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25.小さな歪みを見逃したことを後悔している神が、修正を試みたみたいなんです。

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「私が一人ここを創って、私が一人で、ここを守ってきたの。
 いままでずっと。
 そしてね。
 それは王家にも言える。
 王は人に選ばれたものじゃない。神‥私が選んで、ずっとこの国を守る為に存在しているの。
 神がいるからここが存在し、王がいるから人々は暮らしていけるの。
 そう決まっているの」
 ‥ただそれだけのことよ。崇め讃えよ‥とかいうのじゃないし「こうしないと祟りが‥」とかいう能力もないの、とも。
 そう淡々と言った彼女は「でもね」って寂しそうに微笑んだ。
「でも‥何かが狂ってきちゃったみたい。急に、じゃないわ。ちょっとずつ‥変わっていった。
 それは余りに小さくて‥気付いた時にはもう手遅れになってた。
 だけど‥その問題は私が‥もともとどうこう出来る問題じゃなかった。気付いたのが遅れたってのは‥悔やまれるけど‥でも、もし気付いたとしても‥何も出来なかったの‥。
 その「歪み」に気付いた時も‥なんでそんな‥としか言えなかったわ」
 最後は泣きそうな顔になっている自称ロマンスの神様(笑)を見てたら少し可哀そうになってきた。
 だって‥そりゃそうだ。
 一人で何もかも見ることなんて無理だ。
「‥それで。何がどう狂って来たの? 」
 今更敬語とかいいから、ってその子がいうから今まで通りため口で僕が聞いた。
 今までみたいに「友達設定」を続けたいの。王子と貴方。私の大事な友達よ。友達ならため口でしょ?
 って彼女が言ったから。
 ってか、僕は今までため口で話すような親しい友人どころか、友達も碌に居なかったからなあ‥。「親しい友達」設定って言われても、見当がつかない。‥だから、これは僕にとっては唯一親しい「親兄弟に話す感じ」なんだ。
「共生関係の破綻」
 ぼそっとその子が言った。
「ここの人間は昔から小さくて弱い子が多かった。だけど、中にはやっぱり大きくて強い子もいた。ホントに小数だったけど。大きくて強い子は優しい子ばっかりだったから、小さい子が出来ないことを手伝ってやることを厭わなかった。その代わりに小さな子たちは大きな子たちが苦手な‥織物やランプやなんか‥道具の製造‥そういったこまごまとした作業を代わりにした」
 僕が頷いて
「それが共生関係だね? 」
 って確かめると、その子が頷いた。そして、理解出来てるかどうか‥僕の顔を何度も見ながら話を続けた。
「‥仲良く出来てるって思ってたの。
 だけど、何故かその頃から‥小さな子たちは小さな子たちとしか結婚しなかった。
 中には優しくて頼もしい大きな子のことを好きになる小さな子もいたけど‥だ。
 小さな子と大きな子は、まるで線でも引いてるのかって程‥お互いのプライベートには関わらなかった。
 住む場所すら違ったわ。‥でも、それは彼らの大きさを考えたら当たり前のことだった」
 僕は頷く。
 別になんら気になる点はまだない。
 小さい子の家には大きな子は住めない。‥だったら、大きな子も住める大きな家を建てればいいんじゃないかな?
 ‥でも、それはきっとお金もかかるし‥大変なことだ。
 相変わらず僕の考えを勝手に読んでくるその子は「そうよね」って‥口にも出してない僕の考えに勝手に頷き
「お金は問題ないかな。大きな子はお金持ちばっかりだったから。
 大きな子は小さな子たちが出来ない仕事をすることが出来るから、お金を多く貰うことが出来る。そして、賃金に見合った役職に就く。
 それだけの働きをしてるから、当たり前だって‥普通なら思うわけじゃない? 」
 って話を続け、ちらっと僕を見る。
 その表情は理解度の確認というより、完全に「思うよね? 思わないわけないよね」って顔で、ちょっと苦笑しちゃったけど‥僕も全く同意見だ。
 より危険な仕事をよりたくさんしているなら身分も給料も高くて当たり前だ。
 僕は大きく頷く。その子はそれを満足そうに見て、自分も大きく頷くと
「今まではそうだった。当たり前に、皆がそう思って暮らしていた。
 だけど‥ある時、善良な人間たちばかりだったこの国に‥心のゆがんだ者が出て来たの」
 その子が険しい表情をする。
 でも‥性格悪い奴がいても‥仕方がないかな。そういうやつも中にはいるよね。
 僕がそんなことを思いながら聞いていると、(やっぱり僕の考えを勝手に読んで)その子が不満そうな表情で僕を睨んだ。「まあね。そうなのよね。‥実際はね‥」って呟いて
「私もそう思ったの。気にはなるけど、人の性格はそれぞれだから‥仲良くやっていける者もいれば、向上心を持ってより高みを目指す者もいてもおかしくない。
 だから、高い給料と身分をもつ大きな子を羨ましく‥憎らしく思う「心のゆがんだ」小さな子の存在を当時の私はそれ程問題視しなかった」
 その子はそこで一旦話を切って、ため息をついて‥
 ‥それが私の失敗だった。
 って呟く。
「心のゆがんだ小さな子たちは不当な手を使ってお金を稼ぎ、その金で仕事を買った。
 今まで大きな子たちが小さな子たちの為に進んでやってくれていた仕事を、だ。
