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十章 ネルという特別な子供
閑話休題 特別
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(side ラルシュ)
「魔法使いって、手を触れただけで、「特別」がわかるんです」
それまで何の話をしてたかって?
「リバーシ」は(魔力が有り余ってるから)力任せの脳筋が多くって、「魔法使い」は(少ない魔力を如何にうまく運用するか‥って日々悩んでるから)知的なタイプが多い。だけど、がり勉タイプじゃなくって、「如何にスマートに」ってのを心掛けた「ジェントル&レディース」が多っくって相対的にロマンチストが多いって話をしていたのだ。
誰がって、自身も魔法使いである大臣が。
その意見については(自身について考えてみると‥)「そうかな~? 」って賛成しかねる。
‥リバーシが脳筋傾向っていうのは、(少なくとも自分の周りだけを考えると)‥そうかも。
サラージとか、ナラフィスとか‥ミチル。
ミチルはああ見えて、案外‥そういうところがある。
サラージは言うまでもない。彼は「ガチな」根性至上主義者だ。
サラージの口癖は「考えるよりまず動け」だ。
ただ‥時間に制約がないから、効率を考える前に(体力を考えずに)動いちゃうってところがある。
リバーシは‥思えば結構そういうところあるかも。
そんなサラージに大臣は「魔法使いがいかにリバーシと違って繊細でロマンチストで知的か」ってことを主張してるんだ。
‥リバーシと比べて魔法使いは如何にすごいかって‥それこそ時間の無駄、みたいな主張だなって思ったり。
だって、サラージにとってそれってどうでもいいことだろうから‥。
「ロマンチックでしょう? 」
ああ、言っちゃったよ。
その‥絶対に彼が「最もどうでもいいであろう」暫定一位のWord。
「ロマンだぁ? 」
案の定サラージは鼻で笑った。
それどころか‥
毛虫でも見るような目で大臣を見て
「特別ってなんだ? 気持ち悪い」
って言ったんだ。
その表情! ‥同じくロマンとは無縁な男・ファー将軍でさえ苦笑するレベル。
だけどそんな表情を向けられた大臣の方は特に気にしている様子はなく(慣れてるんだ)
「特別っていっても、恋愛感情云々の話ではありませんよ。
特別に相性がいい、って話です。
魔法使いにとって魔力は何よりも大切で、魔力供給源は何よりも大事。そういうのがあるからでしょう。魔法使いは本能が‥「この魔力は自分と相性がいい」って敏感に察知するんです。それこそ本能的に判断するんです」
って言った。
「まったく、ロマンを解さない王子には困ったものです」ってわざわざ付け加えて、だ。
‥王子に対する態度じゃ、ない。だけど、(父親である王の幼馴染である)大臣もファー将軍も私たち兄弟にとっては、殆ど親戚のおじさんって位に親しかったし、何なら忙しい王よりよっぽど親しい間柄だった。(昔は私もファー将軍が父親だったらな、と思ったこともあった)
‥サラージはそんな気持ちになったことは無いらしい。「ばかばかしい。子供が成長する上に大人の手本は必要だが、それを父母のみに求める必要はないし、世話をしてくれるものはそれこそ父母ではない。(城だからメイドさんだとがしてくれるんだ)父母の愛情とは、果たしてその他の者の自分に向けてくれる愛情と異なるものか。俺たちの父親は王だから、俺たちにだけ特別な感情を持つわけにはいかないと思うぞ」って言ってたし。
‥そういうこと言うから「ロマンを解さない」朴念仁って言われるんだ。
「そういうラルシュ兄はどうなんだよ。ラルシュ兄も魔法使いだから‥そういう「特別」っての‥分かるのかよ」
ぷう、って拗ねたみたいな顔してサラージが私を振り向いた。(朴念仁ってこと‥ちょっとは気にしてるのか? )
私は‥
苦笑してはぐらかした。
そういう経験は、まだない。
だけど、魔法使いがどれ程、常時魔力に餓えているかってのは‥魔法使いじゃないとわからないんじゃないかな。
魔力が不足しているとき‥それは、酷く喉が渇いている時に近い‥生理的な苦しみだ。
息が出来ない、に次ぐ生命の危機的状況だ。
あれは、‥きっと、ロマンみたいな「嗜好品的な感情」じゃない。
大きな魔法を普段から使うことのない大臣は、おそらくあれほどの‥喉がひり付くような枯渇を味わったことが無いから、それを「ロマン」だなんて言うんだろう。
