2 / 36
2.身の程って言葉。
しおりを挟む セシルの眉が上がり、彼が私に怒っていると言う事に気が付いた。
「セシル?もしかして…私の事怒っているの?私、何か貴方を怒らせるような事をしてしまったのかしら?」
折角、今回のフィリップとの結婚でセシルとの距離も少しは近づけたと思っていたのに。それは私の独りよがりだったのだろうか?
彼は怒気を含んだ声で私に言った。
「ああ、あるね。エルザは今、非常に俺を苛立たせる発言をした。一体どういうつもりで今の発言をしたんだ?」
「どういうつもりって…あ、もしかして特にする事もなかったから…と言った事に対して苛立っているの?」
それしか心当たりが無い。
「そうだ。よく分っているじゃないか。特にする事も無かった?それはあり得ないだろう?あれだけ俺が反対してもエルザはこの家に嫁いで来たんだ。だとしたら男爵家の妻として、色々やらなければならない事があるはずだろう?」
「そ、それは…」
私だって考えていた事だ。男爵家に嫁いで来たのだから、領地の事だって色々教えて貰わなければ分らないことだらけだ。
「第一、何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ないんだ?そんなにエルザは俺達と交流するのが嫌なのか?」
何も事情を知らないセシルは苛立ちを隠す事も無く、問い詰めて来る。
「あ…そ、それは…」
彼の言う事は尤もだと言うのは良く分っている。
けれど私はフィリップから勝手に本館へ行く事を禁じられているし、会話だってまともに交わす事が出来ない状態だ。
それどころか、結婚したその日のうちに離婚届を手渡されたのだから。
けれど…自分の置かれた状況をセシルには説明する気にはなれなかった。そんな事を言えば、彼の事だ。
<ほら、だから俺は2人の結婚に反対だったんだ>
そう言うに決まっている。
「何だ?図星を差されて何も言い返せないのか?」
彼は腕組みをすると上から見下ろして来た。
「あ、あの…今朝フィリップが本宅へ行ったでしょう?」
恐る恐る尋ねてみた。
「本宅?何だよ?その言い方は…。まぁ、別にいいけどな」
セシルは呆れた顔を見せると、言葉を続けた。
「兄さんなら昨日も今朝も1人で両親と俺に挨拶をしにきた。両親はエルザがいなかったから兄さんに理由を尋ねたんだよ」
「そうなのね?フィリップは何と説明したの?」
「君は…気分が優れないから、暫くは誰とも関わりたくないので放っておいて欲しいと兄から伝えてもらうように頼んだそうじゃないか?」
「え?!」
そんな…フィリップは私に正式な妻ではないのだから、勝手に本館へは行かないようにと言ったのに?
「それなのに…何だ?特にする事もなかったから刺繍をしていたって…」
セシルは私が刺繍していたハンカチを忌々し気に見た。
「あ、あの…それは…」
どうしよう?本当の事を言うべきなのだろうか?けれど、言えば絶対にフィリップの耳に入ってしまう。それ以前にセシルは私の話を恐らく信じてはくれないだろう。
「どうした?言いたい事があれば言ってみろよ?」
彼に詰め寄られたその時―
「あ、ここにいたのかい?セシル」
不意に声が聞こえ、驚いて振り向くと扉近くにフィリップが立っていた。
「あ…兄さん」
「セシルが離れに来ていると使用人から聞いたから、もしやと思って来てみたけど…やっぱりここに来ていたんだね?」
フィリップは部屋に入って来るとセシルに声をかけた。
「ああ、そうだよ。エルザに何故挨拶に来ないか、直接話を聞く為にね」
セシルは私を睨みつけている。
フィリップ…お願い、貴方から本当の事を説明して頂戴。
私は祈るような気持ちでフィリップを見たのだが…。
「エルザには理由を尋ねておくよ。それより僕の部屋に来ないか?美味しい茶葉があるんだ」
フィリップは笑顔でセシルに言う。
「分ったよ…なら、エルザも一緒に…」
セシルは私の方をチラリと見た。
「ああ、エルザはいいんだよ。昨日から食欲もないから、きっとお茶を飲むのも無理だと思うから」
「え…?わ、分ったよ」
セシルは一瞬怪訝そうな顔を見せたけれどもすぐに頷いた。
「良かった、ならすぐに行こう」
そしてフィリップは一度も私に声を掛ける事も…視線を合わす事も無く、セシルを連れて部屋から出て行った。
バタン…
扉は閉ざされ、私はまた1人きりになってしまった。
「…セシルには笑顔を向けるのね…。それに…私はフィリップの部屋に行った事も無ければ、場所も知らないと言うのに…」
その時、再び胃がズキリと痛んだ。
「う…」
私は椅子に座ると、目を閉じ…痛みが引いて行くのをじっと待った―。
「セシル?もしかして…私の事怒っているの?私、何か貴方を怒らせるような事をしてしまったのかしら?」
折角、今回のフィリップとの結婚でセシルとの距離も少しは近づけたと思っていたのに。それは私の独りよがりだったのだろうか?
