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四章.入れ替わり
2.紅葉を探して
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と、そんな二人の遣り取りを柱の陰で聞いていた見かけ紅葉の四朗もまた、感動のあまり泣きそうになっていた。
聞いた? 「紅葉ちゃん」。君の妹はなんていい子なんだ!
俺の弟もいい奴だけど。でも、ここまで、いい子かどうかはわからない。だけどそれは愛情の差だとか、いい奴度とかの問題じゃない。多分性別の問題だ。
博史は、男だからそういう方向には気が回らないだろう。
だけど、「兄ちゃん、もうちょっと青春を謳歌した方がいいよ。若い頃なんて短いんだから」とかは言いそう。うん‥いいそう。わからんけど。
‥博史元気かな。
そもそも、あいつも俺が「変わった」って気づいているんだろうか。
千佳たちは、やっぱり気付いていたんだ。気付いてたと言うか‥気になった‥というか。
それなりにうまくやって来たつもりだったけど、この頃は特に自分のしたいことを優先してきたしな。
この頃、で済まないか。
ふと、自分の体じゃない紅葉ちゃんに自分は気を遣わなさ過ぎたことに気づいた。
肌の手入れは充分している。髪もとかしている。悪い評判が立ちそうなことなんて絶対してないし、成績だっていつも首位で紅葉ちゃんにとって悪いことは何もしていない。
だけど、何もいいこともしていない。
例えば、未来につながる「中学時代からの友達」だとか‥皆無だ。
紅葉さんからの手紙(報告って感じだった)によると「親しい友達は特にいない」ってなってたから、その辺りは気にしてこなかった。
「そういう人(誰か特別に仲のいい人を作るタイプ)じゃないんだな」って思って、気をつけて人と付き合うこともしてこなかった。
だけど、男ならそれでいいだろうが、女の子の世界ではそういう子って「付き合い悪いな」とかなるんじゃないだろうか? 「お高くとまってるな」とか陰口叩かれたりするんじゃないか??
そういうことに‥今まで無頓着すぎた。
まあ、確かに俺がして「俺が楽しい思い出」作っても仕方がないわけなんだけど、紅葉ちゃんとの思い出が誰の心にも残っていない。それが、問題なんだ。
それは、入れ替わり後の紅葉ちゃんにも関係してくる。
といっても‥どんな子と知り合いになって、どんな風に思い出を作ればいいのか。それが分からない。
高校の女子の普通の暮らし方ってどんなのか‥そういえば知らない。
俺が四朗として暮らしている時、周りの女子はどんな風に過ごしてただろうか?
ああ‥そうか。千佳ちゃん‥
でも‥千佳ちゃんは果たして「普通の女子中学生」だろうか?
紅葉ちゃんが分析した自分の性格と、周りからみた紅葉ちゃんの性格だって‥きっと違うはずだ。
だけどそれは、特別なことじゃなくて、誰に対してもいえることだ。
自分の気持ちが周りに全部「正しく」伝わるってことは‥ない。
親しくしたいってけど、なかなか踏み出せない。本人はそう悩んでいても、周りから見たら「あの子は一人が好きな子なんだ」って見えるかもしれない。
そういうことはよくある。
紅葉ちゃんの手紙(報告書)には、そういう「自分の気持ち」は書かれていなかった。
ただ、相手とはこういう風に接していて、周りからもこんな対応を受けている‥ってだけの文章だった。
紅葉ちゃんの幼いころのアルバムを見たが、みんな家族の愛情を感じられるものだった。
日々の何気ない写真は、小学校になってからはさすがに減ったが、それでも運動会の写真は毎年撮られていた。
それは、自分が紅葉としてここに来た後も続いた。
「笑って! 」
楽しそうにカメラを構える父親に、どう笑っていいのか分からなかった。
今ここで求められているであろう笑顔がどんなものなのかが、分からなかった。
