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2.身の程って言葉。
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「身の程を知れ」ってよく言われたけど、寧ろ、「なんで貴方にそんなこと言われなきゃいけないの? 」って思う。
「不細工は、身の程を知って大人しく過ごすべき」ってさ、
どんな理屈?
意味わかんないわ。
そんなこと言った彼らからすると‥「表舞台で暮らす資質を持った」うちの兄たちのようなイケメンたちは「寧ろもっと堂々と過ごして然り」って思うらしい。
あほらし。
兄さんがため息をついて、ホントに「あほらしい」者を見る様な冷めた視線を「そんな彼ら」に送るから、僕は今まで卑屈にならずに済んだ。否、兄さんの前では卑屈な表情をしないで済んだ。
でも、ま、そりゃ周りにあんだけ(心無い言葉)言われたら卑屈にもなる。
僕だって、悔しいし、悲しい。
でもね、
兄さんに愚痴ることも出来ない。
「そんな奴らに使う時間すら惜しい」
って言われちゃったら、もうそれ以上言えないよ。
だから、もうあきらめたんだ。
外見を工夫して僕の社会的地位をあげようって努力するのも、兄さんたちに分かってもらおうって努力するのも。
兄さんの言う通り、
他人なんて気にしないに限るから。
あれから下の兄さんが大学を卒業したり、上の兄さんが結婚して実家の近くに家を借りたり、僕が他県の大学に進学したりと色々あった。
あの頃僕の事兄たちと比べてなんだかんだ言ってきた人たちとはもう親交はない。(もう二度と会うこともないだろう)
僕は、あの兄さんたちの異質で残念な弟じゃなくて、ただの僕。
全然目立たない、ただの僕になったんだ。
‥なれたっていうのが正直のところ。やっと、意味のない比較から解放された。
だってそうだ。僕は僕だし、兄さんたちは兄さんたちだ。
比較してしまうのは仕方がないとはおもうけど「だから何? 」な意味のないことだって思う。
兄たちのいない静かな生活は、平和で‥だけどちょっと寂しいって時折思う。
だけど、それにも次第に慣れていって、いずれは「懐かしい」とか思うようになるんだろう。‥それは、ちょっと楽しみな気もする。
そんなことを思いながら歩いていると、ちょっとした人混みにぶつかった。
「ホント、笠谷さんってかっこいい‥」
「雲の上の人って感じするよね。‥僕らとは違うって感じする」
「ったく、何喰ったらあんなに高身長になるのかね」
「何言ってんの。恥ずかしいなぁ」
人混みの正体は、我が大学のスター笹谷さん(と、その取り巻き御一行様)だ。
皆はそう言ってるけど‥正直兄たちと比べたら「所詮街のちょっとカッコイイ人」位にしか思えない。だけど、勿論そんなこと言わないよ? だって、言っても仕方がないから。いつもなら、目立たないように人混みからそろっと離れるんだけど‥今日はちょっと失敗したみたい。
完全に退路を閉ざされた。
階段いっぱいに広がって喋るの‥勘弁してほしい。
抜かすわけにもいかずとぼとぼ後ろを歩いていたら、なんか‥こっち見られてる。表情が‥「何なの~こんなとこに何しに来ちゃったわけ~」って顔。取り巻きなんかは、「どうからかってやろうか? 」ってニヤニヤしてる。
「ホントだね。カッコイイよね」
僕はさしずめ「同意するモブ」的立ち位置を求められてるのかな? って思ったけど‥僕は笹谷さんも、笹谷さんの取り巻きも誰も知らない。そんなモブが急に同意するのもおかしくない?
だから、黙ってたら
「誰だよアンタ。なんで黙ってるの? 笹谷さんのこと馬鹿にしてんの? 自分の方がイケてるとかもしかして思っちゃってる? 」
って取り巻きが言って来た。(完全に調子に乗っちゃってるんだ。いるよね。人気者と一緒にいて自分も人気者にでもなった気になってる奴‥)
は?
なに、頭おかしいのアンタ。誰がそんな話したよ??
