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九章 ナツミというただの女の子
2.偽りの「特別な子供」
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(side ナツミ)
優しい人って二種類あると思うんだ。
責任を伴う優しさと、責任を伴わない優しさ。
前者は、‥ともすれば優しさだって気付かれないかもしれない。
愛の鞭‥とかいうのかな、その子の今後の事を考えてする厳しい助言だとかそういうの。
それこそが本当の優しさだって思う。
フワフワとした綿菓子みたいに、ただ甘くって可愛い‥優しいヒジリ。
責任感を伴わない「(無責任に)ただ優しい」、弱いヒジリ。
そんな幼馴染に「本当の友情っていうのは、お互いに注意しあい高めあえることなんだって。だから、ヒジリの悪いところはあたしが言うから、あたしの悪いところもヒジリは言わないといけないんだよ」って言い聞かせて来た。そして、「ナツミの悪いところなんかわかんないよ」って困り顔するヒジリに、あたしは一方的に自分の意見を押し付けてきた。
「本当の友情」の話は、本かなんかで知ったんだ。
両親があたしに「本当の友情は」や「人の生き方とは」なんて話したことなんかない。貧乏だったから、両親はあたしたち兄弟を食わせるのに一生懸命で、‥それだけで精一杯だったんだ。
だからと言って、「貧しいけど愛情あふれた家庭」ってわけじゃない。
ただ日々、死なないように子供に食わせ、子供にも当たり前に協力を要求する。
‥でも、それって別に変なことじゃない。
庶民の家なんてどこもそう変わらない。
両親が子供に教えることは、社会で生きていく処世術と最低限度の倫理観‥「人に迷惑をかけないこと」くらいだ。
他のことは、初等学校に行って読み書きを覚えたり、子供同士で遊んだり喧嘩したりする中で子供自身が学ぶべきことなんだ。
だけど、あたしはそれを自分から拒絶した。
はやく独り立ちしたくて、友達と遊ぶ時間を惜しんで本を読んで、魔法の勉強をした。
初等学校に入学した時に、にちらりと耳にした「魔法使いの資質があるかもしれない」って言葉。
「資質」「かもしれない」それだけだ。
魔法使い‥なれるかどうかわからないその「特別な資格」。
何も持たない貧乏な子供である自分というものに辟易している(だいたい子供っていうのは、多かれ少なかれ自分の生まれ育った境遇に不満があるもんだ)「その辺の子供」が「特別な人間」になれるかもしれないって期待感。
そして、その期待感が膨れ上がり、‥思い上がり‥
あたしは(勝手に)「魔法使いのたまご」になったような気になっていたんだ。
あたしは魔法使いになるんだから、今から魔法を勉強しなきゃ。
あたしは、皆とは違う。
‥皆みたいに遊んでる暇なんかない。
そういう「根拠のない虚栄心」が、あたしを周囲から隔離させていった。
そして、あたしは「生まれながらにして忌諱され、周りから拒絶された子供」に出会った。
それが、リバーシ、ヒジリだった。
ヒジリは生まれながらにして「特別な子供」で、将来を約束された子供だった。
だけど、そんな華やかな肩書が「無意味」って思えるほど、その子は地味な子供だった。
そして、常に一人で寂しそうに下を向いていた。
その子供は、自分の境遇を受け入れていた。
そして、‥その「肩書」に不満を抱えているようだった。
周りがそうさせたんだ。
関わり合いになりたくないって避けて、その子を孤立させた。
だけど「その辺の子供なんか関係ない」「あたしは特別なんだ」って「強さ」や「覚悟」はその子にはなかったようだ。
いつも寂し気に‥物欲し気な視線を周りの子供に向けていた。
周りの子供はその視線に気付いて‥尚煩わしそうに離れて行く。そして、そのことにその子供はまた傷つき、顔を伏せる。
みっともない。
って思った。
自分は特別な子供で、その辺のなんの特技もない子供たちとは違うのに、なんで胸をはって前を向かないのかって思った。
もどかしく、‥同時に哀れに思った。
この子は「弱い」んだ。誰かの加護を請いて止まないほど、弱いんだ。
‥あたしが一緒にいてやってもいい。
あたしなら、その辺の子供よりこの子供にふさわしい。
‥この子供なら、その辺の子供よりずっとあたしの友達にふさわしい。この子なら「役に立つ」
そんな下心だった。
そして声を掛けたヒジリはあたしが思っていたよりずっと世間知らずで、弱くって、‥優しくって可愛かった。
可愛いっていっても、それは見かけの可愛さではない。ヒジリはあの頃は‥今の「お姫様」然とした顔ではなく‥もっと「普通の」顔をしていた。
そういう外見の話ではない。
あたしと比べて‥あたしが持ち合わせてなかった‥子供らしい「可愛げ」があったんだ。
単純で、一生懸命で、信じたものに対して依存心が強い。
そんな普通の子供。
ヒジリは両親に向けるような信頼と依存心を私にも向けていたんだって思う。
いつもあたしに着いてきた。
頼られて、あたしは図に乗った。
あたかも自分が凄い人間なんだって気になった。
増長した。
偉大なる魔法使いの卵
‥自分が作って来た「虚像」は、ヒジリという取り巻き(信者? 弟子? ‥ああ、子分っていうのが正しい)を得ることによって、いよいよ自分の中で確立されていった。
こうして、あたしの「勘違い人生」が始まったんだ。
