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四章.入れ替わり

7.キラキラ相生様と日焼けした紅葉

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「相生、お前、修学旅行どうするんだ? お前だけ出欠確認出てないぞ。出ないんだったらそれでもいいが、一応提出してくれ」
 誰だっけ‥と思う前に、
 ‥担任の教師だ。
 耳元で月桂の声がした。
 成程、こういうこともフォローしてくれるわけか。
 四朗は小さく頷いて
「え? はあ。相崎って個人部屋取るんですよね? じゃあ、僕もそれでいいですか? 」
 と、担任に答えた。
 声が違うけど大丈夫かな?
 念のために、「ちょっと喉が」と言い訳して喉を押えて軽い風邪アピールする。
 今まで通り月桂が話せばいいんだろうけど‥それじゃいつまでたっても入れ替わりが完成しない。
 そう思ったんだけど‥自分の声に言い訳をする日が来るとは思わなかった。
 担任は目を見開き、一瞬「意外」という顔をしたが、すぐに笑顔を見せ、
「え? ああ。そう‥だなあ。それだったら、出れるか? 」
 と聞いてきた。
 あれだ心配そうにしている中に、ちょこっと「嬉しそう」が混じった顔。四朗は担任のその意外な表情に首を傾げながら
「ええ。問題はないです」
 軽く頷いた。
 担任は笑みを深めると、
「よかった‥。相生。勇気を出してくれて‥ありがとうな。ありがとう‥っても変だな。だけど、俺は‥お前が参加してくれて‥嬉しい。いい思い出がつくれたらなってホントに思う。
 俺たち‥先生の方も全面的にフォローするからな。大丈夫だ! いい旅行にしような! 」
 最後は感激したのか、ちょっと泣きそうな顔してる。
 ちょっと暑苦しい感じだけど、生徒思いのこの担任に四朗は好感が持てた。
「ん? 」
 四朗との会話に月桂が首を傾げたのが分かった。
 あれ? 月桂は‥知らないのかな?
 担任と会釈して別れると
「四朗。旅行に‥行くの? 」
 近くにいたらしい武生が訝し気に聞いて来た。
 今は機嫌は悪くなさそうだ。
 それより寧ろ‥「訳が分からない」と‥あと、心配って表情。
 
 武生は、‥多分この学校で、先生方と武生だけが「あのこと」を知ってるから‥。

「今回は、個人部屋取れるみたいだし」
 四朗は武生を安心させるために、笑顔で言った。
 武生はだけど心配そうに四朗を見ていたが、暫くすると
「‥そうか、ま、学生生活最後だしな」
 小さくため息をついてから言った。
 すれ違う時、小声で「フォローは‥する」と呟いたのが聞こえた。
 先生たちと武生と‥
 俺は何ていい人たちに恵まれてるんだろうな‥って思った。

 武生が教室に戻っていくと、
「相生様。自由時間の班はどうされるんですか? あの、良かったら、一緒にまわりませんか? 」
 何人かの女子が四朗の周りを囲んだ。
 今まで話しかけるタイミングを窺っていたのだろう。
「ん? ごめんね。女の子と一緒だと緊張しちゃうから、男子と一緒の方がいいな。ほら、何話したらいいかわからなくって、気を遣わせちゃいそう」
 四朗が困ったような笑顔で断った。
 やんわり‥だけどきっぱり。
 こういうところで気を持たせるようなことを言ってはいけない。
「そんなことないですよ」
 しかし、そんなことで引き下がるような女子たちではなかった。
 なんせ、この機会は逃したくない。
 女子たちも必死だ。
「ごめんね」
 と、今度は困ったように‥だけどさっきよりも、もう少し「しっかり目に」四朗が困った様に笑うと、女子たちもそれ以上言えなくなって‥つい、見とれてしまう。

 今日の、相生様ホントにキラキラ~。

 艶のある短い黒髪がさらりと揺れる。癖なんてちっともない絹糸みたいな髪だ。
 つい紅葉の時の癖で、髪の毛を念入りに梳かしてしまったのだ。
 日焼け対策の日焼け止めクリームは、昨日24時間営業している薬局で買って来た。(今まで使ってたシャンプーも、だ)
 朝からばっちりケアで、髪も肌もつやつやつるつるだ。

 ‥そういえば、紅葉ちゃんの為と思ってしてきたことなんだけど、今まで自分の肌を磨いて、自分の髪を梳かしてきただけだったんだな。
 だけど、鏡を見なかったから気付かなかった。
 う~ん。無駄につるつるピカピカ‥。
 そして‥この肌の白さ! ‥ちょっと不健康っぽいな!

 だけど、それは別に今更のことではない。もともと、色白で日焼けするとまっ赤になって大変なことになっていた。だから、四朗にとっての日焼け止めクリームは、美肌対策というより、日焼けによる炎症対策だ。

 そういえば元に戻った時、紅葉ちゃんはちょっと日焼けしていた。
 自分が男(四朗)だと思いこんで暮らしてきたからだろう。
 ‥だけど、これからは気にしてほしい。女の子なんだから。
 そんなことを心配する美意識高い系男子、四朗だった。


 元々面食いの四朗は女子の美容に関する意識に、普通より厳しかった。

 別に全ての女の子に、どうこう言うつもりはない。自分の好みを女の子に押し付ける気もない。ただ、そういう意識が普通(四朗にとっての)にある女の子が好きなだけだ。

 お肌に気を使い、髪を綺麗にセットしている。髪型云々ではなく、当たり前に丁寧に「するべき」手入れしている。そういうのが好きなのだ。
 勿論、高校生なのに化粧とかは問題外だ。

「‥ホントに、今日の四朗‥なんか変だな」
 放課後。
 四朗と一緒に教室から出ながら武生がまた眉を寄せて言った。
「そうか? 」
 四朗は苦笑いする。

 自分こそが、「本物の」自分なのに、本当に困ってしまう。

 俺は紅葉ちゃんとして暮らしている時、最小限にしか人と関わってこなかったから、紅葉ちゃん(本物)に変わったところで気づく人間はいないだろうと思う。紅葉ちゃんだって、記憶喪失というアクシデントがなかったら、そつなくこなしていただろう。
 だけど、紅葉が事故で記憶喪失になるという‥イレギュラーなアクシデントが起こった‥。

 ‥記憶喪失。そうか。

「記憶がね、戻ったんだ」
 ぼそり、と四朗が言った。武生がはっとした顔になって、四朗を振り向く。
 そして
「‥そうか」
 ほっとしたように‥そうとだけ呟く。
 四朗も小さく頷き
「だけど、なんだか混乱しちゃって、今の記憶と昔の記憶が自分の中で整理できなくなってる」
 苦笑いを浮かべる。
「‥そうか」
 口数少なく頷きながら、心配そうな顔をする武生は昔から四朗が知っている武生で、四朗は入れ替わってから初めてほっとした。

 ‥武生も混乱してたんだな。

 って思った。
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