僕は思ったけど、苦笑いして流した。だけど、取り巻きのニヤニヤは止まらない。
‥ホント、勘弁してほしい。
「茶色く染めてんの? 髪の毛。えらく気合はいってんね。目もカラコン? ‥全然似合ってませんけど? 身の程知ってくださいね? 所詮、君みたいな地味顔にはそんなの似合わないよ! 」
出た。身の程。
何なの。ここでもそれ言うの。
黙って周り右して立ち去ろうとしたら、笠谷ガールズ(って呼ばれてる笠谷ファンの女の子)の一人が
「あ、小林君(僕の苗字)ハーフなんだ。確か、お母さんが外国人‥みたいなこと言ってなかった? 」
って急に発言した。
取り巻きたちの視線がその子に集まる。
‥誰アンタ。今なんでそれを言うよ!? しかも、そんな話誰があんたにした? ‥あ、そういえば書類を書いてる時「君小林君っていうんだ。地味な君にピッタリな苗字だよね~。(← 全国の小林さんに謝れ)あれ? お母さん外国の人なんだ? 」って横から勝手に覗き込んできて一方的に話しかけて来た奴いた。そん時の奴か。
‥それは君ね。言ってたとは言わないの。勝手に知った、ってだけ。僕がイキって言ったみたいに言わないで??
そう思ってたら、案の定周りはちょっと静まり返って、次の瞬間、わっと笑い始めた。
「え! 君ハーフなの! え~残念ハーフ! 」
「スペックの無駄遣いだよね~」
これだよ。
ったく。
僕が黙ってその場から回れ右して離れようとしたのが彼らの癪に障ったんだろう。彼らは怒って僕に手を伸ばし
「おい! 無視すんなよ~! 」
って乱暴に‥
僕の腕を引っ張ろうとした。そして、僕はその腕に偶然当たって‥バランスを崩したんだ。
あ、終わった。上の兄ちゃんみたいに体幹トレーニングして鍛えてたら良かったな。
そもそも‥兄ちゃんたちみたいに好き勝手生きてても許される容姿だったら良かったな。
せめて‥もっと目立たなかったら良かったな‥。
薄れゆく意識‥最後に
「え!? なんで?! 俺押してない! 無視されたから引っ張ろうとしたらアイツが勝手に‥! 」
なんかそんな焦った声が聞こえたけど、‥どうでもいい。
勝手に落ちたとか言ってもらっても、もう別にいい。
「アイツが悪いんじゃないか! 普通ちょっと引っ張られたくらいで落ちる?! もうホント‥」
存在自体が迷惑だよな‥っ!
死んだ後迄なんか言われるとか‥
そんなついてないの、ない。
残念モブは残念モブらしく、不幸に静かに‥身の程をわきまえて死んでいきたい。
「不細工は、身の程を知って大人しく過ごすべき」ってさ、
どんな理屈?
意味わかんないわ。
そんなこと言った彼らからすると‥「表舞台で暮らす資質を持った」うちの兄たちのようなイケメンたちは「寧ろもっと堂々と過ごして然り」って思うらしい。
あほらし。
兄さんがため息をついて、ホントに「あほらしい」者を見る様な冷めた視線を「そんな彼ら」に送るから、僕は今まで卑屈にならずに済んだ。否、兄さんの前では卑屈な表情をしないで済んだ。
でも、ま、そりゃ周りにあんだけ(心無い言葉)言われたら卑屈にもなる。
僕だって、悔しいし、悲しい。
でもね、
兄さんに愚痴ることも出来ない。
「そんな奴らに使う時間すら惜しい」
って言われちゃったら、もうそれ以上言えないよ。
だから、もうあきらめたんだ。
外見を工夫して僕の社会的地位をあげようって努力するのも、兄さんたちに分かってもらおうって努力するのも。
兄さんの言う通り、
他人なんて気にしないに限るから。
あれから下の兄さんが大学を卒業したり、上の兄さんが結婚して実家の近くに家を借りたり、僕が他県の大学に進学したりと色々あった。
あの頃僕の事兄たちと比べてなんだかんだ言ってきた人たちとはもう親交はない。(もう二度と会うこともないだろう)
僕は、あの兄さんたちの異質で残念な弟じゃなくて、ただの僕。
全然目立たない、ただの僕になったんだ。
‥なれたっていうのが正直のところ。やっと、意味のない比較から解放された。
だってそうだ。僕は僕だし、兄さんたちは兄さんたちだ。
比較してしまうのは仕方がないとはおもうけど「だから何? 」な意味のないことだって思う。
兄たちのいない静かな生活は、平和で‥だけどちょっと寂しいって時折思う。
だけど、それにも次第に慣れていって、いずれは「懐かしい」とか思うようになるんだろう。‥それは、ちょっと楽しみな気もする。
そんなことを思いながら歩いていると、ちょっとした人混みにぶつかった。
「ホント、笠谷さんってかっこいい‥」
「雲の上の人って感じするよね。‥僕らとは違うって感じする」
「ったく、何喰ったらあんなに高身長になるのかね」
「何言ってんの。恥ずかしいなぁ」
人混みの正体は、我が大学のスター笹谷さん(と、その取り巻き御一行様)だ。
皆はそう言ってるけど‥正直兄たちと比べたら「所詮街のちょっとカッコイイ人」位にしか思えない。だけど、勿論そんなこと言わないよ? だって、言っても仕方がないから。いつもなら、目立たないように人混みからそろっと離れるんだけど‥今日はちょっと失敗したみたい。
完全に退路を閉ざされた。
階段いっぱいに広がって喋るの‥勘弁してほしい。
抜かすわけにもいかずとぼとぼ後ろを歩いていたら、なんか‥こっち見られてる。表情が‥「何なの~こんなとこに何しに来ちゃったわけ~」って顔。取り巻きなんかは、「どうからかってやろうか? 」ってニヤニヤしてる。
「ホントだね。カッコイイよね」
僕はさしずめ「同意するモブ」的立ち位置を求められてるのかな? って思ったけど‥僕は笹谷さんも、笹谷さんの取り巻きも誰も知らない。そんなモブが急に同意するのもおかしくない?