楽しそうに笑うことなんて、したことがなかった。
そんなこと今まで「求められて」来なかったから。
笑顔と言えば、条件反射で出る営業用スマイルだ。
相手に好印象を与える為。わざとらしくならない、不快感を与えずに、安心感を持たせる「正しい社会人としての表情」。小学生の頃だったら、「お利口な子供」って印象を持たせる笑顔だったけど、高校生になった今は「社会人として」の笑顔でないといけない‥とか。
紅葉ちゃんとしてここに居る間も、相生としての自分を忘れることはなかった。
自分の役目。
相手にどう見せたいか、どう見られたいか。
それだけ。
紅葉ちゃんみたいに、はにかむようで、優し気な微笑みは自分にはできそうにない。根っからのひねくれものには、無理な話だ。
だけど、そんな素振りを他で見せてしまうなんてへまもしたことがない。「そつなく」こなせてきたという自信はある。
さっきの千佳ちゃんの話を聞いたところ、紅葉ちゃんもそういったタイプだったんだろう。
あのはにかむような眩しい笑顔の向こうに本当の紅葉ちゃんがちらり、と見えた気がした。
紅葉ちゃんの厳しさや決意。
ストイックに、ただ自分を高める為に。そして、それは自分のためじゃない。
たぶん、妹にとっていい姉でありたいとか、両親にとっていい子でありたいとかいった理由なんだろう。
俺にも覚えがある。
でも、これは今ではむしろ自分のためだ。だらしない自分なんて考えらえないし、相生の家をないがしろにする自分もまた然り。
相生の為にして来たことは、気が付けば「自分の全て」になっていたんだ。
だけどそれと紅葉ちゃんのことは別問題だ。自分のことと、他人の‥紅葉ちゃんのことを一緒にしちゃだめだな。
紅葉ちゃんには、千佳ちゃんが言ったように、自分の幸せについて考えて欲しいよ。本当に声を出して笑って欲しいよ。友達と馬鹿笑いしたり、時々は騒いで大人に注意されたり。(は、ダメだけどね)
紅葉ちゃんには、幸せになってもらいたい。
どうすれば幸せになれるか‥とかは俺には分からないけど、少なくとも俺の代わりをしていては紅葉ちゃんが紅葉ちゃんの幸せを見つけることはできないだろう。
早く、早く戻れるようにならなければ‥。
聞いた? 「紅葉ちゃん」。君の妹はなんていい子なんだ!
俺の弟もいい奴だけど。でも、ここまで、いい子かどうかはわからない。だけどそれは愛情の差だとか、いい奴度とかの問題じゃない。多分性別の問題だ。
博史は、男だからそういう方向には気が回らないだろう。
だけど、「兄ちゃん、もうちょっと青春を謳歌した方がいいよ。若い頃なんて短いんだから」とかは言いそう。うん‥いいそう。わからんけど。
‥博史元気かな。
そもそも、あいつも俺が「変わった」って気づいているんだろうか。
千佳たちは、やっぱり気付いていたんだ。気付いてたと言うか‥気になった‥というか。
それなりにうまくやって来たつもりだったけど、この頃は特に自分のしたいことを優先してきたしな。
この頃、で済まないか。
ふと、自分の体じゃない紅葉ちゃんに自分は気を遣わなさ過ぎたことに気づいた。
肌の手入れは充分している。髪もとかしている。悪い評判が立ちそうなことなんて絶対してないし、成績だっていつも首位で紅葉ちゃんにとって悪いことは何もしていない。
だけど、何もいいこともしていない。
例えば、未来につながる「中学時代からの友達」だとか‥皆無だ。
紅葉さんからの手紙(報告って感じだった)によると「親しい友達は特にいない」ってなってたから、その辺りは気にしてこなかった。
「そういう人(誰か特別に仲のいい人を作るタイプ)じゃないんだな」って思って、気をつけて人と付き合うこともしてこなかった。
だけど、男ならそれでいいだろうが、女の子の世界ではそういう子って「付き合い悪いな」とかなるんじゃないだろうか? 「お高くとまってるな」とか陰口叩かれたりするんじゃないか??
