Happynation番外編。

文月

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サカマキとアララキ (軽く※)

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 アララキのふかふかのでっかいベッド。俺たちの家のベッドも、生まれた子供と三人で寝れるように‥って大きなベッドにしたけど、こんなに豪華なベッドじゃない。
 元冒険者の父さんたちが張り切って作ってくれた丈夫でシンプルなベッドだ。
 父さんたちが俺を見て
「サカマキ~。お前は女だったんだな! 色気ないから分からなかった! 悪かったな! 」
 って言ってたけど(その後、アララキに「何処を見た! ってか、父さんとは言え、僕の妻をじろじろ見ないでほしい! 」って怒られてた)‥

 ‥はて、俺は女なんだろうか。

 子供を産んだから女って判断されたんだろう。
 だけど、神獣は皆子供が産める。そうしないと、(数が少ないから)絶滅してしまう。
 神獣の性別なんて、所詮「見掛け」だけのものだ。
 (人型にになったときの見掛けを)男型にするか女型にするかだけの違いだ。
 生殖方法はそう変わらない。
 両方ついてるんだけど、子供を産むことは出来るけど女性を妊娠させることは出来ないから、見た目だけ男な女って感じなのかな。
 ‥そうなると、男型の神獣ってのは珍しかったのかも。
 この世界、同性愛者も普通にいるけど、異性愛者の方が多いわけだし。神獣として「種を残す」って目的で人型を取るんだったら、女型の方が都合がいいだろうしな。

 普通、神獣は出産後、子供が人型を取れるようになるまで母親が育てる。
 出産は獣のカタチでするし、子供もはじめは卵だし、羽化してもひよこだし。
 急にそれを見せられて
「貴方の子供よ」
 って言われても、中々すんなり
「そうか! 」
 って思わないよね~。

 それ以前に‥
 結構、神獣は、交際相手にも神獣だって本性を話さないもんなんだって。

 この世界、「獣人はいいけど、神獣は‥だって、獣なんでしょ? 」だから。
 寿命だって違うから、結婚することは稀で、殆ど子種目当てで近付いて、一夜のお付き合い‥って感じならしい。神獣の方が完璧割り切ってるって感じなのね。
 生殖しないと、いくら長生きな神獣でも、いずれは種族が途絶えちゃうからね。
 特定のパートナーはいらないけど、子供は欲しい。
 実際、そんな神獣が殆どだったらしい。

 ‥獣の生殖本能的に、ヤルことやったらもう用事はないって感じなのかな?

 俺には、その気持ちわからないけど、‥確かにアララキと肌を合わせてるときは、もう、アララキが欲しくて欲しくて仕方が無い‥って気持ちになる。普段はそんなこと感じないのに‥だ。多分、あれが、神獣としての生殖本能なんだろう。

 (欲情するのは)俺だけじゃない。
 俺は、神獣の生殖本能で多分フェロモンを出してるんだ。だから、アララキも正気を失ったようになるんだ‥と思う。

 神獣と結婚するってケースは稀。
 だけど、無かったわけでもない。

 それこそ、結婚する神獣っていうのは、相手が「神の愛し子」っていうのかな‥アララキみたいなやつね、スペックだとか寿命だとかがチートに優遇されてる人間だ‥だとか、後、(神獣が)もう余命いくばく(60年弱)で、人間とそれこそ見た目変わらない感じに後は老けていくだけ‥とかいう場合ぐらい‥ならしい。(勿論例外はあるらしいが)
 後のケースの方が多いのかな。今まで気ままに暮らして来たけど、死ぬと分かって‥最後に気持ちが弱くなる‥って感じなのかな。
 その場合、相手にはわかんないと思う。相手が神獣だって。

 それこそ、見た目年齢20歳位の時に出会って‥その先60年70年。同じように老けながら生きたら、人間と変わんない。

 そして、人間だと思われて生きていき‥死ぬ前に
「私は実は神獣です。神獣は、人に死に様を晒すわけにはいかないのです」
 って、家族に打ち明ける。その場合、娘(神獣の子供だ‥産む際は今でいう‥里帰り出産でもしたんだろうね)には、予め話しているんだけどね。神獣の生き方を教えられるのは、神獣だけだから。
 で、夫の制止を振り切って、最後の力を振り絞って、死ぬために一人で山(とか森)に向かい、力尽きて、獣に喰われ、土にかえる。追ってこないのかって? 夫は只の人間だ。死ぬ前とはいえ、神獣に追い付けるわけがない。
 布団で、家族に見守られて死んじゃダメなのかって? 
 ‥それだけは、ダメだ。
 神獣は、自然に生かされてきた生き物だから、最後は自然にかえらないといけないんだ。

