Happynation番外編。

文月

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坂本 ナツメの話。

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 先輩を突き落として、僕もその後を追って飛び降りた。
 
 悲鳴とか、クラクションのけたたましい音だとか‥、飛び散る鮮血とか‥。
 まるで、地獄絵図の様な光景だった。
 

 気がついたら、白い部屋にいた。おなじみの、僕の部屋だ。
 そして、「あ、ここ自分の部屋だ」って気付いた瞬間、自分の正体を思い出した。
 あ、僕ってば、神だったっけ。
 真実の恋を探して、人間になってみたんだ。‥なにしろ、時間ばっかり持て余してるから。
 人間になってみたのは、でも、戯れに‥ではない。「人間心理を知るため」の研修だ。
 結果は、まあ、失敗した。
 更に、人間を巻き込んでしまった。
 上司に
「その人を、お詫びに転生させとけ」
 って言われた。
 別に、そんなめちゃくちゃ怒られたり‥とかは無かった。神なんて、多かれ少なかれそういうところがある。
 目の前には、その巻き込まれた人間。
 ‥小笠原先輩がいる。
 僕が一番知っている、僕が大好きな‥小笠原先輩だ。
 ちっともカッコイイとかじゃない。お洒落でもないし、頭いい、とかでもない。特別優しいわけでもないし、‥何がいいんだろうって聞かれたら、「なんだろ」って考えちゃう感じ。
 だけど、大好きだ。
 ノリも合う。一緒にいて疲れない。無駄に視界的にキラキラしてないから疲れないし、周りも空気位にしか先輩を扱ってないけど、それを気にしてる感はゼロだし。
 いい加減に「鈍感」でいい加減に「丈夫」。
 だけど、モテるのを諦めてるとかじゃなくって、可愛い子に声かけて「やだ~、アハハ」って笑われたり。‥可愛い子、っていうのが、「辛うじて可愛い位? 」っていうラインを選んでるのが、リアルで面白かったり。
 先輩は自分の顔を卑下なんかしないけど、でも、勘違いとかしないタイプなんだ。
 嫌な言い方をすると「分をわきまえている」
 全部、「いい塩梅」って感じで、ハマる。
 僕の脳内で、勝手に「凄い美青年」に改変されてたりする位、ハマってた。

 そんな僕の脳内で改変された「凄い美青年」な小笠原先輩が目の前に座っている。

 先輩には珍しく酷く所在無げで、何処か落ち着かない。
 鏡はないから、先輩が自分の顔の変化について気付いてる‥っとことはないだろうが、とにかく不安げで落ち着きがない‥感じ。
 少し話をして気がついた。
 先輩は、‥ここにいる「改変先輩」は、‥今までの記憶がない。
 小笠原 蓮としての記憶がない。
 僕の事を覚えていない。
 腹が立った。
 しかも、なんか‥自分のこと僕って言ってる。今までは俺って言ってたのに‥。なんか腹が立つ。かわい子ぶるな!! って感じがする。
 でも
 ‥見ると、ちょっと若干先輩より若い。

 そうか、「この先輩」は僕と出会う前の先輩なんだ。

 普通に「分った」僕は神だからだろうけど、そういうのが結構分かるんだ。

 記憶喪失じゃなくて、‥僕と出会う前で、僕を知らないんだ。
 そう気付いたら、さっきまでのいらつきが嘘みたいに、すっと引いた。

 目の前の先輩を観察する。
 
 高校生くらいかな?
 その頃、先輩は自分の事、僕とか言ってたんだ。
 なんか可愛い。

 僕の知ってる「小笠原先輩」は何か悟ってた‥達観しちゃった感じで落ち着いてた。
 でも、目の前の小笠原先輩は、まだ何かを探してるって感じ‥
 ‥さて、先輩が探してて‥見つけて‥悟ったものは何だったのか。
 探し物が見つかって‥悟ったのか、見つからなくて諦めて達観したのか‥それは‥分からないけど。

 そんなことを思いながら‥でも、歳が近い僕らは何でもない話をした。初めまして~って感じだったんだけど、先輩も夢だと思ってるんだろう、僕が誰だとか、どうしてここに居るのか、とか何の疑問も持たずに話をしたんだ。(目の前にいるのは、自分を殺した殺人犯なんだけどね)だけど、神だし、それは「まいっか」案件かな、と。

 ホントに、色んな話をした。昔から全然モテなかった、とか、そういう恋愛話も、だ。
 先輩は、キラキラした目で「大学に行ったら、きっと可愛い彼女なんかを作って、お洒落なキャンパスライフなんか送ったりするんだろうな~」なんて言う。若い。青い。先輩の秘密を覗き見てるみたいで、‥凄い罪悪感。だけど、なんか秘密を共有できたみたいで、嬉しくもあった。
 他にすることもないから、話は自然と深くなった。
 僕は言った。好きな人がいるけど、振り向いてもらえない。それどころか、気付いてすらもらえない。‥多分その人は、恋愛すらしたことがなさそうだ。って。目の前の貴方ですよ、とは言わずに。
 そしたら、先輩は
「どうして苦しいの? 」
 って首を傾げたんだ。
 は? って思った。
 先輩はにこって笑って
「僕なら、相手が愛してくれなくても好きでいれる。僕の好きって気持ちは変わらない」
 なんていうんだ。
 一瞬「何言ってるんだ。アンタがそれを言うな? 」って思って、その後、急に怒りがわいてきた。

 やってみろよ!! あんたに、恋愛が出来るっていうならやってみろよ!!


 で、後は、‥知っての通りだ。ただ、誤算だったのは、僕まで「罰として」happynationで人間(半分)として転生させられたことだ。


「アララキ。‥その顔、久し振りだ」
 苦笑いしてサカマキが言った。
 鏡を見ながら小笠原なアララキが首をかしげる。
「ここまで地味顔だっけ? しかも、‥そうかあのまま就職してたらあんな感じだったのか。
 でも、なんか妙に「そうだろうな~」って感じする」
「その節はホントに、‥御免」
「ま。いいってことよ! 」
 にこ、っと小笠原が笑う。
「ん? 」
 サカマキが首を傾げる。
「知らなかった? あの頃の「俺」の口癖」
 にこにこ笑うアララキ(顔は小笠原)につられてサカマキも笑ってしまった。
「小笠原先輩らしいです! 」
「‥それはもうヤメロ」
 アララキが苦虫を嚙み潰したような顔でサカマキを‥
 否、坂本 ナツメを見る。(顔は依然サカマキなんだけどね)
 ま、一瞬だったけどね。次の瞬間には、もういつもと変わらないアララキの顔でサカマキを抱きしめる。

「‥賭けとか約束とか‥現世の記憶とかどうでもいい。サカマキの事を僕は愛してる」


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