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6.この世界の綺麗な物

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 さて、綺麗な物ってなんぞや。
 綺麗な景色とか、観光地? 
 そういうお勧めスポット的なものが近くにあるのかな? 
 地球で僕が住んでたところには近くにはそういうところはなかった。
 観光客が来る場所には電車で二駅ほどで行けたけど、だけど、見るところは一つだけ。そこで会った観光客に「他になにか見どころはありますか? 」って聞かれても、絶対答えられない感じ。
 ‥そもそも、そんなこと聞かれないだろうけど。
 あ、「お勧めの料理屋さんとかありますか? 」って聞かれたことはある。僕って顔が「丸顔だから人がいい様にみえる」し、「美味しい店知ってそう」って高崎(僕たち三兄弟の幼馴染。兄たちの「信者」で、僕のことを「残念な弟」「リアルこけし」って言ってた奴だ)に言われたことがある。
 ‥食いしん坊に見えるってか。
 何度も言うけど(※ 言ってない)僕は標準体型! お肌もちもちで顔がふっくらしてるから太ってると思われがちだけど、別に太ってないよ!!

「この辺りは海が綺麗なんだ。昼間はどうってことないけど、夕日が沈む頃とかは綺麗だぞ? 」
 身長差があるから、随分頭の上の方からクラシルさんの声が聞こえる。
 さっき組んだ腕もそのまま‥なんだけど、身長差のせいで、ちょっとぶら下がってる感じ。
「海? 」
 僕がクラシルさんを見上げて聞くと、クラシルさんはわざわざ立ち止まって優しい瞳で僕を見下ろして、頷いた。
「そう。海。俊哉は見たことがある? 」
 僕は小さく首を振った。
 実際はある。あるというか‥生れたところは海に近かった。
 だけど、きっと僕の見慣れてる海は、クラシルさんの言う海とは別物だろう。
 僕の見慣れた海は、完全に護岸工事された100%人工って感じの港だった。といっても、大型船が寄港するような大きな港じゃなくて、小さな船が碇泊してたり、工場が周りに立ってたりしてた。
 ここはそんな風には発展してない感じする。
「じゃ、そっち見に行こう」
 にこっと微笑んでクラシルさんが言った。
 僕もローブで顔半分を隠したまま‥微笑む。
 リアルこけしが笑ったって不気味なだけなんだけどね。

「あ! 」
 大柄の人がクラシルさんに気付いて駆け寄ってきた。
 が、クラシルさんを見て、首を傾げた。
「団長、ローブはどうしたんですか? 」「その子が着てるそのローブ‥団長のですよね? 」「ってか、あれ? その小さい子? 」「あ! その子が「お嫁さん」ですか? 」
 ‥何だ? よくしゃべる人だな。
 駆け寄って来て、クラシルさんに話しかけてるというより‥さっきから一方的に一人で喋ってるぞ? 
 特に内容もないことを‥
 団長つまりクラシルさんがいつも着てるローブを着てない。それを僕が着てるのが不思議。僕の背が小さい(ほっとけ! )あと‥

 その子がお嫁さんですか? 