彼は怒気を含んだ声で私に言った。
「ああ、あるね。エルザは今、非常に俺を苛立たせる発言をした。一体どういうつもりで今の発言をしたんだ?」
「どういうつもりって…あ、もしかして特にする事もなかったから…と言った事に対して苛立っているの?」
それしか心当たりが無い。
「そうだ。よく分っているじゃないか。特にする事も無かった?それはあり得ないだろう?あれだけ俺が反対してもエルザはこの家に嫁いで来たんだ。だとしたら男爵家の妻として、色々やらなければならない事があるはずだろう?」
「そ、それは…」
私だって考えていた事だ。男爵家に嫁いで来たのだから、領地の事だって色々教えて貰わなければ分らないことだらけだ。
「第一、何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ないんだ?そんなにエルザは俺達と交流するのが嫌なのか?」
何も事情を知らないセシルは苛立ちを隠す事も無く、問い詰めて来る。
「あ…そ、それは…」
彼の言う事は尤もだと言うのは良く分っている。
けれど私はフィリップから勝手に本館へ行く事を禁じられているし、会話だってまともに交わす事が出来ない状態だ。
それどころか、結婚したその日のうちに離婚届を手渡されたのだから。
けれど…自分の置かれた状況をセシルには説明する気にはなれなかった。そんな事を言えば、彼の事だ。
<ほら、だから俺は2人の結婚に反対だったんだ>
そう言うに決まっている。
「何だ?図星を差されて何も言い返せないのか?」
彼は腕組みをすると上から見下ろして来た。
「あ、あの…今朝フィリップが本宅へ行ったでしょう?」
恐る恐る尋ねてみた。
「本宅?何だよ?その言い方は…。まぁ、別にいいけどな」
セシルは呆れた顔を見せると、言葉を続けた。
「兄さんなら昨日も今朝も1人で両親と俺に挨拶をしにきた。両親はエルザがいなかったから兄さんに理由を尋ねたんだよ」
「そうなのね?フィリップは何と説明したの?」
「君は…気分が優れないから、暫くは誰とも関わりたくないので放っておいて欲しいと兄から伝えてもらうように頼んだそうじゃないか?」
「え?!」
そんな…フィリップは私に正式な妻ではないのだから、勝手に本館へは行かないようにと言ったのに?
「それなのに…何だ?特にする事もなかったから刺繍をしていたって…」
セシルは私が刺繍していたハンカチを忌々し気に見た。
「あ、あの…それは…」
どうしよう?本当の事を言うべきなのだろうか?けれど、言えば絶対にフィリップの耳に入ってしまう。それ以前にセシルは私の話を恐らく信じてはくれないだろう。
「どうした?言いたい事があれば言ってみろよ?」
彼に詰め寄られたその時―
「あ、ここにいたのかい?セシル」
不意に声が聞こえ、驚いて振り向くと扉近くにフィリップが立っていた。
「あ…兄さん」
「セシルが離れに来ていると使用人から聞いたから、もしやと思って来てみたけど…やっぱりここに来ていたんだね?」
フィリップは部屋に入って来るとセシルに声をかけた。
「ああ、そうだよ。エルザに何故挨拶に来ないか、直接話を聞く為にね」
セシルは私を睨みつけている。
フィリップ…お願い、貴方から本当の事を説明して頂戴。
私は祈るような気持ちでフィリップを見たのだが…。
「エルザには理由を尋ねておくよ。それより僕の部屋に来ないか?美味しい茶葉があるんだ」
フィリップは笑顔でセシルに言う。
「分ったよ…なら、エルザも一緒に…」
セシルは私の方をチラリと見た。
「ああ、エルザはいいんだよ。昨日から食欲もないから、きっとお茶を飲むのも無理だと思うから」
「え…?わ、分ったよ」
セシルは一瞬怪訝そうな顔を見せたけれどもすぐに頷いた。
「良かった、ならすぐに行こう」
そしてフィリップは一度も私に声を掛ける事も…視線を合わす事も無く、セシルを連れて部屋から出て行った。
バタン…
扉は閉ざされ、私はまた1人きりになってしまった。
「…セシルには笑顔を向けるのね…。それに…私はフィリップの部屋に行った事も無ければ、場所も知らないと言うのに…」
その時、再び胃がズキリと痛んだ。
「う…」
私は椅子に座ると、目を閉じ…痛みが引いて行くのをじっと待った―。
45
お気に入りに追加
781
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。


寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで
深凪雪花
BL
候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。
即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。
しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……?
※★は性描写ありです。

カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話
黄金
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。
恋も恋愛もどうでもいい。
そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。
二万字程度の短い話です。
6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる