リバーシ!

文月

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五章 王家の秘密

6.婚約者

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(side ファー将軍)後半はラルシュ視点


「はあ、婚約者ですか」
 コテン、とラルシュ様は首を傾げた。
 金の絹糸の様な髪と、アメジストの様な瞳は幼馴染(国王)と一緒。
 王家の人間は、皆紫色の目をしている。
 王妃の瞳が何色であっても、紫色の目の子供が産まれる。
 それどころか、(王と一緒に住んでいるせいか)王妃の瞳も次第に紫色っぽくなることが多い。
 現王妃の瞳も嫁いできた当時は綺麗な水色だったのに、今は薄紫に見える。
 その原因は解明されていないが、王は
「魔力に害される‥とかかもな。王妃の身体に害がないといいんだが」
 と心配している。
 基本は冷たい奴だが、王妃のことは愛しているのだろう。(だといいな‥と思っている)

 瞳の色は魔力の属性に影響を受けることが多い。だから多分、あの紫色は「いろんな属性の影響を受けた結果」の色なのだろう。
 王家程、多属性の魔力を一人で持っている人間は他にいないから。
 同じ紫の瞳といっても、皆同じ色なわけではない。
 例えば、ラルシュ様と全く同じ属性を持っているサラージ様は、火の力が強いからか、もっと赤っぽい色をしている。
 燃える火のような瞳だ。
 属性の配分みたいなものが影響するのだろうか?
 難しいことは分からないが、皆それぞれ、美しい。

 選ばれた人間っていうのは、こういう容姿をしているのだろう‥と、彼らを見ると思うんだ。

 国王譲りの目の色だけど、もっと穏やかなラルシュ様の瞳は、今は「急に何のことだろう? 」ってちょっと見開かれている。
 無理はない。
 というか、これが普通の反応だ。
 腹黒なサラージ様をみた後だと、ラルシュ様が普通のいい子に見える。
 いい子っていうか、普通の子なだけなんだけど‥。
 二三度、ぱちぱちと瞬きすると、
「わかりました。そのように記憶しておきますね」
 にこり、と微笑む。
 そして、「その話は、おしまいでいいですね」と私を見る、私が頷くのを確認すると
「じゃあ、ファー将軍、今日も稽古お願いします」
 ラルシュ様が、木刀を手に、私に向き直した。

 結婚相手を自分で決めることすらできない。

 王家の人間は、‥不幸だな。
 ファー将軍は、今朝も笑顔で自分を見送ってくれた妻の顔を想い、心が痛んだ。
 笑顔が穏やかな、素朴な‥優しい娘だ。
「幼馴染だし、気を遣わないでいいから‥結婚しないか? 」
 と、お世辞にも「気の利いた」プロポーズの台詞一つ言えなかった自分を責めることなく‥ホントに嬉しそうな顔で頷いてくれた。
 政略結婚なんて‥考えもしなかったな。

 ラルシュ様はまだ7歳なのに‥。

 それを言えば、サラージ様だって、被害者だよなあ‥。(わずか5歳であんな性格になっちゃうんだもんなあ‥)

「会ったことのない婚約者‥。いい人だったらいいですね」
 稽古の済んだ別れ際、ラルシュ様がぼそりと呟いた声に、私は思わず、今まで我慢していたのであろう涙がぶわっとあふれそうになった。

 本当に‥本当にいい人だったら‥いいのに‥!

 思わず、膝をついて頭を垂れた。
 顔を上げなくても、ラルシュ様の優しい表情‥雰囲気は感じられた。
 黙って、いつくしむように‥私を見下ろしている。
 と、
「‥サラージは、自分のことがよくわかってる。幼いのに」
 ラルシュ様が、ぽつり‥と呟いた。
「え? 」
 私はラルシュ様の顔を見た。
 ラルシュはふふ、と微笑んだ。

「サラージは、嫌だって言わないでしょ。出来ないって言ったでしょ? 」

「‥はい」
 そう言えば、「火の属性持ちは、‥他の属性もちに比べ、穏やかな性格ではありませぬ故‥。国の災厄の機嫌を損ねかねない」って理由付きで、「出来ない」って言った。
 理由っていうか、言い訳だけど。
「でもね、‥国王だって、私が「出来ない」って思ったら、私には振らないよ。‥私にこの「仕事」を振ったのは、私にできると思ったからでしょう。
 ‥私は、出来る。
 サラージは自分に向いていない仕事を、出来る人間に振っただけなんだ。サラージは「正しい」よ」
 穏やかに微笑む。
 ラルシュ様は、「優しい」んじゃない。
「‥ラルシュ様‥」

 優秀なんだ。

 決して、貧乏くじを引かされているわけではない。
「人一人を、一生幸せにするなんて大仕事ですねぇ。私は、いまからもっと強く、賢くならねばなりませんね」
「剣を、‥剣をもっと鍛錬しましょう」
 ちょっと食い気味に、言ってしまった。

 ‥ラルシュ様に、私にできることは、‥そのこと位です‥っ! そして、その婚約者が暴れる様なら‥剣で切ってしまいましょう‥!

