線に繋がった。
 それは‥まるで、銀色のキラキラと光る蜘蛛の糸だ。
 朝露を纏ったそれはキラキラと美しく見えたけど‥一度引っかかったら、抜け出せない‥粘度を持った糸だってことを‥僕は知っている。
 僕は‥神が僕に何を望んでいるか理解したが、‥どうしても、その要望に応えることは出来ない。応えたくない。‥僕が一緒に居たいのはクラシルさんただ一人だから‥。

 夢は選べない。
 ‥なら、夢を見ないように、僕は眠らない方がいい‥。
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