リバーシ!

文月

文字の大きさ
上 下
211 / 238
十八章 ありのままのヒジリ

5.ホントのところ

しおりを挟む
「‥ヒジリ。顔色が悪い。
 それに、もう時間だから帰ろう」
 そうミチルが話を中断させたのは‥ヒジリにとって幸いだった。
 
 苦しくって仕方がなかった。
 神が人間を「管理する対象」としか見てないかもてってこと。
 神はどのような調整を行おうとしてるのか? ってこと。
 自分の「役割」は何だろうか? ってこと。
 自分に影星がいたって事実。そして、それは何を意味しているんだろうか‥
 神にとって‥カタルは? ナツミは? 俺とその影星は? そして‥ミチルは‥一体どんな役割を持たされているんだろうか? 
 神は‥一体どんなシナリオを考えているんだろうか‥。
 
 と言っても、夜の国の悩みなんて持ち込んでて過ごせるほど地球は甘くない。
 支度をしている時は少し憂鬱だったヒジリだが、事務所の扉を開いた瞬間そんなものは吹き飛んだ。
 今日も仕事頑張らなきゃな! 
 って思うと‥気が楽になったし、会社での「いい具合」な「代わりがきく感」に安心した。
 人間としての「ヒジリ」は唯一無二で代わりはきかなく‥逃げ出せないけど、会社員である聖は
「何!? 風邪!? あ~わかったわかった家で安静にしてろ! 大丈夫だって? そんな顔色でそんなこと言われても説得力ないし、感染したりしたら周りにかえって迷惑掛かるから! 帰れ帰れ! 」
 って位の「その他大勢」の中の一人なんだ。

「お話のメインメンバーとか主人公って見てる以上に辛いんだろうねえ。‥俺はその他大勢でいいや」
 なんてつい‥呟いてため息をつくと、事務員の中川さんがくすくす笑って
「何言ってんですか。誰でもその人の人生の主人公ですよ」
 って言った。
 それは一般論ね☆
 自伝の話とかしてるんじゃない。
 多数の人間に影響を与え得る「運命」を持ってる人間の話をしてるんだ。
 そう思ったが勿論そんなこと言うわけはない。苦笑いして
「そうだよねえ。‥平凡が一番だよ」
 って返事した。
「‥聖がおかしい。っていつものことか。なんだ? 恋でもしたのか? 
 好きだ好きだといくら言っても、想っても、振り向いてくれないあの子に‥「なんで俺は君とのラブストーリーの主人公じゃないんだ」ってもどかしく‥悔しい想いで枕を濡らしてる‥って奴か? まさか聖がそんなことないか~」
 はははって大爆笑して‥
 国見が話に入ってきた。
 こいつめ、俺を話題に中川さんと話したいだけだよな! 
 恋って話に反応したのか、#吉川_よしかわ__#が聖を見た。
 睨んでる‥とかじゃなく、ちょっと心配気に‥だ。
 そういえば、吉川に好き‥みたいなこと言われた気がする。(それとも気のせいだったっけか?? あいつは一体どの俺が好きなんだろう‥。「どう」好きなんだろう)
 この頃、いろんな考えなきゃいけないことが多すぎて、色々ごっちゃになっちゃってね‥。
 そうかぁ‥
 あ~恋ね。
 ‥恋のお話の主人公も今は‥いいや。
 ただただ、疲れてる‥そんな感じ。


 ‥お話‥ねえ。
 自伝とか‥なんで残すんだろうねって思う。
 自分の人生、ちゃんと見直したい? 自分の人生を誰かに残したい? 
 そもそも‥誰かに自分の人生読まれたら‥恥ずかしいじゃないか。
 子供や孫たちに「じいちゃん(親父)の人生はこんなだった。‥後悔もあった。お前たちにはこんな後悔して欲しくはない。俺の口からは語らないがこうして本にしておくから、お前たちの反面教師にしたらいい」って風に語るのとかって‥でも、残された者への「渋い」愛情表現って気もする。
「私には口に出して言ってくれなかったのに‥あの人、私のこと愛してくれていたんですね」
 って、読み返した老妻が涙するのも‥いい話っちゃいい話。
 だけど、そういう「大事なこと」は生きてるうちに本人に伝えた方がいいぜ、って思う。
 いや‥だけど、死んだ後にまで恨み言いうより、せめて文章では(本心じゃなくても)
「生まれ変わってもまた君と結婚したい」
 って残す‥
 それは‥いいな。
 きっとね、俺は‥まだ精一杯生き抜いて「もう人生これまで‥」って気持ちにはなったことがないから分からないけど‥人生いいことばっかりじゃないわけだから、きっと配偶者に対してもいい感情ばっかりじゃない‥そういうのって容易に想像できる。(結婚もしてないし、結婚って想像もつかいないにしても‥だ)
 でも、円満に暮らしていくため生きている間はきっとお互いに我慢もするだろう。
 我慢して‥我慢して‥死ぬ間際「あ~やっと終わった~! 」って思うかもしれない。‥いや、きっとそう思うだろう。
 あ~ヤレヤレ‥って思ってる時に‥リップサービスで
「お前のおかげで俺の人生‥」
 とか‥果たして言えるだろうか‥。俺は自信がない。
 ‥そんなこと考えた。
 それなら、事前に「自伝」という名の「皆への読まれても差し障りのない手紙」書いといて「俺が死んだ後に読んでくれ」って言えば‥それで事足るわけだ。
 
