リバーシ!

文月

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十章 ネルという特別な子供

5.神輿

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(side カタル)


「皆を巻き込むのは違うんじゃないかな」

 そう真っすぐに僕を見つめて言ったネルにはっとした。
「カタル兄は‥何かやけになって‥全部破壊しちゃいたいって思ってる‥みたいに見える。
 それくらい悲しいことがあったんだよね‥。
 だけど‥だからと言って‥
 やけになるのは良くないし、皆を巻き込むのはもっと良くない」
「何を‥」
 僕は眉をきゅっと寄せて、困ったって顔をする。
「何を言ってるの? 」
 って。
「僕が皆に何かをしているように思ったの? そんなこと‥」
 って
 僕が悲しそうな顔をしたら、優しいネルは
「ゴメン! そんな顔しないで! ごめんね! 僕何か間違ったこと言っちゃった? 」
 っていつも謝るんだ。
 でも
 そのときは小さく首を振り
「カタル兄。僕はこのことについては騙されてあげられない。だって、‥カタル兄が‥」
「僕が? 」
「カタル兄は今、すごく寂しそうな顔をしてる。
 やけになって行動したら、後できっと兄ちゃんは後悔するよ。
 ‥僕に話してよ。僕は兄ちゃんみたいに頭良くないから出来ることも少ないって思うけど、話したことで気がちょっとは楽になるかもしれない」
 って俯いて、ぽろぽろ涙をこぼしたんだ。
 なんだよ‥弟分泣かせるとか‥これじゃ僕「悪い兄ちゃん」じゃないか‥。

 にしても、「やけになって皆を巻き込んでる」って‥ネルには分かったのか。
 やっぱりネルは聡い。

 聡いってか‥冷静? 僕の話に惑わされない。いつもは、僕が何言っても目をキラキラさせて「兄ちゃんはいろんなこと知ってるね! 偉いね」って言ってるのに‥。
 まさか、あれ‥ただの「よいしょ」で、僕の事持ち上げて‥いい気分にさせてただけだったのか? 
 ‥いや、そんな風には見えなかった。
 そういうの「僕にはわかる」んだ。
 それに、ネルはそんなこと出来るような器用なタイプじゃない。
 いつもの僕の話と、今の僕の「話」の違い。
 僕に「下心」があるか、ないか。
 皆に「(僕の目的の為に)こう思わせよう」っていう下心が今の僕の「話」にはあって、ネルに「これは面白い、役に立つ話だぞ」って話してやる話には、下心はない。
 ‥ネルが感じ取ってるのはその僕の下心。
 それに気付いたら、恥ずかしくなった。子供にこんなこと言われる‥気付かれるとかって‥。
 赤面して俯いていたら、ネルのいつもより低く静かな声が聞こえて。

「カタル兄がしようとしていることは‥でも、「仕方が無いこと」かなって思う。皆はそれを実現させるために必要だってことも確か。
 だけど、僕やら兄ちゃんと皆は違う。
 根本的に違う。
 同じ志を持つ仲間って意味では同じ。
 だけど、皆は兄ちゃんの志に賛同し、ついていこうって思った人たち。
 兄ちゃんはその旗頭。僕は‥担がれる神輿的な立場になるかな。
 お飾りで象徴。
 僕らが彼らを引っ張らなくちゃいけないのは仕方が無いけど、「彼らが僕らを引っ張ってる」って他に思われたらいけない」
 他にって
 国にだ。
「僕らが責任を持って「引っ張ってる」って立場に見せないといけない。
 僕は「皆を惹きつける象徴」で、皆は僕がいるってことで気が大きくなっている。
 兄ちゃんは「頭脳と人を惹きつける魅力」で皆を洗脳して‥扇動している。
 皆にはそう思われないように、他にはそう見える様に‥
 僕らは皆と距離を置かないといけない。
 適正な距離を。
 今まで見たいに、べったりではいけない」
 ネルは淡々とした口調で言った。
「どうして‥そうする必要があるの? 僕を‥皆に八つ当たりして皆を巻き込んで国に反旗を翻そうとしている僕の事を軽蔑して‥見限って、見下せばいいじゃないか。
 どうして、ネルまでそんなことしないといけない? 」
 ネルの本心を知りたくて、真っすぐ瞳を見つめる。
 ネルの瞳が揺れるかを確かめたくて。
 動揺したりとか、‥嘘を言ってたりとかしたら、真っすぐ僕の瞳を見つめ返せたり出来ないだろうって思うから。
 でも、ネルは真っすぐ僕の瞳を見つめ返して来た。

「いったのはカタルでしょ? 「こんな窮屈な暮らしはもう沢山だ。僕らは新しい国を作るんだ」って。
 その必要性を、僕も感じるからだよ」

 ネルは僕の瞳をじっと見つめたまま、言った。
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