まるで自分が「この王国の物語」の主要人物であるような気になっていたんだ。
優しい人って二種類あると思うんだ。
責任を伴う優しさと、責任を伴わない優しさ。
前者は、‥ともすれば優しさだって気付かれないかもしれない。
愛の鞭‥とかいうのかな、その子の今後の事を考えてする厳しい助言だとかそういうの。
それこそが本当の優しさだって思う。
フワフワとした綿菓子みたいに、ただ甘くって可愛い‥優しいヒジリ。
責任感を伴わない「(無責任に)ただ優しい」、弱いヒジリ。
そんな幼馴染に「本当の友情っていうのは、お互いに注意しあい高めあえることなんだって。だから、ヒジリの悪いところはあたしが言うから、あたしの悪いところもヒジリは言わないといけないんだよ」って言い聞かせて来た。そして、「ナツミの悪いところなんかわかんないよ」って困り顔するヒジリに、あたしは一方的に自分の意見を押し付けてきた。
「本当の友情」の話は、本かなんかで知ったんだ。
両親があたしに「本当の友情は」や「人の生き方とは」なんて話したことなんかない。貧乏だったから、両親はあたしたち兄弟を食わせるのに一生懸命で、‥それだけで精一杯だったんだ。
だからと言って、「貧しいけど愛情あふれた家庭」ってわけじゃない。
ただ日々、死なないように子供に食わせ、子供にも当たり前に協力を要求する。
‥でも、それって別に変なことじゃない。
庶民の家なんてどこもそう変わらない。
両親が子供に教えることは、社会で生きていく処世術と最低限度の倫理観‥「人に迷惑をかけないこと」くらいだ。
他のことは、初等学校に行って読み書きを覚えたり、子供同士で遊んだり喧嘩したりする中で子供自身が学ぶべきことなんだ。
だけど、あたしはそれを自分から拒絶した。
はやく独り立ちしたくて、友達と遊ぶ時間を惜しんで本を読んで、魔法の勉強をした。
初等学校に入学した時に、にちらりと耳にした「魔法使いの資質があるかもしれない」って言葉。
「資質」「かもしれない」それだけだ。
魔法使い‥なれるかどうかわからないその「特別な資格」。
何も持たない貧乏な子供である自分というものに辟易している(だいたい子供っていうのは、多かれ少なかれ自分の生まれ育った境遇に不満があるもんだ)「その辺の子供」が「特別な人間」になれるかもしれないって期待感。
そして、その期待感が膨れ上がり、‥思い上がり‥
あたしは(勝手に)「魔法使いのたまご」になったような気になっていたんだ。
あたしは魔法使いになるんだから、今から魔法を勉強しなきゃ。
あたしは、皆とは違う。
‥皆みたいに遊んでる暇なんかない。
そういう「根拠のない虚栄心」が、あたしを周囲から隔離させていった。
そして、あたしは「生まれながらにして忌諱され、周りから拒絶された子供」に出会った。
それが、リバーシ、ヒジリだった。
ヒジリは生まれながらにして「特別な子供」で、将来を約束された子供だった。
だけど、そんな華やかな肩書が「無意味」って思えるほど、その子は地味な子供だった。
そして、常に一人で寂しそうに下を向いていた。
その子供は、自分の境遇を受け入れていた。
そして、‥その「肩書」に不満を抱えているようだった。
周りがそうさせたんだ。
関わり合いになりたくないって避けて、その子を孤立させた。
だけど「その辺の子供なんか関係ない」「あたしは特別なんだ」って「強さ」や「覚悟」はその子にはなかったようだ。
いつも寂し気に‥物欲し気な視線を周りの子供に向けていた。
周りの子供はその視線に気付いて‥尚煩わしそうに離れて行く。そして、そのことにその子供はまた傷つき、顔を伏せる。
みっともない。
って思った。
自分は特別な子供で、その辺のなんの特技もない子供たちとは違うのに、なんで胸をはって前を向かないのかって思った。
もどかしく、‥同時に哀れに思った。
この子は「弱い」んだ。誰かの加護を請いて止まないほど、弱いんだ。
‥あたしが一緒にいてやってもいい。
あたしなら、その辺の子供よりこの子供にふさわしい。
‥この子供なら、その辺の子供よりずっとあたしの友達にふさわしい。この子なら「役に立つ」
そんな下心だった。
そして声を掛けたヒジリはあたしが思っていたよりずっと世間知らずで、弱くって、‥優しくって可愛かった。
可愛いっていっても、それは見かけの可愛さではない。ヒジリはあの頃は‥今の「お姫様」然とした顔ではなく‥もっと「普通の」顔をしていた。
そういう外見の話ではない。
あたしと比べて‥あたしが持ち合わせてなかった‥子供らしい「可愛げ」があったんだ。
単純で、一生懸命で、信じたものに対して依存心が強い。
そんな普通の子供。
ヒジリは両親に向けるような信頼と依存心を私にも向けていたんだって思う。
いつもあたしに着いてきた。
頼られて、あたしは図に乗った。
あたかも自分が凄い人間なんだって気になった。
増長した。
偉大なる魔法使いの卵
‥自分が作って来た「虚像」は、ヒジリという取り巻き(信者? 弟子? ‥ああ、子分っていうのが正しい)を得ることによって、いよいよ自分の中で確立されていった。
こうして、あたしの「勘違い人生」が始まったんだ。
まるで自分が「この王国の物語」の主要人物であるような気になっていたんだ。
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