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14.異世界で、クラシルさんと同棲生活始めました。

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 クラシルさんはくくってイジワルっぽい笑みを浮かべ、
「どうした? 驚いた? 」
 って聞いた。
 そりゃ! ‥驚くに決まってる。
 僕は‥だけど、悔しいから「もう大丈夫です」って顔して
「家具屋さん? 僕も運ぶの手伝うよ? 」
 って、話を変えた。
 クラシルさんがまた目を見開いて
 ‥ちょっと呆れたような口調で
「‥無理だろう。重いんだぞ」
 って言った。
 どうせね!!
 でも、僕だって! こう見えても日本の平均的な成人男性の握力ぐらいはあるぞ! 身長の割に力持ちだなってよく兄さんたちに言われてたぞ! (身長の割に‥とか一言余分だよね!! )‥まあ、海外では平和な日本での平均的な‥とかいっても「何言ってんの? 」って感じ‥かもしれないけどね! 
 でも、日本も近年は食の欧米化で身長の大きい人や、体格のいい人って増えたよね。上の兄さんみたいにさ。まあ、兄さんはハーフだし? ‥それを言ったら僕や下の兄さんも条件は一緒。なのに、低身長って何だろう。同じもの食べてるのに。‥遺伝的な要因? う~ん? 
 でも、上の兄さん曰く。
「別に俊哉たちはその身長で顔とのバランスが取れてるからいいんじゃない? 」
 って言ってた。
 ‥ザ・こけしバランス。
 手足の長いこけしとか‥恐怖だよね。そういえば‥。
 下の兄さんはこけしじゃなくて、フランス人形みたいだけど。(フランス人形も手足が長かったら恐怖だよね)
 それでいうと、ベルクさんは若干バランスが悪い。ああそうか、ベルクさんを見たときに感じた違和感はそれか。 
 リアル手足の長いこけし。
 うん。‥でも、案外想像した程はおかしくなかった。実際に見てみないと分からないことはあるね! 

「ベッドが入ったら買い物に行こう。シーツだって買いに行かないと眠れないから」
 クラシルさんが言って、僕は頷く。
「鍋も、その時買いに行こう。荷物になるから、‥一度置きに帰らないといけないな」
 そう言いながらクラシルさんが今日の買い物の段取りをつけている。
 僕も頷いて、
 まずは、シーツと布団だよね。鍋は急がないっちゃ急がない。
 とか買う物リストみたいなものを頭の中で作った。
 メモに書こうって思ったけど、ここの文字とか知らない。奇跡的に言葉は通じたけど、‥もしかしたら文字も読めるかもしれないけど、書ける気はしない。 
 だから、頭の中でメモを取る。
 布団と‥鍋。
 ‥そういえば、昨日僕が布団を取っちゃてたからクラシルさんはソファーでブランケットかけて寝てたんだ。いくら気候がそう寒くはないとはいえ、‥ホントに悪いことした。そんなことを考えている間にガヤガヤと表が騒がしくなって、
「団長~」
 って声が聞こえた。
「ベッド持ってきましたけど~」
 クラシルさんが玄関を開けに行ってその場で置き場所やなんかの説明をしている。
「このベッドの横に置いてくれ。ん? ‥くっつけたらどうやって奥のベッドに入るんだよ。‥ああ、部屋の真ん中にベッドを並べて置くってこと? 確かにそれだったらいいけど‥」
 そんなことを三人でぼそぼそ話し合っていたけど、結局ベッドは部屋の両端にくっつけるように設置することになった様だ。
 ベッドの部品を運んで、その場で組み立てる。日曜大工みたい。騎士団の団員さんってそんなこともできるんだ~って感心した。後でクラシルさんに聞いたんだけど、直ぐに欲しかったから部下の人に頼んだだけで、騎士団の団員がいつも便利屋みたいなことをしているわけでは無いらしい(そりゃあね)。
 普通は当たり前に家具屋さんが職人さんを4,5人手配して持ってきてくれるらしい。その職人さんの手配に時間が掛かるらしい。
 成程、職人さん4,5人分の力 = 団員さん二人。
 筋肉は素晴らしい。
 みんな筋骨隆々て感じで「そりゃ、僕なんかが下手に手を出したら‥邪魔になるだけだな」って思った。だから、部品の移動、設置中は僕は邪魔にならないように‥ダイニングで待機だ。
「絶対入ってきちゃダメ」
 って言われた。
 ‥邪魔になるだろうけど、そんなに言わなくてもいいじゃん‥。