「俺は普通にまだ死なない感じだな~。いくらアララキがチートな愛し子っていっても、俺と寿命が一緒って程は生きないんだろうな~」
 
 ‥分からないけど。ホントに、アララキは「でたらめ」だから。

 ‥フミカは? 
 フミカは、純粋な俺の子供じゃない。
 純粋な神獣の子供でもない。
 だから、きっと、神獣の様に長くは生きられないだろう。
 ‥人間より短いわけは流石にないだろうけど。

「じゃあ、その純粋な神獣の子供じゃないフミカと、人間との間の子供って、どれくらい神獣なんだろう‥」
 と、この疑問は、俺の心の中だけで留めておくことが出来た。
 ‥この頃、気が付いたら、独り言を口に出しちゃってるってことがあるんだ。それって、不味くない? ‥年かな‥。


「‥わからん」
 つい口に出して呟いて、王城のアララキの私室のふわふわベッドに倒れ込んだ。
「‥ふわふわ」
 これも、つい口に出しちゃうような感動のふわふわさだ。
 さっき言いかけたんだけど、俺たちの家用に父さんたちが作ってくれたベッドは、丈夫だけど勿論装飾なんか施されてないし、布団も綿の布に綿を詰めた普通の布団だ。硬くはないが、柔らかいって感じではない。重いし。
 羽毛布団なんてのは、この世界にはない。
 あっちの世界(地球)で何が感動したって、ふわふわ羽毛布団だ。
 アララキのふわふわ布団は金が掛かってる間違いなくこの国で最高級の綿が詰まってるけど、‥あの比じゃない。余裕で、それこそ、ぶっちぎりで!! 羽毛布団の勝利だ。わざわざこっちの職人には言わないけど! 
 こっちで実現は‥難しいだろうな~。こっちには、「鳥の羽」を集める‥なんて手間のかかる作業ができる様な気の長い奴がいないだろうし、そもそも、そういう羽が沢山ありそうなところに行くってのが危険だし、そして危険を冒してその羽を集めたところで、強力な浄化魔法でもなかったら、獣臭くてとてもじゃないが使えないだろうし‥。
 あ、そうだった。
 羽がたくさん集まりそうな場所とか、多分ないや。
 鳥系の獣は弱いから、ホントに人前に姿なんか表さない。森の奥深くにひっそり住んでる。だから、羽を集めるのは大変。それに、数もそう多くないから自然に抜ける羽なんてそう多くない。
 だから
 たくさん集まる = そこで鳥系の獣が襲われた場所 
 ‥ってことなんだろうけど、最弱の鳥系の獣なんて、襲われたらそれこそ羽も残さず喰われるね! (神獣は鳥系の獣じゃないぞ! )
 鳥系の獣で地球でいうところの鳥じゃない。
 鳥っぽい、羽がある獣。弱いから、逃げるに特化した獣。目立つし、飛ぶのに不便だからそう大きく無い。
 地球で言うところの鳥なんかは‥この国にはいない。
 いたのかもしれないけど、きっと、弱いから昔に(狩りつくされて)絶滅したんだろうな。

 もう一回言うけど、神獣は鳥系の獣じゃないぞ。
 鳥でもない。神獣は神獣。唯一無二の物なんだ。
 大きさも、魔力も知力も他の獣とは桁違いだからな!!

 (閑話休題)

 とにかくだ。
 羽毛布団が忘れられない俺は、(獣型の自分の)毛の生え変りの度に抜けた羽を(収納魔法のスペースに)貯めて置いて、最高位の浄化魔法を掛けて、ピッカピカにして、その羽を布に詰めて、布団‥程ははなかなか溜まらないから、『羽毛枕』をつくった。
 ふわっふわだし、ハーブで香り付したし、もう夢みたいな抱き心地の抱き枕なんだ! 
 普段は村の家でつかってるんだけど‥仕事でアララキが一人で王城(の私室)で寝るときなんかには、アララキが王城に持って行ったりしてる。
 一応、王様だから泊りのご用事なんかもある。それは当たり前なのに、毎回大泣きする。‥一日・二日位なんだっていうんだろう。
 で、この枕だ。
 ‥俺のにおいがするらしいよ。(そりゃそうだろうけど、口に出されると気持ち悪いな! )

