リバーシ!

文月

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十五章 メレディアと桔梗とヒジリとミチル

20.唯一無二

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「‥まあ確かに‥。「時を止めてイヤラシイことされてるかも‥」って思われるのは‥嫌だな」
 ミチルが深刻な顔で頷いた。
 
 ‥この男、サワヤカなイケメン顔して‥

 ナラフィスが苦笑する。
 (が、見掛けと違う‥はナラフィスにも言えることだった。ナラフィスの場合は「人畜無害そうな顔して‥」なのだが)

「僕の研究だと、早送りっていっても長くて「水が氷になるくらい」が普通って感覚だったんだ。‥巻き戻しは‥あるとも思ってなかった。
 停止も何故か考えたことはなかったんだけど‥さっきミチルの話聞いて‥考え方が広がったというか‥」
 と、途端に嬉しそうな顔で微笑んだ。
 
 この男、笑顔が少年みたいだ‥。
 
 ミチルは表情筋死んだような顔でナラフィスを見た。

 ギャップ萌えか?! ギャップ萌え狙ってるのか!? この男‥ただの研究オタクかと思ってたら‥「ギャップ萌え」の為の布石(布石? 土台? )だったとは‥とんでもない策士だな!
 あんまり動転しすぎて、言葉が上手く出てこない‥! 
 くそ‥動揺させてライバルが自滅するのを狙ってるのか?! ますますとんでもないな! 
 
 いやいやいやいや。
 この国の男は地球の女子の言うところの「モテ要素」満載な奴が多い。顔面偏差値の高い奴も多い。ラルシュやサラージなんて地球じゃ、いるだけで大騒ぎになりそうなレベルだ。そんな奴が「理想の王子様♡」な紳士的な態度とか標準装備しちゃってるんだ。それも演技とかじゃなく、「素」でだ! あんなの見慣れてたら地球の「王子様系アイドル」なんて「何の学芸会だ? 」って思うよ!
 そんな奴らだけじゃなく‥
 こいつは普通って思ってたナラフィスまでギャップ萌えジャンルとか‥! (どんなジャンルだよ)
 いや‥元々こいつは「眼鏡っ子枠」、「インテリ枠」だったかも‥
 平凡な顔してハイスペック‥そして、「癖が強い」確かに需要はありそうだ‥! 平凡な顔と言いながらも、地球じゃ中の上位だしな‥! いや‥上の下位かも‥その「顔的には(この世界平均)5中の3位」の眼鏡君がスーパー頭良くってリバーシで、王族と仲良しで、(聞いたことはないがきっと)高給取り‥。
 そういえば‥モテない訳ないな!!

 いろんな種類の攻略対象用意してくるとか‥この世界は乙女ゲームかよ!!
 ‥いやいや‥今はそんなこと言ってる場合じゃない‥平常心平常心。今考えることじゃない‥忘れろ忘れろ‥。

 頭をブンブン‥と横に振るミチルと
 キョトンとした顔でミチルを見るナラフィス。
 そして‥付き合いの長さから「きっとミチル‥なんかつまんないこと考えてるんだろうな~」って察知して苦笑いするラルシュ。


「そうか。防音も時属性の状態異常か‥。
 成程。
 そういうふうに考えると色々アレンジの幅が広がるな。
 文献から探すだけでなく、新しい状態異常を作り出す。
 そういうふうに考えるとわくわくするな! 」
 ナラフィスはしかし、直ぐに「ま、どうでもいいや」って言って、自分の世界に入ってしまった。
 自分の世界‥つまり、「研究だ~い好き! 」な世界だ。
 モテそうとか
 こいつにはどうでもいいらしい。勿論ラルシュやサラージにもどうでもいい話で‥寧ろ(モテそうとかどうとかは)この世界で真面目に生きてる彼らに失礼ってもんだ!
 ‥そんなこと一瞬でも考えた自分がちょっと恥ずかしい‥っていうか‥
 でも‥

「ナラフィスってどんな女の子が好みなの? 」

 ‥好きな子が被るとちょっと分が悪い‥気はするじゃん? ヒジリの好みは分からないわけだしさ? 
 ただでさえ(影のある美貌の真面目系王子様‥だけどちょっとヤンデレ気味? )ラルシュが婚約者で、(俺様天才系王子様)サラージもヒジリのこと「分かりやすく」loveなわけだし?
 もうライバルはお腹いっぱい‥っていうか‥ちょっと「状況確認」っていうか?