そういうことに‥今まで無頓着すぎた。
まあ、確かに俺がして「俺が楽しい思い出」作っても仕方がないわけなんだけど、紅葉ちゃんとの思い出が誰の心にも残っていない。それが、問題なんだ。
それは、入れ替わり後の紅葉ちゃんにも関係してくる。
といっても‥どんな子と知り合いになって、どんな風に思い出を作ればいいのか。それが分からない。
高校の女子の普通の暮らし方ってどんなのか‥そういえば知らない。
俺が四朗として暮らしている時、周りの女子はどんな風に過ごしてただろうか?
ああ‥そうか。千佳ちゃん‥
でも‥千佳ちゃんは果たして「普通の女子中学生」だろうか?
紅葉ちゃんが分析した自分の性格と、周りからみた紅葉ちゃんの性格だって‥きっと違うはずだ。
だけどそれは、特別なことじゃなくて、誰に対してもいえることだ。
自分の気持ちが周りに全部「正しく」伝わるってことは‥ない。
親しくしたいってけど、なかなか踏み出せない。本人はそう悩んでいても、周りから見たら「あの子は一人が好きな子なんだ」って見えるかもしれない。
そういうことはよくある。
紅葉ちゃんの手紙(報告書)には、そういう「自分の気持ち」は書かれていなかった。
ただ、相手とはこういう風に接していて、周りからもこんな対応を受けている‥ってだけの文章だった。
紅葉ちゃんの幼いころのアルバムを見たが、みんな家族の愛情を感じられるものだった。
日々の何気ない写真は、小学校になってからはさすがに減ったが、それでも運動会の写真は毎年撮られていた。
それは、自分が紅葉としてここに来た後も続いた。
「笑って! 」
楽しそうにカメラを構える父親に、どう笑っていいのか分からなかった。
今ここで求められているであろう笑顔がどんなものなのかが、分からなかった。
楽しそうに笑うことなんて、したことがなかった。
そんなこと今まで「求められて」来なかったから。
笑顔と言えば、条件反射で出る営業用スマイルだ。
相手に好印象を与える為。わざとらしくならない、不快感を与えずに、安心感を持たせる「正しい社会人としての表情」。小学生の頃だったら、「お利口な子供」って印象を持たせる笑顔だったけど、高校生になった今は「社会人として」の笑顔でないといけない‥とか。
紅葉ちゃんとしてここに居る間も、相生としての自分を忘れることはなかった。
自分の役目。
相手にどう見せたいか、どう見られたいか。
それだけ。
紅葉ちゃんみたいに、はにかむようで、優し気な微笑みは自分にはできそうにない。根っからのひねくれものには、無理な話だ。
だけど、そんな素振りを他で見せてしまうなんてへまもしたことがない。「そつなく」こなせてきたという自信はある。
さっきの千佳ちゃんの話を聞いたところ、紅葉ちゃんもそういったタイプだったんだろう。
あのはにかむような眩しい笑顔の向こうに本当の紅葉ちゃんがちらり、と見えた気がした。
紅葉ちゃんの厳しさや決意。
ストイックに、ただ自分を高める為に。そして、それは自分のためじゃない。
たぶん、妹にとっていい姉でありたいとか、両親にとっていい子でありたいとかいった理由なんだろう。
俺にも覚えがある。
でも、これは今ではむしろ自分のためだ。だらしない自分なんて考えらえないし、相生の家をないがしろにする自分もまた然り。
相生の為にして来たことは、気が付けば「自分の全て」になっていたんだ。
だけどそれと紅葉ちゃんのことは別問題だ。自分のことと、他人の‥紅葉ちゃんのことを一緒にしちゃだめだな。
紅葉ちゃんには、千佳ちゃんが言ったように、自分の幸せについて考えて欲しいよ。本当に声を出して笑って欲しいよ。友達と馬鹿笑いしたり、時々は騒いで大人に注意されたり。(は、ダメだけどね)
紅葉ちゃんには、幸せになってもらいたい。
どうすれば幸せになれるか‥とかは俺には分からないけど、少なくとも俺の代わりをしていては紅葉ちゃんが紅葉ちゃんの幸せを見つけることはできないだろう。
早く、早く戻れるようにならなければ‥。
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