リバーシ!

文月

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十九章 「皆が望むハッピーエンド」

4.ナラフィス、伝家の宝刀を抜く。

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 お化け屋敷でドキドキ☆デート! 
 ‥も、面白そうだったけど‥

 勿論そんなことじゃない。

 ナラフィスは、全然そういう‥面白みとかない人だ。
 同じ仕事するんでもどうせだったら楽しく‥とか、ない。
 お化け屋敷、もとい魔法学校の重い‥っていって豪華で重厚なわけでは無い、たださびてボロイだけな‥扉をギィ‥って、開けた。
 学校という場所に、こんな重い扉をチョイするしたのは多分設計者の趣味とか「こんなふうにした方が魔法使いの学校らしくない? 」とかいった遊び心とかではない。ただ、学生を逃げにくくするためだと思う。‥思えば場所もそんな感じだ。
 この扉をくぐる時、魔法使いに憧れる子供たちは、嫌でも「もう逃げ出せない」って覚悟するんだろう。
 生半端な気持ちじゃ‥ダメだって思うだろう。
 ‥それを思うと、この扉の意味もあるのかな~って思ったり。
 トントン‥ライオンの顔のついた金具‥ドアノッカーを四回ノックすると中から「どうぞ」と声がした。連絡しているっていうのは本当だったようだ。(← ちょっと疑っていた)
 その瞬間、ナラフィスの「仕事のスイッチ」は入った。‥完璧に。
 今、ナラフィスは隣にカワイイ婚約者がいることすらきっと忘れているだろう。

「ナツミという女性なのですが。髪は染めているかもしれませんが‥赤紫の瞳をしています。初等学校はランサルで、卒業年は‥」
 ナラフィスがナツミの情報を見ながら学校長に歴代名簿の検索を依頼する。
 しばらく‥何度も名簿を見直していた学校長が首を振り
「そのような生徒の入学は記録に無いですね」
 と言いにくそうに言った。
「入学して‥中途退学したとか? 」
 って聞いたのはマリアンだ。
 ナラフィスは「それはないだろ」って「もう常識ってレベル」で分かってたけど、普通の人にとっては常識じゃなかったらしい。
 だけど、こういう普通の人相手の方が警戒心持たれずに情報を漏らしてくれるかも? って狙いは‥なかったわけでは無い。ナラフィスにだってそういうズルい所はある。(情報を得るっていう目的の為には手段を選ばないところがあるんだ)
 学校長は「え? 」と首を傾げると、「ああ」と小さく頷き
「この学校はそういうことはあり得ないんです。中途半端な知識を持つ魔法使い程危険なものはないでしょう? だから‥中途退学を希望した生徒は、魔法を使えなくします。
 そうですね、一番オーソドックスな魔法の発現場所は手ですから、片腕を切り落とします。
 今はそんなことは無いですが、最近まで普通にあったようですね」
 優しい口調で言った。
 ‥内容は全然優しくないけど。
 ‥ほら、マリアン引いちゃってるじゃない‥。可愛そうに‥。
「今はどうなんですか? 」
 青ざめたマリアンが聞くと、
「やっぱり見た目から批判を浴びますからね。今は、腕が使えなくなるように、筋を切ります」
 ‥かわらん。
 そもそも、腕が使えなかったら食事や排せつにも不自由するだろうが! 死ねって言うのか? 
「それは‥片手でしてもらうしか‥」
 ‥何も言ってないのに答えて来たぞ。顔に出てたのか?!
「あ、私、少し人の心が読めるんです。そういう魔法使いなんです。じゃないと、逃げようとする学生に気付けませんよ。‥腹黒い学者さん? 」
 ‥こわ~!!
 全部お見通しってか!!
 小さく苦笑いしたナラフィスだったが、
「‥成程。分かりました。
 ナツミはいないんですね」
 小さく息を吐いて言った。
「では‥」
 ぐっと学校長の方を向くと、その瞳を真っすぐ見た。
 まるで、読むなら読めって言ってるようだった。
 学校長は、その気迫にちょっとひるんだ。
 そんなに得意ではないからそう使うこともない、威圧のスキルだ。(なんせその道のプロのラルシュがいつも近くにいるもんだから、恥ずかしくって使えない)
「途中で魔法学校を辞めた人間の名前と情報を教えて欲しいのですが」
 真っすぐに学校長を見つめたまま、ナラフィスが言う。
「え?! 」
 城の御用達で国一番の学者とはいえ、それは国家機密だ。難色を示す学校長に、
「‥私の身元証明書です」
 ナラフィスが胸ポケットから無造作に出したのは‥
 王家に繋がるものだけが持つ‥王位継承権証明書だった。
 ‥絶対王位をつぐことはないが、かなり血の濃い王族という証明。
 ‥絶対無礼を働くとマズいって感じの証明書。
 更に、それに書かれているのが、
 王位継承権5位。
 もう‥縁遠いっていうか、こんなとこで絶対会わないでしょってレベルの人ってこと。
 因みに王位継承権の順位は
 1.サイダラール(現王第一王子)
 2.ラルシュローレ(現王第二王子)
 3.サラージ(現王第三王子)
 4.ナラフィス父
 5.ナラフィス
 ってわけ。ナラフィスには何人か兄弟がいるけど、継承権を持っているのは学者として認められてるナラフィスだけ。‥ってか、ナラフィスだけが王様(伯父)に特別気に入られてるんだ。‥そもそも、継承権っていいながら、絶対次の王はサイダラールって決まってるんだけどね。

 驚いたのは‥
 学園長だけじゃなかった。婚約者のマリアンもそりゃあ驚いた。
 だけど‥ここで「知らなかった‥! 」って顔したら「え? 婚約者なのに? 」って思われる‥それはマズいと思ったマリアンは耐えた。
 兎に角‥この場で驚くのは‥ダメだ。
 ナラフィスから聞いたことがないんだから、ナラフィスに驚いてるのをばれても、全然かまわない。寧ろ、それが普通の反応だ。だけど、学校長にバレるのは‥良くない。
 パニック状態なマリアンは気付いてないが、普通だったら心を読むらしい学校長には無駄な誤魔化しだ。でも、‥今はきっと気付いていないだろう。なんせ、相手はマリアンどころではなく‥驚きすぎて完全に思考停止って顔してるから。
「し‥失礼しました! し‥しかし、王の許可を取らないとそのようなことは‥」
 あわあわしてる学校長に、ナラフィスはにっこりと微笑んで、ソファーにもたれるように座りなおした。
「それはもっともだね。君がきちんとした人間でとても頼もしい。でも大丈夫だよ。現王は甥である僕の研究の為なら昔から何でも許可を出してくれたから。
 今回もその許可はすでに取ってから来たんだ」
 国王の甥という身分と、王の許可書。
 もう、学校長に断る理由なんてないのだった。
「使わずに済むなら使いたくなかったんだけどね~この二つ」
 ナラフィスは苦笑いして、隣でこちんこちんになっているマリアンを見た。
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