 ミチルは‥ちょっと「黒い」

「え!? なんだなんだ。急に‥
 そうだな~。ふわふわ~ってしてて、優しくって~、ちっちゃくって~、目が大きくって~、笑顔が可愛くって~おっぱい大きい子! 」
 よし! ヒジリじゃない。
 ヒジリはふわふわ~ってしてない。目も大きいって感じじゃないし、笑顔は‥でも可愛いかな。優しい‥もそうだな‥。でも、
 おっぱいはそう大きくない!
 よし、ヒジリじゃない!
 ミチルはガッツポーズだ。
 
「‥ヒジリは僕の好みじゃないよ‥。僕恋人にするなら一緒にいて癒される子がいいから‥。あと、趣味が合って、知的好奇心も満たされる子、かな~。ヒジリとはそう趣味も合わないもん。僕の休日の過ごし方は本を読む、散歩する(で、本を買う)、だけど、ヒジリの休日の過ごし方は「釣りをする」と「wanderung」だもんな。休日ぐらいゆっくりしたいよ」
 ナラフィスが苦笑いして言った。

 それは‥
 知らなかった。
 今度一緒に釣りして、Wanderungにも行こう。

 いやいや‥そんな話をしている場合じゃない。
 ‥にしても、おっぱい大きいとか‥この純朴そうな眼鏡君がそういうことさらっと入れて来るとは‥。でも、あんまり無邪気な顔して言うからいやらしさはゼロだな。うん、子供って感じ~。
 ちらっとラルシュを見ると、ラルシュは‥相変わらず眉を寄せて‥呆れ顔(でも、顔がちょっと赤いの)‥これもどうかと思うんだよね~。(ムッツリなんだよね、ラルシュは。多分)

 ムッツリより、オープンスケベの方が無害な気がする!

 俺は普通一般的な青年! 青年はスケベって相場が決まってる!(なんの相場)

「まあ、なんでもいいや。ラルシュみたいに言いたいこと我慢する‥んじゃなくて‥何でも思ったこと言ってくれる方がよっぽどいい。僕は嫌だったら嫌っていうし、遠慮なんかしない。
 そりゃ、意見が合わないことだってあるだろう。でも、いいんだよ。別にそれで喧嘩になっても。それで気まずくなることも、喧嘩別れすることだってあり得ないんだから。次の日になったら、ケロっだよ。「成程、お前はそうだったんだな」ってさ。
 ってかさ、それが普通じゃない? 」
 俺がラルシュに感じる「もの寂しさ」ナラフィスも感じてるみたい。
 そうだよね! 友達なら遠慮とかナシだよね!
 ミチルはうんうん、と小さく頷いた。

 いつか、ラルシュが無意識に周りに張ってる高い高い壁が俺やナラフィス‥親しい友達だけでもいいから‥なくなればいいな、って思う。‥勿論、ヒジリ相手にもね。
 でも、‥好きな人には見せたくない弱みってのはきっとある。そういうのは俺たちにだけこっそり見せてくれたら嬉しい。(もしかしたら)笑うかもしれないけど、軽蔑とかしない。馬鹿にとかもしない。勿論誰かに話したりもしない。
 そういうのが「男同志の真の友情」だって思う。

