リバーシ!

文月

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序章 リバーシとミチル

2.夜の国と秘密の友達。

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 夢じゃない。

 それに気付いたのは、自分がそこで‥動けるって気付いた時かな。
 はじめの時は、ただ景色をぼーっと見てるだけ‥って感じだったんだけど、そのうち‥風が吹いてるってのが分かって‥寒くなって凍える手をこすり合わせたりして‥徐々に「あれ、これ、うごけるんじゃない? 」って「分る」ように変わっていったんだ。
 気付かなかった‥とかじゃなくって、徐々に感じたり‥動けるように「変わっていった」んだと思う。
 裸足で踏む‥ひやりとした地面の感覚。
 背の丈ほどある草をかきわけながら歩く‥草の感触だとか。匂いだとか。時々ぴくっと来る‥痛みだとか。
 自分の手で触ったり、自分の足で歩く感触‥。

 超リアルな感覚。

 きっと、この状態は、幽体離脱みたいな感じなんだろう。
 って冷静に考える自分がいるのに気付いたり。(あのオカルト幼馴染の影響で随分詳しくなった。‥あの幼馴染は‥でも、今では顔も思い出せない)

 きっと自分の肉体は、今頃家のベッドで転がってるのだろう。だけど、これは、そっち(=肉体)の見ている夢ではない。肉体は只転がっていりだけで、自分の意識はこっちの魂の方。
 魂が今こうやって、別の場所に移動しているんだ。
 夢とは違って、(脳に)動かされてるんじゃない。こうやって、自分の意志を持って動いているし、触覚も嗅覚も聴覚もある。
 ‥なんと、味覚もあるんだ! 

 見たことが無い景色、会ったことがない人たち‥
 だけど、そこに行けばいつもその人たちは迎えてくれる。
 何時しかそこは、自分にとっての第二の故郷的な場所になっていた。


 どうやら、そこは地球上にある場所ではないらしい。
 そこに咲く花はどれも、地球の図鑑には載っていないし、そこに住む人の髪も、目の色も、地球では見ない様な色だった。
 
 染めているわけでも、カラーコンタクトを入れているわけでもないのに‥だ。

 流行りの言葉でいえば「異世界」って奴なのだろう。

 夜だけ行ける国。
 実は夜しか行けないわけではないらしいんだけど‥そもそも、夜以外行く必要が無かったんだ。
 現実社会には「行き場が無くて」気が付いたらたどり着いてた場所。
 今でこそ、馴染んだ第二の故郷だけど‥初めからそうだったわけでもないんだ。

 ‥幼少時代の自分にとって、あそこは唯一の居場所だった。

 あそこにいけば、肉体は母を求めて泣きわめかずに済む。‥母さんを悲しませないで‥怒らせないで済む。
 ただそれだけ。
 動けない自分はず~と、暗いその「見知らぬ土地」で膝を抱えて夜があけるのを待つしかなかった。

 何故って単純だ‥その世界も地球と変わらず夜で、他に起きてる人なんていなかったから。
 こっちと違って、あの国にはネオンはおろか、街灯さえも沢山ともってない。
 夜も明るい地球とは全く違っていた。
 きっと、家庭の電気はそう普及していないのだろう。(地球の江戸時代とか‥そういう感じかな? )
 時々ついてる街灯がランプだから、家庭もランプの明かりで暮らしているのかもしれない。
 今は‥そのランプの光をともしている家もない。
 ランプをともすオイルが高価だから夜になったら寝るもの‥ってことなのかもしれない。いいことだと思う。
 街のすぐ横は真っ暗な‥深い森だ。
 森の中からは時々フクロウの鳴く様な声が聞こえ、時々獣の吠える‥低く唸る声が聞こえたり、目が光っているのが見えた。
 月明りに照らされた大きな影は、明らかに犬とは違う感じ。
 狼かな? うめき声からしても‥大きくって、凶暴って感じ‥。
 ‥で、真っ暗なこの世界をうろうろしてるうちに心細くなって、結局もとの広場みたいなところにもどり‥目を瞑ってお山すわりで丸まって、ただ夜明けを待った。
 夜が明けたらいつの間にか‥元通りの世界に戻れる。
 それまで我慢していよう。