もし、あんな状態‥喉が渇いて仕方ない状態‥で汲んでも尽きない水源を与えられたなら‥沸き起こる感情は多分、感謝一択だろう。
まさに命の恩人的な感じだよね。(← ラルシュもサラージの事言えたものではない朴念仁)
「魔法使いは他からの魔力吸引が得意です。
だけど、魔石からは問題なく魔力吸引が出来ますが、人からの吸引‥というのは、相性が余程良くないと出来ない。相性がいい相手に会える‥というのは稀で、だからこそ特別だって頭が判断し、‥時には恋に落ちたような錯覚を覚えさせる‥んですかねえ」
成程それをロマンというのか。
‥ロマンか? ただの気のせいだと思うが‥。
サラージは、さっと顔色を無くして
「こえぇ‥勝手に恋に落ちられるとかこえぇ‥。魔力豊富なリバーシなんか奴らにとって格好の獲物じゃねえか‥勝手に触られて特別視されて、付きまとわれて、勝手に魔力吸引されるとかって‥完璧追いはぎじゃねえか‥。
リバーシは怖くて表も歩けねぇな‥」
大臣から大袈裟に離れた。
「私は「特別」‥妻がいますから。妻からしか吸引しませんよ」
大臣が「心外」って顔でサラージを見る。
「でも、確かに魔法使いの専属契約者としてリバーシは人気物件ですねえ。
魔法使いは唯一の「特別」に出会えれば一番いいんでしょうが‥そうではなくても、「そこそこ相性がよく魔力吸引が可能な相手」と専属契約を結ぶことが出来るのです。
専属契約を結んでいる魔法使いは、その「特別」からしか魔力を吸引できません。
専属契約を結ぶ契約者側のメリットは「魔法使いに安全を保障してもらえる」ことです。普通に魔法使いに頼めば「お高い」保護結界なんかを定期的に無料でかけてもらえるんですから損はないですよね。その代わりに、魔法使いに魔力を提供する。専属契約は一人としか結べませんから、魔法使いは契約相手に魔力の豊富なリバーシを選びたがる」
私の妻は魔力がそこそこ多い普通の人ですけどね‥と大臣は付け加えた。
「やっぱり‥」
やっぱり魔法使い危険だ‥って眉を寄せるサラージに大臣が
「それは法律で規制されてるから大丈夫ですよ」
って安心させ、
「街で時々手袋をしている魔法使いを見かけるでしょう? 手袋ごしには魔力は吸引できませんからね。だから、「特別」がまだいない魔法使いには手袋の着用が義務付けられてるんですよ。そして、相手の了承を得ない手袋を取っての握手等接触が禁じられており、身分や権力、筋力を笠に相手に強制したり‥違反すると厳罰に処される」
詳しく説明をした。
「当然だな」
うんうん、とサラージが力強く頷く。
うん、それは私が魔法を学び始めてすぐに学んだ。
「特別」がまだいない私が手袋をしていないのは、ただ私が王子で他の誰かとじかに接触するということが無いからだ。
それと‥王族と魔力の相性が合う人ってのがほとんどいなくて、たとえ握手をしたって魔力を吸引してしまうてことはないからだ。
兄弟でも例外ではない。
私はサラージと何度も手をつないだが、魔力を吸引したことは一度もない。
私とサラージの仲は良好だが、だ。
人としての相性と魔力の相性は全く別のものなんだ。
これは「魔法使いにとって」常識。
「魔法使いの学校」でも一番に学ぶことだ。
だけど、カタルは魔法使いの学校に通っていない。だから、この「当たり前」を知らない。
(side ネル(幼少期))
「カタル兄~」
と嬉しそうに駆け寄ってくるネルをカタルが何時もの様に抱き留める。
ネルがカタルに手を合わせる。
ネルはさっき、魔法使いの学校を中途で抜け出したお姉ちゃんに「特別な相手」のことを聞いたんだ。
お姉ちゃんは、「だから魔法使いに気をつけてね」っていう意味で、ネルにそれを教えてくれた。
お姉ちゃんが夏でも手袋をはいてるのはそういう意味なのよ、って。
だけど、ネルはそれを聞いてすぐにカタルのところに飛んでいった。
飛んで行って、
カタルに抱き着いて、手を合わせた。
「兄ちゃん、身体楽になった? ふわふわ~って調子が良くなった? 」
キラキラした目でカタルを見上げる。
カタルはきょとんとした顔をして‥首を傾げる。
「? うん? そうかな~。そういう気も‥する、かな? 」
にっこり‥いつものように微笑んだけど「何のことかな? 」って顔してる。
その表情に、ネルはがっかりする。
だって、その顔はホントにいつも通りで「特別を見つけた」って顔じゃなかったから。(思えば、ネルがカタルに飛びつくのもいつものことだしね)
カタルの特別はネルじゃない。
カタルの特別は、誰?