 そして、大きな子たちが一人で出来る仕事を小さな子たちを三人使ってやらせた。大きな子たち1人分の給料‥皆からの善意の報酬‥を払ってだ。小さな子たちが手にする給料は大きな子たち一人分の三分の一の給料だけど‥今まで現金収入のなかった小さな子たちはそのお金に満足した。
 ‥そうして、ゆがんだ子たちは自分たちを「貴族」と呼ばせて‥小さな子に賃金を支払い仕事を任せ続けた。
 何のために? 大きな子の立場を奪うために、だ」
 ちらりとその子が僕の顔を見て、満足した様に大きく頷く。
 僕はきっと‥酷い顔をしていただろう。
 僕は「貴族」たちが憎くて仕方がなかったから‥。
「仕事を奪われ‥その結果報酬‥現金収入がもらえなくなった大きな子たちは困惑した。
 細々と暮らしていたんだけど‥やがて暮らしていくことすら出来なくなってくる。
 ‥そこで初めて国が‥城が動いたの。
 大きな子たちに「仕事」という形で仕事を任せた。
 国防、公共建設事業‥
 小さな子たちと大きな子たちの生活は今までとは違っていった。
「今までは、自分たちの生活を直接助けてくれてたから小さな子たちは大きな子たちを尊敬してたし、感謝してたんだよね。だけど、自分たちが賃金を貰って仕事をすることを覚えた小さな子たちは、国からお金を貰って仕事をする大きな子たちのことを「金を貰ってるんだから働いて当たり前」って思うようになった‥ってことか」
 僕が憎々し気に呟くと、その子が頷いた。
「貴族たちはその変化を見逃さなかった。
 大きな子たちのことを自分たちと違うって区別して‥差別し始めたのも奴らだった。
 彼らの容姿を貶したり、わざと恐怖を煽ったりした。
 力ではかなわない彼らが羨ましくて憎かったのよ。‥そして、それよりなにより‥怖かったんでしょうね。
 自分たちには力はない、だけど、頭を使って数で対抗すれば‥奴らはそう考えた。
 まずは仕事と身分を奪い立場をなくさせ‥誹謗中傷して貶める。
 酷いもんだった。‥今の差別はその時の名残よ」
 何より憎いのは貴族たちだけど‥王家も何か方法はなかったか? ‥自称貴族(くそ野郎)たちがのさぼる前に手を打つとか‥
 ‥王家的にも、脅威だったってことか‥自分たちより力が強くて、大多数を占める小さな子たちに信頼のある大きな子たちが‥。だから、ここぞってときまで放っておいて‥恩着せがましく近づいて救済して‥鈴をつけた。
 飼い犬にしたってわけだ。
 僕はギリ‥ッと歯を食いしばった。
 憎くて‥憎くて仕方がなかった。

「そんな時、突然変異で‥王家に大きな子が生まれた。
 それが‥伝説になっている「可哀そうな王子様」よ」
 その子がにやりと口元に薄い微笑を浮かべた。
「皆は驚き恐怖した。
 今まで大きな子たちにして来た仕打ちを思い起こしたんだ。‥大きな子たちの呪いだって思った。
 王家は「他の子ども」を後継者にするために他の子どもの誕生を試みた。たくさんの王妃様も迎えられたけれど‥ダメだった。
 王家には「可哀そうな王子」しか子供はいないまま‥王は老い、王子が成人し跡を継ぐ年になった。
 王子は姿かたちは受け入れられなかったが、頭のいい心の優しい人だった。だからこそ、人々は王子が結婚して子孫を残すことを願った。
 それに‥
 そうしないと王家が滅びてしまう。‥それでは大きな子の呪いに屈することになるじゃないかって思ったの。
 国では王子様のお后探しが大々的に行われたけど‥大きな子に対する嫌悪感が小さな子たちに根付きすぎてて‥お后探しは難航した。‥そんな時現れたのが「特別な乙女」‥異世界からの召喚者だった」
 ‥何を勿体ぶって。
 全部君がしたことだろう。可愛そうな王子を産まれさせたのも、その子以外に子供が産まれなかったのも、全部神様である君の仕業でしょう? って言いたいけど‥言わない。
 言っても仕方ないから。っていうか‥絶対こころ読まれてるよね。
 案の定、その子は僕を見て、にやって笑った。
「君が召喚したの? 」
 一応‥聞くと、
「そうだけど? 」
 その子が澄ました顔で肯定する。
 はい、知ってました。
 僕は無言で頷いて‥話の続きを促す。
「王家は神に‥つまり私に感謝して、今までの行いを詫びた。
 神が創りし大きな子を差別してきた‥って反省して、今後一切の大きな子たちに対する差別的な行動を法律で禁止して‥それを扇動した罪で貴族たちを処刑したの」
 ‥ああ、もう貴族は用なしってことか。
 大きな子たちの鈴を残したまま‥邪魔になった貴族たちは消す‥
 総ての責任を押し付けて‥だ。
 実に恐ろしい人たちだね。恐ろしいって言ったらこの神もだけど‥
「‥今回の「可哀そうな王子」も君の仕業? 」
 ため息をつきながら聞くと、意外なことにその子が首を振った。
「ただの先祖返りでしょ。私は何もしてないわ。私は関係ないからいいんだけど‥、可哀そうだからお嫁さんは用意してあげようって思ったの。‥会ってみたら王子がいい子だったから。
 でも‥こんなことになったのよね‥」
 って僕をじっと‥困り顔で見つめる。
 いや、僕のせいじゃないですからね? 
 だけど‥
 今更誰が悪いって犯人捜しをするのも馬鹿らしく成る程‥この国の国民は利己的で、思った以上に単純で‥それ故に残酷だなって思った。
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