 で、昨日はアララキはこっちで寝てたから、この枕はこっちにある。

「どうしたの? 」
 アララキが首を傾げて俺を覗き込む。
 ‥いつの間にか、押し倒されたみたいな態勢になってた。組み敷かれると、体格差が結構あるから、身動きが取れない。
「‥いや、このふあふわ布団、久し振りだなって思って」
 今俺が堪能してるのは、ふわふわ枕ではなく、布団。
 最高級の綿がコマメに入れ替えられてる手の込んだ布団。
 アララキの視線を避けるように、視線を下に落とす。顔が‥熱い。
 近いよ‥。
 全然慣れない、人間離れした美貌。
 幼少期からそれこそ十数年見て来たけど、途中呪いに掛かったり‥で、(好きだってこと)意識し始めたのは、結構最近。
 だから、‥まだ慣れない。緊張して‥凝視出来ない。
 
 俺がここに生まれ変わる前から好きだった人。(よく覚えてないけど‥そういうことなんだよね? )

 その時からかっこよかったけど、‥かっこよかったって思ってたってことは覚えてるんだけど、その時の顔は‥覚えていない。
 俺の顔も勿論だ。
 
 あの頃の俺には、俺たちが今こうしてることなんて信じられないだろうな。
 こうなる未来もあるかもしれない。
 って、あの頃の俺に教えてやりたい。
 そうしたら、あんなむちゃなことしなかっただろう。
 あの人を殺して、俺も死ぬ‥とかまでした覚えはないんだけど‥なんとなく近い様な事をしたような気がしないでも‥。
 ‥でも、まあ‥間違った手段だったけど、今、こうして一緒にいる未来を引き寄せられたんだから‥いいとしよう。(よくはない)

「サク‥」

 俺を呼ぶアララキの愛しくってたまらない‥って声。
 ずくんって、染みて、‥身体の芯に熱をもつ。
 もう、‥身体中が、この人の事欲しくってたまらないって感じで‥落ち着かなくなる。
 心臓がもう、怖い位うるさく鳴って、なんだか怖くなって‥落ち着かなくって、夢中でアララキにしがみつく。
 アララキが俺を抱きしめ返してくれて、俺は、アララキの胸にすっぽり収まる。
 世界一安心できる場所。
 一生手放したくない‥離れたくないって思う。

「アララキ‥」

 ごく、
 俺を抱きしめるアララキが息をのんだのが、ダイレクトに伝わって来た。
 強く抱きしめた腕を少しほどいて、アララキの熱い視線が俺を見降ろす。
 熱い‥熱いというか、なんか睨んでないか? 睨んでる‥とは違うか。なんか、我慢しているような‥なんだ?? どうしたんだ? 

「今日は、絶対に、神獣の生殖本能にながされないぞ‥。
 あの時は‥僕も馬鹿になっちゃうんだけど‥
 ‥サカマキも‥いつもとは違うから、もう歯止めが効かなくなるんだ‥。なんかもう催淫剤でも飲まされたのか‥って色っぽくって‥、それが神獣の生殖本能で、サカマキの意志じゃないって分かってるのに‥もう‥単純な僕は‥。
 気が付いたら‥、サカマキを酷く抱きつぶしてるんだ‥。
 そうじゃなくって、スローセックス‥。‥獣みたいなセックスじゃなくって、サカマキに優しくするんだ‥っ! 」
 なんか‥言い訳みたいな‥決意みたいなの‥呟いてる。
 ヤバ‥。

「別に俺は、アララキに酷くされてるとか思ってないし、この頃は神獣の本能丸だし‥って感じじゃない‥よ? 。
 割と記憶があることも多いし。
 記憶がない‥ときは、神獣の本能に操られて‥っというより、
 ‥アララキに夢中になって‥
 って感じだし‥」

 うわ、はずかしいこと言っちゃった。
 わああぁ、恥ずかしい!
 俺は、真っ赤になって、目を瞑った。

「いて」
 なんだよ、急に‥
 MAXに硬いもん股間にぐいぐい押し付けてくるんじゃない‥。
 そんな、‥真っ赤な顔で、鼻息荒くして俺を覗き込むんじゃない‥。
 目‥泣きそうになってるぞ‥。
 そんな顔見てたら、母性本能‥じゃないとは思うけど‥なんかそういうのが刺激されるから‥。
 俺は、ふ、っと優しく微笑んで、
「‥顔怖いし。いま、俺、子供がお腹にいるし‥無茶とか‥な?? 」
 なるべく優しい声を出した。
 子供
 って言葉に、俺の腕を抑えていたアララキの腕の力が緩んだ。
 自由になった腕をアララキの首に回して、抱きしめる。
「‥ごめん‥でも、‥ホントに愛してる」

「そんなの、俺もだよ」

 アララキから落された、唇に優しく振れるだけの口づけは、相変わらず気持ちよくって、俺はうっとりと目を瞑った。
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