ってがっかりした。
そして、いつか他の誰か‥カタルの特別とカタルが出逢うのが嫌だって思った。
「どうしたの? なにかあった? 」
後ろからネルを追っかけて走ってきたお姉ちゃんにカタルが聞くと、お姉ちゃんは顔を真っ赤にして首を振った。
カタルが行っていない「魔法使いの学校」でのこと言うのも‥ちょっと憚られる。
それよりなにより‥ネルにつまんないこと教えて、って思われたら‥困る。
嫌われたら‥ホントに困る。
「何でもないの。ネルはね、カタル兄が大好きなの! 」
ネルがカタルの胸に自分の頭をすりすりしながら言った。
ネルにとっても、カタルに「特別な人」の話をしたくはなかった。
だって、自分じゃないんだから‥カタルが知っても仕方が無い。
カタルが「まだ逢わない特別な人」に興味を持ったら‥嫌だ。
カタルじゃないならいいや。ネル、誰の特別でももなくてもいいや。
って思った。
リーダーが出ていくちょっと前の平和な時間の頃の話。
(side ナツミ)
「あ‥」
あたしは‥「その人」があたしの特別だってことが初めて会って‥「見ただけで」分かった。
触れなくても、
あたしはそういうの見ただけで分かるから。
相性がそこそこいいな‥どころじゃない。あれは‥それこそ、運命レベルの相性の良さだ。
「その人」が‥あたしの特別だって‥見ただけで分かったけど‥あたしはそれを「その人」にいうことはないし、「その人」の魔力を吸引しようなんて思わない。でも、拙い魔法だろうが‥あたしが持ちうる魔法の全てを掛けて「その人」を守ろうって思う。
一方的な契約だけど、
あたしにとって「その人」はあたしの特別だから。
「魔法使いって、手を触れただけで、「特別」がわかるんです」
それまで何の話をしてたかって?
「リバーシ」は(魔力が有り余ってるから)力任せの脳筋が多くって、「魔法使い」は(少ない魔力を如何にうまく運用するか‥って日々悩んでるから)知的なタイプが多い。だけど、がり勉タイプじゃなくって、「如何にスマートに」ってのを心掛けた「ジェントル&レディース」が多っくって相対的にロマンチストが多いって話をしていたのだ。
誰がって、自身も魔法使いである大臣が。
その意見については(自身について考えてみると‥)「そうかな~? 」って賛成しかねる。
‥リバーシが脳筋傾向っていうのは、(少なくとも自分の周りだけを考えると)‥そうかも。
サラージとか、ナラフィスとか‥ミチル。
ミチルはああ見えて、案外‥そういうところがある。
サラージは言うまでもない。彼は「ガチな」根性至上主義者だ。
サラージの口癖は「考えるよりまず動け」だ。
ただ‥時間に制約がないから、効率を考える前に(体力を考えずに)動いちゃうってところがある。
リバーシは‥思えば結構そういうところあるかも。
そんなサラージに大臣は「魔法使いがいかにリバーシと違って繊細でロマンチストで知的か」ってことを主張してるんだ。
‥リバーシと比べて魔法使いは如何にすごいかって‥それこそ時間の無駄、みたいな主張だなって思ったり。
だって、サラージにとってそれってどうでもいいことだろうから‥。
「ロマンチックでしょう? 」
ああ、言っちゃったよ。
その‥絶対に彼が「最もどうでもいいであろう」暫定一位のWord。
「ロマンだぁ? 」
案の定サラージは鼻で笑った。
それどころか‥
毛虫でも見るような目で大臣を見て
「特別ってなんだ? 気持ち悪い」
って言ったんだ。
その表情! ‥同じくロマンとは無縁な男・ファー将軍でさえ苦笑するレベル。
だけどそんな表情を向けられた大臣の方は特に気にしている様子はなく(慣れてるんだ)
「特別っていっても、恋愛感情云々の話ではありませんよ。
特別に相性がいい、って話です。
魔法使いにとって魔力は何よりも大切で、魔力供給源は何よりも大事。そういうのがあるからでしょう。魔法使いは本能が‥「この魔力は自分と相性がいい」って敏感に察知するんです。それこそ本能的に判断するんです」
って言った。