「恋愛感情‥
 友情‥
 でも、カタルのミチルに対する気持ちはそのどちらでもない感じ‥って思ったんだよね?
 それなりに恋愛経験をしてきたミチルとしては」
 じゃあ本題。とばかりにナラフィスが表情を改めると、自然と他の2人の表情も硬くなる。
「うん。
 あれは‥
 捕食者の顔だった。俺を「魔力供給源」として利用しようって顔。
 昔あの顔を見たときは、「特別な相手」のことを知らなかったから、ただ怖かったけど、ラルシュから「特別な相手」の話を聞いて「そういう意味だったんだ」って思った。
 でも、魔法使いは「こいつは特別な相手だ」って分けるのに、魔力供給源の方は‥そういうの分からないって不公平だよな」
 ミチルが不快感をそのまま顔に表すと、ナラフィスが頷いた。
「まあな、でも、魔力供給源の方は「選びたい放題だし、というか寧ろ選ぶ必要もない」「言うなればボランティア
」って感覚だけど、魔法使い側にとっては‥もっと大きい意味がある。
 僕たちリバーシには魔力がどうしても必要なのにない、って感覚は分からない。
 そもそも、状態異常にはそう魔力はいらないし、魔力は十分すぎるほど持ってるから不足することはまずない」
 「だから、限界に挑戦してみようとか思っちゃうのかも」ぼそり、とナラフィスは誰に言うでもなく、呟いた。
 ‥心の中で言ったつもりかもしれないが、口に出てるぞ。ラルシュに怒られるぞ‥。
 ミチルは苦笑いした。

「記録によると、カタルは学校に行っていない。魔法学校どころか、初等学校にも。‥だから、「特別な相手」って概念を知らないと考えるのが普通だ。だけど‥本能でそう思ったんだろう。本能で‥ガチで「この相手は特別だ」って‥
 一目惚れレベルだよね」
 ゾッとすること言うな~!!
「‥多分、そうなんだろうと思う。
 カタルにとって、ミチルは特別な相手なんだ。だから、‥どうしてでも手に入れたいって思う。それは、仕方が無い。本能的なものだ。
 私も、ヒジリの身体が傍にあったからヒジリの精神の地球行きを認められたのかもしれない。もし‥初めから身体ごと、って言われてたら‥あの時‥「ヒジリが自分の特別な相手だって分かった直前」なら認められなかったかもしれない」
 ラルシュもゾッとするようなこと言って来たぞ‥。
 異世界半端ないな。

 唯一無二かあ‥

 ヒジリのこと大好きだし、将来結婚出来たらいいな~‥って思うけど、唯一無二かって言われると‥分からない。恋焦がれて死にそう‥って経験も今までしたことない。
 その人のことを考えてたら‥気が付いたら朝で、「結局今日も寝れなかった」って苦しみは‥だけど、俺たちにとって寝ないなんてことは物理的に普通のことだから‥苦しいとかはないな。

 一晩中‥
 ‥寂しくて、悲しくて‥ってのは、でも俺にも覚えがある。
 大好きだったばあちゃんが亡くなって、悲しくて寂しくて‥会いたくて仕方なかった。
 それこそ一晩中‥ずっと涙を流して‥身体はボロボロになって‥

 ああ、そうか‥ボロボロになったから、俺は「身体は疲れる」ってことが分かったんだ。

 そして、こころが身体を抜け出し‥地球ではない国の人と出会い、‥いつの間にか地球の生活だけが全て‥じゃなくなった。
 俺のもう一つの「生きる国」
 この国にこれなくなったら‥俺はきっと‥身体を半分もがれる様な気持ちになるのだろう。

 そういう‥そういう気持ちなんだろうか。

 俺に会って
 自分に「特別がある」ってことを知り
 探して探して‥
 そして再び俺を見つけた。

 あの時のカタルの喜び‥。

 そんなに「愛される」ことがこの先あるだろうか‥。なら‥
 いいんじゃない‥?

 ‥んなわけあるか!!
 ないわ!!
 永遠に「片思い」してくれ! 無理なもんは、無理!
 カタルにとって愛しいのは俺じゃなくて、俺の魔力! それは、俺の一部(←カタルにとっては全て)で「俺そのもの」ではない。
 いうならば俺の血。俺の血だけが好き、一生傍にいて! 君は僕の命の源だ‥って超絶イケメン吸血鬼に言い寄られるのと一緒! ない。絶対に、ない!

「ラルシュ、ナラフィス‥俺を守って!? 」
 涙目になるミチルに
 ドン引きするラルシュ。
 でも、「その気持ち、わかるわ~」な、同じリバーシ・ナラフィスだった。
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