だから、黙ってたら
「誰だよアンタ。なんで黙ってるの? 笹谷さんのこと馬鹿にしてんの? 自分の方がイケてるとかもしかして思っちゃってる? 」
って取り巻きが言って来た。(完全に調子に乗っちゃってるんだ。いるよね。人気者と一緒にいて自分も人気者にでもなった気になってる奴‥)
は?
なに、頭おかしいのアンタ。誰がそんな話したよ??
僕は思ったけど、苦笑いして流した。だけど、取り巻きのニヤニヤは止まらない。
‥ホント、勘弁してほしい。
「茶色く染めてんの? 髪の毛。えらく気合はいってんね。目もカラコン? ‥全然似合ってませんけど? 身の程知ってくださいね? 所詮、君みたいな地味顔にはそんなの似合わないよ! 」
出た。身の程。
何なの。ここでもそれ言うの。
黙って周り右して立ち去ろうとしたら、笠谷ガールズ(って呼ばれてる笠谷ファンの女の子)の一人が
「あ、小林君(僕の苗字)ハーフなんだ。確か、お母さんが外国人‥みたいなこと言ってなかった? 」
って急に発言した。
取り巻きたちの視線がその子に集まる。
‥誰アンタ。今なんでそれを言うよ!? しかも、そんな話誰があんたにした? ‥あ、そういえば書類を書いてる時「君小林君っていうんだ。地味な君にピッタリな苗字だよね~。(← 全国の小林さんに謝れ)あれ? お母さん外国の人なんだ? 」って横から勝手に覗き込んできて一方的に話しかけて来た奴いた。そん時の奴か。
‥それは君ね。言ってたとは言わないの。勝手に知った、ってだけ。僕がイキって言ったみたいに言わないで??
そう思ってたら、案の定周りはちょっと静まり返って、次の瞬間、わっと笑い始めた。
「え! 君ハーフなの! え~残念ハーフ! 」
「スペックの無駄遣いだよね~」
これだよ。
ったく。
僕が黙ってその場から回れ右して離れようとしたのが彼らの癪に障ったんだろう。彼らは怒って僕に手を伸ばし
「おい! 無視すんなよ~! 」
って乱暴に‥
僕の腕を引っ張ろうとした。そして、僕はその腕に偶然当たって‥バランスを崩したんだ。
あ、終わった。上の兄ちゃんみたいに体幹トレーニングして鍛えてたら良かったな。
そもそも‥兄ちゃんたちみたいに好き勝手生きてても許される容姿だったら良かったな。
せめて‥もっと目立たなかったら良かったな‥。
薄れゆく意識‥最後に
「え!? なんで?! 俺押してない! 無視されたから引っ張ろうとしたらアイツが勝手に‥! 」
なんかそんな焦った声が聞こえたけど、‥どうでもいい。
勝手に落ちたとか言ってもらっても、もう別にいい。
「アイツが悪いんじゃないか! 普通ちょっと引っ張られたくらいで落ちる?! もうホント‥」
存在自体が迷惑だよな‥っ!
死んだ後迄なんか言われるとか‥
そんなついてないの、ない。
残念モブは残念モブらしく、不幸に静かに‥身の程をわきまえて死んでいきたい。
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