「まったく、ロマンを解さない王子には困ったものです」ってわざわざ付け加えて、だ。
‥王子に対する態度じゃ、ない。だけど、(父親である王の幼馴染である)大臣もファー将軍も私たち兄弟にとっては、殆ど親戚のおじさんって位に親しかったし、何なら忙しい王よりよっぽど親しい間柄だった。(昔は私もファー将軍が父親だったらな、と思ったこともあった)
‥サラージはそんな気持ちになったことは無いらしい。「ばかばかしい。子供が成長する上に大人の手本は必要だが、それを父母のみに求める必要はないし、世話をしてくれるものはそれこそ父母ではない。(城だからメイドさんだとがしてくれるんだ)父母の愛情とは、果たしてその他の者の自分に向けてくれる愛情と異なるものか。俺たちの父親は王だから、俺たちにだけ特別な感情を持つわけにはいかないと思うぞ」って言ってたし。
‥そういうこと言うから「ロマンを解さない」朴念仁って言われるんだ。
「そういうラルシュ兄はどうなんだよ。ラルシュ兄も魔法使いだから‥そういう「特別」っての‥分かるのかよ」
ぷう、って拗ねたみたいな顔してサラージが私を振り向いた。(朴念仁ってこと‥ちょっとは気にしてるのか? )
私は‥
苦笑してはぐらかした。
そういう経験は、まだない。
だけど、魔法使いがどれ程、常時魔力に餓えているかってのは‥魔法使いじゃないとわからないんじゃないかな。
魔力が不足しているとき‥それは、酷く喉が渇いている時に近い‥生理的な苦しみだ。
息が出来ない、に次ぐ生命の危機的状況だ。
あれは、‥きっと、ロマンみたいな「嗜好品的な感情」じゃない。
大きな魔法を普段から使うことのない大臣は、おそらくあれほどの‥喉がひり付くような枯渇を味わったことが無いから、それを「ロマン」だなんて言うんだろう。
もし、あんな状態‥喉が渇いて仕方ない状態‥で汲んでも尽きない水源を与えられたなら‥沸き起こる感情は多分、感謝一択だろう。
まさに命の恩人的な感じだよね。(← ラルシュもサラージの事言えたものではない朴念仁)
「魔法使いは他からの魔力吸引が得意です。
だけど、魔石からは問題なく魔力吸引が出来ますが、人からの吸引‥というのは、相性が余程良くないと出来ない。相性がいい相手に会える‥というのは稀で、だからこそ特別だって頭が判断し、‥時には恋に落ちたような錯覚を覚えさせる‥んですかねえ」
成程それをロマンというのか。
‥ロマンか? ただの気のせいだと思うが‥。
サラージは、さっと顔色を無くして
「こえぇ‥勝手に恋に落ちられるとかこえぇ‥。魔力豊富なリバーシなんか奴らにとって格好の獲物じゃねえか‥勝手に触られて特別視されて、付きまとわれて、勝手に魔力吸引されるとかって‥完璧追いはぎじゃねえか‥。
リバーシは怖くて表も歩けねぇな‥」
大臣から大袈裟に離れた。
「私は「特別」‥妻がいますから。妻からしか吸引しませんよ」
大臣が「心外」って顔でサラージを見る。
「でも、確かに魔法使いの専属契約者としてリバーシは人気物件ですねえ。
魔法使いは唯一の「特別」に出会えれば一番いいんでしょうが‥そうではなくても、「そこそこ相性がよく魔力吸引が可能な相手」と専属契約を結ぶことが出来るのです。
専属契約を結んでいる魔法使いは、その「特別」からしか魔力を吸引できません。
専属契約を結ぶ契約者側のメリットは「魔法使いに安全を保障してもらえる」ことです。普通に魔法使いに頼めば「お高い」保護結界なんかを定期的に無料でかけてもらえるんですから損はないですよね。その代わりに、魔法使いに魔力を提供する。専属契約は一人としか結べませんから、魔法使いは契約相手に魔力の豊富なリバーシを選びたがる」
私の妻は魔力がそこそこ多い普通の人ですけどね‥と大臣は付け加えた。
「やっぱり‥」
やっぱり魔法使い危険だ‥って眉を寄せるサラージに大臣が
「それは法律で規制されてるから大丈夫ですよ」
って安心させ、
