この世界では僕が思うイケメンはイケメンとは言われない様です。

文月

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17.新生活と噂

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 夕方。
「参った、参った」
 クラシルさんが荷物をソファーに置きながら、深いため息をついた。
「団員達にしつこく付きまとわれて、今やっとまいて来たんだ」
  どさっとダイニングの椅子に腰を下ろす。
 クラシルさんが言うには、この前ベッドを持ってきてくれたクラシルさんの部下の団員の人、アンディさんとカンナさんが、「団長のお嫁さんは賢くて料理上手」なんて騎士団で話したせいで、家に来たいって言う者が増えたらしい。
「俊哉と奴らを会わせたくなかったのに」
 って愚痴っぽく続けるクラシルさん。
 僕が
「何か‥すみません」
 って謝ったら不思議そうな顔をされた。
「なんで謝るの? 」
 ってクラシルさんは、ホントに不思議そう。
「だって、僕なんかと誤解されるの‥嫌だったんですよね? だから、会わせたくなかったんですよね? 」
 ‥こういうこと、直接本人に言うのもどうかって思うけど‥言っちゃった。
 だって、お互い様だ。
 会わせたくなかった、とかそういう言い方、ない。
 そんなに秘密にしときたいんだったら「ちょっと人が来るから外に出てて」とか言ってくれたらよかったじゃないか。
 いくら僕でも、傷つく。
 そしたらクラシルさんも流石に反省したらしく
「いや! そういう風に聞こえたなら、すまん! 」
 って謝ってきた。
 でも、これって謝ってるっていうより‥胡麻化してない? 
 そういう意味で言ったんじゃない。誤解だ。誤解するとか‥酷いよね。俊哉って被害妄想って言うか‥自意識過剰だよね‥。そんな風に言って、相手を悪者にするとか‥感じ悪くない? 
 ‥そういう感じ? そういう人、結構見て来たよ。自分と僕の力(チカラ)バランスを知ってる上で‥僕を悪者に仕立てようとするの。
 ‥クラシルさんはそんな悪い奴じゃない。それは分かってるけど‥ここはちゃんと謝った方が良くない? 一応、僕ら契約上対等な立場だと思うけど? 
 今度、キチンと契約内容を確認しないといけないね。
 僕はここに住ませてもらう間、クラシルさんの恋人の振りをするって契約だったって思うけど‥クラシルさん的に
この人たちには恋人の振りしないでいいよ、みたいなのがあるのかも? 確かに、仕事仲間にまで嘘つきたくないよね。
 仕事仲間でもごく親しいい人間には事情を話してるけど、そう親しくない人間で、クラシルさんが結婚斡旋所で結婚相手を見つけたって知ってる人間には振りをする‥とかそういう感じかも? 
 で、いずれは時期を見て「今回は残念ながらうまく行かなかった」っていう風にする予定だった‥とか?
 そういうこと‥ちゃんと打ち合わせしてなかったとはいえ、出しゃばって顔を出しちゃってすみませんでした‥。
 心の中でいろいろ考えていると、僕が落ち込んでるとか変に誤解したらしいクラシルさんが
「断じてそういう意味じゃない! だって‥奴らは全員独身なんだぞ? そんな奴らと俊哉を会わせたくないって思うのは当然じゃないか! 俊哉は誰にでも優しいから‥。俊哉の優しさがそういう‥恋愛的な意味は無いものだって俺には分かってるけど、奴らは絶対勘違いする。勘違いして、舞い上がって「俺にもワンチャンあるかも」とか思われたら‥困る」
 慌ててそう言って来た。
 ‥誤魔化しって言えばいうほどわけわかんなくなるよね。
 いいんですよ、もう許しますって意味を込めてじっとクラシルさんを見上げると
 クラシルさんは小さくため息をついて‥堪忍したみたいに
「流石に結婚したら、手を出してくる者はいないって思うけど、俺たちみたいなものが結婚一歩手前まででもこじつけるってことは‥本当に少ない。
 だから、本当に結婚してしまうまで「自分にもワンチャンあるかも」って横恋慕してくる奴が出るのは、別に不思議なことじゃないんだ。実際にそういうのをよく見て来た。「アイツのことを許容できるなら、俺でもいけるんじゃね? 」って思っちまうんだろうな。奴らのこと‥そういう、悪い奴らと一緒だとは思わないけど‥会わせないのが一番いいって‥思ってる。
 ましてや、俺だ。「あいつなら俺の方がマシじゃないか? 」って思う奴が殆どだろう」
 って言った。
 考えさせられる話だ。
 特別な人間ってわざわざ言う位だ。クラシルさんたち「大柄の人」を恐れない人間は少なくって、ましてや結婚ってことになることはホントに少ないんだろう。
 言うならば需要に対して供給が圧倒的に少ない。
 そんな中、仲間うちにまだ結婚していない「そういうレア物件」を見せられた。表面上は祝福するが内心では「何とかして手に入れたい」と思ってしまう。
 レア物件はそれ程、貴重で珍しいものだってことだ。
 恋愛でも難しいけど、結婚は更に難しい。
 本人が良くても、家族が反対する‥とか。そういうこともあるんだろう。
 その点、秘宝館‥結婚斡旋所で斡旋された特別な人間は、「そういう問題」をクリアしている。そういう契約をしている。つまり、家族に売られてたりして‥反対するような家族がいないってことだ。
 そして、そういう人間はホントに少なくって、(そしてきっとそういう相手をゲットするにはホントにお金がかかるから)誰もが「チャンスがあれば奪いたい」って思うんだろう。
 秘宝館出身だって思われてる僕って‥随分ヤバいポジションなんだ。
 自分でも気づかず青くなってたらしい僕に、クラシルさんは
「大丈夫だ。俊哉のことは俺が絶対守るから」
 って言ってくれた。
 頼もしい。
 好き。
 ‥好きすぎて、怖い。
 クラシルさんがかっこよすぎて‥怖い。

