相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

文字の大きさ
1 / 54
序章

僕と相生君

しおりを挟む
「相生君‥? 」
 僕が床に散らかしたままの、新しいクラスの集合写真を拾いながら、じいちゃんが「懐かしそうに」呟いた。
 そのしみじみとした口調に何か違和感を感じて、僕は読んでいた漫画雑誌から頭をあげた。
「相生君のこと、知っているの? 」
「彼も相生君なのか。‥やっぱりねえ。もしかして相生 信濃君っていうんじゃないかい? 」
 夢から現実に戻されたような顔。‥一瞬浮かべたちょっと驚いたような顔をいつもの穏やかな微笑みにゆっくりと戻しながら、じいちゃんが妙に納得したような口調で言葉を続けた。
「いいや? 相生 四朗君だよ? 信濃って名前よくあるの? 同じ学年の相崎君も三年の相馬先輩も信濃って名前だけど」
 僕は実は前々から、やたら目立つ同級生「相崎君」と同じく目立つ先輩が同じ名前だということが気になっていたのだ。そこに来て同じく目立つ「相生君」も「信濃か? 」だ。
 信濃ってもしかして、特別な名前なの??
 いくらここが長野だからといって‥
 って思う。
「あの一族の決まりらしいね。相崎、相模、相馬、相生。その四家は遠い親戚‥なのかどうかは知らないけれど、昔から四家セットで扱われてきたんだ。まあ、旧家のことだから何かあるんだろうけど、私は知らないよ」
 なんと、あの三人(いや、相馬先輩も合わせたら四人か)は親戚(?)なのか! ちっとも似ていないが。まあ、親戚だからと言っても似てるとは限らないしな。
「詳しく教えてよ」
 僕は身体ごとじいちゃんの席の前に移動する。

 クラスの誰も知らない、あの「やたら目立つ」「人気者たち」の極秘情報に僕は思わず身を乗り出した。(自分では勿論見えないんだけど、きっと目が「ギラギラ」している‥という自覚はある)

 何が目立つって、この三人はやたら顔がよくってそのせいか(そのせいが八割)、やたらモテる。しかも、相崎君はそうでもないが、相生君や相馬先輩はそれに加えて頭もいいし、運動もできるらしい。運動部に入っているとは聞かないけれど。相生君と相馬先輩はなんでも、剣道の道場に通っていて、その腕前は相当なものだとか。相馬先輩は同級生の相馬 武生君のお兄さんで、道場にも三人で通っている幼馴染ならしい。(相馬 武生君は、その三人の中では、だけどそれ程目立たない顔をしている。どちらかというと親しみが持てる顔ってやつだ)

 まあ、でもスポーツ万能っていったら相崎君が一番なんだろう。それも、テニスだとかスキーだとかサッカーだとかやたら女の子受けのするチャラい(失礼! 失言だ☆ )のばっかりだけど。

 いつも女の子侍らせて、チャラ男全開の相崎君には、「昔から」だの「伝統」だのって言われてもピンとこない。相馬兄弟は落ち着いてて、武士っぽいから伝統って言葉が似あうけど。相生君は物静かだけど、伝統感はない。普通の人って感じ。だけど、古風ぽいって言ったら‥そうかも??

 急に孫が食いついて来たことに、少々戸惑いを見せながらもじいちゃんの話は続く。

「跡取りは、跡取りと認められるまで、みんな信濃という仮の名前で呼ばれるらしい。そして、一族から跡取りと認められたらそれぞれ、相崎 総一郎、相模 藤二郎、相馬 三郎、相生 四朗という名前を襲名するらしい。‥ははあ。武の同級生はその若さでもう襲名しているんだね」

 へえ、と僕は感心して頷いた。

 襲名とかって、歌舞伎や落語でしか聞かないぞ。今でもそんなのあるんだなあ。
 だけど、じいちゃんはなんでそんなこと知っているんだろ。「じいちゃんの友達の相生君」に聞いたのかな。それとも、昔はもっと一族の勢いが強くって、皆が知ることとかだったのかな。気になるようなならないような。

「襲名かぁ。なんかすごいけど、親が死んだらとかなのかな? いや、四朗君のお父さんは見たことがあるよ。四朗君にそっくりで、凄い若かった。父ちゃんよりだいぶ若かったし、だいぶかっこよかった」

 父ちゃんはじいちゃんの息子だ。じいちゃんそっくりの平凡な顔をしている。そして、僕もまた然り、だ。
 じいちゃんが苦笑する。
「それは、まあ‥顔ばっかりわな‥。‥相生君の父さんっていうと、じいちゃんの同級生の息子かな? 」
「かなあ? 知らないけど、そうだろうね。‥そっかあ、そんなに似てるんだ」
 相生君のおじいちゃんが僕のおじいちゃんと友達だったのかぁ。へへ、なんか自慢できそう。相生君、ファン多いしな。
 自然と微笑を浮かべてしまう。

 じいちゃんがまた懐かしそうな顔をする。
「遠足の時に、私が持って行ったミカンを一つあげたんだ。‥そんなに普段から話したこともなかったんだけどね。そしたら、いい笑顔で「ミカンは好きなんです」って言ってね。男同士の友情なんてそんなもんだよ。それで通じ合えるんだ」
 しみじみと言ったじいちゃん。

 ‥友達って程じゃあないな! 

 僕は心の中で突っ込みながら、まあ、そんなもんだろう、とやけに納得した。

 ‥ミカンかあ。相生君も好きかなあ。

 そんなことも、思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...