 ぼーっとしてるのもなんだから、お茶の用意をしておこう。
 今朝、火の起こし方とお茶の場所も教わったからね。
 って思ったけど、
 ‥カップがない。
 そういえば今朝も一つしかないカップを二人で使ったんだ。
 そうだよね‥。一人暮らしだからしょうがないよね‥。
 鍋と、食器。案外そろえなきゃいけないものってあるな~。
 隣の部屋からは時々、クラシルさんと団員さんの楽しそうな声が聞こえて来る。話の内容は聞こえないけど(盗み聞きは良くないしね! )三人の仲のよさそうな様子が伝わって来て、ほんわかする。
 クラシルさんはいい団長さんなんだろうな~って思う。
「俊哉。ベッドを見においで」
 クラシルさんに呼ばれて部屋に向かったタイミングで団員さんが帰った様だ。
 結局挨拶もできなかった。だけど、いつまでお世話になるか分からない居候の僕が女房面して挨拶するのもおかしい気もする。‥いや、居候だろうがやっぱり僕のベッドを持ってきてもらったわけだし、僕もお礼を言うのが普通では?? クラシルさんは僕を紹介するのが恥ずかしいのかな? 
 ‥ちょっと寂しい。
 ちょっとモヤモヤすることもあったが、クラシルさんに促されてベッドに腰を掛けてみる。
 クラシルさんのベッドと比べて、随分小さいってのが第一印象。
「俊哉のベッドは標準サイズだったからすぐに用意してもらえた。俺たち騎士団の連中は皆大きいからベッドを頼もうと思ったら、随分時間が掛かるんだけど」
 ‥特注ってことか~。成程。
 僕は頷いて、ベッドのお礼を言う。
「団員さんにもお礼を言いたかったです‥」
 ってちょっと不満を漏らしたら。
「そんなの勿体ない! 」
 って言われた。
 ‥何が勿体ない??? 勿体ないってなんぞや。
 頭がハテナになる僕にクラシルさんは
「‥さて。シーツを買いに行かないとね。鍋も、色々買う物があるから急がないと」
 って話をはぐらかした。‥何なんだ。
 
 昨日夕食を買った市場でシーツを買い、布団を買う。布団といったら、ふかふかの凄い大荷物を想像してたのに、下布団は若干綿が入って分厚かったが、上布団は綿の大きな袋って感じだった。中綿は寒くなったら職人に入れてもらうらしい。
「手先が器用な者は自分で入れるんだ」
 ってクラシルさんが教えてくれた。江戸時代の日本みたいだなって思った。よく覚えてないけど、春になったら綿を抜くんだよね。それが旧暦の四月一日で、四月一日のことを「わたぬき」って読むんじゃなかったけ? 
 でも‥昨日クラシルさんに借りた布団は‥これと同じ大きな袋だったけど‥? (もう、綿を抜いちゃった後なのかな? )
 クラシルさんは? って聞いたら、
「寒くなったら毛布をプラスするよ」
 って言われた。
 クラシルさんは綿をプラスしないらしい。
「毛布は買うときは多少は高いけど、ずっと使えるし」 
 ‥あ、高いんだ。‥そりゃそうだよね。
 それから、僕の毛布を買って、鍋を買って、あとは食器と夕飯の材料って時になって、クラシルさんが小さくため息をついた。
 ん? 
 首を傾げていると
 苦笑いしながら、さっきベッドを運んでくれた(多分)団員さんたちが物陰から出て来た。
「気付いてました‥よね」
 ってばつが悪そうな口調で‥遠慮がちにっていうか恐る恐る‥言う。
 もしや‥って思ってクラシルさんを盗み見したら、‥案の定怖い顔して無言で二人を睨んでいた。
 精悍な男前の無言で威圧、めちゃ怖い。
 ‥その目。皆に「怖い人かも」って誤解されるから止めて!
 案の定、周りの人たちは、「ひぃ! 」って逃げ出してる。
 でも、団員さんたちは、おたおたしながらも
「いや‥あの。荷物持ちますよ! まだ買い物あるんですよね? 一度家に置きに行くより、楽ですよ?! 僕らのことは荷物持ちだと思っていただければいいですから! 」
 って‥結構平常運転。多分、慣れてるんだろう。
 いつも一緒に働いてる団員さんなら怖い顔してるけど本気じゃないって位お見通しなんだろう。(そりゃね)
 その後、結局一緒に買い物をして、一緒にご飯を食べることになった。
 人数が増えたから鶏のから揚げなんかがいいかな? ガッツリしてて食べ応えあるし、皆大好きの定番メニューだ。唐揚げ嫌いな人ってそんな、いないだろう。
 あとは、野菜のスープ。
 香辛料は量り売りって感じで若干困惑したけど、そうあっちの世界と変わっている感じはなかった。
 勿論醤油やみそは無いけどね! それは、海外に行っても同じだろう。
 僕的に揚げ物なんかに使える「植物油」が無かったのが残念だった。‥探せばごま油なんかはあるかも? だけど、今日は取り敢えず揚げるのは諦めて‥多めの油で焼こうかな、と思う。
 鶏肉と、小麦粉、塩、胡椒、卵とジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを多めに買って帰ることにした。(ジャガイモやなんかは備蓄)
 あとは、食器! 
 案外大荷物になった。団員さんたちが荷物を持ってくれてホントに助かった。
 ってか‥なんでみんな僕が荷物を持とうとしたら横から取って行っちゃうんですかね?! 僕だって多少は持てますけど!? 落とすとか、掏られるとか思われてる?? 
 途中、屋台からいい匂いがしてきて 
「焼肉(串にさして焼いた肉)買わないんすか? 」
 とか団員さんが言って来る。
 多分、この人たちもクラシルさん同様「昼食、夕食は外食」組なんだろう。
 そうなると好きな物しか食べない‥って偏食になりがちだから、これからはクラシルさんの栄養管理を頑張って行きたいなって思ったり。
 兎に角、今日は初めての異世界クッキング頑張るぞ! 
 密かに闘志を燃やす僕の横で、クラシルさんはむす~とした顔をして‥「なんでこいつらまで‥」とか小声で不満を漏らしていたんだけど、周りを見るのに夢中だった僕は気付かなかったんだ。
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