「秘宝館で斡旋してもらって結婚する人たちは‥結構多いんですか? 」
 夕食を食べながら聞くと、クラシルさんは首を傾げ
「ん~。秘宝館が出来たのは最近なんだ」
 って言い
「特別な人間のことも‥それまでは、過去の伝説って感じだったんだ。信じてはいるけど、‥実際に見たことがないから何ともね‥ってかんじだな。
 それが、最近になって急に「少子化対策」なんて言って活発に特別な人間探しが行われた」
 と、続けた。
「何かあったのかな」
 僕も首を傾げる。クラシルさんは「あくまで噂なんだけどね」って前置きして
「なんでも、城の王子様のお后探しが背景にあるらしい‥って街の者たち‥。
 城の王子様が結婚適齢期になったんだけど、結婚相手が一向に見つからない。‥というのも、王子様は伝説の王子様のように大層醜いらしい。‥呪いだの、伝説の王子の先祖返りだの言われてて‥どうせなら伝説を信じて「特別な人間」を探そうか。ということになったらしい。
 ‥このままでは王家が途絶えるからね。‥まあ、下世話な噂だよ」
 って言い‥、大きくため息をついた。
 噂‥だけど、真実味はある。
 きっと、本当なんだろう。
 国中から探し出された特別な人間はきっと王子様に会わされ、‥嘘だってバレたりした。
 城を騙す大罪だって言って連れてこられた子たちは、処罰される代わりに「特別な人間」として働くことを命じられた。そんな子を集めたのが秘宝館。‥そんな感じかな。
 元々はそういう感じだったんだろうけど、今は更に‥子供を売る親なんかも出て来た‥。
 なるほどねえ‥。
「せっかくのご飯がマズくなるから、噂話は止めてご飯を美味しく食べよう。
 折角の俊哉の美味しいご飯なんだからね! 
 俺はね。皆に俊哉のご飯を食べさせたくないの。勿体ないから。危険な目に会わせたくないって以前に、俺はね、俊哉を独り占めしたいの」
 にこって笑ったクラシルさん。
 イケメンの‥いや、クラシルさんの笑顔‥

 最上のスパイスです‥っ!

 クラシルさんとのご飯は、今まで食べたどんなご飯より美味しいなって思うのだった。
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