 だけど。
 ‥ここは、元の世界よりましだ。起きてても怒られないから‥。

 そのうち、ここが案外安全で獣も森から出てこないってわかると、もう少しうろうろしてみようかな‥って思えて来る。
 好奇心もあるし、そもそも、全然眠くないんだから。
 ある時、ちょっと街の方に足をのばして、一軒だけ明かりのついた家を見つけた。
 立ち止まって、扉の前でもじもじしていると、‥窓から俺が見えたんだろう。優しいおばあさんが出てきて、俺を家に招き入れてくれて、あったかいココアを入れてくれたんだ。
 ‥嬉しかった。
 カラカラの砂漠で息絶えそうになった時、水を貰ったらあんな気持ちなのかな‥って思った。
 おばあさんは俺に何も聞かなかった。普通ならこんな子供が一人で外をうろついてるんだ「家出したの? 迷子? おうちは分かる? 」って聞くんだろうけど、おばあさんは何も聞かなかった。ただ「朝までここにいなさいね。お外は暗いでしょう? 」って言った。そして「明日も明後日もいらっしゃいね」とも。

 寝なさい。とも、家に帰りなさい。ともいわない。
 
 こんな子供に対する対応としては‥明らかにおかしい。
 でも、誘拐犯だ‥とかは思わなかった。(単純にそんな知識がなかったってのもあるけど)
 あの家には、おばあさんしかいなかったし、おばあさんは俺が話しかけると相槌をうつ位で何も話さなかったし(ずっとロッキングチェアに座って編み物をしていた)他には誰も訪ねてこなかった。
 何より
「私は、貴方のような子供の事をよく知っていますよ」
 って、俺のことを変だって言わなかったんだ。

 それだけで、俺は、ボロボロ泣いた。
 初めて認められた‥って思って、嬉しかった。
 おばあさんは優しかったし、俺がおばあさんに懐くのに時間はかからなかった。

 あの家は、いうならば、子供SOSの家ならぬ‥「リバーシ」SOSの家だったんだ。

 聞いた話によると、あの国には、いつ現れるかもしれない「そういう子供」を受け入れる家が各地に設置されているらしい。24時間あかりをつけて、「受け入れ人」を常駐させてね
 ‥この場合、絶対におばあさんが設置されてるみたいだ。勝手がわからず戸惑っている子供にとって‥おばあさんが一番安心できるからだと思う。(おねえさんよりはおばあさん。おじいさんよりおばあさんって感じはするよね)

 慈善事業というより‥逆に、そこまでしておかないといけない事案なんだ。これはね。

 それ程、「リバーシ」ってのは、利用価値が高く‥同時に危険な人材なんだ。
 味方にすれば利用価値が高い。だけど、敵に回ったら‥
 そういうパターンはよくあるよね。

 それからも夜そこを訪ねる度におばあさんを訪ねた。おばあさんは何も言わず、只ニコニコとココアを出してくれた。

 例のリバーシ保護計画について教えてくれたのは、「友達」だった。
 ある晩、何時もの様におばあさんを訪ねたら、そいつが先に部屋に居て‥座ってたんだ。(俺と同じように)異世界から来たの? ってきいたら、違うと首をふって、「ここの世界の人間です」って言ったんだ。
 そいつは、キラキラした目をして俺をみてさ、俺に「同じくらいの年だね! 私と友達になってくれませんか? 」って。俺の方には別に問題はないから「いいよ」ってそれだけ。
 だけど、まさかその時はそのラルシュローレという名前の「友達」が‥お城の王子様だったなんて、分かるはずも無かったんだけどね。
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