「そうだね」
 ファー将軍の迫力にちょっと驚いた顔をしたラルシュ様だったが、直ぐに「いつも通り」穏やかに、やさしく微笑んだ。
 ラルシュ様の強さ、
 ‥冷静さ。

 私は、ラルシュ様を心配したり、憐れんだりする‥出来る立場じゃない。
 ラルシュ様なら、大丈夫だ。
 寧ろ、婚約者(リバーシ)! ラルシュ様を不幸せにしたら許さないからな!!

「ふふ、ファー将軍は、涙もろいなあ。‥ていうか、何で泣いてらっしゃるんですか。まるで、娘をお嫁さんに出す父親の様ですよ」
「え?! 」
 ‥なんと! 勝手に涙が‥。これは、感動の涙かな。ラルシュ様があんまり立派になられたから‥。
 焦る私に、くすくすとお笑いになり
「私はね。結構運がいいんですよ。周りにいる人に、分け与えられるくらいにね」
 ラルシュ様がおっしゃられた。
「泣かせてしまったら、私もまだまだだなあって思います」



 運命のあの日。



「ヒジリをお願いします! 」
 泣きながら私にヒジリのことを頼んだナツミ。
 はからずして、婚約者と対面した私‥。
 まずはヒジリの安全を‥と、ヒジリを連れ帰り、誰かから逃げるように立ち去ったナツミの保護はすぐに保安部隊に任せたが、ナツミはついぞ見つからなかった。
 
 (ほんの一瞬目を離しただけなのに)まるで消えたようだった‥と国一番の精鋭保安部隊たちは、全員顔色を失って俯いた。


 あれから何があったのか‥。
 ナツミはあの時誰から逃げ、そして‥どうなったのか。
 それは分からない。
 ただ分かることは、現在ナツミが敵対勢力の主要人物である‥ということだ。

 最高位の武闘派(!)魔法使いで、王国で第一級のお尋ね者だ。

 洗脳その他で、もともと敵対勢力側にいなかったのに敵対勢力側に回った‥のか、はじめから敵対勢力側の人間だったのか‥もわからない。

 だけど、どちらにせよ、現在ナツミは対王国側の人間なのだ。

 そのことは‥まだ、ヒジリには伝えられていない。
 ヒジリがそのことを聞いて‥どう思うのか‥

 どちらを選ぶのだろうか‥と思うと‥聞けずにいる。
 ミチルは
「初めから敵だったんだ。ヒジリにはそう説明すればいい」
 と言っているが‥。


「ラルシュはどうだ? 」
 突然、ミチルが私を振り向いた。
「え? 」 
 急なことで、私は目をぱちぱちとしてしまった。

 どうやら、考え事に夢中になって話を聞いていなかったようだ。
 苦笑いでごまかすと
「話‥聞いてないし。‥ツンデレの女の子ってどうだって話してたんだよ」
 ミチルが不満そうな表情をした。

 ‥なにそれ。思った以上にどうでもいい話‥。

 ツンデレの女の子が‥どうしたって??

 見ると、ヒジリも私を見ている。
 キラキラと‥面白そうな‥何かを期待するような‥顔。
 答えを期待されてるのかな? ‥期待されても‥

 ‥どう答えれば期待に沿えるのか‥すら分からないよ?? 

「‥ラルシュは答えない気みたいだな」
 ミチルが、にやりと笑い
「卑怯な」
 同じくにやりと笑ったヒジリと共に私をくすぐる為に近づいてくる‥っ!

「あははははは。止めてよっ」
「ラルシュ様もそんなに大笑いされるんですねぇ! 」
「ラルシュは、結構笑い上戸だぞ? 」


 運命の人は、‥どうやらいい人みたいでした。
 やっぱり、私は運がいい。
 にこりと笑うラルシュだった。
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