リバーシ!

文月

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十五章 メレディアと桔梗とヒジリとミチル

6.亡霊ではなく、残留思念。

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「‥別に不慮の事故で死んだ二人が今でも成仏できずに漂ってる‥とかでもない。多分」

 それは‥分からないからね。
 あの後、二人が結婚するってのは分かるんだけど、お話し通り幸せに暮らしたかどうかは分からない。
 だって、そもそもメレディア王の両親からして政略結婚ならぬ「人体実験結婚」なんだもの。あの結婚に関与した第三者がまた関与してくるかもしれない訳だし。

 黙り込んだナラフィスをヒジリが心配そうな顔で見ている。
 ナラフィスが心配っていうより、「一体あの二人に何があるんだ!? 」って心配。

「あの二人のこと、知りたい? 」
 ふ、とナラフィスが苦笑いして、ヒジリがこくり、と黙って頷いた。


「メレディア王は、この王国の祖だ。
 もともと、メレディア王の祖父が治めていた王国は、メレディア王の父親の代で民衆が反乱を起こし、滅んだ。
 その時の民衆側のリーダーが、メレディア王の母親だった。
 当時まだ王子だったメレディア王の父親‥名前を「デュカ」といった‥は、頭が良かった。それに、革新派って言えばいいかな‥「新しい産業でもって国を発展させる」って理想を持って、実際にその為の努力も怠らなかった。真面目で努力家。‥それこそ、ストイックなまでに自分の限界まで仕事することを厭わなかった。だけどそれを他者にも強要し、他者‥労働階級である国民に対する思いやりに欠けたところが唯一の欠点だった。
 ある時、大変な飢饉が来て、国中が餓えたことがあった。当時、まだ王子だったデュカは、その対策を任されたわけだけど、まだ若かった為‥突っ走って、ろくに周りに相談や説明もせずに救済事業を始めたわけだ。
 「その場しのぎ」では、今は凌げても、明日明後日も‥一年後も困るからって。
 先を見越した「まっとうな対策」だった。
 だけど、国民は「今」が苦しくって、先のことなんて見る余裕がなかったんだ。
 だから、植える為にって用意した種イモを今日の食料にしてしまい、結果次の年も飢饉で苦しむことになった。
 生活が苦しい国民の不満は王家に向かう。
 結果、国民は王国を滅ぼそうと立ち上がった。そのリーダーがメレディア王の母親‥リゼリアだったわけだ」
「革命的な女戦士だったのか? 」
 ヒジリのもっともな問い掛けに対し、ナラフィスは首を振って否定した。
「いいや。ただの箱入り娘だ。世間知らずな平和主義者のな」
「お嬢様だったって訳? 」
 呆れた口調のヒジリにナラフィスが頷く。
「そうだろうね。
 彼女は‥
 とある貴人の御落胤だったんだ。
 「誰の御落胤か」を知るものはほんの一握りしかいなかったが、皆彼女に対して「気を遣って」接した。
 彼女の「両親役」の夫婦以外は。
 彼女は夫婦の愛に包まれ、平和に幸せに‥苦労知らずに‥暮らして来た訳だ。
 そして、彼女の周りの者たちが王家に不満を言うのを聞いて「王家だけなんの苦労もしていないのに! 」って憤慨した。‥箱入り娘「らしい」展開だと思わないか? 」
 ヒジリが頷いた。
 確かに、もっと賢明な人間だったら後先の事だって見るし、片方だけの意見を鵜呑みになんてしない。
「そして、彼女は立ち上がった。
 彼女には、悪いことに取り巻きがたくさんいたから‥その勢力はやがて王子も無視できない程になった」
「取り巻きって‥彼女の親が「ある貴人」だから? 」
 権力に媚びる者は沢山いる。そういった者たちだろうか?
 ヒジリが首を傾げてナラフィスを見ると、ナラフィスが首を振った。
「それこそ‥彼女自身の取り巻きだ。
 ‥彼女は「白のインフルエンサー」だったから」
「! 」
 ‥そして、多分王子は「黒のインフルエンサー」だった‥って訳か。
「普通だったら白のインフルエンサーと黒のインフルエンサーがぶつかって抗争になる‥ってことはないんだけど、あの時はどちらも精神的に普通じゃなかったんだろうね。言い合うことすらなく、即抗争に突入したんだ」
 ‥分からないでも‥ない。
 それ程、国が混乱していたんだろう。
 でも‥感情的になってる箱入り娘ならまだしも、思慮的な王子まで‥?
 それって‥不自然だ。
 まるで「そうなるように誘導された」ような‥?
「即抗争になるように導いた人物がいる‥ってこと? 」
 ナラフィスが頷く。

「だと思う。
 その人物は白と黒のインフルエンサーを操って‥戦争させ、リーダーの結婚という形で戦争を終わらせた。
 つまり、あの戦争もその後もその人物が全部線を引いた話だったってわけだ」

 あの昔話‥「火と水とが争って国が滅びかけたんだけど、風が調停役になって和平して、火と水が結婚して火の赤と水の青が混じった紫色の目を持った王族になった‥」って話。
 あの‥風的ポジションが「その人物」って訳。

「だけど、問題は線を引いて‥影で全部を操ってた人物がいたってことではない。
 デュカとリゼリアが結婚して子供が産まれたってことだ」
「二人の子供ってことは‥メレディアさんだね? 」
 あの、キンキラな髪で紫の目をした穏やかそうな青年。メレディアさんが問題って?

「デュカとメレディアは‥双子の兄妹だったんだ」
 深刻な顔でナラフィスが告げる。
 ヒジリは
 今更周りを見渡し、
 周りに最高級の防音壁がつくられていることに気付いた。
 ナツカはいつも通り涼しい顔で立っている。
 きっと、彼の眼にはヒジリとナラフィスがいつも通りの授業をしているようにしか見えないだろう。
 防音魔法と、意識阻害魔法。
 魔法と言いながら‥
 最上級の状態異常だ。
 ナラフィスがやったんだろうとすぐに分かった。
 ヒジリが息をのむ。

 ナラフィスがそこまでするような秘密を今自分は聞いている‥。

「それは‥道徳的な禁忌や遺伝子的な問題以外に‥なにか問題がある‥ってこと? 」
 ごくり、と唾を飲んだ。
 ナラフィスが頷く。

「魔力を持つ者にとって、血縁者程‥混ぜるな危険なものなんだ。そして、特に王族同士の掛け合わせは‥最悪だ。最もやってはいけないことなんだ」

 「その人物」はきっと、デュカとリゼリアが双子の兄妹だってことを知っていたんだろう。
 そして、その掛け合わせがどれ程危険なのかも知っていたんだろう。
 知っていたからこそ、この一連の計画を実行した。
 危険だって言いながら、「どう危険なのか分からない」その禁忌の掛け合わせの結果を知る為だろう。

 もう一度唾をのむ。
「その結果‥どうなったの? メレディアさんは‥どういう人間だったの? 」
 人物的に‥ではなくく、遺伝子的に‥だ。
 なるだけ平気な表情で、ヒジリがナラフィスに聞く。
 会話は聞こえなくても、表情でナツカに「重要な話をしている」ってバレては‥いけない気がした。
 ナラフィスの表情はずっといつも通りだ。
 こくり、と頷くと

「分からない。ただ、彼の弟や妹はみんな、リバーシか魔法使いだった」

 って言ったんだ。
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