「街で時々手袋をしている魔法使いを見かけるでしょう? 手袋ごしには魔力は吸引できませんからね。だから、「特別」がまだいない魔法使いには手袋の着用が義務付けられてるんですよ。そして、相手の了承を得ない手袋を取っての握手等接触が禁じられており、身分や権力、筋力を笠に相手に強制したり‥違反すると厳罰に処される」
詳しく説明をした。
「当然だな」
うんうん、とサラージが力強く頷く。
うん、それは私が魔法を学び始めてすぐに学んだ。
「特別」がまだいない私が手袋をしていないのは、ただ私が王子で他の誰かとじかに接触するということが無いからだ。
それと‥王族と魔力の相性が合う人ってのがほとんどいなくて、たとえ握手をしたって魔力を吸引してしまうてことはないからだ。
兄弟でも例外ではない。
私はサラージと何度も手をつないだが、魔力を吸引したことは一度もない。
私とサラージの仲は良好だが、だ。
人としての相性と魔力の相性は全く別のものなんだ。
これは「魔法使いにとって」常識。
「魔法使いの学校」でも一番に学ぶことだ。
だけど、カタルは魔法使いの学校に通っていない。だから、この「当たり前」を知らない。
(side ネル(幼少期))
「カタル兄~」
と嬉しそうに駆け寄ってくるネルをカタルが何時もの様に抱き留める。
ネルがカタルに手を合わせる。
ネルはさっき、魔法使いの学校を中途で抜け出したお姉ちゃんに「特別な相手」のことを聞いたんだ。
お姉ちゃんは、「だから魔法使いに気をつけてね」っていう意味で、ネルにそれを教えてくれた。
お姉ちゃんが夏でも手袋をはいてるのはそういう意味なのよ、って。
だけど、ネルはそれを聞いてすぐにカタルのところに飛んでいった。
飛んで行って、
カタルに抱き着いて、手を合わせた。
「兄ちゃん、身体楽になった? ふわふわ~って調子が良くなった? 」
キラキラした目でカタルを見上げる。
カタルはきょとんとした顔をして‥首を傾げる。
「? うん? そうかな~。そういう気も‥する、かな? 」
にっこり‥いつものように微笑んだけど「何のことかな? 」って顔してる。
その表情に、ネルはがっかりする。
だって、その顔はホントにいつも通りで「特別を見つけた」って顔じゃなかったから。(思えば、ネルがカタルに飛びつくのもいつものことだしね)
カタルの特別はネルじゃない。
カタルの特別は、誰?
ってがっかりした。
そして、いつか他の誰か‥カタルの特別とカタルが出逢うのが嫌だって思った。
「どうしたの? なにかあった? 」
後ろからネルを追っかけて走ってきたお姉ちゃんにカタルが聞くと、お姉ちゃんは顔を真っ赤にして首を振った。
カタルが行っていない「魔法使いの学校」でのこと言うのも‥ちょっと憚られる。
それよりなにより‥ネルにつまんないこと教えて、って思われたら‥困る。
嫌われたら‥ホントに困る。
「何でもないの。ネルはね、カタル兄が大好きなの! 」
ネルがカタルの胸に自分の頭をすりすりしながら言った。
ネルにとっても、カタルに「特別な人」の話をしたくはなかった。
だって、自分じゃないんだから‥カタルが知っても仕方が無い。
カタルが「まだ逢わない特別な人」に興味を持ったら‥嫌だ。
カタルじゃないならいいや。ネル、誰の特別でももなくてもいいや。
って思った。
リーダーが出ていくちょっと前の平和な時間の頃の話。
(side ナツミ)
「あ‥」
あたしは‥「その人」があたしの特別だってことが初めて会って‥「見ただけで」分かった。
触れなくても、
あたしはそういうの見ただけで分かるから。
相性がそこそこいいな‥どころじゃない。あれは‥それこそ、運命レベルの相性の良さだ。
「その人」が‥あたしの特別だって‥見ただけで分かったけど‥あたしはそれを「その人」にいうことはないし、「その人」の魔力を吸引しようなんて思わない。でも、拙い魔法だろうが‥あたしが持ちうる魔法の全てを掛けて「その人」を守ろうって思う。
一方的な契約だけど、
あたしにとって「その人」はあたしの特別だから。
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