 年老いて死ぬまでの時間‥
 そんなことを考えてはっとした。
 俺に‥そんな自由はあるのかな‥って。

 聖はそんな風に考えて‥つい暗いことばかり考えてしまう自分を自嘲した。

「自分が主人公‥。それって自伝ってこと? 
 思えば‥履歴書だって、「事実関係だけみた自伝」だよね。
 どんな風にその人が今日今まで暮らして来たかの記録。それで、それを見た人事の人だか面接官が「貴方はその時、どんなことに熱中していましたか? 何を学びましたか? 」ってその自伝に肉付けしていくの。
 それで「こいつならここで働けるだろう」とか判断されて、採用される。
 ‥ここの事務所はそんな感じした。
 俺が初めに務めてたところは、もっと小さい会社で社長が面接してくれてさ「やる気はあるか? 」「あります」「体力あるか? 」「あります」「なら明日から来い」って感じで決まった。「適当に決めたんですよね」って社長に入ってちょっとしてから聞いたら「俺は人間を見て決めるんだ。目を見て、話す姿勢を見て、コイツならやってくれるだろう‥ってのは、分かる」って言われたんだ」
 国見は中川さんに「自分は人に認められる誠実な人間」アピールをしている。
 中川さんは苦笑いして「はいはい」って適当にあしらってる‥って感じだけど、ホントに「メンドクサイ」って思ってたら「コーヒー飲みに行ってくるわ」ってさっさと給湯室に逃げてるだろう。(この子はそういう子だ)
 だけど‥
 お話仕立てにして‥今までの事整理して、「神の立てたがってる筋書き」みたいなものを整理するのって‥悪くないって感じする。
 散らかってる書類は纏めないと情報分析出来ない。それ社会人の常識。
 履歴書じゃないけど‥この際、感情は置いて置いて、事実関係だけ見た自分史年表をつくって、その軸に関わっている人たちの情報を書いていこう!
 そうと決めたら、この話は終わり! 
 さ! 仕事仕事!
 気合を入れようと、両手で自分の顔をビンタした聖に
「児嶋! この書類赤線のところのミスを修正して明日の会議用に人数分コピーしとけ! 人数は事務員に確認しろよ! 」
 という部長の大声が飛んできた。


 まず、あったことを思い出した順に小さなメモ型付箋に書いてそこら辺に張っといて‥次にそれを年代別に整理する。(誰の出来事かわかるように、付箋の端にはまるで囲んだ自分のイニシャルを書いておく)
 その作業は、ミチルにもしてもらった。
 ラルシュやサラージ、ナラフィスについてもミチルもしくはヒジリに関係する出来事だけ書いてもらうことにした。

 あの後、ミチルに「ナラフィスやサラージ、ラルシュは全員顔が真っ白だった。多分、神の話‥批判をすることはこの国のタブーみたいな感じなんじゃないか? ‥ヒジリもこの国の人間だからだろうね。真っ白だった」って言われたから、今後は神の話はもっと慎重にしていこうと思ってる。(神の批判タブー‥みたいなのは、きっとこころにではなく、魂に刻み込まれてる‥的なモノなんだろう。だって、ヒジリ的に信仰心なんて全然ないわけだから)
 信仰心は無いけど、魂に刻み込まれてるから、肉体には悪影響が‥って感じ?
 地球生まれのミチルだからそう分析出来たんだけど、きっと皆にはそういうこと‥理由は分からないだろう。だけど、(理由がわからなくっても)身体に悪いのは間違いない。だから、とにかく今は神の調整の話以外のことで出来ることをしていこうってミチルとヒジリの間で決めた。
 勿論神の調節の話以外‥とも夜の国メンバーには口に出さず(また顔が真っ白になったら可哀そうだからね。‥あと、若干ヒジリも顔色が悪くなるから‥)「まず、解ることから整理して行こう」って提案したんだ。
 
 ペタペタ付箋を貼っていると、
「勢いと思い付きがお前の良さなのに、随分と論理的なことやってんじゃないか」
 扉の方から聞こえた笑いを含んだ声に驚き、ヒジリは手を止めた。

 久しく聞いたことがない‥だけど、確かに聞き覚えのある声。
「ナラーク先生! 」
 学生時代ナツミと机を並べ勉強を教えてもらった‥インテリ眼鏡と、かって自分たちが呼んでいた恩師がそこにいた。(ナラーク先生。そうだ、そんな名前だった。急に思い出したよ! と、ヒジリ)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

処理中です...