 なんだそりゃ? クラシルさんにはお嫁さんがいるんですか!? 
 不思議に思って‥ホントは今すぐにでも聞きたいって思ったけど、ここで聞くのはダメだって思って、我慢した。
 ‥何か事情があるんだろう。
 そりゃそうだ‥クラシルさんは、初めて会った僕に偽恋人を提案してきたんだ‥あの時はあんまり驚いてうっかりその考えに行きつかなかったけど‥そりゃあるよね。
 つまり、それ程切羽詰まってたってことだ。
 例えば‥クラシルさんには結婚を約束した相手がいたけど、直前でその話がなくなった。でも、そのことをこの人は知らない‥的な?
「良かったすね! 団長は顔は怖いけど、いい人ですもんね! 僕らも団長には幸せになって欲しいって思ってたから‥」
 ‥何? 顔が怖いって言った? どこ見て言ってるの? クラシルさんの顔がどこが怖いの? 
 って思って、ちらっとクラシルさんの顔を見上げたら‥クラシルさんは能面の様な表情をしていた。
 あれだよ。
 アンタがあんまり喋るからクラシルさんに常に呆れ顔されてるんだよ‥。クラシルさんの顔が怖いんじゃなくて、クラシルさんに怖い顔されてる自分を反省した方がいいよ‥。
「ああ、まあ‥その話はいい。ベルク、今は遠慮してくれ」
 クラシルさんがホント迷惑そうに言ったのに、喋る男‥ベルクは全然聞いてない感じ。
 今度は、ほぅ‥と羨ましいって顔でクラシルさんを見て、
「それにしても‥ホントに‥夢がある話ですよね‥。僕らみたいなのでも、稼ぎが良かったらお嫁さんがもらえるってこと団長が証明してくれたんだ。
 ‥僕らも希望を捨てずに頑張ろうって思いました! 」
 って言ったんだ。
 なんだと! そんな言い方じゃ、クラシルさんが稼ぎが良かったから嫁の来手があった(= 稼ぎが無かったら嫁になんて来てもらえなかったよ! )‥みたいに聞こえるじゃないか! 
「でも、僕らの稼ぎじゃ、ひほ‥」
 密かに怒る僕に構わず喋り続けたベルクは‥とうとう「静かなるクラシルさん」の逆鱗に触れた様だ。「ひ! 」と小さく悲鳴をあげて
「す‥すみませんでした! じゃあ、また明日! 」
 とこそこそと‥でも、超素早く走り去った。
 ‥下からはよく見えなかったけど、きっと「無言の圧」に負けたって感じなんだろう。イケメンの凄んだ顔とか絶対怖そうだ。クラシルさんは「甘いマスクの王子様」タイプじゃなくて精悍なタイプだから余計にね。(僕は個人的には、甘いマスクタイプより精悍タイプの方が好きだよ! )→それは、まあ、それとして‥。
 ‥何だったんだあの人は‥
 僕たちみたいな‥ってクラシルさんと自分を一括りにするとか図々しいぞ。
 ‥もしかして、「大柄で、怖く見える人たち」繋がりか?
 あ~つまり、あの人も大柄ってことで小柄な人たちに遠巻きにされてるんだね。 
 でもね。
 違うんだよ。ベルクさんとクラシルさんは。
 同じ大柄繋がりかもしれないけど、クラシルさんはイケメン、ベルクさんはフツメン。
 ‥悲しいかな、違うんだよ。僕らは所詮、選ばれなかった民って奴なんだよ。(ちょっとベルクさんに親近感湧いてきちゃった。‥だけど、可哀そうとは思うけど、絶対友達にはならないタイプだよね。おしゃべりな人は‥苦手だ)
 にしても‥さっき何言いかけたんだろ。
 僕らの稼ぎじゃ、ひほ‥

 ひほ? 
 
 なんだ? ひほ‥?
「‥ごめんな。驚いただろ? 」
 クラシルさんが優しく‥今度はしゃがみ込んで僕に視線を合わせてくれた。
 といっても、僕はローブを目深にかぶってるから相変わらず視線はあわないんだけどね。
 僕は首を振って
「大丈夫ですよ」
 って言う。
「ああ‥でも、思わぬ足止めを食らったから‥もう夕日が落ちてしまったな。また明日見に来よう。今日はもう食事を買って帰ろうか」
 苦笑いして「ごめんね」って謝るクラシルさんに、いいえ! 大丈夫です! 気にしてないです! って伝える意味で、僕は思いっきり首を振って
「はい! もう僕お腹すいちゃいました! 」
 って言ったんだけど‥
 これじゃまるで食いしん坊みたいじゃないか? いや‥僕は丸顔だから太って見えるかもしれないけど、標準体重だからね? って心の中で今日も一人悲しい言い訳をする僕だった。
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